北尾吉孝日記

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「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」に「WSJ日本版の選んだ2010年注目ニュース」と題された特集記事があります。
人の印象というものは大概終わりに近い程、即ち12月末に近くなる程残り易くなるわけで、早い話が1月や2月のニュースは殆ど忘れて行くということです。
あるいは最早方が付いた問題というのは忘れて行くということがある一方で、今年中に方が付かずに来年以降も残って行くような問題は人の印象に残り易いというような側面があります。
そのような問題として、例えば10年を経ていよいよ生き残るかどうかというターニングポイントを迎えたという意味では通貨ユーロ、あるいは通貨ユーロというよりも単一通貨制度を持った経済連合体と言うべきものが一体どうなるのかという問題が一つ挙げられると思います。

上記特集記事においてトップ10に残っていないことに多少違和感を覚えますが、私に言わせれば、最も注目すべき大問題は「リーマンショック」であると認識しています。
「北尾さん、リーマンショックは2008年の出来事ですから2010年の注目ニュースに載らなくて当たり前ではないですか」というように思う方が大多数ではないかと思いますが、現在に至るまで世界は2008年に起きたこの問題をずっと引きずり続けているという意味で私は申し上げているのです。
「リーマンショック」について世界は最早忘れ掛かっているようにも見えますが、私の頭の中には常にあるもので未だ問題含みであると思っています。
例えば米国の不動産価格は潜在的に大きな問題として未だ残っていますし、あるいは今ギリシャに端を発した「PIIGS問題」、即ち「ソブリン危機」(上記特集記事第2位)が起こっていますが、英国にしてもスペインにしても本を正せば不動産問題であるということを確りと認識する必要があると思います。
また「金融規制改革法とウォール街バッシング」(上記特集記事第6位)と言えば、その実施により全てが解決したかのような感じも受けますが、「リーマンショック」が解決していないからこそ「米中間選挙」(上記特集記事第10位)でオバマ政権が大敗北を喫するというわけです。
オバマ政権は莫大な資金をつぎ込んで米国財政を大赤字にしたわけですが、それにも拘らず住宅関連指標等が確固たるトレンドにリカバーしないという中で、米国の景気が思うように良くなって行かないというのが現状です。
更には「トヨタリコール」(上記特集記事第7位)についても何か全て終わったかのような空気が世を占めているようにも感じますが、以前ブログで指摘した通り、トヨタにしても米国における自動車向け融資の不良債権問題は未だ解決出来ていないと思われ、世間で捉えられているようにはトヨタの状況が良くなったというように私は考えていません。
あるいは「通貨安競争と進む円高」(上記特集記事第3位)というものについても通貨安競争が何故起きているのかと言えば、経済が一向に回復しない米国がQE(Quantitative Easing:量的緩和)を実施して金利下げ、そして自国通貨安に誘導して輸出を増加させるというような問題なのです。
つまり今世界は「リーマンショック」から出現してきた副次的問題に注目しているだけで、私に言わせれば、諸々の問題の根底には常にこの根本的問題があり、それが世界全体に閉塞感というようなものをずっと投げ掛けたままにしているというように思うわけです。
その意味で言えば、例えば以前ブログでも指摘した「GM再上場」(上記特集記事第9位)というものにも象徴されていると思いますが、「リーマンショック」というものは2年前の古い問題でもう終わった話というような世界ではなく、今後も頭に留めて行かなければならない最も重要な問題であるということです。
従って、私の頭の中では「リーマンショック」、もっと言えばサブプライムローンという低所得者層に対する高リスクの変動金利型住宅ローンが証券化されて、そうした証券を組み入れたCDO(Collateralized Debt Obligation)等の新しい金融プロダクトがレバレッジを効かされグローバルに売買流通し、そして米国の金利引き上げと共に暴落し不良債権問題化したことに対して講じた色々な対策の結果が上記トップ10の殆どを占めているというように捉えています。
しかしながらそのように様々な形で対処しては見るものの結局未だ成功を収めることが出来てはいないということが私の目には明らかであり、上述したことはそれ程大きな問題であったというようにも言えると思うわけです。
そのような中で2010年が終わろうとしていますが米国経済は未だダメで、日本について考えて見ても、その需給ギャップは「バブル崩壊後の1992年ごろから(07~08年ごろの一時期を除いて)ほぼ一貫してマイナス」で、バブルが破裂して約20年を経ても未だもってデフレから脱却出来ていないというわけです。
米国は日本の轍を踏まぬよう“Too Little ,Too late”にならない内に一所懸命対処していますが、その結果がまた悪いというような状況がずっと続いてきているというわけで、2008年に米国が引き起こした問題というものが如何に大きいものであるのかを示唆しているということです。

