北尾吉孝日記

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07年6月より「米国、欧州連合(EU)、ロシア、国連による中東和平4者協議の特使を務める」トニー・ブレア元英首相は、今週月曜日に掲載されたインタビュー記事において、『武力行使の可能性を示し「イランは(米欧が核開発阻止に)それほど真剣ではないと見込み違いをしている」と強い口調でけん制した』と報じられていますが、彼は特使として現下のイランを巡る緊張状態を治める方向というよりも、開戦の方向に導くのではないかと私は危惧しています(※1/※2)。
IAEAが核兵器開発疑惑を指摘した昨年11月以降、イラン・リアルの対ドル実勢レートは「じりじりと下落」し「昨年末1ドル=1万4000リアル程度」でしたが、「欧米による経済制裁強化や、アジア圏でのイラン産原油買い控えの影響で、夏場に2万リアル程度にまで下落」した後、「徐々に下げ足を速め、10月1日には前日と比べ15%超と異例の大幅な下落を記録、約3万4000リアルとなり、2日には3万7000リアル前後にまで達し」過去最安値を記録しました(※3/※4)。
今週月曜日に開催されたEU外相会合においては、「イラン産天然ガスの輸入禁止や、イラン全金融機関のEU域内での活動禁止などを含む新たな対イラン制裁で正式合意」が為されたわけですが、こうした欧米諸国による経済制裁が続いて行くとすれば、当然ながらイランではハイパーインフレが起こり、国民生活に更なる混乱が生じてくる中、大きく言えば次の二つの事態が起こる可能性があります(※5/※6/※7)。
一つは現政府に対して国民が反旗を翻すという可能性であり、もう一つは国民が現政府と一緒になってイスラエル、あるいは米国といった外に対して敵対的エネルギーを向けて行くというものですが、現況を見るにこのまま事態収束に向かうというのは大変難しく思われ、戦争が近付いて行く可能性があるというふうに私は考えています。
今、「09~11年に北朝鮮を見舞ったハイパーインフレよりも」深刻と言われる状況を背景に、アハマディネジャド大統領に対する批判が強まってきているようですが、「経済の混乱は欧米の制裁により齎されたんだ!」というエネルギーが今後更に強まり、現政府に対するエネルギーと合わさって「今度はイスラエルと米国だ!」となった時、最もリスクが高くなるというように認識しています(※7)。
此の間最終回を迎えたNHKドラマ「吉田茂」においても、南北に別れ米中等も参戦した朝鮮動乱の時、日本においてはレッドパージが強化される混乱の中で特需景気がやってきたというような話がありましたが、今の米国経済はそうしたものをある意味待望している状況かもしれません。少なくとも米国の軍需産業はそうでしょう(※8/※9)。
唯、片方で米国自身も財政問題等を抱えており、先週金曜日に発表された「2012会計年度(11年10月~12年9月)の財政赤字が1兆893億5300万ドル(約85兆円)」と「4年連続で1兆ドルの大台を突破した」わけで、オバマ大統領の下した結論というのはイラク・アフガニスタンからの撤退であったということです(※10/※11/※12)。
「イラン・イスラエル戦争」となるのか、はたまた米国がイラン軍事攻撃に加担する形での戦争になるのかについては、例えば今月号の『フォーリン・アフェアーズ・リポート』にも「2012年秋、イスラエルはイランを攻撃する?(リチャード・ハース・米外交問題評議会会長)」や「イランではなく、イスラエルに対するレッドラインを設定せよ――アメリカのネタニヤフ問題(マイケル・C・デッシュ・ノートルダム大学教授)」といった記事がありますが、何れにしても米国としては困難な選択に入って行くのであろうと思います(※13/※14)。
そしてまた、世界経済に及ぼし得るネガティブインパクトについて述べるならば、今年2月のブログ『イラン情勢をどう見るべきか』でも指摘した通り、取り分けホルムズ海峡封鎖が齎す原油価格の高騰問題が如何なる展開を見せるか、ということに掛かってくると言えましょう。
仮に原油価格が暴騰するとなれば、コストプッシュのインフレが始まり、それを契機として今の国際的過剰流動性と合わさって、ハイパーとまでは言わずとも世界的な大インフレに陥る可能性すらあるというふうに私は見ています(※15/※16/※17)。
またイランの対空防衛システムについては、米ワシントン・ポストが「ロシアの対空防衛システムよりもはるかに進んでおり、ジェット機やクルーズミサイル、人工知能爆弾、ヘリコプター、そして無人機に対抗できるように設計されている」と報じたとも言われていますが、対イラン戦争が勃発する場合はそう簡単には治まり得ず、イスラエルだけで十分な対抗が出来るのかという問題もあるわけです(※18)。
今年3月のブログ『今後の為替レートの決定要因2』でも述べたように、米国のマスコミ界、及び経済界とりわけ金融界を牛耳っているのは言わばジューイッシュ(ユダヤ)であり、彼らの多くはどちらかと言うと「99% vs. 1%‎」の1%に属する富裕層です(※19)。
そしてジューイッシュロビーは、イスラエルを守ることに多額の資金を費やしてきて暗躍しており、マスコミ界においてもそうした方向に誘導して行く可能性も十分あるということです(※20)。
今後の世界情勢を洞察する上できちっと認識しておくべきは、米国ではそうしたロビーが戦略的なディシジョンメイキングにおいて大きな役割を演じているということであり、それ故戦争というものが思わぬ所から引き起こされるかもしれません(※20)。
一昨日イスラエル国会を解散した「ネタニヤフ首相は9月末の国連総会で、イランは13年春から夏までに核兵器開発に必要な量の高濃縮ウランを入手すると指摘」し「イランが越えてはならない一線」を定めたわけですが、来月6日の米大統領選投票日を前にジューイッシュロビーがイランの軍事的解決を争点として必死になってロビー活動を行い、米国をまたぞろ戦争に巻き込むようなことをしないであろうか、と私は若干懸念しているところです(※21)。

