北尾吉孝日記

『指導者なき日本を憂う』

2012年9月10日 9:18
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情報誌『選択』の今月号に「政治家こそ読書せよ」という記事がありますが、今の政治家というのは本など殆ど読んではいないでしょう(※1)。
要するに彼らは忙し過ぎて、ゆっくりと読書をする暇もない状況に陥っており、恐らく有名になった経済書等を少し読む程度の話ではないかと思います。
しかし何れにせよ、そうした状況が良いはずもなく、それなりの人から耳学問でも得れば良いのですが、今の政治家はそれなりの人も近辺に置いてはいません。
昔であれば、吉田茂氏や池田勇人氏、あるいは佐藤栄作氏や大平正芳氏など多くのリーダーが安岡正篤先生を信奉し、様々な話を聞いたりしていました(※2/※3)。
例えば、沖縄返還交渉を巡って渡米する佐藤氏に対し、安岡先生が「戦勝、以葬礼処之(戦争の勝者は、敗者に対するとき、喪家に対する礼儀で接する)」という『老子』の言葉を授けたという有名な話もありますが、他国を訪問するといった時には必ずと言って良い程、佐藤氏は安岡先生の下を訪れていました(※3/※4)。
また先述の大平氏などは、「どんなに忙しくても毎週一度や二度最寄りの本屋に立ち寄り、二、三冊新刊を求める」というように、彼自身が大変な教養人で数多の書籍を読んでいたわけです(※1)。
翻って現役の政治家を見ますと、先ずそもそもそうした教養人は皆無であり、そしてまた耳学問を得るといっても、安岡先生のような人物もいなくなり、誰に御教授願えば良いのかも分からない上、自分自身でそうした人物を探し出し、親炙して行こうという人もいません。
従って、元々そうした部分で教養が欠落している今の政治家が勉強もろくろくしないのですから、「政治家こそ読書せよ」と言い、今更付け焼き刃で多少何らかの本を読ませてみても、最早殆どと言って良い程、意味を成さないことでしょう。
やはり物の見方・考え方というようなものは、随分早くから作り上げておかねばならず、そういうものがきちっと確立されていない場合は、直面する問題が難しくなればなる程、全く以て太刀打ち出来ません(※5)。
精神の糧になるような書物を沢山読み、それを血肉化し実践に移して行っているというようでなければ、今更少し読書に精を出してみたところで、最早そういう世界の問題ではないということです(※6)。
指導者たらんとする者は、やはり世界中の万人が「あぁ、なるほどなぁ~」と思うような発言が出来るとか、あるいは「あの人がいる限り、この問題は手を出し難いな」というふうに、世界から見ても重きに思われるような人物でなければなりません。
当然のことながら、各国要人も人を見て出方を変えてくるわけで、小物としてあしらわれているような人材であれば、外交交渉など上手く行くはずもありません。
今激化している「領土問題」を例に考えてみても、所謂「普天間基地移設問題」に関する鳩山政権の稚拙な対応が日本に対する米国の信用を大きく損ない、そして菅政権になってからも当該問題が如何なる展開を見せるのか不透明な中で、日米間の箍が緩んだという所に基本的な原因があります(※7/※8)。
即ち、あの箍が緩み始めたところから、所謂「尖閣諸島中国漁船衝突事件」が起こり、更にはロシアのメドベージェフ大統領が突如として国後島を訪問するといった具合に、他国に付け込まれるということになって行ったわけです(※9/※10)。
片一方で「トラスト・ミー」と言いながら、一国の約束の重みというものを全く理解せず誰からも全くトラストされなかったのが鳩山という人間ですが、やはり彼や菅氏のような軽々しい人が一国のリーダーになってしまうと、問題はどんどん複雑化して行かざるを得ないということなのだろうと思います(※11)。
『論語』の「学而第一の八」に「君子、重からざれば則ち威あらず(君子は軽々しいと威厳がない)」という言葉もありますが、彼らのような軽い人間は各国から軽くあしらわれ、外交交渉としてまともには向き合っては貰えなかったということでしょう(※5)。
そして今、韓国が「日本の国際的な影響力は以前ほどではない」と言い、竹島問題等を巡って強硬な出方をしてきているのも、在任中に彼らが国益を損なうような言動に終始し、日本の地位を益々貶めてきたことこそが、そもそもの発端とも言い得るわけです(※12/※13)。
彼らに比べれば野田氏は多少マシかもしれませんが、実態としてはマニフェストに書かずして消費税増税というものを軽々に最重要課題であるかの如く位置付け、相も変わらずデフレ脱却に向けた取り組みは不十分極まりなく、そして日本経済は全く以て回復の兆しすら見えてこないというものです(※14)。
更に言えば、内閣府により先月末に報告された経済財政の中長期試算を見ても、「基礎的財政収支、消費増税でも黒字化困難」となっているわけで、私が幾度となく指摘し続けてきたように、今日本が先ず以て為すべきは、経済を立て直し税収を増やして行くということ以外にないのです(※15)。
民主党政権以後、今に続くこうした問題を見ても分かる通り、今後も指導者たる人物が現れず、現況を脱して行くことが出来ないとなれば、日本という国は本当に可笑しくなるのではないかというふうに、私は憂いを感じざるを得ません。

参考
※1:2012年9月号選択「政治家こそ読書せよ
※2:Amazon.co.jp「安岡正篤 人間学
※3:2012年7月10日万国津梁機構「万国津梁機構 第3回講演会 その8
※4:Google ブックス「日韓交流陰で支えた男: 朴哲彦の人生
※5:2012年8月31日北尾吉孝日記『戦後教育と日本人
※6:2010年10月4日北尾吉孝日記『偉人の伝記を読むということ
※7:2010年12月8日北尾吉孝日記『今年の10大ニュースと来年以降の最重要問題について
※8:2010年11月26日北尾吉孝日記『「北朝鮮砲撃事件」と日本国防再考論
※9:2010年10月22日北尾吉孝日記『「尖閣問題」にどう対処すべきか
※10:2010年11月9日北尾吉孝日記『国家我・組織我について・・・北方領土問題、尖閣諸島問題、イラク戦争
※11:2010年2月4日北尾吉孝日記『東アジアの軍事バランスと普天間基地の移設問題
※12:2012年8月17日北尾吉孝日記『日本の領土問題に思う
※13:2012年8月27日中央日報「【中央時評】李大統領の崩壊した外交(2)
※14:2012年8月7日北尾吉孝日記『今国民は消費増税を望んでいるのか
※15:2012年8月21日北尾吉孝日記『日銀のバランスシートと「資産買入等の基金」を考える




 

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