北尾吉孝日記

ご存知のように『野田佳彦首相が昨年末に訪中し、温家宝首相と「金融市場の発展に向けて協力を強化する」ことで合意した』わけですが(※1)、本ブログでは当該合意事項について関連記事を多く引用する形でコメントして行こうと思います(参考:「日中首脳会談で合意した金融市場発展のための合意」-1.日中間の取引の円・人民元の利用促進、2.円と元の直接交換市場の育成支援、3.人民元建て債券市場の育成支援、4.海外市場での人民元建て金融取引の促進、5.金融市場整備で協力を促進する作業部会の設置)。
まず「日本による中国国債の購入」については日本でも多数の報道がなされていますが(下記抜粋①~⑤参照)、仮に実現するとしても「日本の外貨準備高1.3兆ドルから見れば1%未満で、日本が現在保有している米国債やユーロ債残高のポートフォリオから見ても極めて小額なもの」ではあります(※2)。
「市場への影響を考慮し、少額でスタートして徐々に買い増していく方針」であり「G7をはじめとする先進国の中では、紛れもなく最初の出来事」ですから、「中国に次ぐ世界2位の外貨準備を抱える日本が、ドルに偏った運用の多様化に乗り出したと市場が受け止めれば、ドル相場の急落につながりかねない」といった見方もあるが、段階的に少しずつということですから、そこまで心配する必要はないと思っています(※2/※3/※4)。

①『国際通貨基金(IMF)によると、世界の外貨準備は9月末に前年比13.2%増の10兆1767億ドル。円は15.4%増の2060億ドルで、特に中国を含む新興国の保有が35.8%も増えた。通貨が判明している額に占める円の比率は3.8%で、05年3月末以来の高さとなった3カ月前とほぼ横ばい。6月末に60.3%と過去最低を記録したドルは61.7%に上昇。ユーロは25.7%と3年ぶりの低さとなった。』(※5)
②『日本の外貨準備は2011年6月末で1兆ドルを超えており、3兆ドルを超える中国に次いで世界第2位である。また米財務省によれば、11年8月末時点で、米国国債残高14兆ドルの34%は外国人により保有されているが、その外国人保有分のうち25%は中国、20%は日本が保有している。しかも中国はポートフォリオ分散化のため、米国国債の保有残高を少しずつ減らしているのに対して、日本は着実に保有残高を増やしている。』(※6)
③『中国では外国当局が中国国債を買う場合、中国人民銀行(中央銀行)の認可を得る必要がある。会談では日本側が人民銀への認可の申請手続きを始めることで合意。具体的な購入額は明らかにしていないが、最大100億ドル(約7800億円)相当になる見込みだ。』(※4)
④『日本による中国国債購入は、中国が進める人民元の国際化を後押しし、両国経済の関係を強める。
(中略)中国は、人民元を一定幅の水準に置くために、元売りの市場介入を繰り返し、世界一の外貨を保有している。その額は2011年9月末で3・2兆ドル(約245兆円)に達し、7割がドルとされる。
一方で中国は、日本への投資も進めている。
市場関係者が中国政府系とみるファンド「OD05 オムニバス」は、NECや三井物産などの大株主だ。大手証券会社によると、このファンドが出資する日本企業は、10年9月時点の148社(株式時価総額で1・9兆円)から、11年9月末は264社(同約3・2兆円)に急増した。
中国から日本への国債を含む債券投資残高は、10年末には1年前の約3倍の10・5兆円に達している。
こうした投資のため、中国が手持ちのドルを売って円に替えることが、歴史的な円高を増幅させている。
日本政府は、中国国債を購入して中国とは逆に人民元を買う流れを作り、円高を食い止めることを狙っている。』(※7)
⑤『国債市場が低迷している一部のユーロ圏内の国々や米国にとって、特にこの第5項目(日本政府による中国国債の購入)に関心を払わざるを得ないのは、日本に触発されて、その後続いて他の先進国や、または外国国債の保有高の上位ランキングの国々による中国国債への投資分散現象は出現するか否かである。もし雪崩現象が出現するとなると、自国の国債への国際購入資金の流入が更に細くなり、これはもはや単なるG20で合意した人民元の柔軟性云々ではすまされなくなるからである。』(※2)

