北尾吉孝日記

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先週水曜日、米誌タイムは『2011年のパーソン・オブ・ザ・イヤー(Person of the Year、今年の人)に、アラブ世界に変革をもたらした民主化要求デモや欧米での反格差社会デモに敬意を表し、「プロテスター(抗議する人)」を選んだ』わけですが(※1)、要するにそれだけ「プロテスト(抗議する)」というのが多い年であったということでしょう(下記参照:2011年12月15日MSN産経ニュース『「今年の人」に「抗議者」選出 米タイム誌、勇気を称賛』)。

『「プロテスター」たちは今年初め、北アフリカのチュニジアやエジプトで独裁政権を打倒。シリアでも現在、死者数が5000人超となる中、執拗(しつよう)に反政府デモを続けている。
(中略)一方、米ニューヨークのズコッティ公園で9月に始まった反格差社会デモは瞬く間に世界中に飛び火。モスクワでも下院選での不正疑惑に抗議する異例の大規模集会が開かれるなど、「プロテスター」たちは存在感を示した。』

上記関連で言えば、例えば所謂「アラブの春」に関しては今年3月の『激変する世界情勢とSBIグループの在り方』というブログ等で私も度々述べてきましたし、あるいは「ウォール街の抗議デモ」については先月8日のブログ『格差広がる不平等な世界』等で指摘してきた通りです。
つまり中東・北アフリカで起こったのは、数十年に亘って一人の独裁者が富の圧倒的なものを支配し、そしてまた一部特権階級のみが裕福に生活をしていたという状況に因るものですし、あるいはウォール街発の抗議デモが世界各地に飛び火するといった事態になったのは、富の偏在及び職の偏在という状況が各国で昨今特に拡大してきたことで、今や中産階級以下になってしまう人達が世界中でどんどん増え始めているという現実に起因するものです(下記抜粋①~④参照)。

①【例えばムバラク前大統領については約5兆8000億円の私財を蓄え込んでいたという報道があったり(※2)、あるいはリビアの最高指導者カダフィ氏についても英国内だけで約3兆3870億円の資産があると報じられていますが(※3)、これらは正に「天下は一人の独裁者の為にあるのではなく国民の為にある」という心を失った指導者の暴挙としか言いようがありません。】(2011年3月2日北尾吉孝日記『激変する世界情勢とSBIグループの在り方』)
②【経済協力開発機構(OECD)加盟国のほぼ4分の3に当たる国では、ここ四半世紀で貧富の差が拡大した。
(中略)現在は世界で2億人を超す人々が失業している。長期失業と若年層の失業が増える中で、雇用危機は社会的弱者にとって特に痛手であり、所得分布を一段と偏らせる方向に作用する。
(中略)大半の国では、富裕層の所得が低・中所得層を大幅に上回ったことが、ここ20年ほどみられる不平等深刻化の主因となっている。】(2011年10月25日日本経済新聞朝刊「縮む中間層(下)雇用拡大こそ格差解消策 不平等、経済に悪影響(経済教室)」)
③【デモの背景には不平等や格差拡大という、より広い問題がある。いま米国では上位1%の富裕層が、所得全体の4分の1を稼ぎ、富の40%を占める。25年前はこれが12%と33%だった。格差は大きく広がった。】(2011年10月24日日本経済新聞朝刊「政策の偏り、デモ招く(グローバルオピニオン)」)
④【格差と不平等を示す圧倒的な証拠がある。
1979年から2006年の間に、(課税・インフレ調整後の)アメリカの中産階級と貧困層の年間平均所得はそれぞれ21%、11%伸びただけだ。一方、富裕層トップ1%の所得は256%増大し、国民所得に占めるシェアも3倍の23%に達した。これは1928年以降、もっとも高いシェアだ。富裕層トップ1%の所得が国民所得に占めるシェアの推移を示すチャートをみると、(1960-70年代の)ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター政権期はほぼ横ばいをたどっているが、その後、レーガン、父ブッシュ、クリントン、ブッシュ政権期に急上昇している。】(フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年11月号「ブロークン・コントラクト―― 不平等と格差、そしてアメリカンドリームの終焉」)

2011年、世界各国で起こったのは、そうした状況に対し最早プロテストせざるを得ないというものであったのだろうと私は考えています。
その一方で中国はと言えば、プロテストしたい人間は沢山いるのでしょうが、昨今多少のスローダウンはあるにしても10%程度の経済成長率で推移している限りにおいてはプロテスターの数というのは知れています。
常に言い得ることですが高度成長を遂げている中では格差の歪といったものは表面化してはきませんが、一度そうした状況が崩れるということになれば、一気に色々な問題が現出しプロテスターの数は急増して行くことになるでしょう。
従って、中国という国は経済成長を持続出来なければ様々な意味で非常に危険な状況に陥ってしまうわけで、それは例えば上述した「アラブの春」の伝播でもあるでしょうし、ひょっとしたら北朝鮮発の民主化の動きかもしれませんが、そうしたことを受け中国がどうなるのかについて考えるならば、やはり中国政府として採るべき政策は成長政策以外に何もないというようになるわけです。
中国が10%近い経済成長を今後も維持し続けねばならないということで更に言えば、今年2月に『中国の今後最大の課題』と題したブログで下記述べた通り、学校教育や社会保障といったものを含めると6~7倍とも言われる内陸部と都市部の所得格差の是正の為に「農村部の都市化」が急がれます。

【所謂農村人口というものを捉えるべく総人口に対する都市人口の割合というのを見ますと、1900年当時中国では大体25%であったと言われています。
それが今や凡そ45%となり、そしてこの新しい都市化に向けた革命を終える2030年には恐らく70%を超えてくるであろうと推測されています。
現在、中国の都市部と農村部の所得格差は3.5倍以上あると言われていますが、この都市化を押し進めることによって格差を無くし、そして社会不安に繋がるリスクというものを大幅に減少させることこそが中国の今後最大のテーマであると私は考えています。】

また中国は五十超の民族を抱える多民族国家でありますから、そうした意味でもまずは都市化を徹底推進する必要があるわけですが、私に言わせれば総人口に対する都市人口の割合を2030年に70%に持って行くとしているけれども前倒しで実現するぐらいのことを考えるべきではないかと思うのです。
2012年、欧州問題が燻り続けもしかしたら爆発してしまうかもしれないというような状況にもなるでしょうから、中国としては上述した今年2月のブログの下記引用にもあるように外需に頼ることなくまずは内需を大きく喚起するということを引き続き推し進めるべきでしょう(参考:2011年11月29日北尾吉孝日記『ユーロ崩壊は時間の問題か』)。

【中国は2008年9月の「リーマンショック」後、世界恐慌を未然に防ぐべく内陸部分に重きを置いた内需拡大のために4兆元(約50兆円)という金を使ったわけですが、今後もこの都市化に向けた流れの中でその規模以上のものを使って行くであろうというように思われています。】

そして内需刺激策を強化して行こうという中ではやはりインフレが進行する可能性がありますから、昨年12月に『アジア各国の金融経済情勢~中国、インドネシア、ベトナム~』と題したブログ等でも触れたように為替管理を撤廃しインフレを抑えて行くべきではないかと私は考えています。

参考
※1:米誌タイムの今年の人は「抗議者」
※2:ムバラク前大統領:スイスで凍結の一家の総資産数十億円
※3:カダフィ氏資産、英国だけで3兆3870億円?




 

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