北尾吉孝日記

『先を読む』

2019年12月9日 15:00

大事なのは予測能力。「読み」である。私に言わせると、「読み」は ①見る ②知る ③疑う ④決める ⑤謀る の五つの段階から成り立っている。この能力を身につけられるかどうかは、「他人よりいかに多く感じる力に優れているか」にかかっている--之は、ふた月程前にリツイートした「野村克也 名言集」(@NomuraBOT)よりの言葉です。
後段の「他人よりいかに多く感じる力に優れているか」は、「あらゆる本を読み、さまざまな人の話を聴きに行く」ことで磨かれるとは、正に言われる通りだと私も思います。本ブログでは以下、野村さんが五段階を想定されている「読み」に関し、私なりの手法を簡潔に申し上げて行きたいと思います。
先ず、先を読むべくは勿論、現況を把握するということが一つなくてはなりません。此の現実の状況把握とは、見る・知る・聞くといったことで成されます。そして次段階としては、その現状に何らかの問題がある場合、その原因を多面的かつ根本的に突き詰めて行き、結果その問題が将来どういうふうに発展して行く可能性があるかを見極めねばなりません。
あるいは逆に、その現状が非常に良好な場合、どのような方法でそれを維持・発展させて行くかを考えます。同時にまた、a.その現状を崩し得ることが起こり得るのか、b.起こり得るとしたら如何なることがあり得るのか、c.それらは何時ごろ何を契機に起こる可能性があるのか、等々そういった諸々の事柄を更に考えて行くのです。
何れにせよ、現実の状況把握から出発して得られる様々な知見を利用して先を読んで行くわけですが、その時私は取り分け次の3点に思いを致すようにしています。
第一に、物事の発展の仕方には、ある種の法則が働くケースが数多あるということです。例えばヘーゲルの弁証法に見られる通り、物事は螺旋階段上に進むのではないかと捉え、当該法則が当て嵌まるか否かを考えます。即ち、飛脚が郵便に、競り市がネットオークションに、幌馬車が電車等々に発展したといった端的な例が示すように、横から見た時に上に向かってちゃんと進歩して行っているという反面、昔から人間が欲していた役割・サービスが動力化・ネット化されたりするだけで、上から見たら不動の如き世界がそこにあるからです。
第二に、『論語』に「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」(為政第二の十一)という有名な一節がありますが、未来を予測する場合は時空を超え、温故知新が必ず参考になるということです。例えば私は年始の恒例で、年賀式に於いてその年の干支(十二支と十干)から年相を占うことを自ら掲げ、毎年表明しています。之は、長きに亘る人類の統計データから得られた一種の周期性・法則性に基づく知見をベースに、未来を予測するといったやり方です。過去、現在の積み重ねの上に未来は構築されて行くわけで、どうしても歴史に学ばなければなりません。
第三に、これまではどちらかと言うと過去をベースにした先の読み方ですが、過去に全く起こっていない事柄も常に新たなものとして未来に起こり得るということです。庶民的に言えば、之は「まさかの坂」であります。時代が変われば今常識とされている事柄が非常識になったり、逆に嘗ての非常識が常識といった形で塗り替えられたりし得るのです。例えば古代・中世の宇宙観である地球中心説「天動説」という一つの常識に対し、「地動説」という非常識的な太陽中心説を主張したガリレオ・ガリレイが、「宗教裁判でその説を撤回させられたときに、つぶやいた」とされる言葉、「それでも地球は動いている」とは正にコペルニクス的転回でありました。我々は常時、一人の天才がある種の閃きにより新しい世界を創ることもあり得ると意識し、未来を予測して行かねばなりません。
以上、思いつくままに述べてきましたが、私の場合は大きく言って上記のような手法で先を読んで行くということではないかと思います。




 

