北尾吉孝日記

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昨日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」にも『消費増税、今国会で結論=野党に「決断」迫る―議員定数削減に全力―首相施政方針』という記事がありますが、ご存知の通り『演説で首相は「予算編成で毎年繰り返してきた対症療法は、もう限界だ」と述べ、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる必要性を強調。増税分は社会保障費として「すべて国民に還元する」と説明』しました(※1)。
先週金曜日の日本経済新聞朝刊「岡田副総理に求めること(大機小機)」でも下記のように指摘されている通り、今「社会保障と税の一体改革」と称して実現に動いている程度の消費増税を行ってみても基本的には「社会保障支出を賄い、財政健全化を成し遂げること」は難しいという議論は前々からあるわけで全て焼け石に水と言わざるを得ないというふうに私は考えています(参考:2011年12月16日北尾吉孝日記『少子高齢化時代における社会保障制度の在り方』)。

『野田佳彦首相は消費税増税をやり抜き民意を問うとして、衆院解散・総選挙も辞さない構えと伝えられる。しかし増税だけで増加する社会保障支出を賄い、財政健全化を成し遂げることはできない。したがって増税と同時に何を国民に問うかが問題となる。
増税(歳入改革)と同時に必要なのは歳出改革を断行し、成長力の強化によって税収増を図るという三位一体の改革である。このどれが欠けても財政再建の道筋は描けない。しかし現実には歳出削減努力は十分とは言い難く、日本経済も税収増どころか、空洞化による成長力のさらなる低下が懸念される状況である。
(中略)これまでの与党の歳出改革議論は、野党を増税法案審議のテーブルにつかせるためのまき餌にしかみえない。
(中略)一体改革はいまだ抜本改革にほど遠く、このままでは社会保障支出の増加に歯止めがかからず、消費税の5%どころか、止めどなき引き上げが必要になる恐れがある。』

そうした中で「藤村官房長官:消費税、将来的には10%超へ引き上げも必要に-会見」という記事にもあるように、今度は藤村修官房長官や岡田克也副総理が更なる増税の必要性を訴え始めるというような始末ですから最早開いた口が塞がりません。
今民主党が第一に為すべきは現行の「社会保障と税の一体改革」という焼け石に水程度の「改革」ではなく、あの2009年夏の政権交代時に民主党が公約として掲げた「税金のムダづかい」を徹底的に排除するということであり(※2/※3)、その部分に対してはこれまで全くと言って良いほど努力というものが為されていないのです(下記抜粋①②参照)。

①『もともと、不要な歳出を削って子ども手当などの新規政策の費用に充てることが民主党の政策の基本であった。それが政権を取った後は、既得権の厚い壁に遮られて見事に失敗し、税収の倍以上の一般会計歳出を賄うための増税が必要になった。その意味では、増税よりも、無駄な歳出削減というマニフェストを実現できなかった方に、より重大な責任がある。しかし現実には、消費税率の引き上げを主目的とし、それを誘導するために無駄な歳出増を容認する、逆立ちした状況となっている。』(2012年1月21日日本経済新聞朝刊「何のための消費税増税か(大機小機)」)
②<昨日の日本経済新聞記事「「社会資本」など17特会、11に削減 独法4割削減」にも下記記述がありますが、消費増税にどうしても踏み切るというのであれば議員歳費や議員定数の大幅削減等は当たり前のこととして、野田総理自身が野党時代に声高に主張していた所謂「天下り・わたり」というものの徹底廃止、即ちより大きな財源を生み得る無駄な独立行政法人の全廃を直ぐにでも実施すべきではないでしょうか(参考:YouTube「野田総理 マニフェスト 書いてあることは命懸けで実行」)。

『政府がまとめた独立行政法人と特別会計の改革案は身を切る行政改革に向けた一歩だ。だが、独法削減は4割にとどまり、目標の5割減は未達成。統廃合による歳出削減の規模も明示していない。消費増税の理解拡大につながるかは不透明だ。
(中略)独法には年間3兆円あまりの国費が流れ、17の特会の歳出規模は180兆円に上る。民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)でこれらの改革により子ども手当などの主要政策の財源を捻出するとしていた。しかし、藤村修官房長官は19日の記者会見で「今回は新たな財源を捻出することが目的ではない」とした。』>(2012年1月20日北尾吉孝日記『岐路に立つ日本と世界』)

そして野田総理は国民を恫喝するかのように「日本は財政改革を推進する必要があり、大幅に増加を続ける政府負債額をコントロールできなければ、ヨーロッパのように、これまで以上に問題に直面することになる」などと発言をしていますが(※4)、より根本的には消費増税に頼り切るのではなく自然増収を図るための経済成長戦略の立案・実施、そして徹底した行政改革による無駄の排除、及び様々な競争制限的な旧制度の徹底改革の推進といったことにまずは取り組むべきではないでしょうか(下記参照:2012年1月20日北尾吉孝日記『岐路に立つ日本と世界』より抜粋)。

