北尾吉孝日記


ひと月程前、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」に「【寄稿】短期志向は経済に有害=バフェット氏とダイモン氏」と題された記事がありました。その中で両氏は、「われわれの経験では、四半期の利益見通しは長期的な戦略、成長、持続可能性を犠牲にし、短期的な利益に不健全に注力させることになる」とか「企業は四半期の利益見通しを達成するため、技術投資や雇用、研究開発を頻繁に抑制している」、あるいは「短期志向の資本市場は長期的な視点を持つ企業の上場を阻害し、経済からイノベーション(技術革新)や可能性を奪っている」等々の指摘を行われています。
此の「公開企業は四半期の利益見通しを廃止すべき」との見解に対し、公認会計士の武田雄治という方は御自身のブログで、「四半期ごとの業績見通しの開示のみならず、四半期決算の開示自体をやめてはどうかと思っています。全上場企業が半期報告書制度に戻し、四半期レビューを中間監査に戻すべきだと考えます」と述べられていましたが、私も全くそれで良いと思っています。現況は、決算発表が終わったと思ったらまた直ぐに決算といったことで、四半期決算に振り回されるが如き弊害が生じています。会社経営はそれ程短期に動かないわけですから、半年に1回で十分だと思います。
上場企業の四半期開示が、例えば株主に対する適切なガイダンスになるのでしょうか。今「タイムリー・ディスクロージャー」で何か起こった場合は、基本的に適時適切に会社情報を公開することが求められます。またMission Statementは当然として、Visionにしても3ヶ月毎に変わるような類ではありません。そして季節性は多かれ少なかれ、様々な事業会社でありましょう。バフェット氏らも言われる通り「四半期の利益は、コモディティー価格の変動や株式市場の乱高下、天候など企業の統制が及ばない要因に影響されることもある」わけで、四半期毎に業績開示して「増えた」「下がった」とやる中に大きな意味を私は見出せません。
取り分け所謂「大企業のサラリーマン社長」では、4~6年程度の任期中に長期戦略が立たないと思います。それは組織として経営企画部が担当部で主として考えています、といったことでは駄目でしょう。やはり経営トップたる者、自身で全ての戦略を議論していく最大の当事者でなくてはなりません。戦略を練るというのは、長期的な視野に立って如何なる事業をどのタイミングでどのような形でスタートすべきか、あるいは廃止すべきかといったことを考えることが非常に重要であります。しかし現在の時間軸だと、そうした余裕もないような感じで動いているわけです。
私の場合、四半期毎に決算説明会に臨み、長期戦略も含めて毎回長時間話をしています。また年2回、私がメインスピーカーでインフォメーションミーティングも東京/大阪/名古屋で開催しています。他方、日本の一部上場の大企業の中で同程度に社長自らがIRにコミットしている会社は、数える程しかないでしょう。そうであるならば、せめて年に1度でも経営トップがきちっとした話を網羅的にすべきであり、また、その説明の場は出席が限られる株主総会よりインフォメーションミーティングが良いのではないかと思います。私は、四半期毎に決算を発表し、それを基に財務担当役員レベルが簡単に説明したところで、殆ど意味がないように思います。




 

『日本政治の生産性』

2018年7月5日 15:10

松下幸之助さんの御著書『道をひらく』三部作の完結編、『思うまま』の中に「政治の生産性」という一編があります。曰く、「経済界において、経営の合理化など生産性の向上が叫ばれているように、政治の各面においても、仕事の合理化、適正化、すなわち政治の生産性を高める必要があると思う」とのことです。之は、御著書等に幾つも残されている松下さんの慧眼を示す言葉の一つだと思います。
延長国会会期末まで3週間を切り、政府・与党は成立を目指す法案の絞り込み作業に入った。(中略)学校法人「加計学園」を巡る問題が響き、法案審議は滞っている。加計問題がビジネスを直撃する構図が浮かぶ ―― 一昨日の日経新聞記事、「規制凍結・洋上風力法案 今国会の成立困難に」の冒頭の記述です。
今国会を通じても野党は「モリカケ批判」の類ばかりをやり続け、日本の将来を左右する本来的課題は、全て後回し或いは殆ど議論されぬままでした。そして政権与党が痺れを切らしたらば、彼らは代替案なく反対し、反対のための反対をするだけの醜態を晒すのみでありました。2ヶ月前のブログ『野党の仕事とは』でも指摘した通り、代替案なき野党の政権批判は全く重みを持ちません。
誰の目から見ても日本政治の生産性は、ひどい状況であると言わざるを得ないでしょう。そういう中で小泉純一郎元首相の御子息らが「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」を立ち上げて、それも野党勢力の一部を含めて動き出したのは非常に喜ばしいことだと思います。
政治の生産性の向上は、それがほんの小さな範囲の工夫であったとしても、国民全体に非常に大きな影響を及ぼすことが多い。これまた一企業、あるいは一業界の比ではないと思う。そういう意味から政治の生産性という問題も、大いに検討し、実際に国家国民の繁栄なり幸福をより高めてゆくよう心がけることが肝要だと思う ―― 松下さんは、このように述べておられます。
しかし上記超党派の国会改革議連を巡っては、野党第一党である立憲民主党の枝野幸男代表が『「何でも反対」姿勢 進次郎氏を「全く意味のないパフォーマンス」と批判』し、同党所属議員の不参加を徹底しているようです。日本政治の生産性無きに等しき状況に対する彼の危機意識は、余りにも御粗末で大変残念です。
「経営者がいかに努力しても、政治が悪ければ、すべて水泡に帰してしまう」とは、松下さんが言われる迄もありません。生産性も含め様々な事柄を正に民間企業の経営と同じような国家経営という観点で、我々は今一度国会改革を練り直すタイミングにきているのではないかと思います。




