北尾吉孝日記

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一昨日米国上院議会で可決された8580億ドル規模の「ブッシュ減税延長法案」については言ってみれば(※1)、更なるQE(Quantitative Easing:量的緩和)をFRBが実施するのは少し難しいという中で、金融面ではなく今度は財政面から経済を立て直そうとする処置ですが、私は非常に良いアクションであると認識しています。
以前ブログで述べた通り、米国の個人消費においては特に高額所得者の消費が非常に高い比率を占めていることから、現在の経済実態で仮に「ブッシュ減税」を延長しないということにでもなれば、やはり米国経済は相当な影響を受けることになるでしょう。
従って、オバマ大統領が上記法案の実現に向けて指導力を発揮していることは極めて賢明であると思いますし、本件だけではなく他分野においても減税の手段を講じるべきであると私は考えています。
その場合、勿論危機的水準にある財政状況は大きな問題として残るわけですが、取り敢えずは経済をデフレ化させないというアクションを取ることが何よりも大事であると思っています。
つまり経済が上向き税収が増えて行く中で財政問題の修正については自然となされて行く部分が非常に大きいと考えており、まずは経済を立て直すことが先決であるというように認識しているということです。

その米国経済を見る上では地方銀行の状況把握が一つ大事なことであると以前ブログで指摘しましたが、その地銀の状況とは結局何かと言えば、それは住宅価格に殆ど全て左右されるものであります。
即ち、住宅価格が上昇していれば問題はありませんが、住宅価格がどんどん下落して行くとなれば、ノンリコースローンを借りている住宅所有者は返済せずに家から退去して、結果その住宅が地銀のものとなり、そして地銀がそれを再び売りに行くことで更なる住宅価格の低落を招き多額の不良債権を持つことになるというような悪循環に陥るわけで、これこそが地銀が抱える最大の問題点なのです。
従って、その部分から考えますと地銀の回復ぶりを報じる記事も一方では勿論ありますが、やはり未だ問題含みであると言わざるを得ず、それ故FRBと米国政府とがある意味タッグを組んでQEや「ブッシュ減税」の延長というように財政金融政策を打ち出しているわけです。
そのような中で来年以降も住宅着工件数、住宅販売件数、住宅在庫件数、あるいはS&Pケースシラー住宅価格指数等々の住宅関連指標を注視しながら、米国経済が確りと立ち直って行くことが出来るのかについて見て行かねばならないと思っています。

日本においても「証券優遇税制」の2年間延長が決められたわけですが、これは当然の結果であるというように思っています。
私も数人の国会議員に上記税制は継続して行くべきものであると話してきましたが、そもそもリスクを取った株式投資に対する課税とリスクを取らない銀行預金金利に対する課税が同率になるということは明らかに合理性を欠いていると言わざるを得ないということです。
更に個人金融資産の約55%が現預金などという国は主要先進国の中で日本以外に無いわけで(※2)、しかも日本の場合は預金金利がほぼ0%という中でも上述したような特異な状況にあり、これは極めて問題であると認識しています。
日本政府は「貯蓄から投資へ」という掛け声だけではなく、それを本当に現実のものとしようと思うならば、「証券優遇税制」については数年間の延長ではなく、無期限延長、つまり恒久化すべきであるというように私は考えています。

また昨今下記のような税制に関する動きも報じられていますが、私は基本的には法人税率の引き下げについては賛成で、日本の場合はやはりタックスベースを拡大して税収ニュートラルの状況を作って置く必要性はあると思っています。

『菅直人首相が法人税率の5%引き下げを指示したのを受け、政府税制調査会は14日、企業の内部留保に対する課税の検討に着手した。政府は減税分を雇用や国内投資に回すよう経済界に求めているが、税調メンバーらは減税分が「内部留保に回るだけ」と懸念しており、そうならないよう企業側をけん制する狙いがある。16日に閣議決定する11年度税制改正大綱には盛り込まないものの、来年度に法人税減税の雇用・投資効果がみられなければ12年度からの導入を検討する構えだ。』(※3)

