北尾吉孝日記

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「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」にも「【NewsBrief】世界経済、新たな危険ゾーンに向かっている=世銀総裁」や、「世界経済の二番底リスクは5割以上=米著名経済学者ルービニ氏」という記事があるように昨今世界経済の先行きに対する悲観的見解が多く見受けられますが、事実世界経済の安定化に向けた各国における財政及び金融政策の選択肢は非常に限られてきています。
米国について言えば、「米債務上限問題」を巡って擦った揉んだした挙句、漸く与野党合意に漕ぎ着けたわけですが、その一件により結局「米国は格付け開始以来70年間維持してきた最上級の格付けを初めて」失うということになりました。
リーマンショック以降、ドルを基軸通貨とするパックス・アメリカーナの終焉の序章が始まったというように私は本ブログでも何度も指摘し続けているわけですが、上記ダウングレードというのは正にその現出の一例に過ぎず、所謂ブレトンウッズ体制は崩壊への道を辿っているのです。
例えば、既に昨年より中国との「人民元およびルーブルでの貿易決済を開始している」ロシアが「ブラジルとの貿易決済に関し、従来のドルではなく両国通貨で行うことを検討している」という報道が先日もあったように(※1)、世界中がこうしたドル離れの動きを更に加速させて行くような状況になってくれば、何れ基軸通貨としてのドルの地位は終焉を迎えることになるわけです。
また、今年3月に『激変する世界情勢とSBIグループの在り方』と題したブログでも指摘した通り、今後の国際通貨体制を危機に陥れ得る要因の一つにサウジアラビアが原油の決済通貨としてドルを停止するかどうかということが挙げられます。
仮にドル決済停止ということになれば、ドル基軸通貨体制終焉のとどめとなる可能性もあるわけですが、サウジアラビアというのは今ドルが大幅に減価する中である意味大損を被っている国の一つということもあり、その出方の如何は当該体制維持にとって極めて重要な意味を持ちましょう。
こうして先月12日『現実化してきたパックス・アメリカーナの終焉』というブログでも述べたニクソンによる1971年の金ドル兌換停止以後の世界、つまり金の裏付け無しに輪転機を回せば幾らでもドルが刷れ、最も安価な調達資金で世界中から金を集めて行くというようなドルを基軸通貨とする世界が今正に崩れて行こうとしているわけです。
従って、その崩壊が米国経済に致命的打撃を与えるのは間違いないと思われますが、一挙にそうした局面にまで進行するとは言わずとも、上述したように序章が既に始まっているのは確かなことです。
その一方、欧州統合通貨ユーロについても本ブログでこれまたずっと本質的問題点について指摘してきたわけですが、先月25日にも『ギリシャのユーロ離脱は時間の問題か』と題したブログ冒頭で「統一為替レートを使いながらも財政主権がメンバー国に夫々あるという根本的矛盾を内包している以上、その崩壊は時間の問題ではないか」と述べた通り、その基本的矛盾が故に今後も問題を起こし続け、その度に一時的な問題先送りを繰り返して行くことになるのかもしれません。
現在のような危機的事態に直面しても尚、ある意味での財政統一化を図るユーロ圏共同債発行に至らなかったのは、結局各国ベースで政治的決着を得られず財政統一化の実現が中々難しいということを物語っているのです。
ユーロ圏の将来というのも未だ見通し難い状況にあるわけですが、私見を述べるならば、金融・財政・通貨の全てをユーロ圏で一本化して行かなければ、ユーロというコンセプトは生き残り得ないのではないかと私は捉えています。
上述したような米欧の現況を踏まえ世界の資金が向かう通貨の選択肢はスイスフランと日本円しかないわけですが、それは先月20日の『岐路に立つ日本』と題したブログでも指摘したようにある程度の経済規模と外貨準備高を持っている国であり、リクイディティが十分ある通貨であるということに因るものです。
ドル基軸通貨体制の崩壊過程において次代のカレンシーが見えなければマネーというのは必ず金に向かうわけですが、それがどの程度のものになるのかはスイスフランや日本円に対してドルがどれだけ下落するのかということと裏腹なのです。
一昨日歴史的な下落幅を記録した金ですが「もうはまだなり」という言葉もあるように(※2)、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の「金価格、年内に2000ドル到達も=UBS」や、「【コラム】高騰の金、3000ドルの可能性も―過去のバブルと比較」という記事タイトルの通り、まだまだ高騰して行く世界に向かうのではないかと私は見ていますが、その中で次の基軸通貨を巡る話がどんどん進展して行くことになるわけです。
そして、それ程遠くない将来に次代の国際通貨システムを議論すべく1944年にブレトンウッズで行われたような会議を開催しなければならない局面を迎えるのではないかと思われますが、私は一国の通貨を基軸とする国際通貨体制を今後も敷いて行くというのは最早不可能ではないかと考えています(参考『国際通貨体制史におけるドル基準通貨体制』)。
結局は上記ブレトンウッズ会議での英国国益の代表者、ジョン・メイナード・ケインズが提唱した「バンコール」というような人工的世界通貨を創出するか、あるいは世界の主要通貨を加重平均で算出したSDRのようなバスケット型世界通貨を創出するという形に恐らく落ち着くのではないかと思います。
勿論、基軸通貨という役割を夫々が担うのではなく複数カレンシーの世界になる可能性も残されているわけですが、仮にそうなった場合、金というのはやはり重要なものとして認識され続けることになるでしょう。
この21世紀においてはアジアが様々な意味で大きな可能性を残す地域とも言えるわけですが、中国についてはインフレ圧力に押され段々と元の弾力化を実施し始めており、昨日のUSD/CNYを基準として此処の所の動きを見れば、半年前からは約3.0%、3ヶ月前からは約1.7%、1ヶ月前からは約0.9%の上昇というように元がドルに対してかなり強くなってきています(※3)。
先月も本ブログで述べた通り、中国としては元というものを国際通貨体制において重要な地位を占めるよう持って行きたいわけですが、取り敢えずは今後想定される上記SDRのようなバスケット型の世界通貨創出に当たって、何としてもそこに食い込みたいと考えていることでしょう。
そうした中で日本円はと言えば、政策当局者の極めてお粗末な為替介入もあって益々強くなる傾向にあるわけですが、日本は財政上大変な赤字であるとは言え国債の95%が国内で消化されており、それが個人金融資産とある意味でバランスされているという事実がある限りにおいて、今後も円が弱くなることはないでしょう。
但し、その一方で認識せねばならないのは、高齢化の進行及び可処分所得の減少を主因とした貯蓄率の大幅低減が齎されつつあることで何れ大変な事態に陥る可能性が高いということであって(添付グラフ「Household saving rates」参照:日米の貯蓄率の推移–1993年~2012年)、この辺りの話については先月26日の『歴史的転換期における日本と世界』と題したブログで言及したことを下記引用する形でご紹介します。

