北尾吉孝日記

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『韓非子』に「端を見て以って末を知る」という言葉がありますが、2005年の国際収支統計において所得収支が貿易収支を上回った瞬間に私は貿易立国の終焉を認識し、我々の事業戦略の舵取りを大きく変えることを決断しました(※1)。
22日発表の「平成24年9月分貿易統計(速報)」にある通り、ここへきて急速に貿易収支が悪化してきているわけですが、主因の一つは、日中領土問題に端を発した非常に険悪な両国の現況ということであろうと思われますが、「日中関係の冷え込みによる輸出への影響は10月以降本格的に出てくるとみられ」る中、余程円安にならなければ貿易赤字は今後増大して行くことになるでしょう(※2)。
今年5月のブログ『デフレ脱却の処方箋』等々においても、私は「世界全体の景気動向や為替動向、そしてまた上記復興需要が日本経済の実需に如何なる影響を及ぼし需給ギャップの解消に繋がり得るか否かという部分について、もう少し時間を掛けながら良く見て消費税増税に対する判断を下すべきではないかと思います」というふうに一貫して消費税に関しては時期尚早と指摘し続けてきましたが、日中関係悪化によって日本の輸出企業等の業績が益々悪化し景気が更に悪くなって行く中で、日本は消費税増税を実施して行くということになり、景気の悪循環プロセスに陥るのではないかと懸念しています(※3/※4)。
他方、これから増えて行くであろう貿易赤字をオフセットするに十分な所得収支が確保出来るか否かというところも私は非常に危惧していますが、仮に所得収支も十分に上がらず経常収支赤字転落という状況になった場合には、日本国債の格付けが更に引き下げられて金利が上昇に転じ、国債価格の暴落ということも起こり得ると思っています(※5)。
そして国債残高の65.5%を保有する日本の金融機関、取り分け運用対象が無く国債漬けとなっている地方金融機関等が壊滅的打撃を受けることにもなりかねず、場合によっては日本金融のシステミックリスクに繋がって行くという事態も生じ得ると考えています(※6/※7/※8)。
財務省HPの「債務残高の国際比較(対GDP比)」にある通り、日本という国は対GDP比219.1%という膨大な債務を抱えているにも拘らず、為替が強くなり金利がずっと最低値を彷徨するという状況になっているわけですが、それを齎す大きな要素の一つは所得収支と貿易収支を合わせたものとして経常収支が黒字になっていたというのが挙げられます(参考:「債務残高のGDP比―12年・13年見通し」/「長期金利推移グラフ」)。
従って、所得収支を如何に増やして行くかということを日本として真剣に考えるべきであり、前々から提唱しているように日本は他国を見習ってソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)を創設し、これまで溜め込んできた巨額の外貨準備高を使って投資をして行き、そしてそういう結果として金利や配当、あるいはキャピタルゲインを得て行くということも、所得収支の黒字幅を拡大する上でプラスになることの一つではないかと私は考えています(※9/※10)。
更に言うと日本は経常黒字国であることに加え、21年連続で対外純資産世界一の座にあることや、1,500兆円近くの個人金融資産の存在の故、GDP比で大変な債務残高を抱える中、割合安定した経済状況を実現し強い円が齎されてきたということです(※11/※12/※13)。
しかしながら、今後は為替についても反転してくる可能性があり、ドル円相場は80円台を抜けて82円台までは比較的短期に行っても可笑しくはないというように私は見ています。
来週火曜日に開かれる金融政策決定会合で日銀が「追加の金融緩和を実施する方向に傾いている」という報道もありますが、何れにしても現下の経済情勢を理由に日銀は更なる量的金融緩和策を取らざるを得なくなってきますから、そういう意味でも恐らく円は当面弱くなると思います(※14)。
勿論、そうした形で円が弱くなれば貿易収支の改善も見られるようになってくるわけですが、ただ今回は今までとは少し状況が変わってくるステージに入ったかもしれないと私は認識しています。
私どもSBIにとっては、円安進行が起こってくれば海外投資の成果が更に上がって行くということで、今まで苦しめられた収益圧迫要因である円高が漸く此の上半期で終わってくれればと願っているぐらいです。

参考
※1:2008年9月18日北尾吉孝日記『適者生存
※2:2012年10月22日ロイター「焦点:貿易赤字拡大でGDP大幅マイナス成長も、反日が多方面に波及
※3:2012年10月5日北尾吉孝日記『2013年の政治経済展望
※4:2012年7月24日北尾吉孝日記『マーケットが問う消費税増税の是非
※5:2011年4月6日北尾吉孝日記『復興財源と電力供給に関する私の考え方
※6:2012年9月20日日本経済新聞「海外勢の国債保有残高、過去最高の81.6兆円 6月末
※7:2012年8月21日北尾吉孝日記『日銀のバランスシートと「資産買入等の基金」を考える
※8:2011年1月31日北尾吉孝日記『日本国債格下げをどう見るべきか
※9:2010年8月19日北尾吉孝日記『韓国出張とSWF創設について
※10:2009年8月17日北尾吉孝日記『民主党の政権運営について
※11:2012年8月9日時事ドットコム「【図解・経済】経常収支の推移(最新)
※12:2012年6月4日日経BPネット『対外純資産は世界一、だが実態は「日本回避」の悲しい現実
※13:2012年9月20日ロイター「日本国債の海外保有比率が過去最高の8.7%、質への逃避が継続
※14:2012年10月23日ロイター「UPDATE1: 日銀が緩和に傾く、資産買い入れ増額など検討=関係筋




 

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