北尾吉孝日記

『岐路に立つ日本』

2011年7月20日 10:28
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先週様々な要因からドルが幅広い通貨に対して売られたわけですが、昨今のドル安の進み方というのは根本的にはドルに対する信認が薄らいできているということなのだと認識しています。
先週は、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが『現在「Aaa」の米国債格付けについて、引き下げ方向で見直すと発表』し(※1)、また米格付け機関のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は『米国のソブリン格付け(長期AAA、短期A―1+)を「クレジットウォッチ・ネガティブ」に指定したと発表』しましたが(※2)、事程左様に前々から主張している通り、“ドルの信認喪失=パックス・アメリカーナの終焉”となって行くということだと捉えています(参考『現実化してきたパックス・アメリカーナの終焉』)。
その中でえらいとばっちりを食うのが実力以上に通貨が上がる日本であって、本来人民元が国際通貨として位置付けられるようなものであれば、そこに向かうのですが、元がコントロールされている中では、そこに行くわけにはいきません。
そして、ユーロ圏の現況は困難を極めていますからユーロに行くことも出来ず(参考『世界経済において今後憂慮すべき事』)、スターリングポンドに行くのもこれまた難しいわけですから、そうなると残る所はある程度の経済規模と外貨準備高を持っている国ということで、日本円やスイスフランといったものが結局買われて行っているのです。
また、先週14日には、日本の「債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが低下し、一時1.075%と約8カ月ぶりの低水準」になりました(※3)。
下記抜粋にもあるように本ブログで何度も指摘している通り、こうして長期金利が低下して行くと通常であれば設備投資が出てくるものですが、日本は経済学で言う所謂「Liquidity Trap(流動性の罠)」というものに正に入ってしまっており、基本的にはどれだけ金利が低下しても設備投資が出てこないという状況です。

【これまで日本の国債市場においては長期金利が低位安定してきたわけですが、その要因の一つには実需というものが金利に対して感応度ゼロであるというのが挙げられます。
即ち、日本においては幾ら長期金利が低下しても設備投資は活発化せず資金需要というのは全くと言って良いほど発生してこなかったわけですが、その一方で同じ設備投資であれば有望視される中国等の新興諸国で実施して行くといった状況でした。】

唯、これから復興需要というものが発生してきますから、その設備投資についても大いに期待していたのですが、昨今のように「菅の菅による菅のための政治」によってもたらされる電力不足の恒常化やTPPへの参画の遅れが続くようであれば、日本ではなく海外で設備投資を活発化させる動きというのは今後更に増えてくるでしょう。
先週金曜日の日本経済新聞の『「3年内に海外移転」4割 社長100人アンケート 電力対策は過半が要望 景気持ち直し「年内」72%』という記事にも下記の通りありますが(※4)、『歴史・哲学の重要性』と題したブログでも指摘した電力の供給制約という問題を抱える日本から海外へ生産拠点などを移さざるを得ないのは、全うな経営判断です。

『日本経済新聞社が14日まとめた「社長100人アンケート」で、約4割の経営者が円高の是正や税制の見直しが進まなければ3年以内に海外へ生産拠点などを移さざるを得ないと回答した。震災に伴う政策課題の棚上げと、エネルギー政策の迷走で電力不足問題が長期化する懸念から、国内生産が維持できなくなるとの危機感が広がっている。(中略)
国内制度や経営環境が現状のままなら、何らかの機能を海外に移転せざるを得なくなるとの答えが39.3%(55社)あった。
海外シフトの対象を最大3つまで選んでもらったところ、最多は「主力ではない生産拠点」で20.0%。2番目は「一部の研究開発拠点」で17.1%になった。「一部の本社機能」「主力の生産拠点」との回答も10%台に達し、幅広い分野で海外流出が加速する可能性を示した。(中略)
企業が国内拠点や収益力を維持・拡大するため、政府が早期に取り組むべき制度的な課題として、最も多く挙がったのは「電力不足解消策を含む総合的なエネルギー政策」で50.7%。「法人税率引き下げ」が36.4%、「環太平洋経済連携協定(TPP)への参加」が35%で続いた。』

そして、上述の通り「社長100人アンケート」でも「企業が国内拠点や収益力を維持・拡大するため、政府が早期に取り組むべき制度的な課題」としてTPPへの参加が35%もあるわけですが、以前から本ブログで指摘しているようにTPPの進捗は全く図られていないというのが現況です。
仮に日本がTPPに参加しないのであれば、今後日本の製造業は海外拠点の更なる拡張を推進し、TPP参加国で生産活動を行い、そして、TPP参加国にどんどん輸出をして行くというようになるでしょう。
先週月曜日の『日本教育再考』と題したブログでも下記記事をご紹介しましたが、例えば東レ株式会社などは「2013年稼働を目標に韓国に主力商品の一つである炭素繊維の工場を新設する」といったように既に移転の動きは出ているわけで(※4)、日本政府は韓国の貿易現況から多くを学び早急に対処して行くべきなのです。

