北尾吉孝日記

『医学教育の在り方』

2009年9月11日 17:12
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医師不足対策として国は医学部の総入学定員数を拡充する方針を打ち出していますが、そもそもの問題として医学教育の在り方や入学試験の方式自体に大きな問題があると私は思っています。人体生命に関わることですので、医学部への入学が難関であることは理解出来ないことではありませんが、例えば外科医について言えば、殆ど腕の技術の世界であって、カテーテルを通すことは試験勉強がどれだけ出来るのか、あるいは知識がどれだけ多いのかとは殆ど関係ありません。外科医の技術とは丁度匠が0.01ミリの誤差も無いようなものを作り上げる技術とある意味同じものであります。
また外科医による病状の診断と言う知的な部分における判断力の必要性は、医療機械や診断薬の進歩と共に減って来ています。例えばPET(Positron Emission Tomography)、PET/CT(Positron Emission Tomography/Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、更には三次元CTなど現代の医療機械は非常に進歩しています。従って、診断薬やそのような医療機械を通じて患者の病状は診断されますので、後は手術の能力が外科医には求められることになります。このような世界における技術者としての外科医を養成するためには、英国社数理に重点を置いたペーパー試験の結果の優劣だけではなく、なんらかの実技試験も加えて手先の器用な人間をより医学部に入学させるべきであると私は思っています。

日本の医療において私が非常に大きな問題として捉えていることは、医療が余りにも細分化され過ぎていると言うことです。これは日本の医療だけではなく世界的にも見られることで、例えば「私は肺の専門医ですので他のことは分かりません」と言う様に全体的な診断を下す医師がいないと言う実情があります。この問題に関して、例えば英国ではまずは一般医(General Practitioner)に診てもらい、必要に応じて次の専門医の所に行って更に高次の医療を受けると言う医療体制が敷かれています。このような仕組みの中でそれぞれの部位の手術に手慣れた専門医が手術をしてくれると言うような体制を敷くべきではないかと私は考えています。
内視鏡により癌を切除することにおける世界的権威には、例えば昭和大学の工藤進英教授やオリンパス製コロノスコープ(大腸鏡)によるポリペクトミー(開腹手術無しでの大腸ポリープ切除術)に世界で初めて成功した新谷弘実教授などの日本人がいますが、彼らはまさに数々の臨床を行いながらゴールデンハンドを培って来ているわけです。つまり様々な知識を詰め込み過ぎても技術者としての能力が欠落していれば、外科医としては全く役に立たないと言うことです。従って、そのような意味でも私は医学教育の在り方や入学試験の方式を根本的に変えなければならないと思っています。そしてその在り方としては、まずは英国のように一般医と専門医を分断し、一般医を目指す医学生に対しては様々な病人を診ることや医療機械を通じて取得した色々なデータを分析して的確に判断するトレーニングを行い、また専門医を目指す医学生に対しては詰め込み授業を行わずに、例えば大腸の専門医になりたい人には大腸の模型を使ってポリープを切る練習を徹底的に行うと言うような形こそが望ましいと考えています。

更に言えば、私は医学教育に限らず、日本の教育体制の在り方自体に大きな疑問を感じています。義務教育において全く興味の無い科目を勉強させ、それが出来なければ大学に入れないと言うやり方は非常にナンセンスです。日本においてもまずは現在の「入学に難しく卒業に易しく」と言う方式を改めて、例えば大学入試は幾つかのタイトルでの小論文と高校での内申書で行い、学科試験は全て廃止して基本的に入学は比較的容易にさせ、その代わりに卒業を難しくすると言う形にすれば良いと私は考えています。
それに加えて中高での教育では英国社数理の5教科に重点を置いた現行方式を廃止し、個々人の能力を徹底的に引き出して更に磨きを掛けていくことに重点を置いた教育内容に改めるべきであると思っています。語学が得意な人は朝から晩まで語学を勉強すれば良いし、数学が得意な人は朝から晩まで数学を勉強すれば良いし、体操が得意な人は朝から晩まで体操をすれば良い。それこそがまさに今の中国における教育の形であり、またユダヤ人の教育についても昔から英才教育であります。彼らは個々人の才能を早く見極めて、その才能に特化した教育を徹底的に行い、様々な分野における天才を養成しています。先ほど申し上げた通り、医学の世界において全ての医師が英国社数理で良い点数を取る必要はありませんし、その5教科で良い点数を取る医学生が必ずしも腕の良い外科医になるとは限りません。このように医学における問題点を考えてみますと、それは日本の教育における問題点を反映したものとなっており、医療問題を始めとした様々な社会問題は日本の教育の根本が間違っていることにより生み出されている側面があるのではないかと私は考えています。




 

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