【今年1月にも本ブログでご紹介した通り、日本の「公的債務残高の国内総生産(GDP)比率は既に先進国中最悪の180%に上るが、大きな制度改革がなければ、この比率は20年には230%に達する」とも言われ圧倒的高水準であるにも拘らず(※4)、これまでの日本というのは高い貯蓄率であったが故に国債のほぼ全てを国内で消化出来たのです。
OECD Economic Outlook No.89」によれば、私が学生の時分には大体20%以上をキープしていた日本の貯蓄率は1993年には14.2%程度にまで下がってきて、更にそこから漸減し2007年には2%台となったわけですが(2005年:3.9%、2006年:3.8%、2007年:2.4%、2008年:2.2%)、リーマンショックを境に2009年以降多少上昇してはいるものの長期的低下傾向であることには何ら変わりありません(2009年:5.0%、2010年:6.5%、2011年:7.9%)。
こうした状況というのが何を意味しているのかと言えば、1476兆円の個人金融資産(2010年度末)と892兆円の長期債務残高(2011年度末)とのバランスが崩れた時には、外国人に日本国債を買って貰わねばならないような状況に陥って行くということであり、そうなれば金利は上昇し国債価格は暴落するということになるわけです。】

Household saving rates

人口動態というのは短期的に変化するものではなく、上述した個人金融資産と長期債務残高のバランスは時間の問題で必ず崩れることになるわけですが、そうした時に日本国債の格付けが大きく引き下げられることになるでしょうから、何時までも借金を増やし続けるというのは不可能なのです。
今回の民主党代表選を巡り各候補者の復興増税に関する考え方が昨今報道されていますが、私は必ず復興債のみで財源を賄うべきだと考えており、復興増税には反対しています。
勿論、どこかの時点で財政健全化は出来るだけ速やかに図らねばなりませんが、今正に復興させねばならぬ時に税を上げるなどというような非常識なことはすべきではなく、流石の野田財務相においても上記代表選を考慮して「あまりにも来年が景気が悪そうだったら増税はできない」というように軌道修正を行うといった具合なのです。
私は今週火曜日に「現時点での増税は大反対です。増税論者は往々にして増税がもたらす経済成長へのマイナス効果(それにより税収が減る)を忘れがちです。先ず経済復興その後財政再建です。」とtweetしましたが、増税論者よる財政再建論というのは現況を不変として展開される傾向が強くあると言えましょう。
こうした考え方により大失敗したのが橋本龍太郎政権であって、下記の通り安倍晋三氏も私と同じような見解を述べていますが(※5)、橋本氏は財政再建の必要性を唱えて増税を実施し、折角浮揚し掛かっていた当時の日本経済を壊してしまったのです。

『日本では10年以上も深刻なデフレが続いている。震災による電力不安もある。こんな状況下で増税に踏み切れば、国民の消費マインドは冷え込み、企業は国外に逃げ出し、日本経済に甚大なダメージを与える。まさに自殺行為。経済が破壊されたら、復興も財政再建もあり得ない。
阪神大震災後の景気回復軌道にあった97年、橋本龍太郎政権は消費税増税に踏み切った。消費税収こそ当初増えたが、国民負担の増大で日本経済は腰折れし、所得税収と法人税収は激減した。この苦い教訓を忘れてはならない。』

今というタイミングにおいて最も重要なのは今後発生してくる復興需要というものを如何に経済成長に生かして行くのかを考えることであって、増税論を持ち出すような人間は経済というものを何も分かっていないど素人ではないかと思っています。

以上、『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』と題して長々と述べてきましたが、何れにしても来週誕生する日本の次期総理には妥当な政策遂行は元より、強い意志と決断力、そして交渉力を有する人物が就くことが望まれます。
そしてまた、今週火曜日掲載の『民主党代表選と小沢一郎』というブログで提起したように、新リーダーが政官財癒着の社会経済システムを抜本的に刷新し、新しい日本創造に向けて指導力を発揮されることを切に願っています。

関連記事
歴史的転換期における日本と世界
日本国債格下げをどう見るべきか

参考
※1:ロシアとブラジル、自国通貨での貿易決済を検討=露中銀
※2:金相場、史上2位の下落幅―高値警戒感台頭で
※3:人民元:対各種通貨の時系列データ
※4:2011年1月28日日本経済新聞朝刊
※5:増税しなくても被災地復興の策はある




 

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