北尾吉孝日記

この記事をシェアする

『為政者は全般を見通す識見を持って大局的立場に立て。一事に係らわって全般を見落とすな。
財政改革といえば、財政の窮乏という、数字の増減、即ち収入の増加と支出の削減をいかにするかということのみにとらわれてしまい、その他のこと(哲学)は財政再建の名のもとに片隅に追いやられてしまいがちになる。』(※1)

「日本一の財政家・名参謀・軍略家」とも称される幕末期の儒者・山田方谷が32歳の時に書した論文『理財論』を先日偶々読んでいたところ、上述のように今の政治状況を考察する上で実に有益な記述が多々ありました(※2/※3)。
山田方谷(1805年-1877年)という人は、例えば安岡正篤先生なども幕末陽明学の大家の中では春日潜庵先生と並んで最も尊敬出来る人物であると述べています。
方谷というのは「幕末期に、今の金額に換算すると百億円にものぼる借財を抱えた備中松山藩の財政改革を遂行し(中略)八年後には、逆に百億円の蓄財を持つ裕福な藩に変貌」させた偉人です(※4)。
日本ではケネディ大統領のお蔭もあって、財政事情が紛糾した時に藩政の大改革を実現した人物として、米沢藩主の上杉鷹山公が割合有名ではありますが、方谷というのは実はある意味彼よりも優れた改革者であったというふうに私は思っています(※5)。
方谷の『理財論』の最も大事なポイントを挙げるならば、それは正に「それ善く天下の事を制する者は、事の外に立ちて事の内に屈せず。而るにいまの理財者は悉く財の内に屈す・・・・・だいたい、天下のことを上手に処理する人というのは、事の外に立っていて、事の内に屈しないものです。ところが、今日の理財の担当者は、ことごとく財の内に屈してしまっています」ということです(※3)。
即ち、真に天下を動かす者は「事の外」にいて一切のものから束縛を受けることなく、そして「財の内に屈す」ることのない自由を持って超越している存在である。すなわち真に経済をよくする者は決して金の奴隷になり、金に捉われ、経済に負けているということではないのです。
更には「財務改善の方法」として、方谷は人間の根本的な在り方から次のように述べています(※1)。

『義理を明らかにして以て人心を正し、浮華を芟し以て風俗を敦くし、貪賂を禁じて以て官吏を清くし、撫字を務めて以て民物を贍し、古道を尚び以て文教を興し、士気を奮つて以て武備を張れば、綱紀是に於てか整ひ、政令是に於てか明らかに、経国の大法は修まらざるなくして、財用の途もまた従つて通ず・・・・・義理を明らかにして人心を正し、風俗の浮華(うわべだけ華やかで、中身が伴わないこと)を除き、賄賂を禁じて役人を清廉にして、民生に努めて人や物を豊かにし、古賢の教えを尊んで文教を振興し、士気を奪いおこして武備を張るなら、綱紀は整って政令はここに明らかになり、こうして経国(国を治め経営すること)の大方針はここに確立するのです。理財の道も、おのずからここに通じます』(※3)

