北尾吉孝日記

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米国経済の行方を考えるに当たっては、FRBが今月3日に踏み切ったQE2(Quantitative Easing2:量的緩和第二弾)が実体経済に対してどのような影響を及ぼして行くのかということがその行方を左右する重要な要素の一つとなってきますが、同時に米国がQE3に踏み切ることが非常に難しい環境下にあるということも考慮しなくてはなりません。
米国の現況について様々な経済指標を見てみますと月々で改善・悪化を繰り返すというような調子で方向感が定まってはおらず、傾向として本当に安心出来る状況なのかという意味で言えば、未だ安心出来ない状況であると私は認識しています。
欧州経済について言えば、このブログで「PIIGS問題」に関する指摘を何度もしてきましたが、現在「アイルランド問題」の解決に取り組む一方で今度はスペインやポルトガルの問題が再び表面化してきており、ギリシャに端を発した大問題は最終的にはPIIGS全てに及んで行くことになると考えています。
そのような中でポイントとなるのはドイツがどこまで問題国を守り切ることが出来るのかということで、「PIIGS問題」とは正にユーロの在り方そのものを問うているわけです。
つまり仮にドイツがユーロ離脱を肯定的に捉え出すとなれば、それはユーロの終焉、そして欧州統合の理想が無に帰すということを意味しており、ドイツの選挙民がユーロというものを如何に考えるのということにこの問題は尽きると思います。
従って、「PIIGS問題」がそう簡単には片付かない相当根深い問題であるということを考えますと、欧州経済は今後も厳しい状況が続いて行くという認識を持つべきではないかと私は考えています。
このように欧米の経済状況が好転しない中、中国経済については未だ確りしていますが、その中国も預金準備率の引き上げに動き出すなど出口戦略を考え始めているわけで(※1)、世界全体の経済状況を見ますと基本的にどの国も厳しく、このような環境下では米国経済が勢い良く回復して行くというようには中々考え難いということです。
また為替の面で言えば、ついこの間までは「ドル独歩安」の状況でしたが、上述したように更なるQEに踏み切ることが非常に難しくなっていることに加え「北朝鮮砲撃事件」の影響もあって、対円で見てもドルは強くなってきており、以前とは状況が少し変わってきています。
そうなると今度は米国の輸出がどうなるのかが一つの焦点となりますが、仮に輸出が落ち込んで行くということになれば、米国経済全体の回復力というものは再び弱くなってしまうわけで、今米国経済は袋小路に入っているような状況であると言えます。

日本の状況について言えば、FRBに準ずるような形で日本銀行はETFやREIT等々の金融資産を買い入れるとしたわけですが(※2)、この程度の規模(※3)では屁の突っ張りにもならないような効果しか齎さないと思われます。
ただ対ドルでは上記要因と共に、米国長期金利が上がり始めたことも幸いして日米金利差により円高基調が少し和らいできていますので、恐らく85円程度まで行くと思われますし、場合によっては86円台に突入する可能性も十分あると私は考えています。
このような中で日本は輸出としてはこの間かなりの円高対策を施してきていることから、またぞろ米、中、欧の経済の落ち込みがなければ大幅に回復して行くというようになるでしょう。
それ故、これまで日本経済のリカバリーについては米国の「ドル安誘導」に振り回され、輸出主体で実現することが出来なかったわけですが、その状況にポジティブな変化が齎されると考えられます。
そのような意味で日本経済は一息つけるような感はありますが、世界各国が相互依存している中で輸出が先に確りして貰わないことにはどうにもならないという状況は常にあり、日本にとっては特に米国と中国が元気でなければ非常に困るというわけです。
従って、日本についても米国同様これから景気がどんどん良くなって行くというようにも思えませんし、デフレからの脱却が出来るというような状況でもないわけで、今後も引き続き難しい舵取りが求められて行くということです。

最後に日米が共に抱えている問題として、両国の財政赤字が莫大な額に膨れ上がって行っているということに少し触れたいと思います。
これについてはどのようにして減じて行くのかを早急に検討しなくてはなりませんが、日本について述べるならば、私は最早消費税増税を真剣に考える以外に効果的な方法は無いというような認識を持っています。
この問題に関する日本政府の対応はと言えば、例えば先月のブログでも指摘したキャピタルゲイン課税について、これまでマーケットが少し悪いということもあり10%にしていたものを2012年から20%に戻そうという動きを見せる等々(※4)、改正対象として相応しくない税制ばかりを変更しようとするという有様です。
仮に証券優遇税制が廃止されるとなれば、株式市場は当然ダメージを被ることになりますが、日本は米国ほど資産増が消費増に結び付くような構図にはなってはいないものの結局逆資産効果が生じてしまうわけです。
そしてマーケット全体がまたぞろ死んだような状況になって行けば年金の問題が顕在化してくるわけで、例えば企業年金について言えば、企業が負担して行くという形にならざるを得ない中で企業業績の悪化→税収の減少というようなことにも繋がりかねないということです。
また欧米と比して高水準な法人税(※5)の引き下げ議論も進められていますが(※6)、政府が「税率下げに伴う税収減を容認」して行くとするならば、日本の財政状況が一体どうなるのかということを考えなくてはなりません。
その一方で上記減税の財源として「石油化学製品の原料ナフサの免税措置の縮小(4000億~1兆8千億円程度)」も検討されていますが(※7)、私は現環境下で課税強化し得るのはたばこ税位のもので、それ以外のものについて今はそのようなタイミングではないと認識しています。
更には子ども手当の来年度以降の継続実施等々(※8)、民主党政権が現路線を突き進んで行くとなれば日本の財政状況は今後も悪化の一途を辿るということは間違いないわけで、そうなると日本国債の約95%が日本国民により消化されるというこれまで続いてきた状況も、行き着くところまで行けば限界に達してしまうことになるでしょう。
その限界というものは個人金融資産との関係にあり、個人金融資産とバランスしなくなった時に日本の円というものが暴落する可能性が出てくるわけで、そのような意味で日本は来年あたりから財政というものを真剣に考えなくてはなりません。
日本の財政については上述したように最早危機的水準に到達しても可笑しくないような状況下にあると私は認識していますし、米国の財政についても先日ブログで指摘した通り危機的状況にあるわけです。
上述したように米国は更なるQEに踏み切ることが非常に難しくなっており、結局は財政政策に拠って行くしかないわけですが、危機的な財政状況下での施策の実効性については未知数であり、米国オバマ政権は先般の選挙での大敗北もあり議会運営も難しく大変な難題に直面しているというように私は考えています。

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参考
※1:人民元預金準備率再引上げへの反応
※2:「資産買入等の基金の運営として行う指数連動型上場投資信託受益権等買入等基本要領」の制定等について
※3:買入残高および貸付残高の上限
※4:証券優遇税制めぐり火花 財務省対金融庁 日本版ISA拡充が焦点
※5:法人所得課税の実効税率の国際比較
※6:法人税を実質減税 政府税調が検討:日本経済新聞
※7:法人税率下げ財源、赤字控除枠半減で捻出
※8:子ども手当、現金のみ 来年度給付で政府・民主調整




 

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