北尾吉孝日記

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日経平均株価が1143.28円の下げ幅を記録した先月23日以後、相場は乱高下し為替が円高ドル安に振れるという局面の中で、安倍ノミクスについて批判的見解を述べる学者や評論家が多くなってきているように思います。
以下、此の安倍ノミクスの真価が如何なるものかということに関して述べますが、様々な事柄が入り混ざった極めて難しい複雑系の代表たる経済の世界においては、純粋経済理論により「あれは間違い」「これは間違い」と一刀斬りするよりも、結果こそが全てだという前提認識を私自身は持っています(※1/※2)。
そういう意味から言うと、今年1月のブログ『「安倍ノミクス」への期待感~デフレ脱却と金融政策~』でも述べたように、先ず以て日本全体の消費者・投資家のマインドに変化を齎した安倍ノミクスは、基本的には“so far, so good”であると私は解釈しています(※3)。
その一方で、大きく言って2つの理由から安倍ノミクスの最終評価を下すには未だ至っていないというふうに現況を捉えており、その一つとしてマーケット自体がそれ程効率の高いものではなく、時々の金融経済政策をマーケットが正当に評価するには多少時間が掛かるということが挙げられます。
凡そ40年間に亘って株式市場・債券市場・金利市場など世界中のマーケットを見続けてきた私の経験から言えば、特に「異次元の金融緩和」というような全く新しい政策手段が講じられる場合、マーケットがそれ程早くにそれを消化・反映して動いて行くことはないと思っています(※4)。
1~3月期の実質GDPが年率換算で4.1%増だとか、あるいは消費が比較的堅調で消費者態度指数は5カ月連続のプラスだとかいった状況は今確かにそうなってはいますが、当該「実質GDPを項目別にみると(中略)設備投資はマイナス0.3%」と未だ動かないという局面も実際問題あるわけです。
どちらかと言えば安倍ノミクスのサポーターであるというふうに自認してはいますが、マインドを変えるだけでなく変わった結果として如何なる形で経済全体をポジティブに変えて行くことが出来るのかという意味でも、安倍ノミクスの評価はこれから為される第三の矢の結果が非常に重要だと思っています(※5/※6)。
さらに、安倍ノミクスの最終評価を下すには早すぎると考える二つ目の理由として、此の安倍ノミクスが大きく言って2つの外的要因により、どのような影響を受けて行くのかが不確かであるということが挙げられます。
第一は、米国の所謂QE3(量的緩和第三弾)が終わりを告げた時の状況に起因する影響についてであり、昨今の早期縮小観測の強まりに対するマーケットの反応はと言えば、NYダウは大きく下げ為替も円高ドル安に動いてしまっているというネガティブな部分が見受けられます。
しかしながら中長期的に見ると、米国経済が良くなるということは日本にとってポジティブなことであり、経済状況が良くなるからこそ量的金融緩和の早期縮小という見方が出てきているわけで、米国経済が良くなる以上は金利が上昇して行くという形になり、少なくとも対ドルでは円安になって行くはずです。
そしてまた米国景気が回復すれば、日本の輸出も増加し日本経済にとっても良いはずですから、緩和縮小は誰が考えても中長期的にはポジティブな事柄なのですが、短期的に見た場合どの程度のインパクトで如何なる影響を安倍ノミクスに及ぼすかという点で、その評価が左右され得るということなのだと思います。
それからもう一つは中国経済が安倍ノミクスに及ぼす影響についてであり、例えば「中国税関当局が8日発表した5月の貿易統計は輸出が前年同月比1.0%増、輸入が同0.3%減、(中略)輸出の伸び率は昨年7月以来の低水準。輸入も予想に反して減少しており、中国経済の減速に対する懸念を強める格好」となっています(※7)。
此の極端に落ち込んだ数字というのは、『貿易を装った架空の「水増し輸出」に伴う代金の国内流入について、当局が5月から取り締まりを強化した影響』が出たものなのか、はたまた中国が実体経済として本当に弱くなっていることを意味しているのか、此の把握出来ない要因が安倍ノミクスにも多大なる影響を及ぼして行くことになると見ています(※8)。
何れにしても、長期に亘るゼロ金利と幾多の量的緩和を実施してきたにも拘らず、デフレから脱却出来なかった日本において、あの時点でデフレというものを解決する手段は此の大金融緩和を措いてなく、他に代替手段はなかったということだけは言い得ると私は思っています(※9)。
未だFRBの早期金融緩和措置縮小に対する不透明感が払拭されない中、昨日もNYダウは126.79ドル下げ3日続落となり、本日東京市場では日経平均株価の下落幅が一時870円を超え、また為替は1ドル=94円台に突入するという動きを見せています。
やがて安倍ノミクスが真価を発揮し、仮に日本経済が上向いて行くならばexit scenario(出口戦略)を進めて行く必要に迫られるわけですから、日本は米国のexit scenarioを生きた模範として或いは反面教師として、よく研究することだろうと思っています。

参考
※1:2013年1月8日北尾吉孝日記『大転換の年に当たって
※2:2013年5月17日北尾吉孝日記『人間学と哲学・歴史学・経済学
※3:2013年3月11日北尾吉孝日記『日米相場展望
※4:2012年8月10日北尾吉孝日記『相場というもの
※5:2013年6月10日日本経済新聞「実質GDP、年率4.1%増に上方修正 1~3月期
※6:2013年6月10日日本経済新聞『消費者心理5カ月連続プラス 5月判断「改善」 態度指数1.2ポイント上昇
※7:2013年6月8日ロイター「5月の中国貿易統計、輸出入とも予想大幅に下回る
※8:2013年6月9日Yomiuri Online「水増し輸出取り締まりで…中国の輸出が急減速
※9:2012年12月26日北尾吉孝日記『「安倍ノミクス」の懸念点~中央銀行の在り方に変化が見える中で~




 

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