参考
※1:2007年6月28日AFPBB News「ブレア英前首相、中東特使に
※2:2012年10月15日日本経済新聞『ブレア元英首相、対イラン「武力行使も選択肢」核開発阻止へけん制
※3:2012年10月3日北海道新聞「イラン通貨暴落*追加制裁の観測強まり」
※4:2012年10月5日日本経済新聞「イラン政権に試練 対米・シリアで最高指導者と確執
※5:2012年10月16日ロイター「EUが対イラン制裁強化、銀行・輸送・産業セクターに全面制裁へ
※6:2012年10月15日毎日jp「EU外相会議:新イラン制裁を正式合意
※7:2012年10月14日日経ヴェリタス「イラン、ハイパーインフレ発生か、経済制裁で通貨実勢レート暴落、深まる内憂外患」
※8:NHK土曜ドラマスペシャル「負けて、勝つ ~戦後を創った男・吉田茂~
※9:2010年1月4日北尾吉孝日記『年頭挨拶
※10:2012年10月13日日本経済新聞「米財政赤字、4年連続で1兆ドル突破 12会計年度
※11:2012年10月13日朝日新聞「米財政赤字、4年連続1兆ドル超す オバマ氏公約守れず
※12:2012年9月28日北海道新聞「オバマ氏演説 見えない米の中東政策
※13:2012年10月フォーリン・アフェアーズ・リポート「2012年秋、イスラエルはイランを攻撃する?
※14:2012年10月フォーリン・アフェアーズ・リポート「イランではなく、イスラエルに対するレッドラインを設定せよ――アメリカのネタニヤフ問題
※15:2008年5月15日北尾吉孝日記『経済成長のツケ
※16:2011年6月2日北尾吉孝日記『歴史・哲学の重要性
※17:2012年10月5日北尾吉孝日記『2013年の政治経済展望
※18:2012年9月22日イランラジオ日本語「イラン国防関係の成果が、外国メディアで大々的に報道
※19:2011年11月8日北尾吉孝日記『格差広がる不平等な世界
※20:2012年3月1日北尾吉孝日記『今後の為替レートの決定要因2
※21:2012年10月16日日本経済新聞「イスラエル、総選挙を前倒し 首相が体制固め狙う




 

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