<今後日本においては震災復興という大義の下で15~20兆円程度とも見られる多額の公的資金が「真水」として出て行くわけですから、今というタイミングにおいて最も重要なのは昨年8月『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』というブログ等でも下記指摘したように発生してくる復興需要を生かして日本経済の浮揚を齎し、遂にはデフレ脱却へと如何に導いて行くことが出来るのかを考えることであって、今の野田総理のように解散総選挙で政治空白にも繋がり得る増税論を持ち出し執着するということではないのです(参考:2011年12月8日北尾吉孝日記『見直されるか日本株』)。

【私は今週火曜日に「現時点での増税は大反対です。増税論者は往々にして増税がもたらす経済成長へのマイナス効果(それにより税収が減る)を忘れがちです。先ず経済復興その後財政再建です。」とtweetしましたが、増税論者よる財政再建論というのは現況を不変として展開される傾向が強くあると言えましょう。
こうした考え方により大失敗したのが橋本龍太郎政権であって、下記の通り安倍晋三氏も私と同じような見解を述べていますが(※5)、橋本氏は財政再建の必要性を唱えて増税を実施し、折角浮揚し掛かっていた当時の日本経済を壊してしまったのです。

『日本では10年以上も深刻なデフレが続いている。震災による電力不安もある。こんな状況下で増税に踏み切れば、国民の消費マインドは冷え込み、企業は国外に逃げ出し、日本経済に甚大なダメージを与える。まさに自殺行為。経済が破壊されたら、復興も財政再建もあり得ない。
阪神大震災後の景気回復軌道にあった97年、橋本龍太郎政権は消費税増税に踏み切った。消費税収こそ当初増えたが、国民負担の増大で日本経済は腰折れし、所得税収と法人税収は激減した。この苦い教訓を忘れてはならない。』】>

上記引用にもあるように日本という国は「税収の倍以上の一般会計歳出」及び「国と地方の借金を合わせた長期債務残高は2012年度末に937兆円程度に膨らむ見通し」ですから(※6)、端的に言うと今後例えば金利が1%上昇するだけで9兆円の金利負担増となり、それがまた国債発行を誘発するという悪循環に陥りかねないような水準に最早あるわけです(参考:2012年1月24日ブルームバーグ「国の借金は985兆円、11年度末-短期証券の発行減などで修正」)。
そうした状況下、今はゼロ金利の中で何とか辻褄を合わせて利払いを行っているわけですから、「社会保障と税の一体改革」と称して社会保障制度に関しても全く抜本的改革にならないようなことを掲げながら、何とか消費増税だけを実現しようというような意図があるのではないかというふうにしか私には見えないのです。
上述したように政権交代時の国民との約束等をまずは履行した上で、人口減少時代を迎えている日本において真に社会保障制度を改革しプライマリーバランス黒字化を実現して行くのには一体何%の消費税率引き上げが必要なのかという吟味も為されるべきでしょうが、そういったことも碌々せずに副総理に就任した人が「年金抜本改革に必要な財源は(15年に引き上げる消費税の)10%に入っていないから、さらなる増税は当然必要になる」などと愚かな発言をするのは全くナンセンスであると言わざるを得ません(参考:※7/2012年1月24日日本経済新聞「基礎的財政20年度黒字化、消費税6%分不足 一体改革実現でも」)。
これまで蓮舫氏や枝野幸男氏等により実施されてきた事業仕分けという子供騙しが殆ど無意味なことであったのは昨年10月のブログ『復興財源捻出の在り方』等々で幾度も指摘してきた通りですが、例えば昨年12月に「八ツ場ダム建設再開」が決定され、そして更には「コンクリートから人へ」の理念に反し来年度予算では「自民党政権時代にも凍結されていた整備新幹線が認められた」わけですから、現政権が無駄排除というものに対して如何に真剣に取り組んでいないのかは明らかなことでしょう。
『論語』の「顔淵第十二の七」に政治の要諦に関して次のように述べられていますが、今の時局にあたり終始一貫性の欠如した民主党政権を見ていて、正にこうした様態を「信なくんば立たず」と言うのであろうと改めて下記一節を思い出した次第です。

 書き下し文『子貢、政を問う。子曰く、食を足し兵を足し、民をしてこれを信ぜしむ。子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何れをか先にせん。曰く、兵を去らん。曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何れをか先にせん。曰く、食を去らん。古より皆死あり、民は信なくんば立たず。』
 現代語訳『子貢が政治について尋ねた。孔子が言われた。「食糧を豊富にし、軍事を充実させ、人民に信義を持たせることである」。子貢が言った。「もしどうしてもやむをえない事情でこの三つの内一つを省くとしたら、どれを最優先にしますか?」孔子が言われた。「軍事だね」。子貢がさらに言った。「もしどうしてもやむをえない事情で残った二つの内さらに一つを省くとしたら、どれにしますか?」孔子が言われた。「食糧だね。どんな人間でも昔からいつかは死ぬとされているが、人民に信義なくては国家も社会も成り立たないよ」』

参考
※1:消費増税、国民に還元 首相が施政方針演説
※2:民主党の政権政策Manifesto2009
※3:2011年10月13日北尾吉孝日記『政権交代から2年後の今
※4:野田首相、「イランとの経済関係を継続する」
※5:増税しなくても被災地復興の策はある
※6:社説:通常国会召集 「決断する政治」見せよ
※7:藤村官房長官:消費税、将来的には10%超へ引き上げも必要に-会見




 

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