次に「円・人民元間の直接交換市場の発展支援」や「両国間のクロスボーダー取引における円・人民元の利用促進」(※8)、あるいは「民間セクターによるオフショアでの人民元建、日本円建の金融商品及びサービスの提供への促進」及び「人民元建てと日本円建ての債券市場の創設(日本企業による東京または海外市場での人民元建債の発行、日本国際協力銀行の中国国内での人民元建パンダ債の試験発行)」等についても上述の引用記事を用いて指摘しますが(下記抜粋a.及びb.参照)、例えば仮に日本円が「主要通貨で初めて直接取引の対象となる」とすれば、ある意味非常にエポックメイキングなことである思いますし日中両国にとって非常に望ましいことではないかというふうに私は捉えています。

a.『中国の狙いはドルが仲介しない為替取引の実現。ドルを中心とする通貨体制に挑戦する中国の金融戦略の中で、日本円は主要通貨で初めて直接取引の対象可能性が出てきた。
(中略)ドル排除に向けた中国の動きは徹底している。1月17日にはアラブ首長国連邦(UAE)との間で、両国の通貨を中央銀行同士で交換するための取り決めに署名した。元建ての投資や貿易を促進するため、UAEが機動的に元を調達できるようにするのが目的だ。
同様の協定は過去1年だけで、パキスタン、タイ、カザフスタン、モンゴル、ウズベキスタン、ニュージーランドとの間で合意した。韓国とも同様の協定を拡充した。今後こうした動きはさらに加速する見通しだ。
(中略)中国がドルを外そうとする狙いは、米国の思惑とドル相場の変動が経済に与える影響を減らしたいという思惑が1つ。
(中略)一方、日本側にもメリットはある。ドルが常に介在する現状と違い、円と元を直接交換できるようになれば、邦銀主導で為替取引を進める余地が生まれる。今のところ、通貨としての使い勝手で元より円の方が勝っているからだ。為替取引が簡素化されることで、企業の貿易コストを軽減できる可能性もある。
環太平洋経済連携協定(TPP)や日中韓の自由貿易協定(FTA)など、アジアの新たな経済秩序の模索が始まっている。通貨問題はその行方を左右するポイントの1つ。』(※1)
b.『中国の対外貿易に於ける元建て決済の割合は、輸出入総額3.5兆ドルの約10%を占める。1年前は僅か1%に比べ、10倍増。来年は15%の3.7兆元になる見込み。
その中、日中間の今年の輸出入総額は、両国貿易史上初の3000億ドルを超える規模に達する見込みである。しかし、その6割は米ドルによる決済である。元→ドル→円、またはその逆方向の通貨決済は、両国にとって為替リスクを蒙る他、本国通貨の両替による財務コストも無視できない。
(中略)株式市場が低迷する日中両国の金融市場にとって、債券市場への新金融商品の投入によって活性化と規模拡大の好機となる。
中国の国内流通債券市場は、現在20.1兆元(約3.3兆ドル)の規模、アジアでは日本に次ぐ第2位。オフショア市場の香港とシンガポールでは国債の売買規模はそれぞれ10兆元(約1.5兆ドル)。円建てと元建ての共同債権市場を創出すれば、両国のみならず、両国の通貨を現に流通しているアジア域内のインフラ整備から貿易・サービス・投資の促進までの潤滑油ともなる。
日中両国の金融市場は、株式、債券などの一部の証券取引からスタートするものの、将来大口商品の先物取引等まで、地域内のセンター市場としてより大きな視野で育成すれば、やがて広域の証券取引市場のリーダーとして、日中両国のみならず、アジアや世界の金融市場の安定化と繁栄にも大きく貢献する存在となる。』(※2)

先月27日の人民日報記事「日本の人民元による対中直接投資が可能に」でも『商務部国際貿易経済合作研究院中国対外貿易部の金柏松副主任は、日本の中国国債購入や円と人民元の直接交換促進は「互恵の方向性」として好ましいと評価』しているようですが(※5)、元円直接取引をはじめ上記合意事項が実現されれば日中間の金融面におけるビジネスが大いに促進されますし貿易等にも当然プラスに働くわけで、日中両国にとって様々な側面で大変意義のあることではないかと思われますから、今後もそうした方向に進んで行けば良いというふうに強く感じる次第です。

