北尾吉孝日記

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先進国で大震災が起こった場合、通常9ヶ月位で復興需要というのが発生してきて、その年のGDP自体はそれ程下落しないものですが、今年3月の東日本大震災については極めて違う状況になっています。
即ち、本ブログで幾度か指摘しているように今回は原発事故が起こったということですが、先月2日に『歴史・哲学の重要性』と題したブログで下記述べたようなことが現実のものとなってきています。

【私はチェルノブイリ原発事故よりも今回の方が被害が大きくなるのではないかと見ています。
今回の大事故は福島原発から半径20キロ圏内、30キロ圏内、ひょっとしたら50キロ圏内にまで影響が及ぶかもしれず、当該範囲における農業は長きにわたって壊滅的状況が当面続いて行くことになるでしょう。
チェルノブイリの現況はと言えば、そこで収穫される殆どの農作物に対して放射能検査が実施され、それに合格したもののみが販売を許されるわけですが、未だ以て不合格とされる農作物が沢山あるといった状況です。
また上記農業だけではなく漁業に対する影響も計り知れないもので、海洋に対する放射性物質汚染も深刻な状況にあります。
上述したような異常事態が何時まで続くのかを正確に読むことは出来ませんが、長期に亘って続いて行くことは間違いないでしょう。
従って、最終的にどの程度の被害となるのかは分かりませんし、そしてまた今回の原発問題が何時収束するのかも読めません。】

上述したように先月私は当該エリアにおける農業・牧畜業・漁業といった第一次産業に対する懸念を表明していたわけですが、今や「基準を超えた放射性セシウムで汚染された稲わらを食べた牛の肉が流通し、問題が全国に」広がり、その全てを回収するというように「牛肉のセシウム汚染問題」は深刻な状況になってきています(※1)。
即ち、家畜の餌となるようなものは問題化した原発から一定程度離れた場所から持ってこない限りは全て汚染されていると言わざるを得ないような状況であり、問題となった地域で発生しているものについては恐らく水も汚染されていることでしょう。
被災地域のGDPというのはトータルで日本全体の6、7%程度であり、GDP比で見れば大した規模ではありませんが、上記状況から地域経済の空洞化というのは最早避けることは出来ないでしょうし、ひょっとしたら数十年に亘って避け得ない可能性すら出てきています。
従って、当該地域というのをどのようにして第一次産業から別の分野に持って行くのかが重要になってくるわけで、例えば、使用不能となった土地を利用して所謂「太陽光発電基地」を建設するといったように様々な案が出されていますが、一つ大きな問題としてこうしたことを認識しなくてはなりません。
更に言うと、原子力発電に対する一種の嫌悪感というものが国民の間に充満してきている中、電力供給不足問題は今や東京電力株式会社と東北電力株式会社に限ったことではなく、関西電力株式会社や中部電力株式会社、あるいは九州電力株式会社といった所にもどんどんと飛び火するというような状況になっています。
多くの地域住民たちが原発に対し断固として反対し、国及び地方が現在停止中の原発再稼動を認めないという判断を下す中、全国規模での原発停止による長期に亘っての電力不足というものが現実味を帯びてきているわけで、これがまた日本の産業空洞化という大問題に飛び火し、それを更に進めて行く可能性があるのです。
そしてまた、今年5月『菅内閣を憂う』と題したブログでも下記の通り現内閣を糾弾したわけですが、地震・津波・原子力対策といったことだけにしか取り組み得ない菅無能内閣において、日本の将来にとって枢要な外交政策というものが全く以て先送りにされてきたということを今一度考えるべきでしょう。

【内憂外患の状況下、同時並行で前進させるべき重要案件が山積しているにも拘らず、菅総理というのは復旧復興のみが仕事だと誤認している部分があるのではないでしょうか。
この復旧復興が重大課題であるのは言うまでもありませんが、菅氏は一国の総理であり、17人もの閣僚がいる中で(※2)、朝から晩まで復旧復興に関する事項だけに取り組んで一日を終えているようでは話しになりません。
同じことは枝野氏にも言えるわけで、「官房長官の仕事というのは本当に復旧復興だけなのですか」と問い詰めたくなるような成果しか生んでいないと思うのです。
復旧復興も勿論大事ですが日本の将来にとって大事な仕事は他にも山程あるわけで、菅総理並びに枝野官房長官は他の重要案件の進展が見られない現況で本当に良いと思っているのでしょうか。
現内閣の無能さについてはこれまで何度も指摘してきましたが、復旧復興という一つの事だけにしか取り組むことが出来ない彼らの様態を見るにつけ、私にはそのような所がそもそも無能であると感じられるのです。】

例えば、先送りされている重大課題の一つとして、本ブログで幾度となく指摘し続けてきたTPP問題が挙げられましょう。
昨年11月に『TPP参加における基本的な考え方2』と題したブログで下記のように述べましたが、今の調子で行くと日本がTPPへの参加表明を行う時には、そのフレームワークは既に全て決められており、日本にとって最悪とも言えるような状況で参加せざるを得ないということになってしまうわけです。