上述したこともあって今回一番大きな変化と考えられるのは、やはり米国の政治・経済・軍事に対する力が著しく低下し、その結果としてドルの信認が失われ、そしてある意味ドルを基軸通貨とするパックス・アメリカーナの終焉に向けた序章の始まりと定義されるようなことが起こっているということです。
私は2年程前に『パックス・アメリカーナの終焉に向けた序章か』と題したブログを書きましたが、現況はそれが未だ続いている段階であり、上記トップ10は正にそこから派生してくるある意味当然の帰結とも言えるわけです。
10大ニュースの中で上述した文脈と異なるのは「メキシコ湾原油流出」(上記特集記事第1位)、「迷走する日本」(上記特集記事第4位)、「アップル躍進」(上記特集記事第5位)といったもの、あるいは「トヨタリコール」についてもその問題だけで捉えれば異なると言えるかと思いますが、残りは全て上記文脈上にあるものです。
そして、その米国の凋落と裏腹にあるのがエマージングカントリーの躍進ということで、「中国の隆盛」(上記特集記事第8位)とあるように中国を筆頭として相対的にそのような国の興隆が促されて行くわけです。
それ故以前ブログで述べた通り、世界はG8からG20へと多極化してきたわけで、そのような意味では言い方を変えれば、米国一極集中という時代は既に終焉を迎えたということです。
従って、今後は益々エマージングカントリー、取り分けBRICsと呼ばれる国々の力というものがグローバルに見ても相対的に強くなってくるという趨勢があるように思いますが、それこそがこの2010年に見えた一つの際立った特徴であったと私は認識しています。
中国は「リーマンショック」後、4兆元の内需刺激策等の様々な施策を矢継ぎ早に打ち出し内需拡大に力を入れる等して高成長を維持してくる中で(2008年:9.6%、2009年:9.1%、2010年予測:10.5%、2011年予測:9.6%-)(※1)、益々自信を深め世界におけるプレゼンスを向上させています。
つまり今世界で何が起こっているのかについて私なりの分析を端的に述べますと、BRICs、取り分け中国の台頭というものが生じる一方で、その対立関係として米国の相対的地位の低下が起こっており、それを象徴するのがドルの独歩安やドルの信認低下といったものであるということです。

WSJ日本版で「迷走する日本」と評された日本の2010年について言えば、あの鳩山政権が僅か9ヶ月で倒れ(平成21年9月16日~平成22年6月8日)、安倍政権(平成18年9月26日~平成19年9月26日)、福田政権(平成19年9月26日~平成20年9月24日)、麻生政権(平成20年9月24日~平成21年9月16日)に続きまたもや短命政権となる中で、如何に日本の政界に指導者がいないのかということを世界に明らかにした年であると私は捉えています。
そして、そのことが最も端的に現れたのはやはり「普天間基地移設問題」に関する鳩山政権の稚拙な対応、即ち鳩山氏が「県外移設、県外移設」と散々喚き散らした挙句、右往左往して何も出来ないまま結局名護市辺野古への移設で日米合意するという状況に至ったということで、日本政府は今後どのようにしてこの問題を解決し、如何にして日本の安全保障というものを立て直して行くことが出来るのか私は大変憂慮しています。
鳩山氏の大失敗を菅氏が引き継いだところで勿論その状況は打開されないわけですが、そのような中で「尖閣諸島問題」や「北方領土問題」が次々と発生するというように日米間の箍が緩んだ所を他国に付け込まれるということになっているのです。
先日の沖縄県知事選について言えば、勝利した仲井真氏は「昨年まで辺野古移設を支持」していましたが宗旨変えし県外移設を求めているわけで事態は容易ならざるようになっています(※2)。
私に言わせれば、日本政府が県外移設に向けて沖縄以外の都道府県を幾ら説得しようとしてみても最早それは殆ど不可能な話であり、それ故国内を説得するというよりも米国を説得した方がまだ良いのではないかと思っています。
その場合、米国に対しては「関連する費用は日本が全て負担します」「日本国内のどこに移設しても構いません」というようにでも伝えない限り、米国も納得はしないというような世界であって、民主党政権が思うよりも現実は大変厳しいものであるということです。
自民党政権時にけりを付け折角収まっていた問題であったにも拘らず、なぜその問題を拗らせる必要があったのか、そして結局どうしたいのか、鳩山由紀夫という人間は本当に愚かな人間であるとつくづく思います。
今年行った対談でマニフェストに関する考え方を下記のように述べましたが、そもそも私はマニフェストというものに余り固執する必要は無いと思っています。