 

『成功企業の戦略策定』

2018年7月2日 16:15

レランサという戦略コンサルティング会社の社長、スティーブン・ブライスタインさんは「成功する企業が策定する戦略に5つのポイント」を見出されているようです。それは、①どのビジネスを排除するのかを決める/②まず行動し、後から賛同を得る/③完璧さよりもスピード/④競合相手の分析をやめる/⑤未来は予想するのではなく、創造する、ということだとしています。
これらの内③と⑤に関しては、特段の指摘を要さぬものでしょう。当ブログでも過去、『速くて雑な仕事、遅くて丁寧な仕事』(13年7月18日)や『未来を予測できるものに未来は訪れる』(17年2月23日)等と題し、述べてきたことであります。御興味のある方は、是非ご覧頂ければと思います。本ブログでは以下、残り三点につき私が思うところを簡潔に申し上げます。
先ず①どのビジネスを排除するのかを決める、とは正に耶律楚材(やりつそざい)の、「一利を興すは一害を除くに若かず。一事を生ずるは一事を減ずるに若かず」に包含されましょう。耶律楚材とは、若干27歳で54歳のチンギス・ハンの宰相となり、30余年モンゴル帝国の群臣を仕切った非常に博学かつ胆識を有した人物です。此の捨てるとか省くということは何でも彼んでも付け加えることよりも大事な思考であって、私は経営者として何時も此の言葉を頭に入れています。
我々は絶えず問題を省(かえり)み、そして省(はぶ)くことの意味を噛み締めて行かねばなりません。それは、害となる恐れのあるものを減らして行くことかもしれませんし、また、他のものを増やす場合は限られた経営資源の有効利用という観点から何かを減じた方が良いということかもしれません。
次に②まず行動し、後から賛同を得る、との指摘は、少し違っているのではと思います。何が違うかと言うと、『孫子』に「夫れ未だ戦はずして廟算するに勝つ者は、算を得ること多きなり」とあるように、戦の勝敗は(びょう:祖先・先人の霊を祭る建物)で作戦会議を行う時に既に決しています。勝算なき戦に足を踏み入れぬよう、余程慎重に検討を重ねなければ駄目なのです。之また『孫子』に「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算無きに於いてをや」とある通りです。
従って「まず行動し、後から賛同を得る」のではなく、事をスムーズに運ぶべく「まず堂々と主張し、皆の英知を結集して合意を得るよう努める」方が明らかに良いと思います。その努力を怠り取り敢えず行動するというのは、ある意味何事も成功するかの如き錯覚に陥っているのではないでしょうか。
逆に私の場合は、「十のうち一~二つが思い通りに行ったら御の字」とか「失敗するのが当たり前」とかと考えますから、それだけ慎重に様々な事柄に当たっているわけです。同時にまた、勝機を失わぬよう決定事項は果敢に断行し、動的に変化を洞察しながら臨機応変に軌道修正もして行くことが肝要だと思っています。
最後に「自社の強みに基づいて市場と業界を定義し、自分たちのやり方でライバルに競争させる」とのことで④競合相手の分析をやめる、とありますが、之は完全に違っていると思います。『孫子』に「彼を知り己を知れば百戦危うからず」とあるように、相手がいる以上やはり相手を考慮せずに何事をやるわけには行きません。競合相手に対する徹底分析なかりせば、百戦危うしということになるでしょう。




 
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