『失われゆく日本人らしさ』

2019年11月29日 16:15

10年前発売された拙著『安岡正篤ノート』(致知出版社)の第2章で、私は「陽明学を日本に普及させた安岡正篤」と題し次の通り述べました--「悪が必ずしも滅びるとは限らない」「力の強い者が勝つ」と考えるような人たちが出てきているのは、日本人の遺伝子が変異してきているためかもしれません。しかし、これは日本人らしさを失うことに他なりません。性善説、勧善懲悪という考え方は、時代を超えて訴え続けていくべきものだと思います。
私は「正義は必ず勝つ」「悪はろくなことはない」といったことを、テレビドラマ等を通じ日本国民に啓蒙すべきと思うのですが、嘗て小生が子供時代に観ていたような勧善懲悪の番組は今非常に少なくなっているように感じられます。或いは、「積善の家には必ず余慶(よけい)有り」(『易経』)とのエッセンスが入ったテレビ番組があれば良いと思うのですが、何故かそうした類が無くなって行っており私は此の現況を大変憂慮しています。
「正義は必ず勝つ」というようなテレビドラマを子供時代に観て育てば、悪い思いになる人は少ないでしょう。例えば『水戸黄門』を観て、悪代官を最後に遣っ付ける単純なストーリーだと思う人はいるかもしれませんが、その結末が悪い終わり方だと思う人はいないでしょう。訳の分からぬ終わり方で何かスッキリしない結末の番組は、最早不要ではないでしょうか。
我国が「世界一安全な国」で在り続けようとするならば、国民の道徳心や良識を更に高めるためのテレビ番組を制作して行くことが極めて大事になります。或いは、これからかなり増えるであろう移民に対しては、「日本社会においては○○○が非常に重要視され、○○○から逸脱する行為者は、逆に著しく軽蔑される」、といった具合に道徳的教育を施して行かねばなりません。
その時、彼等を何に同化させるのかと言えば、それは、日本人が持っている伝統的な良き特質に同化させることに他なりません。例えば今月2日閉幕したラグビーワールドカップ日本大会でも「おもてなし」が随分評判になりましたが、之は我国民が有するトラディションの良き特質の一つに違いないわけです。武道における「礼に始まり、礼に終わる」という精神等々そういうものを残して行くために、マスコミ関係者は「如何なる番組を作るべきか」「どういう思想を日本国民に子供時代から持たせたら良いか」等々よくよく考えて、その職務に当たって貰いたいと思うのです。
取り分け国税の如く視聴料を徴収するNHKに対しては、その受益者負担に反する側面に不公平感を持っている人も沢山います。それだけにNHKの大事な役割というのは、国民の知的水準だけでなしに道徳的水準も上げ、日本をより一層住み易く・明るく・高潔な世界に誇るべき社会に導いて行くよう注力することだと私は考えています。
今年の大河ドラマ「いだてん」は、来年のオリンピック東京開催に合わせてみたものの、続く視聴率低迷が報じられます。しかし、そもそもが視聴率を気にしなければならないのは民放テレビ局であります。毎年この時期に、NHK紅白歌合戦の視聴率がどうだこうだと騒ぎ立てるのもナンセンスです。NHKは唯々、日本人らしさの維持・発展に資する真面な番組作りに日々真摯に向き合うのです。そして、我国の人民の知的・道徳的レベルをより高い方向に誘導して行くよう尽力し続けるべきだと思います。




 

我々が20年程前に立ち上げたSBI証券は、新しいインターネットのテクノロジーを駆使して、顧客便益性を高め手数料を徹底的に安くし、多くの投資家の賛同を得て今日の隆盛に至っています。顧客便益性を高める、投資家利益を追求する--創業以来の顧客中心主義というのが、我々の正に基本的な事業の精神であります。今日でもその気持ちは全く変わることなく我々は更にそれを達成するために、フィデューシャリー・デューティを投資の世界に徹底的に浸透させるべく、色々な技術革新を取り入れながら事業展開を進めています。
そういう意味では、今回日本経済新聞が「日本版フラッシュ・ボーイズ」などと題されたアイキャッチングな記事を書いていますが、私から言わせれば十分な検証なくして軽々に記事化すべき事柄ではないと思います。『米作家マイケル・ルイス氏が2014年に著書「フラッシュ・ボーイズ」で描いた米国株市場の状況が、日本でも繰り返されようとしている』 とは、余りに不勉強甚だしく幼稚な記事と言わざるを得ないものです。
上記書でマイケル・ルイス氏は、『株式の超高速取引トレーダーに売買注文で「先回り」される一般の小口投資家が不利益を被っている』とか「通常のデータ供給に頼っている市場参加者を超高速トレーダーが出し抜く構造的な要因がある」というような主張を行いました。対してそれが正しいか否かをデータ分析により検証したのが、米国カリフォルニア大学バークレー校のロバート・バートレット氏、及びジャスティン・マクラリー氏の両教授です。
その結果は「How Rigged Are Stock Markets? Evidence From Microsecond Timestamps」と題された51頁から成る論文に纏められており、結論としてマイケル・ルイス氏の主張は妥当ではないというふうになりました。以下ロイター記事よりの引用を御紹介しておきますが、私は此の論文につき極めて正しいやり方で検証を行ったものとして高く評価しています。

