北尾吉孝日記

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先月のブログで述べた通り、私は1月4日から1月12日までアブダビ、エジプト、チュニジアを訪問し、そしてロンドン経由で1月13日に帰国するという珍しい長旅に出ていました。
上記長旅は私の日本での公的な時間を可能な限り節約出来るとの思いから調整したもので、日本では未だ正月気分で実際の仕事が始まらないような新年第一週の平日に加え土日も犠牲にする形で実施しました(イスラム諸国では基本的に金曜日が休日です)。
チュニジア訪問の後モロッコやリビアに行くという要請もありましたが流石に時間的な余裕が無いためお断りし、今回は上記諸国を訪問するということになりました。
その中でご存知の通り「1月10日に死者14名を出したチュニジアの市民デモは、翌11日には首都チュニスにまで拡大し、20名を超える死者を出す暴動となった(治安当局の発表。人権団体などは60人以上が死亡したと見ている)」わけですが(※1)、14日にはチュニス国際空港も閉鎖され突如として民主化の動きが急速に起こってきました。

私の物の考え方というのは常に歴史との対話にあるわけですが、上述した状況下において私が何を考えていたのかと言えば、20世紀にも今回のような民主化の嵐が吹き荒れていた時期があったということです。
それはソビエト連邦崩壊における革命時のこと、即ち1982年にレオニード・ブレジネフが死去した後、1985年共産党書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフが「ペレストロイカ」「グラスノスチ」を唱え、ソビエトという連邦国家における民主化を一気に実現へと導いて行った時のことであります。
そしてゴルバチョフが1991年に書記長を辞任し、各連邦構成共和国が独立して行く中でソビエト連邦は崩壊して行くわけですが、それはゴルバチョフが崩壊を意図して行動した結果によるものということではなく、ソ連邦という国にそのような展開をもたらしていくような土壌が段々と醸成されてきたということに他なりません。
つまり抑圧されてきたものや、あるいは自由を失ってきたものを抱える民衆が共産党幹部による腐敗、汚職といったものに耐えることが出来なくなったということに起因するわけです。
また上述したものは1989年以降の「東欧革命」に繋がって行きますが、下記の通りあっと言う間にドミノ現象が起こってくる中で東欧諸国は共産主義国として70年の歴史を終え、民主化されて行くというような状況でありました(※2)。

『ポーランドで89年6月、自由選挙が実施され自主管理労組「連帯」が勝利、東欧で初めて非共産政権が誕生した。また、ハンガリー領内で89年8月に「汎(はん)ヨーロッパ・ピクニック」と呼ばれる政治集会が開かれ、参加した東ドイツ市民が隣国オーストリアに亡命を図り、民主化要求が勢いづき、▽ハンガリー一党独裁放棄(10月)▽東西ドイツ・ベルリンの壁崩壊(11月)▽チェコスロバキア・ビロード革命(12月)▽ルーマニア・チャウシェスク政権崩壊(同月)--とドミノ現象が起こった。』

上記歴史を思い私が考えたことというのは、「天下は一人の天下にあらず、乃ち天下の天下なり」という中国古典の言葉です。
例えばムバラク前大統領については約5兆8000億円の私財を蓄え込んでいたという報道があったり(※3)、あるいはリビアの最高指導者カダフィ氏についても英国内だけで約3兆3870億円の資産があると報じられていますが(※4)、これらは正に「天下は一人の独裁者の為にあるのではなく国民の為にある」という心を失った指導者の暴挙としか言いようがありません。
エジプト最大の観光資源で最高の文化遺産、ピラミッドとスフィンクスは世界各国から多くの観光客を集めているわけですが、その周りにある運河を今回車の中から見てみると匂いを発する真っ黒の汚い水が流れており、この国の指導者は一体何を考え、何をしているのかと訝しく思い、帰国後色々と調べてみることにしました。

先日『チュニジア発民主化ドミノの行方』と題したブログでも指摘しましたが、MENA(Middle East and North Africa)と呼ばれる中東・北アフリカ諸国において、例えば湾岸産油国では自国民の場合、所得税、教育費、医療費は基本的に国家負担となり無料ですので、その意味では本来何の問題も無く社会的安定が保たれるはずであります。
しかしそのような国々や、あるいはその他観光資源等に比較的恵まれている国でも社会不安が起きてきている背景に何があるのかついては、『MENA地域の情勢をどう見るべきか』と題したブログで述べた通りです。
この辺りの国々では若年層人口が急激に増加しているにも拘らず雇用を提供する産業が未発達であることから若者の就職率が非常に悪く雇用が殆ど無いような状況でありますが、そして更には世界中の様々な国、特にインドやパキスタンやフィリピンといった国々から流入してくる労働者に職を奪われ非常に大きな貧富の格差が現出しているというのが現況です。
上記日程にて私がチュニジアを訪問している時、少し空いた時間にお茶を飲みに行きましたが、通常若者が働いているはずの15時頃という時間にも拘らず皆そこに屯しているのを見るにつけ、「この国の若者達は就職口が無いんだなぁ」というような印象を持ったものです。
昨今はそのような状況に加えて、「リーマンショック」後に起こった激変の中で食料価格や資源価格といったモノの値段がグローバルに高騰してきており、そのような中でチュニジアやエジプトの庶民は生活を営むことが出来なくなって行ったということです。
そしてふっと周りを見ると、遊び回って働かない王族や政府幹部等の指導者と呼ばれる人が独裁者として権力の座に何十年も居座っているという状況があり、このような不条理が許されるものかと誰しも考えることでしょう。
そのような中で今回あっという間に民主化の動きが燎原の火の如く広まって行くことになったわけですが、これはそう簡単には収まらないというように私は見ています。