【『韓国の今年第1四半期(1~3月)の輸出額が史上初めて、個人消費額を上回ったことが16日分かった。41年前の1970年同期と比べ、輸出額は220倍に増えた一方、個人消費額は10倍にとどまった。』(※5)
『韓国の自由貿易協定(FTA)を結んでいる国・地域との貿易額が発効前より7割増えたことが分かった。関税の撤廃・削減で工業製品を軸に輸出を拡大。韓国はFTA網の拡充を着々と進めており、今年の韓国の全体の貿易額は2010年に比べ1割以上増え、1兆ドル(約80兆円)の大台に初めて乗る見通しだ。』(※6)
『米国が主導し、日本が出遅れを挽回(ばんかい)しようと参加を探る環太平洋経済連携協定(TPP)。実は韓国は、現在交渉に参加している9カ国とはすべて、すでに2国・地域間のFTAを発効済みか交渉中だ。通商交渉本部の幹部は「韓国がTPPに加わる必要性は今のところない」と言い切る。』(※7)】

このように電力供給の問題だけではなくTPPに対しても遅々として進まないわけですから、この電力供給不足のタイミングで日本に見切りをつけ、海外移転を図るというのが経営者としての通常の判断なのです。
従って、今後日本経済というのは益々空洞化を来たして行くわけで、このまま行けば日本は蛻の殻になってしまうでしょう。
唯、それ自体が必ずしも悪い話というわけでもなく、そうした中で日本は貿易立国ではなく金融立国の道を歩んで行けば良いというのは、私が前々から主張している通りです。
即ち、輸出に依存する国は目指さないというように割り切って、今後は如何に配当収入・金利収入を得るのかというように金融収益を稼ぐことを考えて行けば良いわけです。
更に言えば、下記抜粋にもあるように本ブログで何度も指摘していることですが、例えば、日本の非製造業の生産性というのは先進諸国において低い部類に属しますので、それを如何に向上させて行くのかを考える必要性も出てきます。

【例えば日本の銀行業界について見てみますと、非常に長期に亘り規制をし続けてきた結果、日本の銀行は(メガバンクになっても未だもって)欧米の銀行に比べ生産性が低く、グローバルな競争を勝ち抜いていけるというような状況ではありません。そして、このような状況は銀行に限ったことではなく、日本の非製造業における生産性の低さにこそ、あらゆる日本の問題点が凝縮されていると言えます。
日本の全産業の生産性は製造業が大きく牽引しているという状況で、製造業の生産性上昇率は1990年代以降(~2000年代前半)一貫して上昇しています。その一方でなぜ非製造業の生産性が低いのかと言えば、それは十分な競争がなされていないということに起因していると考えられ、製造業のGDP比率が大きく低下する中(1980年:28.0%→2008年:19.9%)、日本の非製造業分野の生産性向上というものが急務の課題となっています。今後日本は少子高齢化社会となり、人口が減少する世界に入って行くわけですが、その中で経済成長力が上がる唯一の方法が生産性の上昇なのです。】

あるいは、既存産業をどうこうするのではなく新産業創造を目指さねばならないとして、どういう産業をどのように創って行くのかといったことに傾注して行くのも大事になってくるでしょう。
「必要は発明の母」と言うように、昨今の電力不足問題にどう対応するのかという中で技術開発をして行くことになるわけですが、例えば、今非常に効率が悪く能力が著しく低い蓄電池を考えてみますと、見違えるほど高性能な蓄電池を極めて低コストで量産出来るようなイノベーションが起こってくれば、非常に素晴しいことではないでしょうか。
上述したように様々な問題を抱える日本からの海外移転が加速して行く場合、輸出はどんどん減って行き、設備投資も日本では起こらず、金利も低下して行くことになると思われますが、金利については上昇するよりは低下して行く方がある意味良いと思っています。
今年1月末にも『日本国債格下げをどう見るべきか』と題したブログで下記のように指摘しましたが、日本財政が最早危機的水準に到達しつつある中、金融のシステミックリスクが起こる可能性が非常に高い日本の状況においては、どちらかと言えば金利が低下する方が良いのではないかと私は考えています。

【更に今日本の金融機関を中心にその95%が国内で消化されている日本国債について逆から言えば、金利が上がり出せば債券価格が大暴落する危険性があって、その場合取り分け運用対象が無く国債漬けとなっている地方金融機関の業績ががた落ちとなり、日本の金融システムが大混乱に陥るという大変な状況にもなりかねません。】

