北尾吉孝日記

『米欧中現在の情勢』

2011年10月5日 18:40
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本ブログで幾度となく指摘し続けていることですが、米国及び欧州の抱える問題といったものが同時的に顕在化してきています。
そしてまた、リーマンショック以後も堅調であった新興諸国においてもインフレ率が相当高くなってきているというような中で、今や世界経済は大変厳しい状況に直面しています。

米国については言うまでもなく、やはり議会と大統領との間の一つの確執とも言うべきもの、つまり『上院と下院の民主党と共和党の議席数の「ねじれ」現象』があるが故にオバマ大統領も思うような経済刺激策を打つことが出来ません(※1)。
本ブログで何度も述べている通り、特に此間の「米債務上限問題」については擦った揉んだした挙句、何とか与野党合意に漕ぎ着けたわけですが、最早これ以上はそう簡単に財政赤字を増やし得ないというような状況にきています。
そうした中で現実の景気というものが全く回復してこないわけで、例えば失業率一つを見ても依然改善は見られません(参照「National Unemployment Rates, 2008 – 2011」)。
一言で言えば、米国において「日本化」が急速に進んでいるということですが、先月7日の『「日本化」する世界と野田内閣に対する政策懸念』というブログでも下記指摘したように、米国の金融政策というのは機能不全となり、嘗ての日本と同じ様な「Liquidity Trap(流動性の罠)」に陥っているわけです。

【最近は「欧米経済の日本化」ということが盛んに論じられており、先月17日の日本経済新聞「日本化する欧米経済(大機小機)」においても「現在欧米で進行中の経済危機は、20年前の日本で起きたことの再現」であるというように指摘されています。
即ち、今年7月に『岐路に立つ日本』と題したブログでも下記の通り述べましたが、例えば、幾ら金融緩和を行なってみても全くと言って良いほど設備投資や民間消費が反応しないという所謂「Liquidity Trap(流動性の罠)」に陥った状況が長期に亘って続いているということであり、欧米経済というのは一種のデフレ状況というものに入ってきた可能性があるのではないかというように思える節もあります。】

米国の「GDPの7割を占める個人消費」というのは株式や住宅の価格上昇といった資産効果により長年牽引されてきたわけですが(※2)、そうした状況が全く現出せず貯蓄率が増加するのみで、それ故結果として経済成長率が低下してくるのです。
そして更には、今年1月に『MENA地域の情勢をどう見るべきか』と題したブログでも下記の通り述べましたが、QE2実施で様々な資源・食料価格の高騰等がグローバルに齎されたことにより、今米国がQE3に踏み切るのが中々難しい環境下にあるということもまた考慮せねばならず、そうした現況においては言うまでもなく景気浮揚というのが困難を極めるわけです。

【ある意味米国のQE2(Quantitative Easing 2:量的緩和第二弾)後に特に顕著になってきた世界的現象とは、所謂エマージングと言われる国に膨大な投機資金が流入しているということです。
そしてその投機資金がどこに流れ込んでいるのかと言えば、一つは、食料分野です。例えば中国は食料関連企業の株式を取得するということだけではなく、食料自体をどんどん抑え始めてきているという状況です。
中国やインドなどが食料の確保に積極的な動きを見せているのは、一つはその国自体の経済発展の中で様々な食に対する実需が増加しているという事実が既にあるからです。】

其処へ持って来て欧州がどうかということについては、先々月26日の『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』というブログから引用する形でまずは以下述べて行きたいと思います。

【欧州統合通貨ユーロについても本ブログでこれまたずっと本質的問題点について指摘してきたわけですが、先月25日にも『ギリシャのユーロ離脱は時間の問題か』と題したブログ冒頭で「統一為替レートを使いながらも財政主権がメンバー国に夫々あるという根本的矛盾を内包している以上、その崩壊は時間の問題ではないか」と述べた通り、その基本的矛盾が故に今後も問題を起こし続け、その度に一時的な問題先送りを繰り返して行くことになるのかもしれません。
現在のような危機的事態に直面しても尚、ある意味での財政統一化を図るユーロ圏共同債発行に至らなかったのは、結局各国ベースで政治的決着を得られず財政統一化の実現が中々難しいということを物語っているのです。
ユーロ圏の将来というのも未だ見通し難い状況にあるわけですが、私見を述べるならば、金融・財政・通貨の全てをユーロ圏で一本化して行かなければ、ユーロというコンセプトは生き残り得ないのではないかと私は捉えています。】

