北尾吉孝日記

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先日econoshiminという方から「ベンチャーキャピタルが日本国内で隆盛を極める、すなわち国内でイノベーションの土壌が出来上がるには、どんな規制緩和や制度改革が必要なのでしょうか」という御質問をTwitter上で頂きましたが、Twitterでは文字制約がありますので本ブログにて私が日頃考えていることを簡潔に申し上げたいと思います。
本テーマについては我々SBIとしても「新産業クリエーターを目指す(21世紀の中核的産業の創造および育成を担うリーディング・カンパニーとなる)」というふうにコーポレートミッションの一つに位置付けておりベンチャーキャピタルとして日本のIT産業の発展に多大なる貢献をしてきたと自負しておりますが、例えばIT産業の場合で見ても単にネットベンチャーに投資をするというだけでは十分ではありませんでした(参考:2011年2月1日北尾吉孝日記『なぜ日本のIT分野において大型ベンチャー企業が生まれないのか』)。
何が不足していたのかと言えば、やはり一つの知恵・戦略・技術といったもの、そしてまた会社というのは様々なセクションを担い組織を支える人材も必要になってくるわけですから、一産業の創造及び育成にあたっては資金面だけで事足りるというものでもないのです。
即ち、素晴らしい技術はあっても販売力が全くないというケースや販売力はあるけれども技術面で少しお粗末な部分があるというケース、あるいは法務・財務におけるエキスパートが殆どいないことから折角良いものを作り出しても特許も取らずして他所に真似られてしまったり、資金調達面でも十分に金融機関を説得出来ないといったケースが頻発しているわけです。
従って、まずはこうしたベンチャー企業を起こそうという時に必要となる要件を満たすようなシステムを創り上げねばならないわけですが、私は当該システムを「ベンチャーズインフラ」と称して我がグループ内にベンチャー企業育成に向けたインフラ提供を行う様々な会社を作り、上記コーポレートミッションを実現すべくこれまで取り組んできたということです。
より具体的に述べますと資金面におけるサポートは勿論ですが、例えば会計・経理が弱い所に対してはSBIビジネス・ソリューションズ株式会社により問題解決を図ることが出来ますし、あるいは技術融合がより良い技術転換を齎し得るという場合は私どもが橋渡しになって両社を繋いで行くというように、大まかな戦略立案支援も含めて様々な形でベンチャー企業に対するサポートを実施してきました。
次に国や地方公共団体というものが如何なる形でベンチャー企業を支援して行くべきかについてもやはり考えねばなりませんが、それについては基本的には税制上の優遇措置及びそれ以外の様々な補助や恩典等をベンチャー企業に対して与えるべきではないかと思っています。
例えば日本とは対照的とも言い得る中国を見てみますと、優遇税制を敷いた経済特区というものを幾つも作り、外国からの資金流入を促して国内で不足した資金を積極的に補おうとし、そしてまた新産業をどんどん育成しようと盛んに動いています。
他方、広い意味での人材育成においても中国は嘗ての日本のように「殖産興業」を一丸となって推進するための有為な人材をどう輩出して行くのかという中で学校教育の充実を図っており、海外派遣学生や留学生に対する支援、あるいは大学の設立前後におけるサポート等々、これまた色々な面で国が大変なサポートを実施してきています。
また海外における有名な教授や技術者等の招聘も積極的に行っており、特に中国から一旦離れ海外で教育を受けた有能な中国人の人材に対して、様々な恩典を与えながら再度中国に戻すというような努力を国及び市政府を挙げて一生懸命行っているわけです。
一昨年10月に『中国での2つのジョイントベンチャーの本契約締結を終えて』と題したブログでも下記の通り述べましたが、中国では産・官・学といったものが上手くバランスしながら同じベクトルで企業育成に取り組み大学で生まれた新技術を如何に産業に生かすのかというような形になっているわけですが、日本においてはそうした土壌が全くありません。

【私どもはこれまでも中国の清華大学及び北京大学傘下の会社と投資ファンドを共同で設立してきましたが、この度の復旦大学との提携により、中国の三大名門校の全てと投資ファンド運営で提携することとなりました。
なぜ私が中国において大学とファンドを作ってきたのかと言えば、一つに産業と大学と政府との連携プレーが中国ほど上手く行っている国は無いと考えており、実際に主要大学が中心となって広大な産業グループを形成してきているということがあります。
今中国という国では、米国シリコンバレーのようにスタンフォード大学の卒業生や、そこにいる様々な人材により、Yahoo!やGoogle等が生み出されてきた状況と同じような現象が上手く創りだされつつあります。
即ち、一つは各大学卒業後も産・官・学各分野が非常に親密なリレーションシップを作りながら、最先端の研究シーズを大学から次々に引き出して利用して行くという中で、テクノロジー企業が非常に上手くイノベーションを行っているということがあります。
二つ目として大学のリソースとりわけ教授陣を活用して投資先候補の技術のエバリュエーション評価を行い、投資判断の精度を高めて行くということが出来るという部分があります。
(中略)更に言えば、三つ目としてファンドを活用して出資金を集めるという場合においても、既に成功を収めている卒業生が経営する公開企業が投資してくれるという部分もあります。
従って、上述したようなことで、中国の大学とのジョイントベンチャーは様々な点で美味しいというような形になっています。】

