北尾吉孝日記

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前のブログでも書きましたが、先日15年ぶりに1ドル=83円台をつけ、その勢い足るや更なる円高へと向かいそうな状況になっています。そのような中で政府と日銀は今更一体何をしようというのか、正に遅きに失するという感じがしています。また、野田財務相の「重大な関心をもって注視しています」という口先介入について言えば、「注視」しても円高を全く阻止することは出来ないということです。
輸出こそ日本経済のデフレ脱却へのシナリオの唯一の処方箋であったわけですが、このような環境下において、輸出は壊滅的な打撃を受けるような状況になってきました。私はいよいよ日本経済にとっての最後の空洞化に向けた動きになってくるのではないかと心配しています。即ち、最後の空洞化というのは、日本の主たる製造業が海外に移転し、日本には存在しなくなって行くという状況を意味します。
勿論、歴史を見れば、これまでも多くの企業が日本を出て行くということはありました。例えば、あのスミソニアン体制への移行時には、もはや日本企業が潰れるかの如く言われ、そして、多くの日本企業は海外に製造拠点や販売拠点を設けるというようなことがありました。そのようなことも事実ではありますが、今度はこれまでの状況とは違っています。例えば、自動車や家電、あるいは素材と言えば、大手メーカーを取り巻く数多くの中小下請企業群というものが日本には未だ存在していますが、それらももはや生き残ることが出来ない状況に向かっていっているというように私は捉えています。

なぜそのようなことが起こっているのかについて、まずは簡単な経済原理を述べますと、例えば、中国について言えば、為替は実質統制されており、輸出入をコントロール出来ます。片一方の日本はと言えば、どんどん円高になっているという状況で、短期的にこの円高を食い止める打手が非常に限られています。従って、国際競争力は失われて行くということになりますので、多くの大企業で現地生産に切り替えて行かざるを得ないということです。
ところが問題はその現地生産について、例えば中国であれば、そこには既に多くの同業の大企業が製造拠点としてだけではなく、最大の販売市場として位置付け、世界中から押し寄せてきている上、中国ブランドも多く存在し、高い競争力を持つに至っているという状況です。所謂「ブーメラン効果」が働くようになって、今度は日本に製品を輸出して行くというように動いてきています。従って、昨今の環境下においては、日本の製造業は余程技術的優位性がなければ益々窮地に追い込まれて行くということになると思われます。

円高について更に言えば、嘗ては中国のような存在がなかったということだけではなく、この急激な円高に対処するために金利というものが為替の調節作用として重要な働きを持っていました。ところが現在はゼロ金利ですので金利政策というものを全く採ることが出来ないので、日銀がこれから採るであろうものは所謂量的緩和以外にないということがあります。

一昔前には協調介入という形において、例えば、米ドルを強くし、円を安くするのであれば、日米両国政府が足並みを揃えドル買い・円売りで動くというようなことがなされてきましたが、現在は各国政府が黙っているという状況です。
米国も昨今の経済情勢を非常に深刻に捉え出しており、再び二番底に陥るかもしれないということを懸念しています。即ち、7月も中古住宅販売戸数が15年ぶりの低水準、新築住宅販売件数も1963年の統計開始以来の低水準というようなことで、住宅価額が大幅に下落して行く状況にあり、先月ブログに書いた通り、一時的に隠れていた300~400兆円位あると言われるサブプライムローン関係の不良債権がまたぞろ顕在化してくるという悪夢を描いているということです。ですから、米国としてはドル安による輸出の増加に期待しています。
また、ユーロ圏について言えば、ユーロという通貨は非常に大きなダメージを受けましたが、そのお蔭でドイツを中心に輸出が伸びている国も沢山あり、寧ろ経済は良くなっているというような状況です。
そして、中国について言えば、一昨日中国からのお客様と話をしていたところ、やはり不動産のミニバブルについて若干の心配をしていました。しかし、先月ブログに書いた通り、それは嘗ての日本のような大きなバブルの崩壊というものを想定してのことではなく、それ程大きな心配をしているという具合ではなかったように思います。
ただ、特に米国について、国内の消費需要が低迷しているということは事実で、上述した不良債権化問題が顕在化するようなことがあれば消費は更に落ちてくる可能性があり、中国からの輸出も難しい状況になって行くこともあり得るわけです。従って、中国はそのようなことを危惧して再び為替操作に入ったということで、結局あの弾力化以来、人民元は0.4%程度しか上昇しておらず、今現在、中国は自国の利益だけを考えて巧みに経済を運営しているというような状況です。
上述のように各国が自国の利益だけを考える状況では誰も日本の円高など気に掛けませんので、日本は各国政府との協調介入について協議することすら出来ないというのが実情です。従って、多少ドルを買い支えて円を売ってみたところで、「何だ、その程度か」と投機家は判断し、余計にアグレッシブに円を買ってくる可能性があり、下手をすれば70円台に突入して行くかもしれないというように私は思っています。