当時というのは「税金を徴収し、支出を削り数十年経過したが一向に良くならず、財政は悪化の一途をたどって」いたわけが、それは近視眼的に「ただ理財の枝葉に走り、金銭の増減にのみ」に拘る政治家達が、ちっぽけな経済というものに振り回され言わば金の奴隷になるというような状況でありました(※1/※3)。
それ故やれ税金を上げねばならない、やれ歳出削減が必要だといった形で細々と理財に関する部分だけが訴えられていたわけですが、方谷が言うようにそうしたものを超越し根本的な所を直さねば全てがきちっと治まって行くことはないということです。
今、考えてみますと民主党政権というのは2009年の夏にマニフェストで政権を獲得し、マニフェストに「書いてあることは命懸けで実行」せず、マニフェストに書いていないことを一生懸命実現しようとしてきたわけで、あの政権交代時に為された国民との約束とは一体何だったのかと思うのです(※6)。
方谷の時代においてそうであったように、消費増税や所得・相続増税といった形で税を上げるということにしか為政者の考えが及ばず不景気の中様々な部分で国民は萎縮しており、そこへもっと大事な筋を通すということが全く以てないわけです(※7)。
そして国民を恫喝するかのように「日本は財政改革を推進する必要があり、大幅に増加を続ける政府負債額をコントロールできなければ、ヨーロッパのように、これまで以上に問題に直面することになる」などと野田総理はずっと発言していますが、仮にギリシャのようになるのであれば円はどんどん弱くなるはずですが、逆に強くなっているというのが現況です(※8)。
即ち、1700年以上前の所謂「ギリシャ・ローマ時代」の遺産だけを頼りに国が成り立ち総人口の約1割(日本:約3%)を公務員が占めているような公務員大国・ギリシャと、国民が十分な資産を保有し国債の93%を自国民が購入している日本とは訳が違うのであって、世界中で誰一人として日本がギリシャのようになるとは考えてはいないのです(※9/※10)。
「日本がギリシャ状態になるのも時間の問題」という指摘は昔からありますが、私に言わせれば時間の問題というものではないわけで、それを野田総理はギリシャのようになると言って歩き回り「政治生命をかけて」大騒ぎして、現下の混沌とした経済状況の中で大慌てで法案成立に全力を注いでいるのですから、私には余りにも滑稽に見えてしまいます(※11/※12)。
野田総理のこれ程までに強い消費税に対する拘りが、寧ろ野党時代にあれだけ声高に主張していた所謂「天下り・わたり」というものの徹底廃止、即ちより大きな財源を生み得る無駄な独立行政法人の全廃に向かうのであれば、国民は拍手喝采すると思うのですが何故愚行を続けるのか率直に言って私には理解出来ません(※13)。
民主党が政権交代の時の選挙で公約したことについては、何の成果も残せずに野田内閣は終焉を迎えたぶん「7月解散・8月総選挙」になって行くと思われますが、物事が終わる時というのは正にこういうものであろうという一つの例ではないかと思うのです(※14)。もはや民主党が与党としてカムバックすることはないでしょう。
方谷が言うように「国民の立場に立って財政・税制等の社会制度を考えるということ」であれば「自然と財政は豊かになる」わけですから、野田総理をはじめ政府首脳陣は是非一度山田方谷の『理財論』を読んで真摯に学ぶべきではないかと思います(※1)。

参考
※1:山田方谷に学ぶ財政改革関西方谷会「山田方谷の理財論
※2:Amazon.co.jp「財政の巨人―幕末の陽明学者・山田方谷
※3:吉備の国探訪 山田方谷特集「理 財 論
※4:Amazon.co.jp『財政破綻を救う山田方谷「理財論」―上杉鷹山をしのぐ改革者
※5:2012年6月8日MSN産経west『上杉鷹山(8)ケネディ大統領も私淑?「伝国の辞」 今も通じる先進性
※6:2012年5月7日北尾吉孝日記『今後の政局と消費増税・TPP
※7:2012年6月9日日本経済新聞「所得・相続増税の議論、自民が先送り要求へ
※8:2012年2月21日北尾吉孝日記『日本経済のサステナビリティ問題について
※9:2012年5月31日北尾吉孝日記『ギリシャ国民に近づく悲劇
※10:2012年5月7日藤巻健史プロパガンダ『本文(フランス・ギリシャ選挙を受けて)&付録(本日、「未来世紀ジパング」)
※11:2010年4月29日サーチナ『ギリシャ国債格付け引き下げ、「日本も時間の問題か」-韓国メディア
※12:2012年6月11日日本経済新聞「首相、法案不成立なら解散辞さず 12日も3党協議
※13:2012年1月20日北尾吉孝日記『岐路に立つ日本と世界
※14:2012年5月22日北尾吉孝日記『現実味帯びる「話し合い解散」




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.