それからもう一つ資金面から指摘しますと、我々のようなベンチャーキャピタルが資金を集め投資をするというだけではやはり限界がありますから、そうした事柄に対してこれまた国や地方がどう関与し如何に援助を実施して行くべきかという問題も一方でありましょう。
上記問題に関して日本ではベンチャー企業に対し銀行を通じて資金を供給すべきではないかという発想が未だにあるようですがそれは全くの間違いであり、銀行はベンチャー企業、然もシーズのベンチャー企業にリスクマネーを提供するなどといったことは本来的に言えば彼等の本業的な仕事ではないのです(下記参照:2010年5月10日北尾吉孝日記『日銀による新産業育成の取り組みについて』より抜粋)。

【国はどのような方策により将来の基幹産業育成支援を図るべきかと言えば、韓国のようにベンチャーキャピタルに資金を流して、ファンドを積極的に活用すべきであると私は考えています。
韓国では、例えば、将来の基幹産業育成支援に関しては「政府予算→知識経済部(日本の経済産業省)→中小企業振興団→運用会社の組成ファンド」というような形で資金が流れるようになっていますし、あるいは、科学技術・バイオ産業支援に関しては「政府→科学技術部→運用会社の組成ファンド」というように資金が流れるシステムが構築されています。
長い銀行の歴史の中で、嘗て長期資金で日本の産業育成を担ったのが日本興業銀行でしたが、そのような銀行の役割は既に終わっているのです。日本の銀行がリスクマネーを提供出来るのかと言えば、担保で資金を貸すということにしか慣れておらず、そのような役割を担うことは非常に難しいでしょう。
基本的にリスクマネーの提供はDCF(Discounted Cash Flow)モデルで資金を出せる所がするわけで、それをするのがベンチャーキャピタルなのです。なぜ日本では韓国のようなシステムによりベンチャーキャピタルを積極的に活用することで、産業の発展に寄与させるようにしないのか疑問です。】

そもそも業の本質というものが日本の政策当局者は全く分かっていませんから、韓国のようにベンチャー企業育成に向けて年金基金等の様々な公的資金がベンチャーキャピタルに流れるようなシステムが未だ以て具現化出来ないというわけです。
更には欧米におけるエンジェル税制を例に見ても、日本では「エンジェル税制(ベンチャー企業投資促進税制)」と称し形だけは作ったものの全く機能していないというように当該分野において失敗ばかりを繰り返しているわけですから、一産業育成に向けて官民挙げて取り組むことが出来ない日本経済の将来見通しは暗いと言わざるを得ないでしょう(参考:2007年12月26日北尾吉孝日記『日本におけるリスクマネーに対する考え方』)。
一昨日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の『ザッカーバーグ氏の納税額は1500億円にも フェイスブックIPOで』という記事タイトルにもある通り、例えばFacebookという1000億ドルとも評価される一企業の公開によってザッカーバーグ氏は20億ドル(1500億円)以上もの税金を支払うであろうと言われているわけで、こうした大型のベンチャー企業が創造された場合、その国にとっても一体どれ程のポジティブインパクトが齎されるのかということをまずは日本の政策当局者自身が確りと認識せねばなりません。
そしてまた昨年12月のブログ『「証券優遇税制」を巡る野田総理の国会答弁について』等々で時々指摘している通り、日本政府は「証券優遇税制」などというくだらないネーミングを用いて優遇ではない制度を廃止しようとしているわけですが、そもそも配当の二重課税という問題が未だに解決されてはいないのです(下記参照:2010年12月27日北尾吉孝日記『日本税制の諸問題』より抜粋)。

【配当の二重課税の問題、つまり「法人が稼いだ所得に対して、まずは法人税という形で課税される。そして、それが株主に配当される場合に、今度は所得税という形で課税される。このように、配当に関しては重複されて課税されており、そのことが投資の促進を阻んでいるという問題」です(※1)。
今年7月に『遺族が年金形式で分割して受け取る生命保険金について、相続税と所得税の両方を課すのは「二重課税で違法」との最高裁判決が出た』ことで所得税が還付されるということになりましたが(※2)、上記配当に関しても明らかに可笑しいわけで即刻改めるべきことであると私は認識しています。(中略)
それから(中略)何度も述べているようにそもそもリスクを取った株式投資に対する課税とリスクを取らない銀行預金金利に対する課税が同率になるということは明らかに合理性を欠いていると言わざるを得ません。
また「証券優遇税制」が論じられる場合、兎に角いつまで経っても「株式投資家=金持ち=悪」というような前時代的発想が持ち込まれますが、その発想自体がそもそもナンセンスであり、例えば株式を保有していること自体が悪いことであるかのように代議士がこそこそと申告をするというように異常とも言えるのが現況です。】

上述したように資本主義を否定するが如く議論の次元を誤った異常な様態に堕する日本の姿を見るにつけ、このような国で一体どうして企業が成長発展し産業が創造されて行くだろうかと訝しく思うわけです。
今日本の企業が海外進出を図ろうとする場合、日本よりも経済成長率が高く潜在的な成長率は更に高くなろうと思われる中国をはじめとした様々な新興国では先ほど述べた通り魅力的な優遇政策が敷かれているわけですから、何故日本に留まらねばならないのかというように余計になってしまうのです。
以上、様々な観点から指摘してきましたが、日本においてイノベーションの土壌を醸成し産業を興したいというように考えるのであれば、上記事項も然る事ながらまずはこうした所から変革し国としての競争力を少しでも高めて行くべきではないかというふうに私は認識しています。

参考
※1:配当二重課税
※2:「年金型」生保、税還付受け付け




 

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