参考
※1:2012年1月21日日本経済新聞「中国、ドル排除へ着々 元円直接取引構想の深謀
※2:2012年1月4日サーチナ『日中「金融協力パッケージ案」―「元」と「円」の共存共栄は?
※3:2011年12月25日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「中国国債購入で合意=円・人民元の貿易決済も促進―日中首脳会談
※4:2011年12月26日日本経済新聞朝刊「日中首相会談――日中、国債持ち合い、円・人民元利用を拡大」
※5:2012年1月12日ブルームバーグ「中国は円債3カ月ぶり買い越し、欧州懸念-英経由でも買い増しか(1)
※6:2011年11月28日日本経済新聞朝刊「成熟した債権国へ日本の条件(上)同志社大学教授林敏彦氏(経済教室)」
※7:2012年1月9日東京読売朝刊「[通貨大乱](5)中国マネー 膨張続く 人民元相場 管理に懸念(連載)」
※8:2011年12月25日外務省「日中両国の金融市場の発展に向けた相互協力の強化 ファクト・シート




『小沢一郎と橋下徹』

2012年1月26日 15:26

一昨日の日本経済新聞記事『「話し合い」か「小泉型」か、真逆の解散シナリオ』冒頭の下記記述にもある通り、昨今野田総理が所謂「話し合い解散」に持ち込むのではないかということが取り沙汰されるようになってきています。

『野田佳彦首相は2つの衆院解散・総選挙シナリオを視野に、24日召集の通常国会に臨んだ。第1は消費税増税法案の成立と引き換えの野党との「話し合い解散」。第2は不成立時にやむなく国民の信を問う「小泉型解散」だ。同じ解散でも、法案の成否と首相の権力の使い方は真逆になる。』

また本ブログでも時々取り上げてきた所謂「民主党・小沢元幹事長の政治資金問題」について言えば、現況で推移すると「元秘書3人の供述調書の証拠採否を決める公判期日」の来月17日には小沢氏の実質的な無罪が確定するのではないかというふうにも言われていますが(※1)、仮にそうなった場合は3月というのが政局の行方を左右する上での一つの山場になりましょう。
昨日の『「民主党の政権政策」とは何か』と題したブログでも終始一貫性の欠如した民主党政権の体たらくぶりを批評したわけですが、あの政権交代を主導した小沢氏としても凡そ2年半の政権運営に対しては内心忸怩たる思いを当然持っているでしょうから、百名超とも言われる「小沢チルドレン」を含め小沢系の国会議員というのが「6月21日までの今国会の会期中に、野田佳彦首相を衆院解散・総選挙に追い込む」べく内閣不信任決議案や首相問責決議案を突付けるであろう自民党と一緒になって動いて行く可能性もあり得ると思っています(下記参照:2012年1月24日時事ドットコム「自公、問責・不信任探る=協議拒み解散へ徹底抗戦」より抜粋)。

『自民党は今国会の勝負どころとして三つのヤマを想定している。最初は、政府が消費増税関連法案を提出しようとしている3月だ。与党内の反増税派の反発の度合いによっては、内閣不信任案を提出すれば可決の可能性も出てくる。
次のタイミングが4月上旬。2012年度予算案の成立を待って野党多数の参院に首相問責案を提出するシナリオで、自民党内には「問責可決で4月解散-5月20日選挙だ」(参院幹部)と具体的な衆院選の日取りを口にする向きもある。
三つ目が6月の会期末だ。消費増税法案や予算関連の特例公債法案、交付国債関連法案の成立を徹底して阻止して首相を解散に追い込むという筋書きで、不信任案や問責案の提出も検討することになる。』

今後小沢氏がどういう所で誰と手を結んで行くのかというのが一つ重要になってくるわけですが、昨年12月のブログ『今後の政局とキーパーソン』でも下記の通り述べたように小沢氏としては橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」と連携して行こうというふうに考えているのではないかと私は見ています。

【今後の政局というものがどうなって行くのかを考えますと、最長でも残り1年8ヶ月余りとなった民主党政権が終わりを迎える前後に起こり得るのは又もや政界再編成であろうと思われますが、そうした時に一つの核となり得るのが上述の橋下氏や名古屋市長の河村たかし氏といった政治家であり、彼らが既存の代議士の誰とどのような連携を図って行くのかが一つの焦点となりましょう。
(中略)昨日も橋下氏と大阪府知事の松井一郎氏は「国会内で民主党の小沢一郎元代表、輿石幹事長らと相次いで会談した」わけですが(※2)、小沢氏にしてみれば次期衆院選を経て民主党の一年生議員の殆どが議席を失うと想定される中、今後どう動いて行くのかを決める上で橋下氏をキーパーソンとして捉えているに違いありません。
(中略)そして例えば、民主党政調会長の前原誠司氏と自民党の石破茂・元防衛庁長官が組むというように、恐らくこれからは比較的若い層が党を跨いで連携する中で新たな勢力が生まれてくるといった可能性もあるのではないかと思っています。】