メンバー各国間において経済成長率も潜在成長率も大きく異なっており、現在の財政状況についても夫々違っているのですから、そうした中で独自の為替により何とかバランスをとろうというのも不可能なことです。
結局「10年以上前から欧州委が検討してきた」上述のユーロ圏共同債のようなものが「脚光を浴び」、そうしたものを発行するしか手立てはないというような形でほぼ落ち着いてきています(※3)。
しかしその一方で、各国首脳陣は皆選挙においてより厳しい局面に立たされるという状況になっているわけですから、例えばユーロ加盟国の中で最も負担を被ることになるドイツは「断固反対の立場」といった具合で(※4)、これまた大変困難な状況に直面しているのです。
従って、ユーロという制度自体が抱える基本的矛盾に対し何らかのメスを入れるための方策を見出すべく、今後もメンバー各国間で議論を重ねて行く必要性があるわけですが、そうした中で根本的進展が図られるということがなければ、現況の深刻な事態が収束へ向かうことはなく必ず再発を繰り返して行くことになるでしょう。

そしてまた、高インフレに悩まされる新興諸国がどうかと言えば、例えば中国についてはインフレ圧力に押され段々と元の弾力化を実施し始めているのは周知の通りですが、元高進行のペースは極めて緩慢でインフレ阻止のために最も有効な措置である為替政策は有効なものとはなっていません。
そうした中で、先月6日『新興国株式市場の動向について』と題したブログでも下記述べたように、中国は金利政策での対応を此処の所とってきましたし、その他の新興国においてもインフレ阻止に向けた様々な取り組みがなされてきたわけです。

【新興諸国においてインフレ圧力が非常に増して行く中で各国政府が金融引き締め政策を採ってきたということです。
中国で例言すれば、大手行に適用される預金準備率は「過去最高水準の21.5%」に達しているという状況ですし(※5)、また上記諸国においては過剰流動性を齎す投資資金流入を抑制すべく規制強化の動きも見られた】

そして現況はと言えば、先月末の日本経済新聞にも下記記述がありますが(※6)、中国を初めとしてインフレ抑制に相当努めてきた新興国によっては利上げ打ち止め感というようなものも大分出始めてきていますし、ブラジルなどは8月末の金融政策決定会合において政策金利を12.00%へと0.50%引き下げ、凡そ2年ぶりの利下げに踏み切っているのです(※7)。

『中国人民銀行(中央銀行)は30日、四半期に一度の金融政策委員会を同日までに開いたと発表した。足元の物価情勢について「インフレ圧力はやや緩和している」とし、上昇に歯止めがかかりつつあるとの認識を初めて表明した。ただ「物価は依然として高水準にある」とも指摘し、現在の金融引き締め政策を継続する方針を強調した。
(中略)中国の8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.2%上昇。伸び率は7月の6.5%をピークに鈍化傾向が出始めている。人民銀が「インフレ圧力の緩和」に初めて触れた背景には、CPI上昇率の鈍化が今後も続くとの読みがあるとみられる。
中国経済は国内総生産(GDP)増加率が今年4~6月期まで2四半期連続で前の期を下回り、緩やかな減速局面に入っている。物価上昇に頭打ち感が出てきたことで、市場では利上げ打ち止めへの期待も強まりつつある。』

そうなってきますと、新興国経済は少しずつでも回復してくる可能性があるわけですが、その一方で先進国の資金が新興国に流れているというように相互依存関係がそこにあることを忘れてはなりません。
例えば中国の輸出であっても、先進国の経済状況が悪化してきている中では停滞して行かざるを得ないようなことになるかもしれず、そうすると中国の経済成長率もスローダウンして行く可能性があるわけです。
従って、一方ではインフレ抑制に向けた金融引き締めが求められ、片一方では景気減速への対応を迫られるというようなことで、各国政府とも中々難しい経済運営の舵取りになっています。

