北尾吉孝日記

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大方の予想通り、先週米国はQE3(量的緩和第三弾)の実施を決定したわけですが、その中身についても大体想定された通りのものとなりました。
振り返ってみますと、グローバル経済体制の中で起こる先進国の大きな経済問題というのは、その第一番目として挙げられるのが、80年代に蓄積された巨大バブルが崩壊した後の90年代以降の日本の状況です(※1)。
そしてまた米国において08年9月、正に不動産バブルの基本的な崩壊と言い得るリーマンショックが起こったわけですが、それ以後に生じてきた様々な経済的停滞局面というものが次に挙げられましょう(※2)。
即ち、金融を大幅に緩和する中で不動産バブルが形成され、CDO(Collateralized Debt Obligation)やCDS(Credit Default Swap)といった金融デリバティブ商品が膨れ上がり、そしてそれらが細々にされエキゾチックに混ぜられて、そうした「毒まんじゅう」が世界中に伝播する中で多くの金融機関が大変な痛手を被ったというわけです(※3)。
それから後、上記リーマンショックのある意味での一部後遺症に加え、欧州統合通貨ユーロという枠組みが抱える潜在的矛盾を露呈する形で、世界は未だ脱し得ない危機的状況に陥って行きました。
即ち、統一為替レートを使い金融政策は一元化されていながら、メンバー各国間において経済成長率も潜在成長率も大きく異なり、財政状況についても夫々違っているにも拘わらず、財政主権はメンバー国に夫々あるという根本的矛盾に起因する当然の帰結が表面化してきたというわけです(※4)。
嘗て米国の経済学者、取り分け日本で有名な2008年ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンなどは、日銀のゼロ金利政策、あるいはその後に導入された量的緩和政策といったものをよく批判的に論じていました(※5/※6)。
しかしリーマンショック以後、FRBは日銀と同じ金融政策を実施し、クルーグマンもかつての日本に対する自身の主張の誤りを認めているというように、結局のところ上述したような事態に対する処方は長期に亘るゼロ金利と量的緩和しかなく、また財政政策においてはケインズ流を採るしかなかったというのが、時間軸の中で何か証明されてきたように思います(※5/※6)。
そしてまたグローバル経済というものは、先進国が躓けばやはり新興国も躓くわけで、所謂「デカップリング」という世界が存在しないことが、此の間もう一つ示されてきたように思います。
即ち、中国を初めとする新興工業国は輸出を基本として経済成長を遂げてきているだけに、先進国が躓けば状況としてはどうしても経済的なダメージを受けざるを得ない、ということが明らかになってきたということです。
私自身も先週、先々週の中国出張中に建設が途中でストップしていると思われる幾つかの大きなビルを目撃しましたし、またダボス会議における温家宝首相の発言の中にもそうした形で中国の景気減速を意味する言葉が明確にありました(※7)。
「保八(8%成長を守れ)」どころではなく、本当の成長率というのはかなり低いのではないかという感すら若干受けたのも事実ではありますが、その一方で内陸部分と沿岸部分の格差の是正、あるいは都市化の促進と都市化が齎す問題点の克服等に向けて、また1兆元を投ずるというような余裕が中国にあるというのも事実です(※8/※9)。
そういう中で依存出来なくなった外需を如何に内需へと切り替えて行くのかが、これからの中国において非常に大きなポイントの一つになってくるというふうに私は考えています。
最後にQE3後の相場展望を簡潔に述べますと、為替については各通貨に対してドル安が進むという声もありますが、私は今の水準からどんどんとドル安進行するというふうには考えていません。
恐らくまた日本もQE3の流れに追随して行くのではないかとか、ひょっとしたら再び為替介入に踏み切るのではないかといった状況もあるわけですから、為替は当面株よりもある意味リスクが高いというように判断する投資家が結構多いのではないかと見ています(※10/※11)。
従って、日本の株価は軒並み下がるところまで下がっており、他方で当然のことながら時間の問題でインフレ高進というのが世界的に必ず起こってくるはずですから、当面は株の方が割合良いパフォーマンスが見込めるのではないかと思われますし、株価の上昇を期待する人というのもそれなりに沢山いるのではないかと思います。
それからもう一つ、上昇傾向にある金価格についてはある程度の所まで行くとは思いますが、その一方で実体経済の回復が見られない限り、原油やその他の資源というのはそれ程上がって行かないのではないかというふうに私は見ています。

参考
※1:2011年4月4日北尾吉孝日記『2011年度入社式訓示
※2:2012年5月24日北尾吉孝日記『成長回帰に向かう世界
※3:2011年12月8日北尾吉孝日記『見直されるか日本株
※4:2012年7月18日北尾吉孝日記『日本のバブル崩壊後とスペインの今は比較可能か
※5:2011年10月7日北尾吉孝日記『ポール・クルーグマン講演会雑感
※6:2011年10月12日北尾吉孝日記『ノーベル経済学賞に対する私の考え方
※7:2012年9月18日北尾吉孝日記『中国出張について~大連、北京、天津~
※8:2012年7月10日北尾吉孝日記『中国の景気減速を如何に考えるべきか
※9:2012年9月12日新興国情報EMeye「中国の1兆元インフラ投資、経済減速の歯止めになるか
※10:2012年9月15日SankeiBiz「追加緩和 日銀に駄目押し 米QE3決定、週明けに決定会合
※11:2012年9月18日日本経済新聞『[FT]米QE3導入、期待高まる日銀の為替介入




 

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