小沢氏と橋下氏のある意味での共通項は本ブログでも指摘し続けてきた政官財癒着の社会経済システムを抜本的に刷新するということであり、その共通項こそが将来日本に発展を齎す上で私は最も大事なものであるというように認識しています(下記参照:①2011年7月22日北尾吉孝日記『新たな日本創造への処方箋』、及び②2011年8月23日北尾吉孝日記『民主党代表選と小沢一郎』より抜粋)。

①【今日本で希求されているのは、上述したような政官財の癒着構造全てを叩き潰す政治力と強力なリーダーシップです。
あの小泉純一郎氏を以てしてもその点では殆ど何も出来なかったわけで、「郵貯改革」に対する取り組みのみが行われただけなのです(悪い影響が齎されたのかもしれませんが・・・)。
私は今でも小沢一郎氏をおいて上述した大改革を成し遂げることが出来る人物は存在しないというように思っています。
そして、これまで本ブログでも幾度か述べたように次代の政界のホープは細野豪志氏であると考えておりますが、私の人物眼による限り、彼にはその素養があると思うのです。
この人物を如何に育て上げ、将来的に上記大改革を完遂し得るのかということこそが、日本にとっての一つの大きなポイントであると認識しています。】
②【多くの知識人達が問題提起する「今後日本はどうあるべきか」「日本は最早変わらねばならない」ということに関し、その共通認識を掘り下げて言えば、その変わり方としてはやはり今まで小沢氏が主張してきた政官財の癒着構造を抜本的に叩き潰すこと、特に官との関係性(官僚支配)を断ち切ることが絶対的に必要であるということです。
(中略)この世界にメスを入れた者、あるいは入れようとした者に対しては、政官財全てに米国も併さって当該人物を強力に葬り去ろうとするわけで、小沢氏のように最初から官を潰すと言い続けてきた人物というのは、官からすれば総理大臣になってもらっては困る最も危険な存在なのです。
(中略)小沢氏というのは自分の職責には固執しない人物であって、例えば自民党に所属していれば疾うの昔に総裁・総理になることが出来ていたにも拘らず、彼は敢えてそれを蹴飛ばしたような人ですから、上記政官財癒着の社会経済システムを将来の日本のために如何にして叩き潰して行くのかという観点から、今回の代表選において今後も動いて行くことになるでしょう。
何故ならば、それこそが彼の天命であると彼は考えおり、これまでもその実現への執念によって生きてきた男ですから、私はそうした部分において小沢一郎という人物を非常に評価しているのです。
彼の人柄やそういった強い思い故に虚像が作り上げられ、そして、殆どの社の記者が小沢氏を天下の極悪人のように取り上げ偏向的な報道がなされているような状況ですが、私に言わせれば、それは全く的外れなことではないかというように思っています。】

小沢一郎という人物は1993年8月に誕生した細川護煕内閣、そして2009年9月誕生の鳩山由紀夫内閣とある意味2度の政権交代を成し遂げてきたわけですから、その政治手腕と橋下氏の斬新さを合わせて三度目の正直でもう一度新政権創成に動く可能性もあるのではないかというふうに私は思っています。
先週水曜日にも『橋下徹大阪市長について』と題したブログで下記の通り指摘しましたが、橋下氏というのは正に「狂者(奔放な人)」であり小沢氏もある面「狂」の人かもしれませんが、今の日本を覆う閉塞感を打破するには取り分け「狂」が必要でありましょう。

【また『論語』の「子路第十三の二十一」では次のように述べられており、私自身も「狂者(奔放な人)」の側面を持っていると自覚していますし、そもそも「狂」か「狷」かといった問題でもないとは思いますが、少なくとも今見られるような大上段に構えた過激な手法によって橋下氏が物事を成就させて行くのは困難ではないのかというふうに私は考えています。

 書き下し文『子曰く、中行を得てこれに与せずんば、必ずや狂狷か。狂者は進みて取り、狷者は為さざる所あり。』
 現代語訳『孔子がおっしゃった。「言行が中庸な人と付き合いできなければ、奔放で気骨がある人と交際するのがよい。奔放な人は進取の精神に富み、気骨のある人は悪事を働かないからだ」』】