2008年9月以後の世界経済が漸く落ち着きを見せたかと思えば上述したような動きがまた起こってくるという中で、例えば原油価格については1バレル=100ドルを越えてきており、このような問題への対応如何では第二の世界経済危機を引き起こす危険性もあり得るでしょう。
またムバラク氏が権力の座から引き摺り下ろされたことでエジプト管理下のスエズ運河をイラン軍の艦艇が通過するようになっているわけですが(※5)、このことはイランとイスラエルとの戦争が勃発するかもしれないということを意味しています。
仮にイラン軍による陸海両方からの攻撃があった場合、イスラエルという国が原爆を使用する可能性は非常に高いと思われ、私は大変憂慮しています。
そしてまた上記民主化の動きは世界最大の産油国であるサウジアラビアにも伝播していますが、現在のところ学者や知識人ら100人以上により「憲法の制定など広範囲の政治改革を求める声明をインターネット上で公表した」というような軽い程度の動きしかないような状況ではあります(※6)。
唯今後サウジアラビアで民主化要求のうねりが本格化し、仮にイスラム原理主義の手に同国が落ちることにでもなれば、まずは原油の決済通貨としてドルを停止することになると私は見ています。
そのようになったとすれば、これまでこのブログでも何度も指摘してきた通りドル基軸通貨体制終焉のとどめとなり得る可能性があるわけで、それ故米国はブッシュ時代であってもオバマ時代であってもサウジアラビアの王様を年に2度も3度も訪問するということを常に行ってきたのであります。
それ程ドル基軸通貨体制を維持する上でこのサウジアラビア政権の安定というものが米国にとっても世界にとってもある意味必要なのだということです。

そしてまた同じく上記『チュニジア発民主化ドミノの行方』と題したブログで先日指摘した通り、今私が一番危惧しているのは上述したような世界規模でのうねりの中、中国にこの民主化の動きが伝播し嘗ての「天安門事件」のようなことが再び起こらないかどうかということです。
中国においては天安門事件の頃から民主化の動きがずっと燻り続けてきており、それがあの劉暁波氏によるノーベル平和賞受賞により表面化したわけで、今日また上記民主化の動きの中でどう展開して行くのかについては注視しなければならないことだと思っています。
上述のブログでも述べたように基本的には中国が民主化されるのは長い目で見れば結構なことだと思われますが、昨今の世界的潮流の中で現在の政治体制が崩壊するということにでもなれば、世界経済に対して相当大きな打撃を少なくとも短期的には齎すことになるということについても確りと認識すべきではないかと私は考えています。
中国という国は今や世界第2位の経済大国になっているわけですから、そのような微妙な状況であるというように世界を見るべきではないかということです。

以上、様々な観点から昨今の世界情勢を論じてきましたが、これだけ世の中が激変する中で私どもSBIグループにとって最も大事なことは「サバイバル」ということであると私は認識しています。
そして上記の世界で展開する深刻な現実を踏まえて、私どもの事業体をどうして行くべきかということを真剣に考えなければならないと思っています。
どのようにしてSBIグループが生きて行くのか、生き残り続けて行くのかということに対して私は体力・気力・知力の全てを集中しており、SBIグループ幹部も私と同じようにあります。
リーマンショック後の状況、あるいはバブル崩壊後の90年代以降の日本の状況を見れば一目瞭然ですが少しでも気を緩めるようなことがあれば企業というものは直ぐに崩壊してしまうのです。
例えば大銀行と言われていた銀行群が公的資金の注入無くして経営が立ち行かなくなるという状況に陥り、そして更には規模拡大によってメガバンクが生み出されてきたというように全て国により助けられてきたというわけです。
その一方で私どもはこれまで一銭の助けもどこからも受けずに生き残ってきましたし、これからも生き残り続け、飛躍し発展し続けなければなりません。
それを実現可能なものとする上で私の経営判断が非常に重要な意味を持つことは当然のことですが、それと同じようにSBIグループ全社員の意識というものが大切になることは言うまでもありません。
私は昨日の月初の全社朝礼で上述したような意識が足りないと感じる人に対して多く深省を求めたわけですが、今後も激変を続ける世界情勢において私どもは変化を受け止め、変化に順応し、変化の中で生きて行く方策を見つけて行く中でサバイバルして行かなくてはならないというように私は強く思っています。

関連記事
中東・北アフリカ地域への出張を終えての雑感

参考
※1:チュニジアでの暴動について/チュニジアの政変について
※2:東欧革命
※3:ムバラク前大統領:スイスで凍結の一家の総資産数十億円
※4:カダフィ氏資産、英国だけで3兆3870億円?
※5:イラン軍艦がスエズ運河を通過 イスラエルは反発
※6:サウジで学者ら100人超、憲法制定など改革求める声明





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  1. 一党独裁政治の陥落は中国に於いてもチュニジア・エジブトと共通点を多く含んでいるように思われます。
    国民は独裁という格差がおりなす、貧困に喘いでいるかのようにも見えます
    平等と格差の均衡をどこに落とし込むか、
    国家・社会・会社が織り成す、不均衡の是正を果たした者に女神が微笑むのか
    それとも米国が仕掛けた、民主化によるバブルを誘発することが目的なのか
    中東大戦争が起きないこと願います。

  2. 一党独裁政治の陥落は中国に於いてもチュニジア・エジブトと共通点を多く含んでいるように思われます。
    国民は独裁という格差がおりなす、貧困に喘いでいるかのようにも見えます
    平等と格差の均衡をどこに落とし込むか、
    国家・社会・会社が織り成す、不均衡の是正を果たした者に女神が微笑むのか
    それとも米国が仕掛けた、民主化によるバブルを誘発することに微笑むのか
    中東大戦争が起きないこと願います。



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