北尾吉孝日記

この記事をシェアする

NHK土曜ドラマスペシャル「負けて、勝つ ~戦後を創った男・吉田茂~」が今月8日から始まり、私は毎週のように土曜日の読書時間を奪われているわけですが、残りの2回についても万難を排して何が何でも視聴せねばならないと思っています。
何故私がそうした形で当該番組を視聴する価値と意義を見出すのかと言えば、日本を取り巻く現下の情勢を考える時、歴史に振り返って歴史に学んで行くことが、非常に大事であると思っているからです。
初代ドイツ帝国宰相のビスマルクも「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言っていますが、我々は常に歴史に振り返り当時如何なる現実の下で如何なる結果が生まれてきたのかを再認識し、そしてその上で現代的諸問題を考察するということでなくてはならないというふうに私は常日頃思っています(※1/※2)。
結局のところ歴史というのは人が創るものであって、今回あの敗戦からサンフランシスコ講和条約に至る日本近代史において大変重要な部分が史実に基づき表され、しかもある意味一つの戦後を創ってきたマッカーサー及び吉田茂という人物が描かれているわけです。
今や日本は「領土問題」を巡り中国・韓国との間で難局に立ち、ロシアとの間においても相変わらず膠着状態が続き、またしても難しい状況になっているという中、今「吉田茂」を見るのは、昭和の一時代の状況をもう一度見つめ直し問題解決の糸口を探る上で、日本国民にとって非常に大事なことであるとまで私は思っています。
そして更には、日本の現行憲法がどのような状況下で出来上がったものかを再度認識した上で、今後もマッカーサー占領軍によって押し付けられた今の憲法を後生大事に守り続けて行くのか否か、日本人は今一度考え直さなければならないというふうに思うのです。
例えば、同じ敗戦国のドイツというのは独立後自らの憲法を主体的に創ったわけで、私見を述べるならば、戦後67年を経た今、日本人が日本人の歴史と伝統を踏まえ、その主体性を発揮すべく憲法改正に踏み切って、自らの力で自らの国を守るという国民意識の高揚を図るべき時が来ているのではないかと認識しています(※3)。
しかも、先週のパネッタ米国防長官の訪中によりはっきりしたのは、領土問題において米国は口では日米安全保障条約の適用範囲と言いながら、いよいよ日本の主権が脅かされるところにおいて、自国民の犠牲の上に日本の領土防衛を果たす意思は何もないということです(※4/※5)。
「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るるものは必ず人に諛(へつら)ふものなり」と福沢諭吉は『学問のすゝめ』で述べていますが、米国を恐れ米国に諛ってきた戦後日本は、未だ以て旧来の日米安保体制を頼りに外交・国防を考えて行くということで本当に良いのかについても、日本人は正に今こそ正面から向き合う必要性があるというふうに思う次第です(※6)。
その意味で言うと、今週水曜日に行われた自民党総裁選で勝利した安倍晋三氏は、「集団的自衛権の行使を可能にすることによる日米同盟の強化や、憲法改正に取り組む考えを示している」わけですから、仮に次の総理となった場合、今の「空気」の中で憲法改正論議等が進んで行くものと私は見ています(※7)。
昨年1月、私は『21世紀に対する洞察』及び『21世紀に対する洞察2』というブログを書きましたが、20世紀から21世紀に入って行く中で、領土問題の当事国である日米中露韓5カ国の状況というものは、夫々において大きな変化が齎されました。
以下、各国の状況について端的に述べますと、先ず米国については政治・経済・軍事に対する力が著しく低下し、その結果としてドルの信認が失われ、そしてある意味ドルを基軸通貨とするパックス・アメリカーナの終焉に向けた序章の始まりと定義されるようなことが起こってきています(※8)。
即ち、経済的には21世紀の象徴的出来事である「リーマンショック」後に世界経済を如何に立て直すかという過程の中で、また政治的・軍事的にはイラクからもアフガニスタンからも手を引いてくるという過程の中で、最早米国は世界唯一の超大国ではないということが決定付けられたわけです(※9/※10/※11)。
そうした米国の相対的地位低下の対立関係として、中国の台頭というものが生じてきたわけですが、例えばリーマンショックの後、中国は4兆元(約50兆円)の内需刺激策等の様々な施策を矢継ぎ早に打ち出し、高成長を維持してくる中で世界経済の牽引役としての務めも果たし、そして世界における相対的なプレゼンスを一挙に向上させてきています(※8)。
また韓国は『竹島問題の背景にある日本の「経済力」の衰退』という記事でも指摘されていますが、取り分けリーマンショック以後の「ウォン安」「円高」を背景に輸出大国として確実に力を付けてきましたし、資源大国ロシアについては1年前のブログ『続くプーチンのロシア』でも述べた通り、08年9月以後の景況悪化時をメドベージェフ氏に任せながらプーチン主導の実質的支配体制を今日まで続けてきています。
そして日本はと言えば、経済的には80年代に蓄積された巨大バブルが崩壊した後の90年代以降、今日に至るまで正にGDPが増えて行かないといった状況が続く中、象徴的には一昨年GDPで中国に抜かれ世界第3位になったというように、世界経済における日本のポジショニングというものがある意味現実の変化として現れてきました(※12/※13/※14)。
