北尾吉孝日記

この記事をシェアする

昨今、「スペイン、ポルトガル、アイルランドが負債デフレに陥った(中略)、1980年代の終わりに資産バブルが弾けた際の日本に類似している」とか、「日本で人口動態がピークを迎えた後バブル崩壊を迎えたことの難しさがよく指摘されてきたが、今後スペインにおいても同様の難しさが生じうる」といった形で「ユーロ圏の債務危機に対処するのに日本の教訓を手本にする必要があるという考え方」が一部のエコノミストにより示されているようです(※1/※2)。
先ずはそもそもが、バブル崩壊から今日までデフレ脱却も為し得ていない日本から何を学ぶのかというわけで、日本においては未だにずっと問題であり続け物事が良くなっているということなど一つもありません。
ただ、「今日のスペインの金融は過大な信用拡張に伴い不動産バブルが生じた反動として生まれたバランスシート調整である」という意味では日本と似た状況であるとも言えましょうが、スペインと日本とのシチュエーションというのは様々な面で異質であると私は考えています(※2/※3)。
確かに「バブル崩壊に伴うバランスシート調整(=企業の過剰債務、銀行の不良債権問題)」は企業側から見ればある意味片付いたとも言えましょうが、政府側で言えば「失われた20年」を経て「公的債務残高が国内総生産(GDP)の約2倍と主要国で最悪の状況」になっており、結局また増税の必要性を訴え得るようなところへ次第に近づいてきています(※4/※5/※6)。
もっとも、幸いなことに我々の先達たちが営営と働いた結果として長らくGDP世界第二位の国であり続け、その間に蓄えられた膨大な個人金融資産を背景にある意味危機的な財政状況にも拘らず円は弱くなるのではなく逆に強くなっているという状況が現出しています。
そしてまた円高が続く状況においても、メジャーな日本の輸出企業は生産拠点の殆ど全てを海外に移して海外から得られる金利や配当を拡大し所得収支のプラスを齎すといった形で貿易収支が赤字に陥っても経常収支が黒字になるようにきちっとした構図を作り得ています(※7)。
更に言うならば、「OECD諸国を見てみると(中略)韓国や米国などを別にすれば」未だに「国民負担率…租税や社会保険料(場合によっては財政赤字を含む)を国民所得(要素価格表示)で割った値」も低く、また高齢化の進行及び可処分所得の減少が主因となって貯蓄率は長期低下傾向を辿りながらも未だ少なくとも数年の時間的余裕があるのが日本という国です(※8/※9/※10)。
即ち、上述した観点から考察を加えて見ても比較の前提において両国間には多大な相違点があり、日本と比較してスペインの状況というのは格段に悪く今後も同国が抱える深刻な問題は長期に亘って続いて行くことでしょう。
これまで一貫して指摘し続けてきた通り、欧州統合通貨ユーロという枠組みは統一為替レートを使い金融政策は一元化されていながらも、メンバー各国間において経済成長率も潜在成長率も大きく異なり財政状況についても夫々違っているにも拘わらず財政主権はメンバー国に夫々あるという根本的矛盾を内包しています(※4)。
従って、金融・財政・通貨の全てをユーロ圏で一本化して行くということがなければ、その根本的矛盾が故に今後も問題を起こし続け、その度に一時的な問題先送りを繰り返し、そして結局ユーロというコンセプトは崩壊して行くことになるのではないかと私は捉えています(※4)。
先週水曜日に発表されたILO(国際労働機関)の報告書『EuroZone job crisis: trends and policy responses』では、「欧州債務危機が一段と悪化し、景気後退が続いた場合、2012年4月時点で11.0%のユーロ圏の失業率が14年に17.3%まで上昇する可能性」があり、しかも「ギリシャやスペイン、ポルトガル、イタリアなどの重債務国の失業率は16.3%から25.2%に急上昇しかねない」とされていますが、所謂「PIIGS」と昔から称されている国々はずっとピッグのままであって早晩ユーロ圏を離脱せざるを得ないと思います(※11)。
今ユーロ圏においても「南北問題」が言われていますが、南に位置するギリシャ、イタリア、スペインなどの問題国を全て救おうとするならば、どんどん資金を注ぎ込んで過剰流動性を齎して行くしかありません。
そうすると欧州は物凄いインフレに見舞われることは時間の問題になって行くと思われますが、仮にそれが現実のものとなってくれば、今度は輸出産業が大打撃を受ける中でドイツと雖も生き残り得るかというのが新たな焦点になって行くと私は考えています。

参考
※1:2012年7月6日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版『ドイツ、日本の「失われた10年」の教訓受け入れ始める リチャード・クー氏が指摘
※2:2012年7月3日みずほ総合研究所株式会社「日本から見てスペイン問題はこれからが本番
※3:2012年5月16日みずほ総合研究所株式会社「スペインは日本のデジャブだが違いも大
※4:2011年10月5日北尾吉孝日記『米欧中現在の情勢
※5:2012年6月29日ブルームバーグ「PIMCO:財政破綻リスクほぼゼロ、円債に魅力-増税と紙幣増刷可能
※6:2012年2月21日北尾吉孝日記『日本経済のサステナビリティ問題について
※7:2011年12月8日北尾吉孝日記『見直されるか日本株
※8:2012年5月28日株式会社富士通総研 オピニオン「国民負担率、計算が間違っていないか?
※9:2011年7月26日北尾吉孝日記『歴史的転換期における日本と世界
※10:2012年5月22日OECD Economic Outlook No.91「Annex Table 23. Household saving rates
※11:2012年7月11日日本経済新聞「ユーロ圏失業率、17%に悪化も 14年ILO予測




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.