北尾吉孝日記

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今月8日に私は下記のようにtweetしましたが、昨今特にネットメディアにおいて同じような視点からの指摘を良く目にします。

【公開企業とはという議論をもう一度やる必要がありそうですね。政府がある会社が債務超過になるから、同業の公開企業何社かに資金負担を要請するとか、総理が行政指導で当該企業に甚大な影響を与える要請を唐突にするとか、株主の権利は一体どうなんですかね?】

投資家の権利という観点から言えば、先週金曜日に公表された「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」にあるように(※1)、先月28日に本ブログで下記の通り懸念していたことが現実のものとなったわけで、私はこの事態を大変憂慮しています。

【最近経済産業省は『9電力が共同出資し、「原子力賠償補償機構(あるいは基金)」と呼ぶべき東電へ資金を供給する枠組みを創設』するというような一方的な構想を展開しているようですが(※2)、ご存知の通りこれらは全てパブリックカンパニー、公開企業です。
公開企業に対して政府が「あれをしなさい」,「これをしなさい」という権利は全く無いわけで、如何に公益性の強い事業を運営していても公開企業は株主のものであるということを忘れてはなりません。】

上記支援枠組みの決定もあって、「関西電力(9503)、中部電力(9502)など7社が13日にそろって年初来安値を更新」し、「首相要請をうけて稼働中の原発を止めた中部電は週間で16%」も下げ(※3)、そして今週も電力各社は軒並み大幅下落を続けているわけですが(※4)、一体政府は中部電力をはじめとした電力各社の株主に対してどう責任をとるつもりなのでしょうか。

その一方で投資家の責任という観点から述べますと、先月28日に『東電国有化論の根拠』と題したブログで指摘したように下記の通り考えるべきだと思います。

【東電のように独占的利潤を上げていた企業の株主に長期間なっていれば、非常に高額な配当を継続的に受けることが出来ていたわけで、今回のような問題を起こし破綻したのであれば、株主も当然その責任を負わねばなりません。
それについては債券保有者も同じであって、公開企業の倒産という状況の中でその責任を負うというのは当たり前ではないかと私は考えています。】

しかしながら、『東電賠償スキーム、事実上株主・社債権者などを免責』と題された記事にあるように、「巨額の損害賠償が発生し、債務超過に陥れば優先・劣後関係の中で損失を負担していくのが金融市場の原則だが、”too big to fail”(大きすぎて潰せない)との主張の前に、最初にき損されるべき株主も守られるスキーム」が決定された一方で、枝野官房長官は資本主義の原則から逸脱する形で東京電力に融資している金融機関に対し債権放棄を要請するといった具合で正に支離滅裂な状況です。債権は株式よりも優先されるのが基本的ルールであり、債権放棄をするならば株式は当然減資されるべきです。
例えば、昨年一月に決着したJALの問題については、『日本の航空事業の未来』と題したブログで下記のように述べた通り、JALとANAの2社でこれからのグローバルな競争の中で生き残ることが出来るとは思えないことから、私はJALを潰すべきだと考えていました

【私は日航問題が表面化した初期の頃から、最終的にJALを残すというよりも全日本空輸株式会社(以下、ANA)にとって必要な優良資産だけを売却し、残りは清算するしかないと述べてきました。
即ち、「この日本にANAとJALという航空会社2社を残す必要は無く、国際線については譲渡資金を政府が融資する形でANAに譲渡し、国内線についてはANAとの重複や就航本数等を考慮して資産を譲渡しつつも、その大部分は廃止すべきである」というように上述したブログに書いたわけですが、それこそがANAも生き残って行けるという意味も込めて最も良い体制であったと私は思っています。】

結局そのような形を採らずにJALを生き残したわけですが、JALの場合は「会社更生法で処理されたので、株式は100%減資され、長期債務と社債は87.5%カットされ、産業再生機構が9000億円の国費を投入」するということになりました(※5)。
他方、今回の「東電賠償スキーム」に関しては、上述したような資本主義の原則に沿った投資家責任というものからは掛け離れたものであり、また東京電力元社員の年金受給者に対してもなんら減額等の負担をおわせないというおかしなものであり、非常に由々しき事態であると私は思っています。
また、今回東京電力という「破綻しないことが確約された上場企業が誕生したこと」になったわけですが(※6)、政府首脳陣はこのことが何を意味しているのか理解出来ているのでしょうか。
前回のブログ『「自由企業体制の資本主義の精髄」に関する考察』において、“Too Big to Fail(大きすぎて潰せない)”の場合に結果として起こる資本主義の姿に関し、シカゴ大学経営大学院教授のラグラム・ラジャンの言葉を借りて次のように述べました。

【システム的に重要であるから破綻させられないといわれている企業体は、インセンティブを歪めているだけでなく、そういう暗黙の保護を受けていない企業体よりも競争の面で有利だ。そういう企業は、好景気のときには利益を手に入れられるし、不景気のときにはリスクを政府に転嫁できると知っているので、失敗の代償が大きいテールリスクをとることができる。政府の支援によってそういう企業が無傷で存続するとわかっているので、問題のある投資家たちにはそれを制止するインセンティブがない。この戦略では、莫大な利益をあげられる見込みがあり、損失(エクイティ・ホルダーのかぶる損失)は限定されるので、エクイティ投資家も絶賛する。】(※7)