私は橋下氏にお会いしたこともありませんし、どの程度の人物なのかは良く分かりませんが、進取の気性に富む若者が正義感に燃え政界の表舞台に出てくるというのは大変結構なことであると思っています。

参考
※1:「小沢さんは無罪」 前田元検事「見立て違いの妄想」と捜査批判
※2:小沢氏、橋下市長に「日本全体を一気に…」と




昨日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」にも『消費増税、今国会で結論=野党に「決断」迫る―議員定数削減に全力―首相施政方針』という記事がありますが、ご存知の通り『演説で首相は「予算編成で毎年繰り返してきた対症療法は、もう限界だ」と述べ、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる必要性を強調。増税分は社会保障費として「すべて国民に還元する」と説明』しました(※1)。
先週金曜日の日本経済新聞朝刊「岡田副総理に求めること(大機小機)」でも下記のように指摘されている通り、今「社会保障と税の一体改革」と称して実現に動いている程度の消費増税を行ってみても基本的には「社会保障支出を賄い、財政健全化を成し遂げること」は難しいという議論は前々からあるわけで全て焼け石に水と言わざるを得ないというふうに私は考えています(参考:2011年12月16日北尾吉孝日記『少子高齢化時代における社会保障制度の在り方』)。

『野田佳彦首相は消費税増税をやり抜き民意を問うとして、衆院解散・総選挙も辞さない構えと伝えられる。しかし増税だけで増加する社会保障支出を賄い、財政健全化を成し遂げることはできない。したがって増税と同時に何を国民に問うかが問題となる。
増税(歳入改革)と同時に必要なのは歳出改革を断行し、成長力の強化によって税収増を図るという三位一体の改革である。このどれが欠けても財政再建の道筋は描けない。しかし現実には歳出削減努力は十分とは言い難く、日本経済も税収増どころか、空洞化による成長力のさらなる低下が懸念される状況である。
(中略)これまでの与党の歳出改革議論は、野党を増税法案審議のテーブルにつかせるためのまき餌にしかみえない。
(中略)一体改革はいまだ抜本改革にほど遠く、このままでは社会保障支出の増加に歯止めがかからず、消費税の5%どころか、止めどなき引き上げが必要になる恐れがある。』

そうした中で「藤村官房長官:消費税、将来的には10%超へ引き上げも必要に-会見」という記事にもあるように、今度は藤村修官房長官や岡田克也副総理が更なる増税の必要性を訴え始めるというような始末ですから最早開いた口が塞がりません。
今民主党が第一に為すべきは現行の「社会保障と税の一体改革」という焼け石に水程度の「改革」ではなく、あの2009年夏の政権交代時に民主党が公約として掲げた「税金のムダづかい」を徹底的に排除するということであり(※2/※3)、その部分に対してはこれまで全くと言って良いほど努力というものが為されていないのです(下記抜粋①②参照)。

①『もともと、不要な歳出を削って子ども手当などの新規政策の費用に充てることが民主党の政策の基本であった。それが政権を取った後は、既得権の厚い壁に遮られて見事に失敗し、税収の倍以上の一般会計歳出を賄うための増税が必要になった。その意味では、増税よりも、無駄な歳出削減というマニフェストを実現できなかった方に、より重大な責任がある。しかし現実には、消費税率の引き上げを主目的とし、それを誘導するために無駄な歳出増を容認する、逆立ちした状況となっている。』(2012年1月21日日本経済新聞朝刊「何のための消費税増税か(大機小機)」)
②<昨日の日本経済新聞記事「「社会資本」など17特会、11に削減 独法4割削減」にも下記記述がありますが、消費増税にどうしても踏み切るというのであれば議員歳費や議員定数の大幅削減等は当たり前のこととして、野田総理自身が野党時代に声高に主張していた所謂「天下り・わたり」というものの徹底廃止、即ちより大きな財源を生み得る無駄な独立行政法人の全廃を直ぐにでも実施すべきではないでしょうか(参考:YouTube「野田総理 マニフェスト 書いてあることは命懸けで実行」)。

『政府がまとめた独立行政法人と特別会計の改革案は身を切る行政改革に向けた一歩だ。だが、独法削減は4割にとどまり、目標の5割減は未達成。統廃合による歳出削減の規模も明示していない。消費増税の理解拡大につながるかは不透明だ。
(中略)独法には年間3兆円あまりの国費が流れ、17の特会の歳出規模は180兆円に上る。民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)でこれらの改革により子ども手当などの主要政策の財源を捻出するとしていた。しかし、藤村修官房長官は19日の記者会見で「今回は新たな財源を捻出することが目的ではない」とした。』>(2012年1月20日北尾吉孝日記『岐路に立つ日本と世界』)

