北尾吉孝日記

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昨日も「出馬すれば与党セヌリ党の朴槿恵元代表の強力なライバルになるとみられる安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長」の活動が報じられていましたが(※1)、本年12月の韓国大統領選に向けた動きがいよいよ本格化しています(参照:【図解・国際】韓国大統領選の構図)。
そして「次期大統領は誰になるのか」という話題が為され、「あの候補者が勝てばあそこにぐっと資金が注ぎ込まれるに違いない」といった思惑の中、成長に組するであろう候補者に関連するような株価の上昇が見られるという状況になっています。
例えば私どもの場合、SBI Investment Korea Co LtdSBI Global Investment Co Ltdという2つベンチャーキャピタルをKOSDAQに上場していますが、上述したような状況下で両社共に株価が急騰したりしています(期間上昇率-終値ベース:5/31~7/19…前者+41.9%/後者+139.2%、6/29~7/19…前者+25.0%/後者+23.5%)。
世界的に沈滞ムード漂う株式マーケットの中で何故そうしたことが起こるのかと言えば、結局韓国においてはベンチャー企業育成に向けて年金基金等の様々な公的資金がベンチャーキャピタルに流れるようなシステムが構築されているからです(※2)。
その一方で日本においては、今週月曜日の日本経済新聞記事にも「10年の米国のベンチャー投資額は日本の16倍以上、欧州も日本の3倍以上となり、日本の投資額は06年に比べて半分以下に落ち込んだ」という記述がありましたが、所謂ベンチャー企業を作り育てるべく国や地方がベンチャーキャピタルに成長資金を注ぎ込みサポートして行くというメカニズムは何時まで経っても出来ません(※3)。
今月9日に纏められた「成長ファイナンス推進会議」最終報告書を見ますと、例えば「2.政策金融・官民連携による資金供給の拡大」として「(1)公的・準公的セクター資金の有効活用」「(2)政府系金融機関等の活用」「(3)産業革新機構の活用」といった事項がまた挙げられていますが、未だ嘗て有効活用などされたことはなく東京電力株式会社や株式会社日本航空等の一部を救済しただけで日本における新産業創造には全く寄与してこなかったわけです(※4)。
そしてまた今年2月にも『なぜ日本は「新産業クリエーター」になれないのか』というブログで下記指摘しましたが、日本ではベンチャー企業に対し銀行を通じて資金を供給すべきという発想が未だにあるようですが、それは全くの間違いです。
銀行はベンチャー企業、然もシーズのベンチャー企業にリスクマネーを提供するなどといったことは、本来的に言えば彼等の本業的な仕事ではありません。
長い銀行の歴史の中で、嘗て長期資金で日本の産業育成を担ったのが日本興業銀行でしたが、そのような銀行の役割は既に終わっているのです。
日本の銀行がリスクマネーを提供出来るのかと言えば、担保で資金を貸すということにしか慣れておらず、そのような役割を担うことは非常に難しいでしょう。
基本的にリスクマネーの提供はDCF(Discounted Cash Flow)モデルで資金を出せる所がするわけで、それをするのがベンチャーキャピタルなのです。
何故日本では韓国のようなシステムを構築することによって、積極的にベンチャーキャピタルを活用し産業の発展に寄与させるようにしないのか甚だ疑問です。
上記最終報告書においても「休眠預金を成長マネーの供給源として有効活用するための仕組みを構築する」とされていますが、リスクマネーを提供出来ない組織に資金を拠出してばら撒いて行くというようなことをしても、今後の成長産業というものは全く育たないわけで本物のベンチャーキャピタルにこそ成長資金が回って行くべきではないかと思うのです(※5)。
そもそもが業の本質というものを日本の政策当局者は全く分かっていませんから、韓国のように公的資金がベンチャーキャピタルに流れるシステムを未だ以て構築し得ず、当該分野において失敗ばかりを繰り返しているわけです。
そしてその結果として何が起こったのかと言えば、日本の代表的なものがSamsungを中心とした韓国勢に悉く奪われ、国としての競争力が著しく低下して行ったということです。
半導体然り液晶然り現在のスマートフォンの分野においても日本が世界から遅れを取って行く中で、韓国は自国の経済を引っ張って行くべく新産業育成支援をきちっと行ってきました。新しい分野でちゃんと利益を創出して行っているわけです(※6)。
日本においてイノベーションの土壌を醸成し産業を興したいというように考えるのであれば、韓国に学び韓国モデルのようにベンチャーキャピタルファンドを積極的に活用して行くような方策を採るべきで、日本と韓国を比べるとそうした所に対する考え方が月と鼈ほど違っているように私はつくづく感じています(※5)。
上述した私どもの韓国上場企業2社、特に昨年3月までKTIC(KOREA TECHNOLOGY INVESTMENT CORPORATION)と呼ばれていたSBI Investment Korea Co., Ltd.については韓国政府の資金を運用させて貰っていますが、韓国の子会社ですらそうしたことが出来ているのに何故日本の本体において未だ以て実現し得ないのか、率直に言って私には理解出来ません(※7/※8)。
例えばSBIインベストメント株式会社は686社に投資を実行して17.8%イグジットしたという世界的に見ても輝かしい実績がありますが(2012年3月末時点)、この数字はベンチャーキャピタルとして日本のITインダストリーの発展に多大なる貢献をしてきた証左と言えるではないでしょうか。
こうした本物のベンチャーキャピタルに公的資金が回るシステムを日本も早急に具現化すべきで、それこそが正に成長資金の有効活用というものであり、今後もそれが出来ないようであれば日本経済の将来見通しは暗いと言わざるを得ないと私は心底思っています。

参考
※1:2012年7月19日時事ドットコム「安哲秀氏、大統領選出馬を示唆=著書出版皮切りに活動本格化-韓国
※2:2010年5月10日北尾吉孝日記『日銀による新産業育成の取り組みについて
※3:2012年7月16日日本経済新聞朝刊「米ベンチャー投資、日本の16倍――起業文化の違い映す(深読みデータ)」
※4:2012年6月10日日本経済新聞朝刊『日航・東電…「公的再生時代」の功罪 高木新二郎氏と篠辺修氏に聞く
※5:2010年8月26日北尾吉孝日記『昨今の日本金融経済情勢と金融システムリスク
※6:2011年12月22日北尾吉孝日記『「65歳雇用義務化」は是か非か
※7:2011年3月30日SBIホールディングス株式会社プレスリリース「当社グループ会社の商号変更に関するお知らせ
※8:2012年4月19日SBIホールディングス株式会社プレスリリース「2012年12月期第1四期決算の業績見通しについて




 

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