北尾吉孝日記

この記事をシェアする

先週末に『昨今のドル独歩安と円の国際化の可能性』と題したブログを書きましたが、今回はこのテーマについて更に掘り下げてみたいと思います。

米国ドルの基軸通貨の地位が段々と脅かされているということを考える上で、一昨日の日本経済新聞「ドル安・円高の底流(大機小機)」という記事は大変参考になると思います。
上記記事には「ドルの世界での実力を示す実効為替レートが歴史的な安値圏にある。日経通貨インデックス(2005年=100)でみた実効レートは22日時点で90.374。02年2月の最高値119.47から30ポイント近く低下し、金融危機時の08年5月につけた最安値87.315に近づいている」という箇所がありますが、27日時点では90.0と更に低下して行っているというのが現況です。
要するに今起こっていることは何かと言えば、米国がドルを本気で防衛しようという意思も見せない中でドル独歩安が続き、その信認が着実に低下して、ドルの弱体化が進んできているということです。
そしてまたユーロも所謂「PIIGS問題」で明らかになったように、単一通貨でも財政主体が多数存在するという本質的な問題を抱え、基軸通貨足り得ないという判断がなされていますし、あるいは中国も様々な問題を抱えており、直ちに人民元がドルに代わる基軸通貨となることが出来るというような立場ではありません。
そのような意味で私は円という通貨を国際化するために絶好のチャンスが訪れてきていると捉えており、日本政府は機を逸することなく、今こそ円の国際化を強力に推進して行かなければならないと思っているわけです。

ただ、昨今のドル独歩安が一過性のものではなく、「基軸通貨ドルの長期衰退の始まりを示す構造変化」であるということは上述したブログでも示しましたが、だからと言って基軸通貨としてのドルの地位はそう簡単に直ちに揺らぐものでもないということは確りと認識する必要があるでしょう。
なぜ基軸通貨というものが上述したような様相を呈するのかと言えば、上記日経新聞の記事においても幾つか挙げられている通り、「基軸通貨の変更は、各国準備資産の組み替えや流通・決済通貨の量的調整を伴うため、ゆっくりと、静かに進む」ということや、あるいは「基軸通貨には、世界経済のけん引力以外に軍事的優位、取引の自由度、市場の開放・透明性などいくつもの条件が必要」であるということ等々、様々な要因がその地位の形成に影響しているからです。

また一方で、米国の経済状況から長期に亘ってドルが落ち込んで行くのかを見てみますと、例えば今月18日に発表された9月の米国鉱工業生産指数は93.2と前月比0.2%減で(市場予想:前月比0.2%増)、2009年6月以来、1年3ヶ月ぶりの前月比マイナスになっています(※1)。
つまり米国経済の減速は明瞭になっており、経済回復が勢いを取り戻す見通しは未だ広がっていないということです。
そのような状況下、国際通貨基金(IMF)が今月発表した最新の世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)を見ますと、今年の米国の実質経済成長率は2.6%と従来予想から0.7%も下方修正され、2.8%に上方修正(従来予想:2.4%)された日本を恐らく下回ることが予想されていますし、来年についても米国のそれは2.3%(従来予想:2.9%)に減速する可能性があるとされています。
即ち、米国経済もドルの長期衰退という為替の動きを食い止めることが出来るような状況にはなっておらず、このことが世界各国に様々な影響を及ぼして行くことになると私は見ています。

上述したようにドルの衰退というものが長期に亘って続いて行くと考えるのであれば、それは即ち円が世界中からどんどん買われて行くという現象が一過性のものではないということを意味しています。
従って、日本政府はこのように円が世界中から買われる状況を上手く利用し、積極的に円の国際化を進めて行くべきで、諸外国に国際的なリザーブカレンシーとして円を出来るだけ沢山保有してもらえるような体制を築いて行くことが非常に重要であると私は思っています。
何故そのように主張するのかと言えば、今年8月に『昨今の日本金融経済情勢と金融システムリスク』というタイトルのブログで指摘した、日本国債の約95%が日本国内で消化されているということのある意味でのリスクを軽減出来ると考えているからです。
上記リスクとは、1%を割って推移する長期金利は下がる所まで下がれば後は債券価格は暴落するしかないという状況において、誰かが先鞭を着けて国債を売り出した場合に大暴落して行く可能性を指しており、仮にそうなった場合、国債漬けになっている金融機関、延いては日本の金融システムが再び崩壊して行く危険性があるということを示しています。
故に上記観点から考えてみても、各国政府に円建て国債を保有して貰うことによって円の国際化を進めて行くことには、大変な意義があると言えましょう。
従って、80年代に経験した円の国際化失敗を繰り返さぬよう、日本政府は本テーマを最優先課題の一つとして戦略的に取り組んで行くべきであると私は考えています。

参考
※1:UPDATE2:9月米鉱工業生産指数は‐0.2%と予想外に減少、追加緩和観測強まる




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.