北尾吉孝日記

『本物と偽物』

2012年8月8日 18:01
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「本物と偽物との区別」について安岡正篤先生は『呻吟語を読む』の中で次のように述べています。

『“似て而して非なり”=似非(えせ)ということがありますが、とかく人間というものは似て而して非なるものであります。そこで人が為すと書いて“偽(いつわり)”という字ができておる。
人為・知識・才能、それから得るところの貴籠・富足というようなものによって人は失敗をする。どうも本物と偽物との区別がなかなかつかぬものであります。』

私の趣味の一つである古美術収集を例に考えてみても「本物と偽物との区別」は大変難しいものがあります(※1)。
「この筆跡は本物とそっくりだ。これは多分本物だろう」とか、あるいは「この落款(らっかん)印のところは本物と極めて似ているな。やはりこれが本物か」といった具合です。
しかし何か少し違うようにも感じられ本物か否かの判定に迷う時、最終的には本物には必ず感じられる品格の有無こそが、その答えになるというふうに思っています。
良い骨董品をじっと見ていますと、えも言われぬような品格といったものが壺にも茶碗にもあるような気がするわけで、やはり人間においても同じようにある種の品格というものが本物には備わっていると思います(※2)。
人間というのは先ず夢や理想というものを持たねばならず、その為には気が漲って元気な状況を保たねばならないというように安岡先生も述べています。
そして、そうして出てきた夢や理想が志となり、その志を達する為に節操が入って志操というものになり、究極的には何かリズミカルになって風韻を発するような格調の高い人間になる、といった言い方を安岡先生はしています(※3)。
これは言い換えれば人間の品位であり、人間の完成系においてはそうした風韻というようなもの、あるいは品格といったものが感ぜられるようになるのであろうと思います。
従って、私はそうしたものが出てきているか否かが「本物と偽物との区別」ということに繋がるのではないかというふうに考えています。
勿論、そうは言っても人を見極めるのは難しく、また全てが超一流の人間であるなどというのはあり得ないわけで、夫々が自分自身の分を弁えて、その分の中できちっとした生活を送って行けば良いのでしょう。
この分を弁えるということもまた非常に大事なことであり、その中で「楽天知命(天を楽しみ命を知る、故に憂えず)」と『易経』にあるように、自分の天命を自覚すればこそ心の平安が得られるようになるというものだと私は思っています(※4)。

参考
※1:2010年1月25日北尾吉孝日記『私の趣味~中国古美術収集~
※2:2007年6月20日北尾吉孝日記「古美術収集について
※3:2007年3月12日『何のために働くのか』(致知出版社)
※4:2009年3月2日北尾吉孝日記『「易経」に学ぶ①





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  1. 父は骨董・古美術・古道具の収集が趣味で、その影響で私は小さい頃から古いものに囲まれて育ってきました。良い美術品があれば、父親は見せてくれたし、触れることもありましたので、私も自然に骨董や古美術を観るのが大好きです。大人になってからは、週末や夏休み、正月休みを利用して、世界中の美術館巡りをするのが趣味の一つです。本物の作品は超一流の画家や陶芸家が生涯を込める形で作り出したものですから、やはり時代を経てもその熱意・情熱、そして、その人の品性が作品を通じて表れてきます。

    美術品鑑定の難しさというのは、いい物ほど贋物が多いです。どれが本物で、どれが偽物かなんて分からない。美術品の価値といえば、「開運!なんでも鑑定団」みたいな、お金をモノの価値としています。お金というのは世界の基準となるものですから、美術品を買うにも、売るにも、このお金は最重要だと思いますが、問題はそこではなく、『値段』ということです。あなたはこの美術品にいくらつけますか?ということです。これが、美術品の価値だと思います。美術品には感性が篭っています。100人いれば100人分の感じ方があります。同じ作品でも、魅力的だと感じる人もいれば、恐いと感じる人もいます。魅力を感じる場所も人それぞれです。このように、人の数だけ、感じ方があります。そして、その『感じ方』こそが「価値」であり「値段」だと、私は思います。

    偽物だろうが、本物だろうが、『モノの価値』というのは造った人、そしてそれを手にした人が決めるものだと思います。名もなき画家でも、その作品に対して『想い』を込めて仕上げたとすれば、それは何れ誰かに伝わるでしょう。そして、『想い』を感じることが出来た人が『価値』を授ければいいのです。

    やはり、美術館や博物館に足を運び、平常展や特別展でさまざまな美術品をご覧になり、本当の美術品の美しさを知ることが初心者から中級者になるための第一歩だと考えます。人間が美術作品を評価する際に、結局感性が働きますので、美術鑑賞にとって感性を磨くことが一番大切です。



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