そして野田総理は国民を恫喝するかのように「日本は財政改革を推進する必要があり、大幅に増加を続ける政府負債額をコントロールできなければ、ヨーロッパのように、これまで以上に問題に直面することになる」などと発言をしていますが(※4)、より根本的には消費増税に頼り切るのではなく自然増収を図るための経済成長戦略の立案・実施、そして徹底した行政改革による無駄の排除、及び様々な競争制限的な旧制度の徹底改革の推進といったことにまずは取り組むべきではないでしょうか(下記参照:2012年1月20日北尾吉孝日記『岐路に立つ日本と世界』より抜粋)。

<今後日本においては震災復興という大義の下で15~20兆円程度とも見られる多額の公的資金が「真水」として出て行くわけですから、今というタイミングにおいて最も重要なのは昨年8月『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』というブログ等でも下記指摘したように発生してくる復興需要を生かして日本経済の浮揚を齎し、遂にはデフレ脱却へと如何に導いて行くことが出来るのかを考えることであって、今の野田総理のように解散総選挙で政治空白にも繋がり得る増税論を持ち出し執着するということではないのです(参考:2011年12月8日北尾吉孝日記『見直されるか日本株』)。

【私は今週火曜日に「現時点での増税は大反対です。増税論者は往々にして増税がもたらす経済成長へのマイナス効果(それにより税収が減る)を忘れがちです。先ず経済復興その後財政再建です。」とtweetしましたが、増税論者よる財政再建論というのは現況を不変として展開される傾向が強くあると言えましょう。
こうした考え方により大失敗したのが橋本龍太郎政権であって、下記の通り安倍晋三氏も私と同じような見解を述べていますが(※5)、橋本氏は財政再建の必要性を唱えて増税を実施し、折角浮揚し掛かっていた当時の日本経済を壊してしまったのです。

『日本では10年以上も深刻なデフレが続いている。震災による電力不安もある。こんな状況下で増税に踏み切れば、国民の消費マインドは冷え込み、企業は国外に逃げ出し、日本経済に甚大なダメージを与える。まさに自殺行為。経済が破壊されたら、復興も財政再建もあり得ない。
阪神大震災後の景気回復軌道にあった97年、橋本龍太郎政権は消費税増税に踏み切った。消費税収こそ当初増えたが、国民負担の増大で日本経済は腰折れし、所得税収と法人税収は激減した。この苦い教訓を忘れてはならない。』】>

上記引用にもあるように日本という国は「税収の倍以上の一般会計歳出」及び「国と地方の借金を合わせた長期債務残高は2012年度末に937兆円程度に膨らむ見通し」ですから(※6)、端的に言うと今後例えば金利が1%上昇するだけで9兆円の金利負担増となり、それがまた国債発行を誘発するという悪循環に陥りかねないような水準に最早あるわけです(参考:2012年1月24日ブルームバーグ「国の借金は985兆円、11年度末-短期証券の発行減などで修正」)。
そうした状況下、今はゼロ金利の中で何とか辻褄を合わせて利払いを行っているわけですから、「社会保障と税の一体改革」と称して社会保障制度に関しても全く抜本的改革にならないようなことを掲げながら、何とか消費増税だけを実現しようというような意図があるのではないかというふうにしか私には見えないのです。
上述したように政権交代時の国民との約束等をまずは履行した上で、人口減少時代を迎えている日本において真に社会保障制度を改革しプライマリーバランス黒字化を実現して行くのには一体何%の消費税率引き上げが必要なのかという吟味も為されるべきでしょうが、そういったことも碌々せずに副総理に就任した人が「年金抜本改革に必要な財源は(15年に引き上げる消費税の)10%に入っていないから、さらなる増税は当然必要になる」などと愚かな発言をするのは全くナンセンスであると言わざるを得ません(参考:※7/2012年1月24日日本経済新聞「基礎的財政20年度黒字化、消費税6%分不足 一体改革実現でも」)。
これまで蓮舫氏や枝野幸男氏等により実施されてきた事業仕分けという子供騙しが殆ど無意味なことであったのは昨年10月のブログ『復興財源捻出の在り方』等々で幾度も指摘してきた通りですが、例えば昨年12月に「八ツ場ダム建設再開」が決定され、そして更には「コンクリートから人へ」の理念に反し来年度予算では「自民党政権時代にも凍結されていた整備新幹線が認められた」わけですから、現政権が無駄排除というものに対して如何に真剣に取り組んでいないのかは明らかなことでしょう。
『論語』の「顔淵第十二の七」に政治の要諦に関して次のように述べられていますが、今の時局にあたり終始一貫性の欠如した民主党政権を見ていて、正にこうした様態を「信なくんば立たず」と言うのであろうと改めて下記一節を思い出した次第です。

