北尾吉孝日記

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昨今、格差・不平等に関する議論が世界中で熱心になされ、格差是正等を求めるウォール街発の抗議デモが世界各地に飛び火するといった事態にもなっていますが、富の偏在、あるいは職の偏在というのは最近特に拡大してきているというように私は感じています。
考えてみますと、今年1月『MENA地域の情勢をどう見るべきか』と題したブログでも下記の通り指摘しましたが、「ジャスミン革命」と言われる民主化のうねりというのも、ある意味仕事が無い若者達が中心となってやはり起きてきたものであろうと思うわけです。

【社会問題が起き始めてきたという背景には一体何があるのでしょうか。
まず第一にやはり貧富の差という要因があると思われ、中東産油国は言うに及ばず、北アフリカ諸国においても貧富の差が非常に大きいということが現況の一因であると私は考えています。
そして更にはこの地域における若年層人口の急増と、それに伴い深刻化する失業問題が上述の貧富の差を拡大している背景としてあります。
この地域における30歳未満の若年層は人口の大体6、7割を占めており、学校を卒業しても職が簡単には見つからないような状況で、例えばチュニジアでは「年間8万人以上の大卒者のうち2万~3万人」は就職出来ていません(※1)。
昨年夏に発表されたILO(International Labour Organization:国際労働機関)のデータによれば(※2)、世界で最も若年層の失業率が高いのは正にこの地域であり(中東:23.4%、北アフリカ:23.7%-2009年末時点)、その意味では社会不安が起き易い状況にあるとも言えるわけです。】

先月25日の日本経済新聞朝刊「縮む中間層(下)雇用拡大こそ格差解消策 不平等、経済に悪影響(経済教室)」という記事でJohn Martin氏(OECD雇用労働社会問題局長)も下記のように指摘していますが、格差拡大というのは何も中国だけの問題ではなく、米国や日本、あるいは欧州も含めた世界的な問題に今なってきているというように認識すべきです。

『経済協力開発機構(OECD)加盟国のほぼ4分の3に当たる国では、ここ四半世紀で貧富の差が拡大した。
(中略)現在は世界で2億人を超す人々が失業している。長期失業と若年層の失業が増える中で、雇用危機は社会的弱者にとって特に痛手であり、所得分布を一段と偏らせる方向に作用する。
(中略)大半の国では、富裕層の所得が低・中所得層を大幅に上回ったことが、ここ20年ほどみられる不平等深刻化の主因となっている。』

例えば米国の状況を見ますと、先月24日の日本経済新聞朝刊「政策の偏り、デモ招く(グローバルオピニオン)」という記事でJoseph E. Stiglitz氏(コロンビア大学教授、2001年ノーベル経済学賞受賞者)が、また『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(2011年11月号)の「ブロークン・コントラクト―― 不平等と格差、そしてアメリカンドリームの終焉」と題した論文でGeorge Packer氏(ニューヨーカー誌スタッフライター)が格差拡大の推移と原因に関し下記の通り指摘していますが、何れにしても行過ぎた格差拡大というのが今米国社会を至る所で歪め社会基盤の不安定化を齎しているというわけです(参考『現実化してきたパックス・アメリカーナの終焉』)。

Joseph E. Stiglitz氏:『デモの背景には不平等や格差拡大という、より広い問題がある。いま米国では上位1%の富裕層が、所得全体の4分の1を稼ぎ、富の40%を占める。25年前はこれが12%と33%だった。格差は大きく広がった。
原因はさまざま。グローバル化で高い技能を要しない仕事は低賃金の国に流れた。企業が生産性を高め、製造業の労働需要も減った。米国固有の企業文化と労働組合の弱体化が問題に拍車をかけた。経営者は自らの報酬を増やすため従業員をリストラした。
何よりも政策の影響は無視できない。金融規制緩和を筆頭に企業や銀行の利益を優先した政策が相次ぎ、税制面でも富裕層が収入を依存するキャピタルゲインへの減税で、経済格差はさらに広がった。』
George Packer氏:『格差と不平等を示す圧倒的な証拠がある。
1979年から2006年の間に、(課税・インフレ調整後の)アメリカの中産階級と貧困層の年間平均所得はそれぞれ21%、11%伸びただけだ。一方、富裕層トップ1%の所得は256%増大し、国民所得に占めるシェアも3倍の23%に達した。これは1928年以降、もっとも高いシェアだ。富裕層トップ1%の所得が国民所得に占めるシェアの推移を示すチャートをみると、(1960-70年代の)ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター政権期はほぼ横ばいをたどっているが、その後、レーガン、父ブッシュ、クリントン、ブッシュ政権期に急上昇している。
(中略)決定的な要因は、税制、予算配分、労働法、規制、選挙キャンペーンへの寄付ルールなど、政治と公共政策領域にあった。
(中略)だが、エリートのマナーとモラルが変化したことが、公共政策以上に大きな要因だった。かつて行動をためらったこと、考えさえもしなかったことを、いまやエリートたちは公然とやってのけるようになった。
(中略)昨今では、企業エリートが途方もなく巨大なサラリーを手に入れる一方で、他の人々が生活に困窮していることを伝える記事で新聞はあふれている。』