関連記事
歴史・哲学の重要性
米国金融規制改革法案について

参考
※1:UPDATE: ムーディーズ、米国債格付けを引き下げ方向で見直し
※2:UPDATE:米国の格付けをクレジットウォッチ・ネガティブに=S&P
※3:長期金利、8カ月ぶり低水準
※4:2011年7月15日日本経済新聞「3年内に海外移転」4割 社長100人アンケート電力対策は過半が要望 景気持ち直し「年内」72% 
※5:2011年6月16日時事ドットコム「輸出、初めて個人消費超える=41年間で220倍に-韓国
※6:2011年7月6日日本経済新聞夕刊「韓国、FTA効果鮮明、貿易額7割増、昨年、対象国・地域と――工業製品の輸出拡大。」
※7:2011年7月3日日経ヴェリタス『韓国FTA網、世界制覇へ着々、EUと発効で広がる「経済領土」、日本の出遅れ鮮明。』





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  1. 経済停滞や少子高齢化・人口減少の進行などによる中長期的な成長率(潜在GDP成長率)の低下、
    社会保障制度の諸問題、非製造業における生産性の低迷、危機的な財政状況、エネルギー政策の
    迷走による電力供給不足の懸念から海外移転の動きの表面化など、日本は今、様々な問題を抱えて
    います。大きな岐路に立たされている日本は、どうしたらいいのか、国民一人一人が自分の頭で考える
    ことが大切だと私は考えています。

    上記の様々な課題に対して、私なりにいくつかの処方箋を提示していきたいと思っています。

    ■ 日本企業が自信と独創性をもって、『世界を魅力する文化創造国』を目指す。
    今や、漫画やアニメ、ゲームは世界に冠たる日本の輸出商品です。
    この他にも、アジア市場では日本発の食品や化粧品、服飾や音楽などが成功を収めつつあります。
    日本の優れたモノづくり、アニメやファッション、食文化の根底にある日本の文化の力が、世界から
    人を集め、産業を動かす力になります。観光立国へ向けて、世界を魅了する文化創造国を目指し、
    再び国際的に日本の存在感を高めていきたいです。

    ■ 世界経済の環境に適応した21世紀型の貿易立国モデルの再構築を推進。
    日本には、資源がほとんどありませんから、やはり貿易でしか生きていけません。
    もちろん、投資など金融で立国しようという考えもありますが、世界の過酷な投資の
    世界で日本が今から乗り出しても成功する可能性は低いだろうと推察されます。
    やはり貿易立国モデル、それも21世紀型といえる貿易立国モデルに変えるべきであり、
    そのためには、私たちは、医療、福祉、保育、教育等の分野で大胆な改革に乗り出し、
    経済のグローバル化で変化した世界経済の環境に適応した貿易立国モデルに変えていくべきです。

    ■ 政府の役割の選択と集中により、財政赤字の縮小を目指す。
    マクロ経済的な危機対応策を行うことは政府の役割であり、膨大な財政赤字残高を抱え、
    金融面でも異常な低金利状態にあるとはいえ、金融財政面で積極的な刺激策を採用する
    ことが求められています。金融面では、短期市場金利を引き下げ、CP購入など量的拡大策
    を決定するなどを踏み出すべきです。財政面でも、経済活動を回復させるためのカンフル剤
    としての短期的な歳出と中長期的な安定成長を実現するための歳出が必要とされています。
    政府の役割の選択と集中により、従来型の歳出構造とするのではなく、セーフティ・ネットの
    構築を図ると共に、環境技術の革新をさらに進め、少子高齢化の進むなかで内需主導の持続
    的な経済成長を実現可能とするため、目的にあった歳出の選択を行い集中して財政資金の
    投入を図るべきです。

    ■ 個人が主役で夢の実現や再挑戦がしやすい社会を目指す。
    今後は、やはり個人が主役になり、イノベーションを起こして、夢の実現や再挑戦がしやすい、
    非常にチャレンジングでハングリー精神がある社会を築くべきだと思います。

  2. ドルの格付けがAaaですか。 素人でもおかしいと分かる事を、各国のリーダーや優秀な方々が真剣に議論して

    のが喜劇に見えてしまいます。 そういえば、日本航空などは破たんする直前まで格付けがA´a´でしたね。

    経営者や格ずけ会社の人は無事なんでしょうか。 まぁ、その筋の人や関係者が簡単に政治家になったり出来るの

    だから、なんでもありでしょう。 せめて、普通の小学生でもおかしいと分かる事は改革してほしいものです。

     必要は発明の母とも言うしクソと思ったら金の卵と言った人がいました。

    今は、ある方々にとっては千載一遇のチャンスでもあるんでしょうね。 多分、国民生活を劇的に変える事になるだろうし

    後世語り継がれ学校の教科書なんかに記載されるんでしょうね。



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