 書き下し文『子貢、政を問う。子曰く、食を足し兵を足し、民をしてこれを信ぜしむ。子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何れをか先にせん。曰く、兵を去らん。曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何れをか先にせん。曰く、食を去らん。古より皆死あり、民は信なくんば立たず。』
 現代語訳『子貢が政治について尋ねた。孔子が言われた。「食糧を豊富にし、軍事を充実させ、人民に信義を持たせることである」。子貢が言った。「もしどうしてもやむをえない事情でこの三つの内一つを省くとしたら、どれを最優先にしますか?」孔子が言われた。「軍事だね」。子貢がさらに言った。「もしどうしてもやむをえない事情で残った二つの内さらに一つを省くとしたら、どれにしますか?」孔子が言われた。「食糧だね。どんな人間でも昔からいつかは死ぬとされているが、人民に信義なくては国家も社会も成り立たないよ」』

参考
※1:消費増税、国民に還元 首相が施政方針演説
※2:民主党の政権政策Manifesto2009
※3:2011年10月13日北尾吉孝日記『政権交代から2年後の今
※4:野田首相、「イランとの経済関係を継続する」
※5:増税しなくても被災地復興の策はある
※6:社説:通常国会召集 「決断する政治」見せよ
※7:藤村官房長官:消費税、将来的には10%超へ引き上げも必要に-会見




『インドについて』

2012年1月25日 9:28

先日英銀最大手のHSBCが纏めた「2050年の世界経済規模ランキング予測」を見ますと、誰もが予測するように中国(GDP:25兆3300億ドル/2010年比:7.2倍)が世界首位に浮上し(※1)、「米国(22兆2700億ドル/1.9倍)との2強体制が鮮明になる。人口が1億200万人まで減る日本(6兆4200億ドル/1.2倍)は世界最多の16億人に膨らむインド(8兆1600億ドル/8.5倍)に抜かれ4位に後退する」となっています(参考―5位:ドイツ-3兆7100億ドル/1.8倍、6位英国-3兆5700億ドル/2.0倍、7位ブラジル-2兆9600億ドル/3.2倍、8位メキシコ-2兆8100億ドル/4.0倍、9位フランス-2兆7500億ドル/1.8倍、10位カナダ-2兆2800億ドル/2.5倍)。
私なりに現況を見ますと、上記Top10の中ではやはりインドに対する日本のコミットメントが未だ十分ではないというように感じられ、今後どんどん進出して行くべき国の一つではないかと捉えています(参考:2011年8月31日北尾吉孝日記『今こそ加速すべき日本企業の海外進出』)。
インドという国は世界第2位の総人口1,189,172,906人(2011年7月現在)を抱え(※2)、2020年頃には「中国を追い越して世界人口第1位になると予想されている」わけですが(※3)、更には「中間層である年収5000~1万ドル世帯は2008年の16%から15年には39%に拡大する一方、1000~3000ドル世帯は52%から10%に縮小する」とも見込まれており、中間層が着実に拡大してきています(※4)。
そしてまたある程度教養のあるインド人は全て英語を話しますから私なども殆ど通訳を介せずして話を進めることが出来ますし、更に良いのは長い間英国の植民地であったが故に基本的には法制度が英国のものに準拠しているということで、これまた中国に比して分かり易い部分と言えましょう。
従って、日本企業というのはインド進出に対してもっと力を入れるべきであると思っていますし、またインド経済圏と考えられるスリランカやバングラディッシュといった所との貿易も非常に活発になされていますから、こうした経済圏と積極的に付き合って行くべきではないかというふうに私は考えています。
当社のインド展開について言えば、これまで色々な所とディスカッションを重ね幾つかの所とは大分話が煮詰まってきており、投資活動を中心に様々な形でインドへの進出準備を行っているというのが現況です。
今後金融緩和も進んでいくでしょうし、タイミング的にも良いと思っています。