「大きすぎだから潰せない」とか「公益性が強いから潰せない」といった理由で、そうした企業を国税により救済し続けることが長い目で見て本当に国益に適うのでしょうか
私は資本主義社会においては基本的には破綻企業の規模の大小に拘らず潰すべきであると考えています。
ラジャンの主張するように「政府の保護を受けることがないようなシステム」の下で「重大な過ちを犯したら、その過ちのコストをすべて支払うことになるのを、どの民間企業も承知している」というのが資本主義の姿として最も望ましいものであると思います(※7)。
資本主義の良いところは新陳代謝が常に起き、駄目なものは去り、新しいものが生まれるということではないかと思うのです。
私に言わせれば、「原子力損害の賠償に関する法律」の第二章・第三条但し書きで争点となる東京電力の過失というのは当然問われるべきで、仮に過失ということであれば、損害賠償責任はまず東京電力が負わなければなりませんし、当然ながら民間企業として破綻するという所まで基本的にはあらゆる事柄に対する補償を行わなければなりません(参考『東電国有化論の根拠』)。
そして、一度破綻したならば東京電力のようなところは一時国営企業にし、それを発送電を分離、次世代の送電システムの構築を担う新たなる企業に再生して行くというのが、在るべき資本主義の姿ではないかと思います。発送電分離は基本的に東京電力を破綻処理しなければ出来ないことなのにそうしないで、こうした議論をすべきだという議論が政府内で出てきているのも全く理解出来ないです。
また、東京電力が国の管理企業のようになるなら、東証は東京電力を上場廃止にすべきでしょう。株式市場の公正という観点から考えても、上場維持は難しいでしょう。

以上、『パブリックカンパニーとは何か』という観点から東京電力処理の混乱状況を見るにつけ、やはりこの国は根本的には法治国でもまともな資本主義国でもなかったのではないかというように感じています。
即ち、法治国では考えられないような総理要請が次々とパブリックカンパニーになされ、そしてまた資本主義国では理解不能な株主負担なき銀行負担が問われるという状況なのです。
菅総理が上述したことの意味がどれ程深刻なものかというのを理解出来るとは端から考えていませんが、皆さんには日本という国の今後を左右する上で今非常に重要なポイントにきているということを確りと認識して貰いたいというように私は強く思っています。

関連記事
日航問題の決着について

参考:
※1:東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて
※2:“被災者救済策”の政府原案判明 「9電力共同出資機構」で調整
※3:日経ヴェリタス第166号
※4:Yahoo!ファイナンス
※5:賠償スキームの謎
※6:東電賠償スキーム、事実上株主・社債権者などを免責
※7:フォールト・ラインズ 「大断層」が金融危機を再び招く





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  1. 送電網getできたらいいねww

  2. 資本主義経済の健全な新陳代謝機能に基づき、東京電力の処理策のあり方については、

    北尾CEOより【大きすぎだから潰せない、公益性が強いから潰せないといった理由で、
    東京電力を国税により救済し続けることが長い目で見て本当に国益に適うのでしょうか。
    資本主義社会においては基本的には破綻企業の規模の大小に拘らず潰すべきだ】
    と提言されてます。

    確かに、いかに公益性の強い事業を運営していても、公開企業は巨額の賠償債務を
    抱えることになった時点で、通常ならまず株式が最初にき損することになるでしょう!
    株主が当然その責任を負わねばなりません。債券保有者も同じであって、公開企業の
    債務超過・倒産という状況の中でその責任を負うというのは当たり前ではないかとの
    北尾CEOのご指摘は、私もまったく同感です。

    東京電力は20日に発表した11年3月期連結決算で、1兆2,473億円という金融機関
    を除けば国内上場企業で過去最悪の最終赤字に陥りました。いまだ福島第1原発事故
    の対策費用や賠償負担が最終的にどれほどの規模になるのかは見えず、今回の決算
    は今後重い賠償を背負う東電の最初の一歩に過ぎないのです。

    福島第1原発事故の収束が長引けば、高濃度汚染水の処理費用や被災者への賠償額
    は10兆円規模に膨らむでしょうね?賠償額が大きく膨らむのであれば、貸し手である
    金融機関や株主の負担のあり方も大いに議論すべきです。

    今回の決算説明で発表したリストラ策では役員の退職金や企業年金の見直し、人員削減
    の具体案などは先送りされました。まだまだ甘いと思わないですか?

    政府の第三者委員会は東電の資産や財務内容を厳しく調べ、実態を国民に公表すべきだと思います。
    電気料金の15%~20%大幅値上げなど、なし崩し的に利用者である国民につけを回すことは許されない。

  3. 酔っていて全部読めませんでした。
    北尾様が「べきだと思う」と書かれていることは、「正」だと思います。
    私は多分海外移住組なので、ある意味他人事のように日本を観ていると思われますが、多分日本の人と同じくらい、もしくはそれ以上、日本のことを憂いています。外にいると、自然、そうなるみたいです。
    がんばれ、日本。



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