【マニフェストについては、「野党時代のマニフェスト」「与党になってからのマニフェスト」を別個に考える必要があります。とくに経済を中心として世界的な大変動が起きているわけですから、以前のマニフェストを金科玉条のごとく守るほうが間違いです。できないことはできないと率直に認め、ならばどうするかという代案を出す。】
【そもそも安全保障に関する問題をマニフェストに書くこと自体がナンセンス。辺野古沖への移設を決定したのが自民党政権であろうとも、一国が国として約束したことです。それをいとも簡単に破れるがごとくにいう。実際に政権を取ってみて、実現が難しいとわかれば謝ればよいものを、「トラスト・ミー」というだけで何も決めようとしない。】(※3)

上記麻生政権もある意味幼稚な部分はありましたが、鳩山政権は史上稀に見る幼稚性を持った政権であったわけで、その稚拙な政権が現出させた安全保障問題により今日本は大変な困難に直面しています。
考えて見ますと上述の安倍、福田、麻生、鳩山は皆親譲りで簡単に権力を手にしたような政治家であり、祖先の力だけでのぼりつめたような指導者ではやはり無理であると言うことなのでしょう。
「自らの力で権力を勝ち取る」「自らの力で確固たる地位を創り上げる」という気概を持った人物こそがやはり指導者として一国の舵取りを担うべきであると思いますが、今の政界を見ていますと指導者足り得る者は殆どいないような状況であり非常に残念に感じています。

最後に来年以降も注視して行かねばならぬ重要問題が何かについて述べますと、それはやはり北朝鮮の動向であると私は考えています。
上記トップ10にも「2011年の注目トピックス」にも「北朝鮮砲撃事件」が入っていないことは私にしてみれば不思議ではありますが、遠く離れた国にとって北朝鮮問題など大したことではないと考えているということなのでしょうか。
1953年の朝鮮戦争休戦以後初となる韓国領土の陸地への100発以上の砲撃により民間人が死亡したということで、当然のことながら上記トップ10にも「2011年の注目トピックス」にも挙げられるべき問題の一つであるというように私は認識しています。
上記「北朝鮮砲撃事件」は金正日体制というものが三男正恩に継承され、後継体制作りが進められて行く過渡期に起こったことであり、この問題が今後どのようになって行くのかは世界にとって極めて重要なことであると思っています。
軍事的衝突によるものか、あるいは内部崩壊の形で民衆割拠によるものとなるのかは分かりかねますが、私は正恩体制移行後、大体3~5年以内に北朝鮮は崩壊して行くのではないかと思っていて、そうなった場合に世界、そして日本がどうその問題に対して行くのかということを考える必要があると思っています。
昔から「売り家と唐様で書く三代目(初代が苦心して財産を残しても、3代目にもなると没落してついに家を売りに出すようになるが、その売り家札の筆跡は唐様でしゃれている。遊芸にふけって、商いの道をないがしろにする人を皮肉ったもの)」と言いますが(※4)、金日成⇒金正日⇒金正恩と三代続く北朝鮮という国は言わば売り家であるということです。
共産主義国としての東欧諸国が崩壊に至るまで大体70年掛かりましたが、その観点から北朝鮮について言えば、「朝鮮戦争休戦協定」が結ばれてから約60年が経過しています。
60年とは人間で言えば還暦に当たり、人生の転機として一つの節目と捉えられるわけで、物事の移り変わりというものは大体60~70年となっており、東欧諸国が崩壊したように北朝鮮についても恐らく上記期間で崩壊して行くことになると私は見ています。
上記との関連で世代交代ということについて述べますと、世という字には三十という意味があり一世代というのは一応30年となるわけで、例えば「企業30年説」は正に30年を一つの節目としていますし、あるいは以前ブログで述べた通り、中華人民共和国樹立後、凡そ30年を経て鄧小平という人物が実権を掌握し大きな修正を行ったことで中国は崩壊せずに済んだという歴史もあるのです。
従って、凡そ全ての事象において一世代の倍の60年が一つの区切りとなっており、その意味でいよいよ北朝鮮の終焉の時期が近づいてきたというように私は認識していますし、上述した観点以外も含め何となくではありますが北朝鮮という国のバランスというものが近い将来崩れ去って行くのではないかというように強く感じています。

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参考
※1:World Economic Outlook (WEO) October 2010 Chapter 1. Global Prospects and Policies
※2:沖縄知事再選 普天間移設の前進を追求せよ(11月29日付・読売社説)
※3:SBIマネーワールド対談企画第五弾 北尾吉孝×勝間和代
※4:売り家と唐様で書く三代目




 

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