【「米国は来年11月にハワイで開くAPECでの交渉妥結を目指す。参加国は既にルール作りを始めており、日本は現時点でも出遅れている」と記事にありますが、日本がTPPに参加するかどうかの意思決定でもたもたしていれば、その間に米国主導でTPPの枠組が日本のコミットメント無しに全て決められてしまうということにもなりかねません。
そのように要件の決定段階に日本が入って行かないとなれば、日本にとって余計に不利なものとなる可能性があるということです。
更にTPP交渉を加速させたい参加国にしてみれば、情報収集が先と言えばどこも日本を相手することはないでしょうし、既に参加している国々の交渉がある段階にまで達した後、日本が参加表明を行っても、最早参加国の個別の同意は得られずTPPに加わることすら出来なくなる恐れがあります。】

日本の将来を考えれば、上記状況というのは極めて由々しき事態であると言わざるを得ず、これほど重要な問題まで全く前進させることが出来ない無能な総理大臣かと思うと本当に情けない気持ちになります。
そして、その結果として起こり得るのは日本の空洞化が一層加速化して行くということであり、農業の生産性向上を目指す近代化というものが更に遅れて行くということでありますから、言うまでもなく待ったなしで進展させねばならない重要案件なのです。
農業・漁業の近代化推進については「農地法」(法令番号:昭和二十七年七月十五日法律第二百二十九号)、「漁業法」(法令番号:昭和二十四年十二月十五日法律第二百六十七号)といった戦後直ぐに作られたような法律の抜本的改正を一刻も早く行うべきですし、あるいは今回の原発問題との関連で言えば、「原子力損害の賠償に関する法律」(法令番号:昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)や「電気事業法」(法令番号:昭和三十九年七月十一日法律第百七十号)というような法律も同じ様に見直さねばなりません。
今世界は次の大転換期に突入していると私は認識しており、日本の将来にとって手枷足枷となるような上記法律といったものについてはその全てを早急に見直し、新しい日本の再生を目指して行かねばならないというように痛切に感じています。
仮に世界がこの転換期における舵取りを上手く行うことが出来なければ、非常に大きな問題を齎し得ることにも繋がるというように見ており、例えば、日本の為替についても上述してきたような種々の要因等によって、ひょっとしたら暴落する可能性もあるでしょう。
そうして円安がどんどん進行したとしても、前述の通り産業空洞化の御陰で輸出が増加して行かないというような事態にもなりかねないわけです。
そしてまた、『日本の貯蓄率』と題したブログでも指摘したように、高齢化の進行及び可処分所得の減少が主因となって貯蓄率の大幅低減が齎されつつあるわけですが、今年1月にも本ブログでご紹介した通り、日本の「公的債務残高の国内総生産(GDP)比率は既に先進国中最悪の180%に上るが、大きな制度改革がなければ、この比率は20年には230%に達する」とも言われ圧倒的高水準であるにも拘らず(※3)、これまでの日本というのは高い貯蓄率であったが故に国債のほぼ全てを国内で消化出来たのです。
OECD Economic Outlook No. 89」によれば、私が学生の時分には大体20%以上をキープしていた日本の貯蓄率は1993年には14.2%程度にまで下がってきて、更にそこから漸減し2007年には2%台となったわけですが(2005年:3.9%、2006年:3.8%、2007年:2.4%、2008年:2.2%)、リーマンショックを境に2009年以降多少上昇してはいるものの長期的低下傾向であることには何ら変わりありません(2009年:5.0%、2010年:6.5%、2011年:7.9%)。
こうした状況というのが何を意味しているのかと言えば、1476兆円の個人金融資産(2010年度末)と892兆円の長期債務残高(2011年度末)とのバランスが崩れた時には、外国人に日本国債を買って貰わねばならないような状況に陥って行くということであり、そうなれば金利は上昇し国債価格は暴落するということになるわけです。
アラン・グリーンスパン前FRB議長が執筆した最近の論文などを見ていても、財政の積極的出勤が民間の設備投資を減少させるという議論、言い方を変えれば所謂「crowding out(クラウディング・アウト)」に関する議論を盛んに展開しているわけですが、このような側面もあり日本における復興需要と相俟って金利を上昇させる方向で働くということになるのかもしれません。
これは円高を一時的に齎し得るものではありますが、それ以上に日本の財政問題が深刻の度を増し、輸出構造が根本的な変貌を遂げてくる中、GDPが着実に伸びて行かない状況がずっと続くようであれば、世界における相対的なポジショニングはどんどん悪化しますから、円高が持続して行くというようなことは最早あり得ません。
このように、昨日『ギリシャのユーロ離脱は時間の問題か』と題したブログでも指摘したドル、ユーロに加え、円についても大変厳しい状況にあるわけです。
従って、国際通貨システムをどのように変革して行くのかを議論すべく、嘗てブレトンウッズで行われたような会議を開催しなければならないタイミングというのは、やはりそれ程遠くない将来に再来するのではないかと私は認識しています(参考『国際通貨体制史におけるドル基準通貨体制』)。
では、次代の国際通貨システムを巡り中国がどう処しているのかと言えば、当然ながら人民元もそこに加えられるべく必死になって国際化を進めつつあります。