参考
※1:2012年1月13日日本経済新聞夕刊
※2:People and Society:: INDIA
※3:2011年11月11日読売新聞朝刊
※4:2011年8月29日化学工業日報




現在「公正取引委員会と証券監督当局は、昨年11月22日に発表された東証と大証の統合計画について審査を進めている」わけですが、本件に関しては先週火曜日の「私設取引システム促進に向けルール変更も-東証・大証統合後にらむ」と題された記事でも次のように指摘されています(参考:2011年11月24日北尾吉孝日記『「東証・大証統合」について』)。

『SBIジャパンネクスト証券やチャイエックス・ジャパンなどが手掛けるPTSは昨年、TOPIX構成銘柄の取引の5%を扱い、2007年にこうしたPTS市場が始まってから最高の割合を占めた。ただ、欧州やカナダと比べ国内ではPTSの成長は遅れており、ドイツ銀行や野村総合研究所によると、PTSを従来型の取引所と異なる扱いとしているルールが妨げになっている
(中略)日本では投資家が取引所外で株主11人以上との取引を通じ株式5%超を取得する場合、株式公開買い付け(TOB)の実施が義務付けられているが、そうした規定は取引所から買い付けられた株式にはない
(中略)野村総合研究所の大崎貞和・主任研究員は、「東証と大証が統合すれば現物市場だけでなく、先物市場などについても独占力は高まるため、競争制限的なことができるようになる。もしそれが競争を妨げる可能性があるなら、解決策は2つある。公正取引委員会が合併を認めないか、PTSとの市場間競争を活発にするかだ」と指摘』

上記「5%ルール」については昨年7月のブログ『「PTS元年」の現況と展望』等でこれまでも指摘し続けてきたことですが、独禁法上の観点から考えれば当該ルールを撤廃せずして圧倒的シェアを持つようになる東証・大証統合は許されるべきではありませんし、そもそもPTSも取引所外として定義すること自体が全くナンセンスであると思っています。
更に言うと『グローバルな取引所再編成の時代』と題したブログでも「10%ルール(PTSの運営において、取引量が対国内全取引所比の全売買代金の10%を越えてはいけないという制限)」等について下記の通り指摘しましたが、こうした過去の遺物とも言い得る理解不能な制度を取り払わない限りは今回の統合計画を簡単に認めるべきではないでしょう。

【上場審査を筆頭に様々な審査上のコストが掛かる中、一方はそれを負担し片一方は負担しないというのは可笑しいのではということですが、私もそれについて理解出来ますが何故10%なのかという問題は未だ残ったままです。
更に言えば、上述の通り東証・大証合併については独禁法上の制約が当然あると私は捉えていますが、仮になされた場合は独禁法に対するものとして当該10%ルールは当然廃止すべきではないかということさえ私は考えています。
この10%という数字は精緻なコストを割って算出されたものでもないでしょうから「何故10%なのか」「20%ではいけないのか」といったことは問われるべきですし、更には「ある意味独禁法上の違反とも思われるような合併が行われた場合、何故その10%は維持されなければならないのか」といったことについても、私は法的な問題として横たわっているのではないかというように思っています。】

要するに上記記事でも指摘されている通り今東証・大証統合に向けて金融庁がなすべきは第一にPTSの発展により市場間競争を促進し、投資家の利益の増大に資することではないかと私は認識しており、欧米では当たり前のことが何故日本ではこれ程までに時代遅れなのかというふうに何時もながらに考えさせられる次第です(下記参照:2010年12月27日北尾吉孝日記『日本税制の諸問題』より抜粋)。

【所謂「最良執行(どの市場で取引すれば最も有利かをシステムが瞬時に判断し、最も有利な市場を選んで自動的に売買を執行すること)」についても一言述べますと、日本では2005年に最良執行義務が導入され、金融商品取引法では「第40条の2」に規定が設けられていますが、実際には未だに最良執行というものは日本に定着してはいません。
このような状況は正に異様と言う他なく、投資家保護の観点に立つならば、最良執行を行わなくても許される現在の仕組みは直ちに改変されなくてはなりません。
例えば米国では最良執行を行わなければ投資家保護の観点から当局に罰せられるのが当たり前で、なぜ日本では未だ持って投資家が不利益を被るような状況になっているのか私には理解出来ません。
これについても即刻改めるべき問題であり、投資家がより有利な売買執行を行えるマーケットで取引出来るようにすることを証券会社の責務として負わせるべきではないかと私は思っています。】





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