所得格差の拡大が何故起きたのかについては上述したように様々な観点から諸説ありますが、大きく言って次の4点が特に重要ではないかと私は認識しています。
第一にグローバリゼーションの進展が雇用動向に及ぼす悪影響、即ち本ブログでも幾度も指摘してきた通り、今日本でも益々進行している産業の空洞化が挙げられます(参考『進む産業空洞化に対する懸念~家電「純輸入国」に転じた日本~』)。
つまり、グローバリゼーションが進展する中で雇用の機会は奪われ、近代経済学にある「生産要素価格均等化法則-グローバル資本主義体制の一要素である自由貿易が貫徹されていれば生産要素価格は均等化されるという法則」に沿う形で賃金というのは低い方に鞘寄せされ減少して行くことになるのです(下記参照:2009年7月3日北尾吉孝日記『資本主義の将来』より抜粋)。

【例えば生産要素価格の中で最たる人件費を見ますと、中国の人件費は日本より遙かに安いので日本と中国で同じモノを作れば、輸送費を考慮したとしても当然ながら中国のモノの方が安くなります。従って、中国のモノが買われて日本のモノは売れなくなり、日本の雇用は失われて行きます。このような状況が進行する中で日本企業は生産拠点を中国に移転しますので日本の雇用自体が減少して行く一方で、中国では雇用が多少増加して行きますので中国の人件費が上がって行きます。即ち中国(低い方)の人件費が多少上がり日本(高い方)の人件費が下がると言う中で、生産要素価格(この場合では人件費)は低い方に鞘寄せされた形で均等化されて行くと言うことです。】

他の3点については上記記事においてJohn Martin氏も同じような指摘をしていますから、以下引用する形でまずは述べて行きたいと思います。

②:『情報通信分野などでの技術の進歩は、高度なスキルを持つ労働者に有利に作用してきた。高度なスキルを持つ労働者とそうでない労働者の所得格差拡大は、こうした事情を反映している。』
③:『規制改革や制度改正で雇用機会は増えたが、低賃金労働者が流入してきたため、賃金格差は一段と広がっている。多くの国で増えているパートタイム雇用では、労働契約が非定型であったり、団体交渉による協定が適用されなかったりすることも、所得格差の拡大につながった。』
④:『賃金以外の所得で不平等が一段と進行している。特に顕著なのは資本所得で、OECD加盟国の3分の2では、資本所得が労働所得以上に格差拡大を助長している。』

③について補足しますと、本ブログでも度々触れてきた通り、特に日本などは規制改革や制度改正を実施しアルバイトや派遣、契約社員等の「非正規雇用」を大幅に増やして来ましたが、所謂「同一労働同一賃金」というような形ではないため格差というものが広がって行ったという部分もあるのではないかと私は考えています。
また④については、昨今のようなマーケット状況下では必ずしもそのように言い得ない側面というのも勿論あるとは思いますが、持てる者が益々金持ちになって行くという傾向が出来ており社会を硬直化させてきているという事実もまたあるでしょう。

上述してきたような格差広がる不平等な世界において、今『「我々は99%」――1%の富裕層を批判する反格差デモのスローガン』を掲げた抗議デモが米国ウォール街で起こり、世界各地に飛び火するといった事態になっています。
上記記事においてJoseph E. Stiglitz氏も下記の通りコメントしていますが、「我々は99%」というプラカードを持っている人々の言い分を聞いていますと、「自分達はフェアに扱われてない!」「自分達は一生懸命に働こうと思っているのに働く機会を与えてくれない!」「働こうと思っているのに教育の機会が与えられていない!」というようにフェアではないということを問題視する人が非常に増えてきています。

『最近の調査では米国民の半数近くは自国の経済制度がフェアでないと感じている。努力する者が報われる「希望の大陸」のイメージは崩れた。これ自体が成長を妨げる要因だ。
キーワードは「フェアネス(公平性)」。上位1%の、1%による、1%のための政治を見直す必要がある。』

そしてまた「99%」と称する人々は、所得を再配分する最も直接的な手段である租税と社会保障給付といったものが上手く機能していないのではないかと指摘し、所得再分配機能も見直すべきであるというような主張も展開しているわけですが、当該事項の政策効果についてはJohn Martin氏が上記記事において次のように述べていますので下記引用してご紹介します。

『一般に、現金給付と所得税により、所得格差を約3分の1(労働力人口に限れば約4分の1)縮小できる。
(中略)所得再配分は現金給付だけで行われるわけではない。政府は現金給付と同程度の予算を、教育、保健、介護といった公共サービスに投じている。そうしたサービスに日本が使う予算は、国内総生産(GDP)の10.12%にも達する。これらのサービスの主目的は所得の再配分ではないが、それでも所得格差を5分の1程度縮小する効果がある。』

以上、『格差広がる不平等な世界』と題し様々な観点から論じてきましたが、格差問題というのは今後益々巨大化し世界中を覆い尽くす大問題にもなり得るものですから、日本も含め世界各国は更なる格差拡大の進行を食い止めるべく、まずは当該問題の深刻性を確りと認識すべきではないかと私は思っています。

参考
※1:チュニジア:政権崩壊 アラブ諸国、波及懸念 強権体制、貧富の差共通
※2:若年層の失業者8070万人 金融危機直撃、ILO調査




 

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