北尾吉孝日記

この記事をシェアする

「リーマン・ショックから1年」と言うテーマで、昨今様々な観点から盛んに論議が行われています。リーマン・ブラザーズと言う会社が大きなインベストメント・バンカーの一つであったことは間違いなく、その破綻劇が象徴的な出来事であったことも事実ですが、世界全体の名目GDPの総計、即ち実体経済と世界全体の金融資産残高、即ち金融経済が2007年には100:359と約3.6倍にまで金融経済が膨張した「投機化した世界」においては(1980‐100:109)、一度金融バブルが弾けるとどの会社であろうとも潰れる可能性があったわけです。その中でリーマン・ブラザーズは救済されず、ベア・スターンズやメリルリンチは買収され、ゴールドマン・サックスやモルガンスタンレーは国に助けられました。なぜあの時にディシジョンメイキングとしてリーマン・ブラザーズだけを助けなかったのか、もしリーマン・ブラザーズも救済されていたらこれほどまでに「気」(マインド)が落ち込むことは無く、世界経済に甚大な影響を与えることは無かったのではないか-リーマン・ブラザーズの破綻とは起こるべくして起こったことではありますが、象徴的な現象でありましたので、あの時点で米国政府が救済の方針を示し、人々がそのイメージを持つことが出来たら、その後の世界は違った形になっていたかもしれないとも思っています。しかしながら現実に起こった事は大手インベストメント・バンカーの中でリーマン・ブラザーズだけが潰され、象徴的なスケープゴートのような形にされたと言うことであり、そのやり方によって生じた影響はプラスよりもマイナスの方が大きかったのではないかと私は考えています。さらにどの会社についても救済しないなら全てそうすべきで、その意味で不公平感は拭えない部分があるとも思っています。

リーマン・ブラザーズを救済しなかったことに正当性を与えるとすれば、ある意味で物事を大きくして警鐘を鳴らすことに繋がったということしか思いつきません。つまり、巨額の損失を世界各国に齎した元凶であるインベストメント・バンカーはもう少ししっかりと規制・管理して行かなくてはならないと言うような世論の状況に持って行くために、リーマン・ブラザーズをスケープゴートとすることの意味はあったのかもしれないと言うことです。今回の金融危機に関して言えば、実体経済を遙かに上回る金融経済が出来上がり、米国における住宅を含めたモノの消費の中で吸収されて行くと言う仕組み自体に根本的な問題があったと私は思っています。即ちオイル輸出国も含めた世界の所謂「貿易黒字国」のお金が米国に還流し、その還流したお金を吸収する方法として、信用力のない多くの人々に住宅を購入させ、その債権を証券化し、そうした証券を組み入れたCDO(Collateralized Debt Obligation)等の新しい金融プロダクトを作り、そしてまたそれらを世界中の金融機関が買うと言う形になって行きました。しかし、米国は還流したお金を吸収することは一時的に出来たけれども米国民が永久に過度な消費を続けることは出来るはずもなく、土地の値段や家の値段に過熱感が出て来ると政策当局は当然利上げを行い、結果としてバブルが崩壊すると言うことが起こったわけです。ですから今回の金融危機は起こるべくして起こった事ではありますが、規制当局はそのようなことが二度と起こらないようにするためにどこかをスケープゴートにする必要性があると認識したのかもしれません。従って、こうした見方が「なぜリーマンだけ?」と言う質問に対して最も説得力のある回答になるのではないかと私は思っています。




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.