「まず2009年7月に5都市で試験解禁された人民元貿易決済はその後、規制緩和を受けて急増。金額では09年の36億元が10年に5063億元、11年1~4月には5300億元に、貿易全体に占めるシェアは09年の0.02%から11年に7.3%に高まったという。
海外投資家による人民元運用の機会も広がった。07年に中国の銀行に対して解禁された香港での元建て債券の発行は、10年には企業にも認められた。これに呼応して香港での元建て預金残高もこの4月には5107億元と09年末の約8倍になった。」(日経ヴェリタス第175号)

先月9日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」にも「中国政府、中国銀行に人民元の本土持ち込みを認可」と題された記事がありますが、まずは香港オフショア市場で調達された元を中国本土に流入させるといった形で緩和的措置を講じて行くというような努力がなされています。
これに関しては先週の海外拠点長会議でも話題になりましたが、所謂国際通貨としての元というものに持って行こうとする様々な努力が今後なされてくる可能性も高いのではないかというように私は考えています。

関連記事
日本国債格下げをどう見るべきか

参考
※1:牛肉のセシウムの汚染問題
※2:枝野官房長官:閣僚3人増 法案13日に閣議決定
※3:2011年1月28日日本経済新聞朝刊

牛肉のセシウム汚染問題





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  1. 東日本大震災の発生により復旧・復興の問題に加え、菅内閣は同時並行で前進させるべき重要な
    政策課題が山積しているなかで、迷走する政治が日本再生の足を引っ張っています。
    政治が決断できないでいると、日本は近い将来さらなる危機に晒されるであろうと、私たち国民一人
    ひとりが深刻な懸念を抱いております。

    今回の震災を機に、電力不足の影響で一部の製造メーカーが海外移転の動きが加速しているようです。
    その結果として、日本の産業空洞化が一層加速化して行くということであり、長期的には日本企業の
    輸出競争力を低下させうる要因です。こうした中長期的な日本企業の競争力低下を回避するためには、
    原発問題を収束させるとともに電力の安定供給の道筋を早急につけることが必要です。
    加えて新成長戦略・国内投資促進プログラムを刷新し、日本企業の海外移転に歯止めをかけ、
    海外企業による日本への投資意欲を回復していく政策が必要とされます。

    ギリシャ危機に端を発した欧州債務危機は、アイルランド、ポルトガルへと波及した後も
    終息の兆しを見せていない。再燃しているギリシャの信用不安問題の行方次第では、
    金融危機再発の可能性も潜んでおります。国際通貨基金(IMF)は相次いで日本の
    財政状況に警鐘を鳴らし、中でもIMFは2017年までに消費税率を15% まで引き上げる
    よう提言していました。また、格付け機関も軒並み格下げの可能性を指摘しているようです。

    今、待ったなしで取り組むべき課題の一つが、環太平洋経済連携協定(TPP)へのわが国の
    参加問題です。国内産業の空洞化に歯止めをかけ、日本の立地競争力を強化するためには、
    震災の復興策と一体となった成長戦略が不可欠であり、TPP参加問題はその一部を成しています。
    しかし、政局が混迷を深める中、日本のTPPへの参加を巡る議論は激しさを増しています。
    これまで6月が目途とされていた交渉参加の可否判断も先送りされ、菅政権の閣僚は、
    早期に方針を固めるとの意向を示していますが、政局が混乱する中でそれがいつなのかは
    全く分からない状況です。政治的リーダーシップの欠如は、TPP参加問題に関する国民的
    合意の形成を遅らせ、無用な混乱を招いています。その間にも、9カ国によるTPP交渉は、
    2011年11月の大筋合意に向けて着実な進展をみせています。
    それは、TPP交渉に日本国政府の意見を反映させる機会が狭まりつつあることを意味しています。
    政府は、交渉参加国から収集した情報を可能な限り開示し、正しい情報に基づく議論を促すべきです。
    そして、交渉に早期に参加して、不利な規定の策定を防ぎ、TPPが日本の国益を実現し、
    アジア太平洋地域の成長と繁栄を持続させるための手段となるよう努めることが、
    今もっとも優先順位が高い緊急課題だと思います。

    今、一番望まれているのは、無能な菅政権を早く倒さねばなりません。
    一日遅れればそれだけ日本の国益上の損害が増していくであろうということは明白です。



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