他方、政治的には2009年の夏に政権交代が実現され、鳩山由紀夫、菅直人と日本の近代史上稀に見る外交音痴の総理が二代に亘って続いたがために、米国との関係が急速に悪くなりました(※15)。
そうして日米間の箍が緩み始めたところから、所謂「尖閣諸島中国漁船衝突事件」が起こり、更にはロシアのメドベージェフ大統領が突如として国後島を訪問するといった具合に、他国に付け込まれるということになって行ったわけです(※15)。
そういう中で凡そ1年前、野田佳彦氏が総理大臣に就任し、彼らに比べれば多少マシになるかというふうに思っていたら、今度は都知事ごときに振り回され、胡錦濤体制から習近平体制への移行期という極めて大事な状況下、当然起こるべき事態を予測もせずに、尖閣諸島国有化などという暴挙にあのタイミングで出た無神経さに、私はもう呆れ果てました。
中国という国を知っている人であれば、現在のような緊張状態が生じることを容易に想像出来たはずですが、日中関係を考え「東京都の石原知事による購入を阻む唯一の方法」として国有化に踏み切ったという日本政府の言い分が通るはずもなく、今当然起こるべき結果が起こっている此の御粗末さに呆れ返って物が言えません(※16)。
私見を述べるならば、少なくとも国としては動かなかったというふうに今回すべきであったと思いますし、そもそもの話として「東京都尖閣諸島寄附金」の不足分に都税を充てるなど以ての外で、購入自体を止めさせることが法規制等の方法により可能かどうか、というところまで考えるべきであったと思っています。
恐らく石原氏が推奨する「2020年東京オリンピック招致」は、今回の国有化騒動が決定的要因となって失敗に終わると思いますが、彼は現在の世界において中国が持つ政治力・経済力の大きさというものを図り得ず、自らの言動が様々な形で繋がり結局は自身の重要政策に如何に大きな影響を及ぼすのかを未だ以て理解し得ないのでしょう。オリンピックぐらいならまだいいですが、日本の念願である国連での常任理事国入りにも中国が大反対するでしょう。
今見られる日中間の緊張状態の行方や経済的なインパクトの程度等については昨今色々な識者が様々論じていますが、日中国交正常化40周年という記念すべき年にあたって中国側から記念式典の中止を告げられた状況ですから、日中間の問題は相当根深くそう簡単には収束に向かわないというふうに私は見ています(※17/※18)。
少なくとも野田政権下において最早日中の状況は改善し得ないという中、野田氏でないことはほぼ確定した次の総理が、事態収束に向けてどういう手を打って行くのかに全てが掛かっていると思いますし、片一方では中国の次期最高指導者への就任が確実視される習近平副主席が、如何なる形で当該問題を処理するのかに掛かっているということです。
今回為された一つの議論に「中国国民が如何に暴徒化し、必ずしも日本に向けたものではなく、その矛先を中国共産党に向ける輩も出てきた中国という国は、非常に野蛮で未だ民度の低い国だ」といったものが結構あり盛んに喧伝する人もいますが、その議論はある意味正しい部分があると思います。
その一方で、そうした実態を世界に見せ付けてみたところで、「中国との付き合い方に大きな変化が必要だ」というふうに思う国はないわけで、中国との付き合いが齎すプラス面とマイナス面とを天秤に掛け、各国がシビアに判断して行くという現実において、日本の熱心なアピールが日本にプラスに作用するということは断じてあり得ません。
それからもう一つ、「今の状況は日本経済にとって非常に厳しい反面、日本から基幹部品等を輸入出来ずサプライチェーンが寸断される中国も困るに違いない」という意味のことを盛んに論ずる人も沢山いますが、中国が下す結論というのは、そういうものが無くなるのであれば、これを機に電子部品業界等を育成し、自ら作って行けるようにすれば良いということです(※19)。
これまでの中国の貿易構造というのは、基本的に「加工貿易(海外から調達した部品・中間財を使用して国内で加工・組み立てを行い、完成品を海外に輸出)」であり、基幹部品等を海外企業から全て輸入して、組み立てだけを行い最終製品にしてきました(※19)。
従って、組み立て屋だけでは終わりたくないとずっと思ってきた中国にとっては、多少時間が掛かるかもしれないが「為せば成る」というように考え、これまでの依存体制を脱却して行く契機の一つといった程度の発想でしかないのです(※20)。
勿論、「中国リスクが浮き彫りとなり、日系企業が中国から東南アジアなどに拠点を移す動きが加速する可能性」を指摘する声もあり、それはそれでどの程度のことが出来るのか他のアジアの国々でチャレンジしてみれば良いとは思いますが、私に言わせれば、中国というあらゆる製品における世界最大のマーケットを失うことが、日本にとって如何なる意味を持っているのかを全く理解出来ていない現実を無視した動きとしか思えません(※21)。
以上、長々と述べてきましたが、日本を取り巻く各国の大きな変化の中で、今日本はある意味非常に大事な分水嶺に差し掛かっており、その対応如何によって日本が今後も世界有数の国家として君臨出来るか否かが、正に懸かっていると私は認識しています(※22)。
そういう意味で、NHKドラマ「吉田茂」を今まで見てこなかった人も、明日からの残り2回は是非視聴して貰いたいと思いますし、何れ再放送やDVD化もあり得ますから、今の世界情勢における日本の対応というものを真剣に考える切っ掛けにすべく、見ていただきたいと思う次第です。