概論としては上述した通りですが、米国と中国については以下細論して行きたいと思います。
米国経済の「日本化」が急速に進んでいるというのは上述した通りですが、まずは「日本化」の具体的事象を考えるべく、先月27日の日本経済新聞『「米国の日本化」の背景(大機小機)』という記事の一節を下記引用してご紹介します。

『この背景を日本側から論じる際の出発点は、「失われた10年」の原因は何かという所まで遡るように思う。当時の日本は、バブル崩壊に伴うバランスシート調整(=企業の過剰債務、銀行の不良債権問題)とデフレという2つの困難に直面していた。』

私自身も上記「バランスシート調整(=企業の過剰債務、銀行の不良債権問題)とデフレ」というのが「日本化」の具体的事象であるというように捉えており、後者については米国もそのような方向に行くのではないかという感がしています。
唯、前者について言えば、米国企業の殆どというのはキャッシュが大幅に増えており、「米国市場では4―6月期以降、相場の調整入りと軌を一にするように自社株買いが増え、リーマン・ショック前の2008年1―3月期以来の高水準に達している」わけですから、企業のバランスシートというのはそれ程痛んではいないのです(※8)。
また、米国銀行のバランスシートについても「リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻後に十分強化されており」比較的健全な状況にあるわけですから(※9)、一概に「日本化」と言っても日米の状況にはかなりの相違があると認識していますし、日本のように米国も「失われた20年」に突入するのかと言えば、少し違うように思っています。
更に言うと、少子高齢化問題に直面し人口減少時代を迎えている日本に対し、米国の推定人口というのは年々0.9%程度増加していますが(参照「Intercensal Population Estimates: 2000 – 2010」)、その主因は勿論移民の流入にあるということで、積極的な移民政策により米国は活力ある状況を創り出しています。
そしてまた、例えば80年代の米国というのは、日本の製造業にその地位を奪われたり、あるいはロックフェラーセンター等の米国を象徴するようなものが日本勢に次々と買収されたりと、日本にこてんぱんに負かされるという状況で大変厳しい時代でありましたが、90年代に入ってインターネットやバイオテクノロジーといった所謂「ポスト・インダストリアル・ソサエティ(脱工業化社会)」に相応しい新産業を見事に興してきたというように米国はそうした面で非常に長けているわけです。
例えば、今PCに代わってスマホやタブレットといったものが主流になってくる中でそれらに対する需要は当面非常に強く出てくると思われますが、今後色々な意味において世界中で経済の活性化に貢献して行くと思われるそうしたものについても結局米国発ということなのです。
従って、上述した点から考えてみても、日本とは様々な面で特質を異にする米国という国が「失われた20年」を経験するというようなことには恐らくならないのではないかと私は見ています。ただ、現在のアメリカの問題もそんなに早くは解決しないとは思います。
勿論、上述した先々月26日のブログ等々においてこれまで何度も指摘し続けているように、リーマンショック以降、ドルを基軸通貨とするパックス・アメリカーナの終焉の序章が始まり、所謂ブレトンウッズ体制が崩壊への道を辿っているというのは確かなことでありましょう。
しかしながら、米国自体が日本のように凋落して行くかと言うとそうではなく、米国の潜在成長率は低下しそれ程高くはありませんが、日本のようにデフレ状況がずっと続いて行くというような形にはなり得ないと私は認識しています。

「潜在成長率は9%前後とみられている」中国について言えば(※10)、基本的にはまだまだ経済成長率は高く推移するというように見ており、多少のスローダウンは見込まれますがそれ程大きなものとはならないでしょう。
寧ろ中国が今後も警戒すべきは、今年2月の『チュニジア発民主化ドミノの行方』、及び今年3月の『激変する世界情勢とSBIグループの在り方』というブログでも下記のように指摘した通り、やはり「ジャスミン革命」のような民主化のうねりというものが中国国内においてどのような展開を見せて行くのかということです。

