北尾吉孝日記

『君子は器ならず』

2013年4月11日 15:23
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器ということでは、昔から「器量」や「度量」あるいは単に「器」といった様々な言葉が使われていますが、例えば『論語』の「為政第二の十二」に「君子は器(うつわ)ならず」という言葉もあるように、之はある意味一定の型にはまらないということだと言えます。
『論語』の「子罕(しかん)第九の七」に下記言葉があるように、孔子というのは六芸に秀でた人で弓も上手く手綱捌きも一流だったわけですが、それは生活のために身に付けただけであって、君子というものは本来余り色々なことが出来ない方が良い、というふうに孔子は述べています。

 書き下し文『牢(ろう)曰く、子云(い)う、吾試(もち)いられず、故に芸ありと。』
 現代語訳『子牢が言った。「先生は『私は国から取り立てられなかったので、いろんな技芸を会得したのだ』と言われた」』

また『論語』の「公冶長第五の四」では次のように述べられており、祭祀に用いる器だと孔子に言われた弟子もいたわけですが、ある種の技芸が出来るか否かは別にして、やはりそういう型にはまるというのではなく、何かの専門馬鹿といった形ではない部分があるのが、君子なのだろうと思います。

 書き下し文『子貢、問うて曰く、賜(し)や如何(いかん)。子曰く、女(なんじ)は器(うつわ)なり。曰く、何の器ぞや。曰く、瑚璉(これん)なり。』
 現代語訳『子貢が尋ねた。「私はどのような人間でしょう?」孔子が言われた。「お前は器だよ」。子貢がさらに尋ねた。「どのような器でしょうか?」孔子が言われた。「宗廟で食べ物を盛る礼器は貴重な器だよ」』

拙著『仕事の迷いにはすべて「論語」が答えてくれる』(朝日新聞出版)では「君子は器ではなく、器を使うのが君子だ」と述べましたが、此の度量のある器量の大きい人というのは、意外とぼうっとしていたり「この人、何を考えてるんだ?」と周囲に思われるような少し普通の常識からは逸脱したところがあるように思います。
例えば、嘗て放送されていたNHK大河ドラマ「龍馬伝」の第1回の中で、「くそは尻から出るもんじゃき、こっち(目頭)が目尻っちゅわんとおかしいぜよ」と龍馬が話すシーンがありましたが、私はそれを見ながら「正に大器の器で大変な器量を持った人というのは、やはり少し変わっているんだなぁ~」と思ったものです(※1)。
そもそも私が知る限り、ある面において癖のない人間で所謂大器だと思わせたり器量人だと思わせる人は殆どおらず、どちらかと言えば大した人物は大いに癖があり、何か事が起こると人が思いつかないような形で大事を成すような人ですから、そういう意味では中々見分けがつけ難いものです。
例えば、「故事百選≪先人の知恵を拝借≫」というサイトでも「伯楽の一顧」の中で下記逸話が紹介されていますが、要するに「伯楽(人物を見抜き、その能力を引き出し育てるのがじょうずな人)」というのは「(き:一日に千里を走ることのできる良馬。転じて、優れた才能を持つ人)」を見抜く時、性別や毛色等々の枝葉末節だけ見るのではなく、もっと本質的なところで本物と偽物を見極める目を持っているということです。

『秦の穆公は、自分の部下で馬の鑑定の名人である伯楽を大いに尊重していたのですが、彼も老齢となったため、秘訣を子供に伝えておくように命じました。ところが伯楽は、「私の子供は凡人でその素質はないと思います。馬を外見からみるだけなら、形や筋骨などで分かるのですが、千里の馬という名馬となれば、外見上の顔・姿・格好からでは判別できないのです」として、その能力を備えた人物として九方皐という人を紹介しました。穆公は、喜んで、彼に名馬を堆薦するよう依頼したところ牝の黄色の馬を指定してきました。早速それを取りにやらせると案に相異してその馬は牡の黒毛の馬でした。公は怒って伯楽を詰問すると「馬を観ず、天機を観る」と返事したとのことです。はたして、この馬は千里の名馬だったと言います。』

本当の器量人の中には、時偶変人扱いされたり馬鹿にされたりする人が結構いるということであって、取り分けリーダーたる者はそういう人を見抜く目を持たねばならないのですが、実際は小成に安んじたり小さく凝り固まったスケールの余り大きくない人間について、正鵠を射たように思いがちなリーダーが多いように思います。
私も62歳を迎え、今段々と我社の後継者をどうして行くかというように見ていますが、やはり余り型にはまった人は駄目なのだろうと思っているところです(※2/※3)。

参考
※1:2010年1月8日東京読売新聞朝刊『[セリフ考]「どういて目くそは目頭から出るがかのう」』
※2:2011年2月3日北尾吉孝日記『カリスマ依存リスク
※3:2011年12月6日北尾吉孝日記『岡潔著「日本民族の危機」について




 

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