北尾吉孝日記

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ここにきてドル円相場は一時81円台半ばまで円安が進行し、ここ一ヶ月で見ても円はドルに対して5%程度下落しているわけですが(下記グラフ参照)、今後の為替レートの行方を左右する上で最も大きな影響を与えると思われる要因は一体何なのでしょうか。

USDJPY

私は大きく言って三つあると考えており、その一つが野田首相が推進している「税と社会保障の一体改革」が国会を通るかどうかです。通らなければ円安ファクターになるでしょう。二つ目がイランを巡る緊張関係が更に強まるか否かということです(参考:2012年2月16日北尾吉孝日記『イラン情勢をどう見るべきか』)。そして最後の一つは米国経済の動向です。米国の雇用や生産・消費の面では回復状況であり、一昨日発表されたS&Pケースシラー住宅価格指数については依然として弱く懸念される部分の一つではありますが(※1)、例えば中古住宅販売件数や中古住宅販売保留指数といったもののように、住宅市場についてもある程度の回復を見せてくるのではないかと期待感を持たせるような指標がどんどん出てき始めています(※2/※3)。
日本においては日銀もやっと「インフレターゲット論」を持ち出し「消費者物価指数の前年比上昇率で当面1%を目指す方針を明確に」するという形でようやくまともな金融緩和の方向に動き出し始めたわけですが(※4)、どちらかと言えば金融緩和といった方向の中でデフレからの脱却を目指さねばならないという大きな課題を抱えていますから、そう簡単に利上げを行うとは考え難く、金利の面からの日米逆転は中々起こり得ないであろうと私は捉えています(参考:2012年2月15日北尾吉孝日記『日米の金融市場動向と日銀の金融緩和強化について』)。
従って、米国経済がこのまま順調に回復するとなれば、米国の金利は上がり始め、その一方で日本は利上げを行う状況にはありませんから、金利だけで見ても恐らくドルは円に対して今後強くなって行くであろうというふうに考えています。
他方、イランを巡る緊張関係というのは報道で見る限りどうやら高まる方向に進んでいるのではないかと思われ、その証左として既に原油価格はどんどんと上昇し始めており、「WTIの上昇率は2月初めから約15%」となっています(※5)。
上記ブログでも指摘したように、仮に1バレル=200ドルを超えて行くようなことになれば、日本の「原子力発電所の停止に伴う火力発電向けの燃料輸入」コストは膨大なものとなるでしょうから、それが経常赤字に繋がり所謂「双子の赤字(財政赤字と経常赤字)」となって行くわけです(※6/※7/※8/※9)。
そうなってきますと、その国の通貨が強くなるはずがないことは過去の歴史が全て証明していることですから、私は経常黒字により支えられてきた部分もある円は今後更に弱くなるに違いないというふうに考えています。
そういう意味では81円台の円安・ドル高水準までの下落といった程度ではなく、場合によっては大幅な円安進行が今後起こってくる可能性もあるというように見ています。「イラン・イスラエル戦争」が勃発するのか、米国によるイラン軍事攻撃が行われるのかについては、イランの核兵器開発に向けた進捗状況に掛かっているわけですが、先日発表されたIAEA(国際原子力機関)の報告書においては「イランのウラン濃縮活動が急激に拡大しているとの認識」が示されています(※4)。
勿論、米国自身も財政問題等を抱えておりティーパーティー(茶会)などもそうした戦争に踏み切るべきではないと散々指摘している部分もあるのですが、やはり地政学上非常に重要なホルムズ海峡を場合によっては封鎖出来るような状況になれば、全世界に及ぼすネガティブインパクトというのは大変なものになりますから、米国やイスラエルといった国々はイランを取り巻く現況を物凄く脅威に感じているわけです(下記参照:2012年2月16日北尾吉孝日記『イラン情勢をどう見るべきか』より抜粋)。

【米国という国は「核を保有するイランと対峙するのが良いのか、それとも核を保有する前に叩き潰して置くのが良いのか」に関し国として真剣に考えており、最終的には国連決議などというものも考慮せず上述の核インフラを破壊されたイラクやシリアと同じようにイランにも核開発を断念させるような軍事行動をとるかもしれない国であるという認識を我々日本人もきちっと持たねばならないということです(参考:2010年4月16日北尾吉孝日記『米国の核政策と核テロの脅威について』)。
米国では先ほど述べたマシュー・クローニッグのような人がストラテジストとして対イラン戦争に関し長期に亘って考え続けており、彼のような専門家が米国には他にも多数いるわけですから、そうした人達の発言を聞いたり執筆物を読んだりしていますと現在のイラン情勢について非常にシビアな見解を持たざるを得ないのです。】

最後にイランを巡る緊張関係の行方を洞察する上で認識すべき、米国の戦略的ディシジョンメイキングにおける一つの特殊性、即ち日本では全く強くないロビーというものの影響力に関して以下簡単に指摘しておきます。
まず第一に挙げられるのは軍需産業のロビーでありましょうが、当該ロビーにおいては多額の資金が政治家に常時渡って行っていますから、軍需産業によって米国の戦略的なディシジョンというのが結構振り回される可能性があるわけです。
一例を挙げるならば、今ロビーはシリア反政府系に対する兵器の供与などというのも一生懸命根回しをして実現させようとしており、そうした形で彼らは自らが製造した兵器を自国外で戦争を起こして行く中でどんどん売却するといったことを盛んに行ってきているということです。
また原発産業のロビーについても強いわけですが、昨年3月の東日本大震災を経て世界中で原発に対する縮小の動きや全面停止に向けた形での様々な議論がなされてきており、そういう意味ではロビーが大いに活躍せねば自身の死活に関わる問題ですから、これまた政策決定者に対する働き掛けを結構強めているというのが現況なようです。
そして更にもう一つは米国のマスコミ界、及び経済界とりわけ金融界を牛耳っているのは言わばジューイッシュ(ユダヤ)でありますが、ジューイッシュロビーはイスラエルを守ることに多額の資金を費やしてきて暗躍しており、マスコミ界においてもそうした方向に誘導して行く可能性があるということが挙げられましょう。
これまでの日本において唯一強かったとも言い得るロビー、即ち東電中心の原発産業が資金をふんだんに使って自らが描く自由を如何に実現してきたのかについては最早指摘するまでもありませんが、ロビーの在り方自体が日本と米国とでは大きく異なっているという事実をまずは理解すべきです。
そして、今後の世界情勢を洞察する上できちっと認識しておくべきは、米国ではそうしたロビーが戦略的なディシジョンメイキングにおいて大きな役割を演じているということであり、それ故戦争というものが思わぬ所から引き起こされるかもしれないということです。

参考
※1:2012年2月29日ロイター「12月の米20都市圏住宅価格指数は03年1月以来の低水準
※2:2012年2月23日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「1月の米中古住宅販売、4.3%増―在庫減少
※3:2012年2月28日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「1月の米中古住宅販売成約指数、2年弱ぶり高水準
※4:2012年2月27日ロイター「原油価格上昇の懸念台頭、円安加わり景気圧迫要因にも
※5:2012年2月28日毎日jp「原油高騰:金融緩和とイラン制裁めぐる緊張背景に
※6:2008年12月26日北尾吉孝日記『今後の為替レートの決定要因
※7:2012年1月26日日本経済新聞「空洞化と電力危機 輸出立国の土台崩れる 黒字が消える(上)
※8:2012年2月13日読売新聞「足元の相場は、円・ドル・ユーロの順に軍配か?
※9:2012年2月8日ロイター「〔焦点〕経常黒字10兆円割れ、エネルギー・円高・高齢化が招く赤字転落リスク




 

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