【フラッシュ・ボーイズが掲げた2つの理論は実際に証明されていないと指摘。1つ目のマーケットメーカーが最適な価格を提供しないことで顧客を欺いているという考え方は「正しくないことが分かった」と述べた。さらにもう1つの超高速トレーダーがより素早く売買注文情報を入手して一般に出回るよりも前に取引を執行しているという説も「現実には起きていない」という。このため両教授による調査では、SIP(セキュリティ・インフォメーション・プロセッサ)と呼ばれるシステムを通じてより遅いスピードで供給される価格情報を用いる投資家が、不利な立場に置かれている証拠は乏しいことが判明した。】

我々はと言うと、欧米でグローバルスタンダードと現在なっている注文形態TIF(タイム・イン・フォース)の導入によって、SBI証券の顧客全体で見た場合、実際に定量的にも非常に大きなメリットがあるということも我々自身の実証データから得ています。即ち、月間の約定価格の改善効果が約4000万円、手数料割引が約550万円ということで、此のエビデンスからも上記の両教授の実証分析は妥当であり、大いに投資家を利するものであると私は考えています。
更に言えば今回日経は、2019年10月からのTIFで、板乗りする僅かな時間にアルゴリズムを使うHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)が個人投資家の注文を先回りしている可能性がある、と論ずるわけですが、そもそもHFTは元よりどの投資家においても、東証に「いつ、いくらで、どれだけ」の注文が回送されるかは、原理的に確定情報は知り得ないのです。

●PTSの注文は、SBI証券の顧客の注文であるかも含めて、誰の注文か分からない。
●PTSの注文が、SBI証券の個人投資家の注文であったとしても、当然、それがPTSで約定し、東証に全く回送されない場合がある。東証に回送される場合であっても、「成行」であるのか、「指値」であるのか、指値の場合に「いくら」であるのか、また、PTSで一部約定する場合もあるため「何株」であるのか、分からない。
●PTSの注文は、当然、全市場参加者が見られる情報であり、HFT業者も含めた多数の市場参加者が存在するため、ある一つのHFT業者が先回りしようとしても、個人投資家も含めた他の市場参加者がPTSの注文を取りに来る場合も容易に想定される。
●そもそもSBI証券の個人投資家は、発注毎に「SOR」、「東証」、「PTS」から選択することができるが、「SOR」ではなく「PTS」を選択して発注している場合は回送されない。こうした顧客の選択については、HFT業者も含めてどの投資家も板情報から判定することはできない。

こうした状況をよく調べずして記事を書くことは、革新的技術を使いながら更なる投資家利益を追求しようとしている我々にとっての理由なき誹謗中傷であり、我田引水的な論説と言わざるを得ないわけです。記者が余りにも不勉強で専門的知識を習得すること無く、唯唯特ダネ記事のような調子で全く魅力の無い記事を書いている、としか言えません。
また、我々が考えている売買手数料ゼロ化というのは既に米国で起こり出していることであって、それを具現化すべくHFTのリベートがどうといった類とは全く関係のない話です。本日出された「日本版フラッシュ・ボーイズ」の(下)ではリベートと関連付けられていますが、我々はそんなつもりは毛頭ありません。勝手な妄想でSBIグループを誹謗中傷する者とは、私は断固として戦います。
私は先ずブローカレッジのコミッションを全体の5%にし、それを前提として手数料を無料化にするという基本方針を立てています。そしてそれが5%以下になりますと手数料ゼロ化の影響はそれ程大きなものではなく、同時に之による御客様の増加で補って余りあることだと確信しています。
チャールズ・シュワブのCEOが言うように、時代の流れとして不可避的なものは先にやる者が基本的にはメリットを得、やらなければ負けるのです。我々はこれからも、顧客中心主義に基づいて徹底した合理化とテクノロジーの最大限の使用を心掛けます。之が、我々のスタンスであります。




 


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