現在の経済情勢がどのように齎されたのかについて考えてみますと、「リーマンショック」後の回復に向けた一つの大きな動きというものは世界各国が世界大恐慌をなんとしても阻止しようと各国の協調の中で起こりました。ところが、夫々の国が回復過程に入ったというように意識されるに至って、今度は財政の健全化、あるいはインフレの芽を摘むということを我先にと着手し始めました。このことに対する懸念は6月に掲載したブログで述べた通りで、私は未だ景気抑制的な金融・財政政策は早過ぎたというように思っています。
それに加え、夫々の国が夫々の状況に応じて世界各国と十分に協調しながら段階的に財政の引き締めや金利の引き上げを実施して行くべきであったのに、夫々が勝手に動いてしまったという側面もあります。
更に言えば、所謂「PIIGS問題」と言われているギリシャに端を発した問題ですが、サブプライムローン問題におけるCDO(Collateralized Debt Obligation)のように、サブプライムローンが世界の金融機関にどれだけ組み込まれているのかということと同じような現象(つまりPIIGSの国債をどれぐらいポートフォリオに組み入れているか)が起こってきたわけで、欧米の様々な金融機関が軒並み大きなダメージを受けました
そして、そのような状況において、取り分け欧州が財政健全化ということを声高に叫び始め、日本を例外扱いしながらも、G20トロント・サミットの首脳宣言に「先進国の2013年までの財政赤字の半減目標を明記」するというように、財政健全化というものへの方向性を確立させてきました。
このような中で世界経済は再び二番底を模索するような状況になってきたというわけです。

米国の上述した状況に対する対応は非常に早く、例えば、8月のFOMCでは「満期を迎えるMBS(Mortgage Backed Securities)の元本を長期国債に再投資する方針」を決める等、既に量的緩和策を採り始めており、流石にバーナンキは打つ手が早いという印象を受けています。また、世界各国との協調路線を今一度敷いて行くべく、その動きも活発化させ始めているという部分もあります。
その一方で日本はと言えば、政府も日銀も無為無策という中で、大変厳しい状況に追い込まれているわけです。上述した通り、遅過ぎではありますが、まずは量的緩和を徹底的に行って、日銀が国債を買って行くということをしなければならないというように私は考えています。
このブログで何度も述べている通り、現下の危機的状況において、消費税増税というようなことは、一国の総理がこのタイミングで決して言うべきことではないと私は思います。なぜなら基本的に税負担を増やすということは、国民の購買力を減じる方向でしかありませんので、現在のようにデフレギャップが非常に大きく存在している以上、消費税導入により財政健全化を図るというようなことを考えるステージではないからです。

それにしても、菅首相の経済に対する知識の無さ、あるいは野田財務相の経済オンチぶりには呆れるものがありますが、やはり財務省、日銀を含めて学者や政治家では、このような難局を打開して行くことは出来ないというように私は思います。やはり相場の世界に生き、肌感覚で直観力を養ってきた人間が、政治の世界にアドバイスをし、そしてまた実質的にそういうものを臨機応変に動かして行くというようなことが必要なのであろうというように思います。
米国を見ますと、歴代財務長官についてはGoldman Sachs出身者のように金融界から非常に多くの人材が輩出されています。また現FRB議長のバーナンキについては学者ではありましたが、以前ブログで説明した通り、正にあの大恐慌を研究テーマにし、如何にそれを防ぐかということに尽力していた学者です。それに加えて、バブル崩壊後、あらゆる失敗をやり続けた日本という国が反面教師としてあったということもあり、彼は迅速な処置を今の所採ることが出来ているということです。





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  1. 日本の危機に、権力闘争している無能な政府には、あきれるばかりです。

    世界でもトップレベルの法人税の高さの日本は、更に円高ではまともに世界とは戦えません。

    資源のない日本は、優れた製品を世界に売るしかないのに・・・。

    日本で最先端のロボット産業も、「No.2じゃダメなんですか?」発言で海外と手を組むことを決めたそうです。

    北欧の方が、日本政府よりもよっぽど優遇してくれるからです。

    こうして、空洞化は避けられなくなるでしょう。

    企業は生き残るための選択に迫られているように思います。



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