【今私が一番危惧しているのは上述したような世界規模でのうねりの中、中国にこの民主化の動きが伝播し嘗ての「天安門事件」のようなことが再び起こらないかどうかということです。
中国においては天安門事件の頃から民主化の動きがずっと燻り続けてきており、それがあの劉暁波氏によるノーベル平和賞受賞により表面化したわけで、今日また上記民主化の動きの中でどう展開して行くのかについては注視しなければならないことだと思っています。】
【一昨日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の「中国、反政府デモ抑えるためソーシャルメディアの規制を強化へ」という見出しの記事にもあるように、中国政府は厳しいインターネット検閲を実施しているわけですが、今の中国はそのようなことで情報の拡散・流入が阻止されるという世界では最早ありません。
現在中国は国をかなりオープンにしており、多くの中国人が海外にどんどん渡航し、多くの外国人が入国しているわけですから、そのような観点から見ても様々な情報が中国国内に流入してくるような状況にあるわけです。
それ故中国政府も上記うねりが中国へ本格的に伝播することに対し神経を尖らせているわけですが、仮に中東諸国で見られたような動きに発展するならば、中国政府は再び大規模な軍隊による武力鎮圧に乗り出すことと思われます。
また基本的には中国が民主化されるのは結構なことだと思われますが、昨今の世界的潮流の中で現在の政治体制が崩壊するということにでもなれば、世界経済に対して相当大きな打撃を少なくとも短期的には齎すことになるということについても確りと認識すべきではないかと私は考えています。】

先月中旬、私はサマーダボスに参加すべく大連にいたわけですが、その時上述した点について我々からしてみれば大変な驚きを覚えるような言葉が温家宝首相自身の口からプライベートトークの質疑応答の過程で大勢の出席者を前に発せられました。
即ち、端的に述べますと、所謂国民の権利としての中で参政権の問題や討論の自由といったことを想像させるような「政治の民主化」に関連する発言が今回なされたわけですが、これまでの凡その主体が汚職摘発やインフレ撲滅というものであったことから考えれば、その意味は非常に大きいと言えましょう。
こうした政治の民主化に向けた動きというのは、例えば今年7月に「中国の高速鉄道脱線事故」という信じ難い事故が起こり、その際に「鉄道当局が、いったん地中に埋めた事故車両をネット上の激しい批判などを受けて、その後、掘り返すという」対応を見せてから僅か2ヵ月後(※11)、今度は「270人以上が負傷した」と報じられる大変な地下鉄追突事故が上海市で起こったということもあって(※12)、やはり国民の不満というものが相当噴出してきていることにも起因するのでしょう。
従って、上述の政治の民主化といったことが来年以降の習近平新体制の下で進展するのか否かというのが重要な論点として挙げられるわけですが、今回の温家宝首相の発言を聞いての印象から言えば、私自身は進めて行かざるを得ないのではないかというように感じています。

関連記事
日本の移民政策と国際送金事業の展開について
待望せられる一国の指導者としての人物
終焉に向かうパックス・アメリカーナ

参考
※1:【相場展望】「一喜一憂」程度なら余裕のうち!「十喜十憂」となれば・・=浅妻昭治
※2:米4~6月のGDP確定値、前期比1・3%増…上方修正
※3:共同債、導入前向き=財政統合に「有利」-欧州委員長
※4:欧州との結びつきを考え直すドイツ
※5:中国:預金準備対象に証拠金を追加へ、インフレ抑制で-エコノミスト
※6:中国人民銀「インフレ圧力やや緩和」 引き締めは継続
※7:8月31日発表(現地時間)のブラジルの利下げについて
※8:今、誰が株を買うべきか
※9:PIMCO、米銀行債の「痛みの限界」にもひるまず-クレジット市場
※10:「国進民退」が加速する中国経済/柯 隆(富士通総研経済研究所主席研究員)
※11:上海地下鉄事故 ちぐはぐな対応 NHKニュース
※12:上海地下鉄事故の原因調査本格化、人為ミス指摘の報道も




 

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