参考
※1:2012年8月31日北尾吉孝日記『戦後教育と日本人
※2:2011年6月2日北尾吉孝日記『歴史・哲学の重要性
※3:2012年8月17日北尾吉孝日記『日本の領土問題に思う
※4:2012年9月20日毎日jp「木語:尖閣に魚鷹が飛ぶと=金子秀敏
※5:2010年11月9日北尾吉孝日記『国家我・組織我について・・・北方領土問題、尖閣諸島問題、イラク戦争
※6:2010年11月26日北尾吉孝日記『「北朝鮮砲撃事件」と日本国防再考論
※7:2012年9月27日Yomiuri Online「安倍自民新総裁 政権奪還への政策力を高めよ
※8:2010年12月8日北尾吉孝日記『今年の10大ニュースと来年以降の最重要問題について
※9:2011年1月27日北尾吉孝日記『21世紀に対する洞察2
※10:2011年7月12日北尾吉孝日記『現実化してきたパックス・アメリカーナの終焉
※11:2012年7月26日北尾吉孝日記『東アジアの軍事バランスと尖閣領有権の歴史的根拠
※12:2012年9月19日北尾吉孝日記『QE3前後における世界経済の情勢認識
※13:2010年2月4日北尾吉孝日記『東アジアの軍事バランスと普天間基地の移設問題
※14:2011年3月16日北尾吉孝日記『日本と中国
※15:2012年9月10日北尾吉孝日記『指導者なき日本を憂う
※16:2012年9月20日NHKオンライン「尖閣国有化直前 日中のやり取り判明」
※17:2012年9月23日日本経済新聞「中国、国交正常化40周年式典を中止 尖閣で対抗措置
※18:2012年9月28日西日本新聞「きょうの朝刊に載るはずだった北京での27日の日中国交正常化40周年記念式典は…
※19:2009年4月8日北尾吉孝日記『動き始めた中国株価
※20:2012年8月22日北尾吉孝日記『道歌いろいろ
※21:2012年9月19日日本経済新聞「日本からの投資減少なら、中国経済さらに減速
※22:2011年12月15日北尾吉孝日記『「坂の上の雲」のテレビドラマ化





(任意/公開)
(任意/非公開)

  1. 尖閣諸島の国有化自体は国益上する必要があったのか非常に疑問に思います。日本が実効支配を維持し、日本の領土としての既成事実を積み重ねていけば良かっただけなのに相手を無駄に刺激しまい相手が体面的に引けなくなってしまった状況を作ってしまいました。そして国有化の直接的な原因が都知事の尖閣諸島購入計画に対応するためという全ての対応が後手に回る無策ぶり。しかも、それを政府が購入理由として同盟国の米国に伝える恥知らずぶり。日本政府は国内ですら統率することが出来ませんでしたと世界に向かって発信しているようなものです。もちろん私自身は尖閣は日本の領土と思いますし、断固たる決意を持って領土を守らなければならないと思いますが、このような軽薄な行動の起こしかたは如何なものかと思います。国の領土を守るという行為は国としての最大の使命と言っても過言ではありませんが、今の日本を見ていると領土を守るためによかれと思い起こした行動が自らの領土や国益を危機にしているように見えます。どのような行動がより日本の領土としての尖閣諸島を確固たるものにするのかを考え実行することが国益になことを肝に銘じ、野田首相は一時の感情に流されず大局的な観点からこの問題を考えることが必要だった’と思います。

  2. 『負けて勝つ』とのタイトルは、まさに戦後日本を言い当てた言葉だなと感じながら視聴を始めました。S39年生まれの私は、昇り調子の時代の国で育ってきました。若い人たちの中には、先の大戦で日本が勝ったと思っている人もいるそうです。そんな錯覚を起こさせる程の繁栄のひずみを、仕事で接する個々人の中にも感じることがあります。
    北尾さんは田中角栄の国への功罪についてどうお考えですか。折がありましたらお聞かせください。

  3. 同感です。
    私自身、吉田茂に関する書籍を3冊ほど読んだことがあります。
    まさに目からウロコの連続でした。
    いかに「現在という高みに身を置いた過去の評価は、しばしば真相から微妙にかつ拙く乖離する」ということを地で行くような評論や報道が多いことか・・と嘆かわしく思います。
    20代30代の人たちと話すと、こうしたことというか歴史的な背景となるような事実が、知らされていないという現実に愕然とします。また、マスコミも避けて通るような感じがします。公教育でもその傾向が強いと聞きます。そうした時に、田中真紀子という人を文部科学相にするというそうですが、杞憂にならなければいいのですが・・。



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.