北尾吉孝日記

この記事をシェアする

破綻に陥った企業を潰すのか潰さないのかという時、私は資本主義社会においては基本的には規模の大小に拘らず潰すべきであると考えています。
もし“Too Big to Fail(大きすぎて潰せない)”というようなことが当該社会で一般的になれば、大企業の経営は極めてリスクテイキングになって行きます。
即ち、米国流に別の言葉で言えば、テールリスク(発生確率は低いが発生すると巨額の損失となるリスク)を取りに行くという形になります(※1)。
そして、経営者はそういう失敗の代償の大きいリスクを取ることによって、成功を収めれば大変な名声や巨額の報酬を得ることになるのです。

2008年9月に米国で金融破綻が起こり、その中でGMやAIGあるいはインベストメントバンカーの救済にオバマ政権も止むを得ず踏み切りました(参考:『リーマン・ブラザーズ破綻とは何だったのか』)。
しかし、米国において良識を備えた人や知識と見識を持った人の中には、上記措置に対し批判をするところが非常に多かったわけです。
その中でも私は「Business Book of the Year 2010」受賞作、『フォールト・ラインズ 「大断層」が金融危機を再び招く』著者のシカゴ大学経営大学院教授のラグラム・ラジャンの考え方に非常に賛同しました。
例えば下記引用にある通り、「“システム的に重要で破綻させるわけにはいかない”という考え方」を排除すべきであるとラジャンは明確に主張しています。

【システム的に重要であるから破綻させられないといわれている企業体は、インセンティブを歪めているだけでなく、そういう暗黙の保護を受けていない企業体よりも競争の面で有利だ。そういう企業は、好景気のときには利益を手に入れられるし、不景気のときにはリスクを政府に転嫁できると知っているので、失敗の代償が大きいテールリスクをとることができる。政府の支援によってそういう企業が無傷で存続するとわかっているので、問題のある投資家たちにはそれを制止するインセンティブがない。この戦略では、莫大な利益をあげられる見込みがあり、損失(エクイティ・ホルダーのかぶる損失)は限定されるので、エクイティ投資家も絶賛する。】

これが“Too Big to Fail”の場合に結果として起こる資本主義の姿であるというわけです。
そしてまた彼は「金融機関に対する政府の補助金と優遇を終わらせる」べきであると下記のように主張しています。

【特定の金融機関を支援する政府の介入は、特定の市場を助ける政府の介入とおなじくらい有害である。自由企業体制の資本主義の精髄は、成功も失敗も自由であることだ。(中略)政府の保護を受けることがないようなシステムを目指さなければならない。そういうシステムのもとでは、重大な過ちを犯したら、その過ちのコストをすべて支払うことになるのを、どの民間企業も承知している。】

私も彼の考える資本主義の姿こそが最も望ましい姿だと思っていますし、彼と同じような主張をする人は米国の知識人の中でも非常に多くいます。

その一方で日本はどうかと言えば、昨年JAL救済に動いたかと思えば、今度は東京電力株式会社といった具合で、しかもそれらはパブリックカンパニーですから日本の資本主義とは一体何なのかというように思うわけです(参考:『東電国有化論の根拠』)。
では、仮にそのような“Too Big to Fail”とされる企業が実際に潰れたら、一体どれ程の影響がどのようにあるのでしょうか。
私に言わせれば、一度破綻したならば東電のようなところは国営企業にし、そしてそれを次世代の送電システムの構築を担う新たなる企業に再生して行くというのが、在るべき資本主義の姿ではないかと思います。
そしてまた、東電のような独占禁止法違反状況とも言えるパブリックカンパニーなどというものが認められている現状自体が可笑しいと思うのです。
より厳しい競争条件を作り出し夫々を競争させていたら、今回のような福島県での惨劇も起こらなかったかもしれないわけで、様々な面において競争がなかったからこそ人災が引き起こされたとも言えるのではないでしょうか。
競争こそが色々な不合理やそれらの問題を解決して行く方法ですから、競争させないメカニズムにしていたからこそ、40年前に作られた原発がそのまま生き残ってしまうということになるわけです。
言うまでも無く、万が一の事故を起こせば破綻に繋がるというリスクも常に抱えながら、企業経営というのはなされて行くものです。
そして、そうした破綻に繋がらないようにしようと思うからこそ、当該分野における技術革新を適時導入して行くのであり、競争のある世界であれば40年前のものがそのまま生き残るなどとは到底考えられません。
また、競争のある世界であれば、賠償資金が確保出来ないからといって電気料金を値上するということなど出来るはずもありません(※2)。

このようにありとあらゆることを今後日本は抜本的に見直して行かねばならないわけですが、政府関係者の中で『フォールト・ラインズ』という「Business Book of the Year 2010」に輝いた本でも読んだ人はいるのでしょうか。
私も大分前に読んだ本ですから、その中身に関して多少忘れている部分もありますが、少なくとも「あぁ、こういうのは賛同出来るな」といったように今開いても直ぐに重要箇所を探し当てることが出来るよう、線を引いたり頁を折ったりしてあります。
政府首脳陣の言動を見る限り、政府内は「自由企業体制の資本主義の精髄」というものが微塵も無いような状況ではないかと思います。

関連記事
日航問題の決着について
福島原発事故は天災か人災か

参考
※1:【バロンズ】テールリスクに備えよ-原油高が株価に与える悪影響で
※2:東電、原発補償へ公的管理 政府支援の枠組み決定




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.