北尾吉孝日記

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「現代の資本主義は今後どうなっていくのか、このままではもたないのではないか」というような問題意識を持って、私の意見を聞きに来るジャーナリストが最近結構います。現代の資本主義をグローバル資本主義と呼ぶ人もいますが、彼らはそのグローバル資本主義が幾つかの大きな欠陥を内在しているという見方をして、故にある種の規制を世界的な合意の下で加える方向に持って行かないとグローバル資本主義は行き詰まるのではないかと考えています。そのようなことを論じる米国の学者が最近出てきていますし、あるいは日本の学者もそれを受けたような形で同様に論じるようになってきています。
現在のような開放経済、即ち言い方を変えればグローバル経済体制の中で世界を股にかけたダイナミズムが作用し始めると一国の経済政策だけでは様々な弊害をコントロール出来なくなるということは事実であると私は思います。例えば今回の経済危機を受けて初めて日米欧に新興国を加えたG20会議が開催されましたが、もはや8カ国の経済大国によるG8会議では現代の経済問題を解決することはある意味で不可能であるという認識が根底にあると言えると思います。

このグローバル経済体制下における問題は幾つか挙げられていますが、例えば日本や米国における所得格差が10、20年前と比較すると非常に大きくなっています。日本において年収200万円以下の人の数が1000万人を超えたとか、この数十年間で米国において富裕層の上位1%が所得全体に占める割合がかつての倍以上(現在は17%台)になっていることは、明らかに一部の富裕層と多くの貧困層を生み出しているということに他なりません。なぜそのようなことが起こるのかについては、例えば近代経済学にある「自由貿易が貫徹されていれば生産要素価格は均等化される」という法則から考えることが出来ます。即ち生産要素価格は安い方に鞘寄せされた形で均等化されていく可能性があるということです。
例えば日中の人件費を比べると大きな格差がありますので、日本と中国で同じモノを作れば、輸送費を考慮したとしても生産コストで大幅な差がついていますので、国際競争力上の軍配は当然ながら中国に上がります。そのような状況になりますと、日本で生産するのではなく当然輸入しますので、日本の雇用は失われていきます。このような状況が進行する中で企業は生産拠点を中国に移転しますので、日本の雇用自体が著しく減少していきます。
ましてや小泉政権下での労働者派遣法の改正により、正規雇用を大幅に減らし、アルバイトや派遣、契約社員などいわゆる非正規雇用を大幅に増やしてきましたので、現在のような経済危機において正規雇用以外の労働者は余計にクビを切られます。それは企業業績をV字型に回復させるという意味では効果がありますが、マクロ的に雇用を見た場合、日本では完全失業率が5.0%と悪化の一途を辿るという状況になっています。またジニ係数を見ても明らかに格差が拡大していると思われ、日本の高度経済成長時代に皆が言っていた所謂「ミドルクラス」が消滅するような状況になっています。この富裕層と貧困層という二極化を長い目で見れば、その拡大が日本社会の崩壊を齎すのではないかと、私は非常に心配しております。

現在のグローバル経済体制下における他の問題を挙げますと、例えばグローバル経済化が過剰に進行することで、リスクがどの程度あるのか誰にも判別不可能なところまで証券化されレバレッジを掛けられた金融商品が世界中の投資家に保有されるという問題があります。そして、ある日突然その金融商品の買い手がいなくなり、売り手のみという状況になり、価格が暴落し世界はある意味パニック状況に陥る、という世界経済全体の不安定性を生み出しています。

あるいはグローバル経済の進展により国際的な分業体制が形成されると人件費の安い国が「世界の工場」化して行き、そこで人件費が一定のレベルに達するまでその国は加工貿易という形で経済成長率を上げていくことになります。従って、中国、インド、ベトナム等の経済成長率は非常に高くなります。一方で成熟した先進国の経済成長率はあまり高くはなりません。例えば、日本は「いざなぎ景気」より長期に亘り良い時期が続いたと言われていますが、経済成長率で見ますとデフレから脱却できない状況がバブル崩壊以来ずっと続いてきています。このような日本の状況は成熟した先進国の中でもある意味特殊であり、それは中国をはじめとする新興国が、日本が長い間果たしてきた「世界の工場」としての生産基地の役割を奪っていく中で起こっていることでもあります。従って、日本は脱工業化社会に向けて、新たな産業を形成していかなければなりませんが、中々それを国のビジョン・政策として一つの方向性に導けるような政権政党や力強い指導力を発揮する政治家がいないというのが現状であります。その他の成熟した先進国も同様に、新産業の形成を推進しない限り、日本のような状況に陥ると思われます。

また例えば、中東産油国は2004年~2008年で石油資源や天然ガス等の資源により累積収入で2兆ドル以上もの外貨を獲得しました。そのような状況というのは中国やインドに続く形でBRICsやVISTAが世界同時的に経済発展していけば、大変な実需と投機的需要を合わせてエネルギー・食料価格の高騰を生み出すと考えられます。その結果、食料難に喘ぐアフリカ諸国は食料価格の高騰により益々食料が不足し、エネルギーも十分に買うことが出来ない状況になっていきます。これはある意味で活力ある持続的高度成長を遂げることに成功した国はエネルギーや食料において益々大きなパイを占めてくることになりますし、一方で蚊帳の外に置かれたアフリカやアジアの一部の国および国民は益々困窮を極めるということになります。従って、このような状況において国家間の格差は更に拡大していくことになり、これもグローバル経済体制下における一つの問題と考えられると思っています。

このように問題を挙げ出せばキリがありませんが、最終的な問題は米国のドルの信認にあると思っています。一国の通貨の通貨価値を安定させることが各国中央銀行の役目ですが、ドルの信認を安定させ世界全体の資金量を調整する需給調節機能を持った存在がなければ、金融政策を採っていくことは出来ません。ドルの不信認は世界経済に大きな混乱を齎すことになりますので、今後はそのような不安定性を生み出さないような世界経済体制を形成していかなくてはならないと思っています。

グローバル資本主義における諸問題については私の大きな関心事でもあり、今回のブログのみで終えることなく、今後も色々な形で取り上げていきたいと思っています。




 

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