日本国債の約95%が日本国民により消化されるというこれまで続いてきた状況も段々と限界に近づいて来ているということもまた事実であり、将来金利が反転上昇してくるとなれば、その利払いだけでも困難になって行きます。
それ故、個人金融資産残高と公的債務残高(国・地方の合算)が見合うとなれば、日本にとっても由々しき事態になる可能性があるというように認識しているからこそ、上述したように私はタックスベースの拡大については賛成の立場をとっているのです。
ではそのような中で企業の内部留保についてはどうかという問題はありますが、そもそも企業というものはキャッシュをずっと溜め込んでいるというのも余り良くはありません。
無借金経営が優れているかのように解説する評論家、あるいはそのように書いてある本は沢山ありますが、それは基本的に間違いであると私は考えています。
やはり適度なレバレッジを効かせるということ、即ち他人資本を入れ自己資本と合わせて企業発展を図って行くことで、より効率的な経営が実現されるというわけです。
寧ろ問題はキャッシュを溜め込み使い道が無いという部分にあるわけで、私どものように山程ある使い道の中で優先順位を決め、そして確りとした投資戦略に基づいて将来展望が開けているのが望ましい状況と言えましょう。
従って、他人資本まである程度使いレバレッジを効かせて、例えば研究開発投資をするとか、設備投資をするとか、次の成長産業を買収するとか、経済成長率が著しく高いエマージングカントリーに橋頭堡を築いて行くというように、新しいところに積極投資して行くべきで、じっとキャッシュを保有しているだけでは企業というものは成長しないということです。

ただ問題となるのは企業の内部留保に対する課税が日本の雇用増加に結び付くのかという部分です。例えば内部留保課税を避けるため国外に資金が流出するということであれば、日本の雇用は増えて行かないわけです。
その辺が難しい所で、例えば日本の将来人口が増加するのかと言えば次第に減少して行きますから、日本のマーケットが拡大するのかと言えばシュリンクして行くことになるでしょう。あるいは同じ設備投資であれば中国やベトナムで行った方が良く、更に消費財でもそれらの国にはマーケットが大きく成長しているという中で消費者直結型の生産体制を構築した方が優位であるというように、企業が合理的なアクションを取るとすれば日本という選択肢が中々出てこないというのが現実です。
従って、内部留保に対する課税を回避したいと企業が考えたら、そのような資金は国外に回り国内雇用の増加を齎さないかもしれないということは確りと考慮する必要性があると思います。
そして根源的に言うならば、そのような状況に陥らないためには、やはり現存の詰まらない規制を全て取っ払って日本をもっと開かれた国にし、その上で企業が合理的な行動をどんどんとれるような状況を作り出して行かねばならないと私は考えています。

関連記事
日米の当面の経済情勢と財政問題
株式・為替市場の動向と今後の見通し
証券優遇税制の廃止方針について

参考
※1:米上院がブッシュ減税延長法案を可決、下院審議は16日開始見通し
※2:個人金融資産(各国比較、2009年末)
※3:内部留保:課税検討 企業側をけん制





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  1. 毎回、とても興味深く読ませていただいております。

    法人税引き下げは、日本の空洞化阻止には必要なことだと思います。
    今までの政治は、大企業優先で外貨を稼ぐ事ばかりに専念してきました。
    市場原理主義の導入も、一見グローバルになったかにも見えた。
    しかし、結果は日本の資本が海外に移り、地方都市は疲弊しました。
    何故でしょう?

    日本を支えていたのが、小さな農・工・商だったからです。
    商で言えば、中小零細企業が日本経済の根底を支えて来たのです。

    ところが、アメリカの外圧に屈した政治により、規制緩和の名のもとにルールを失った社会経済秩序の乱れが、ボクシングに例えるなら、海外のプロボクサーと日本の小学生が同じリングで戦う事が今の日本でおきています。
    規制緩和は、中小零細企業をメタメタに打ちのめしたのです。

    内需によるマネーの潤滑を失った日本経済は、衰退の一途をたどっています。

    振り返れば、1985年9月22日のプラザ合意以降の自民党政治から今の民主党政治まで、一貫して市場原理主義の黒い影が、それまでの内需である岸首相に始まった所得倍増計画の日本のミドルクラスの躍進と敬功を根底から崩す結果に導いてしまった。

    日本の再生。
    それは、農・工・商の復活にあります。
    地方経済の復活にあります。

    極端な事を言えば、政治家・官僚によって富の再分化がなされ、内需拡大のための政策がなされてこそ、日本が再生できると考えています。

    内需のためのビジョンと政策こそ今の日本に必要だと感じています。

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