北尾吉孝日記

『参謀の心得』

2012年5月29日 11:06
この記事をシェアする

凡そ3年半前に出版された『世界のビジネスを変えた 最強の経営参謀』という本の中では、「孫正義氏の戦略参謀かつソフトバンクのCFOとして、数々の大型買収、提携などを手がけていた」当時の私のことを「ソフトバンクの躍進を支えたM&Aの仕掛人」として紹介しているようです。
CFOとしてソフトバンクに入社して以降、私は単に資金面だけを取り仕切っていたわけではなく、孫さんと一緒になってソフトバンクの経営戦略を如何にするかということから始まり、その上で資金調達をどのようにして行くのかといったことにずっと携わってきました。
そうした中で莫大な投資をして行く時に重要な事として認識していたのは、その投資を実行して会社が倒れることは本当にないかどうかということを限り限りのところまで考え抜かねばならないということです。
参謀の役割、今風に言えば取り分けCFOの役割というのは、金回りの事柄を扱うというだけではなく、CEOの戦略面におけるあらゆる補佐を常に行いながら、買収も含めた様々な投資等については資金的裏付けを与えて行くということが一つあります。
例えば「中国の電子商取引大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)は、米ヤフーの保有する自社株71億ドルを買い戻す」として話題になっていますし、あるいは今月18日のブログ『フェイスブック上場とこれから』でも指摘した通り、グーグルでもフェイスブックでも今どれだけの企業買収を行い続けているのかといったように企業買収というのは経営上非常に大事な問題なのです(※1)。
それは取りも直さず企業戦略と同義であると言っても過言ではなく、拙著『北尾吉孝の経営道場』(企業家ネットワーク)でも下記のように述べましたが、CFOとしてはそうした資金調達の局面においてファイナンスのミックスつまり、どういう資金調達の方法をどんな割合で行うのか、というものを当然ながら考えねばなりません。

【私がソフトバンクでCFOを担っていた時、約5000億円の資金調達をしました。資金調達をする際には、まず絶対的な必要資金を可能な限り取ります。そして、資金使途の性質を考慮しつつ、デット(負債)とエクイティ(株式)のバランスに気を配ることが決め手です。双方の比率を考慮して、リスク配分するのです。エクイティに注力する会社もありますが、エクイティの調達コストは資本コスト(投資家の期待収益率が適用される)と呼ばれ、通常の金利より高くつきます。デットとエクイティを比較して、先を見据えた資金調達をするのです。】

経営者と共に次の成長を考えて事業戦略の立案・企画・具現化を補佐して行く上でも、CFOは投資においても買収においても実行に伴うリスクとリターンというものを常に頭に入れておかねばなりません。
例えばM&Aの最大の問題点というのは多くの場合(ある米国の大手コンサル会社によると70%)で失敗に終わるということですが、何故数多のM&Aが失敗しているのかと言えば、その一つに相手方のアドバイザーが作成した薔薇色の収益計画等にある意味騙されてしまうというのが挙げられます。
それ故、大体のケースでは買収後に想定通りのキャッシュが創出出来ない可能性もあるわけですから、CFOとしてはそうした考慮も働かせながらリスクとリターンというものを常に考え、そうしたリスクも織り込んだ形でファイナンスというのをして行かねばならないということです。
それからもう一つ、嘗ての孫さんとの対談記事「4.追録」にもあるように私はソフトバンク在籍当時、孫さんの意見に反対することが非常に多かったわけですが、私の役員会での役割というのはそうしたものであると私自身ある面認識していました。
特に創業者を相手とする場合、皆が反対しきらずに思うところがありながらも議案を通してしまったという時には往々にして失敗の温床になっていますから、やはり参謀というのはそうした部分にも気を配り、どうにもならないと信ずる案件についてはきちっと反論すべきでしょう。
上述したような経験を私自身がしていますから我々SBIの経営においてもそうした部分については細心の注意を払っており、そういう意味では例えば自分とは反対の性格の人間を置いてみるといった形で人事面も含めて様々な工夫が絶対に必要であると思っています(※2)。
そして折角諌言を受けたとしても昔の中国の皇帝のように怒ってすぱっと首を切ってしまうのでは諌言する人が誰も居なくなりますから、採用の時からちゃんと諌言出来るような人間を選別しておかねばなりません。
中国では主君を諌めるということは昔から非常に大事な参謀の役割の一つとされてきたわけで、例えば直諫(ちょっかん)と諷諫(ふうかん)というように諌言の仕方についても中国では随分と色々な工夫が為されていました。
直諫というのは「皇帝、これは駄目です」というふうにダイレクトに忠告することですが、このやり方ですと皇帝にも皇帝の面子がありますから逆鱗に触れることが往々にしてあって諌言というのが中々難しくなります。
その一方で諷諫というのは、例えば様々な例え話で皇帝に持って行くとか、あるいは「皇帝、こういう考えもあるようです」という形で一つの考え方を紹介するといったように、あくまでも皇帝に選ばせながら上手く誘導して行くというような諌め方を言います。
諌言の仕方として直諫と諷諫というものを挙げましたが、現代に置き換えるならば、それはある種のプレゼンテーション能力とも言い得るものかもしれません。
それから主君を諌める上で特に参謀にとって重要なポイントになるのは、例えば問題が起こり得るというある種の先見力を持って、芽吹いていないような時代から将来を見通して主君に諌言出来るか否かということです。
致知出版より先日刊行された拙著『ビジネスに活かす「論語」』でも日露戦争中の二百三高地の例を挙げながら参謀の役割について論じた箇所がありますが、やはり参謀というのは日頃から勉学に努めて洞察力を磨き続け卓越した先見力を備えていなければ務まらないものだと思います。
そして色々なリスクが顕在化する前に、主君に対して「そうしない方が良いと思います。こうしたやり方にすべきではないでしょうか」と時々きちんと諌言出来る、意見を具申出来るのが参謀というものではないかと私は考えています。まさに、中国古典の『戦国策』にいう「愚者は成事に闇く、智者は未萌(みほう)に見る」です。

参考
※1:2012年5月21日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「アリババ、ヤフーからの自社株買い戻し資金でテマセクと協議か
※2:2012年4月17日北尾吉孝日記『役員選任に関する私の考え方




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.