北尾吉孝日記

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今年5月の日経新聞記事に「20代、30代、40代 年代別ひとり時間にやるべきこと」というのがありましたが、本ブログでは以下「年代&悩み別『働く意味、喜び』をどう見つけるか」(PRESIDENT Online)で述べた事柄を主に、20代・30代・40代・50代で仕事と如何に向き合うべきかに関する私見を述べて行きたいと思います。

先ず新社会人になる20代、多くの新人が「こんなはずではなかった」という悩みに直面していますが、私に言えることは「早まるな、先ずは辛抱せよ」ということであります。
仕事をかじった程度の頃に抱く好き嫌いの感情だけで向き不向きを判断する人は、何時まで経っても自らが望む仕事には巡り合えないことでしょう。
当該年代においては、とにかく焦ることなく先輩や上司から言われたことを素直に腰を据えてやってみるべきです。そして、腰を据えて仕事をするには担当している仕事の意味を深く知る必要があります。
一年前のブログ『NHK番組「ドキュメンタリー同期生 兜町 夢のあとさき」を見ての雑感』でも述べたように、嘗て私は野村證券入社時に「君は野村で何をやりたいんだ?」と副社長から尋ねられ、「先輩諸氏から御話を色々と伺いましたが、実際働いてみないと良く分かりません。唯、どこの部署でどんな仕事に携わることになったとしても、世界経済の中での日本経済、日本経済の中での金融機関、金融機関の中での野村證券という三つの視点を常に持ちながら、働いて行きたいと思っています」と答えました。
同じように目の前の仕事を3つの側面から考えて、「自分が今取り組んでいるのはどんな仕事の一部なのか」「その仕事は部や課の中でどんな意味を持っているのか」「会社全体の中ではどんな位置付けなのか」といった一段高い目線から仕事を意味付けてみるべきであり、此のプロセスを経ずして想像していた仕事と違うと言ってうなだれることほど無益なことはありません。
『論語』の「雍也第六の二十」に「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず(ただ知っているだけの人はそれを好む人に及ばず、ただ好むだけの人はそれを楽しんでいる人に及ばない)」という言葉がありますが、楽しみの境地に入ることが出来た人は、恐らくそこに働き甲斐や生き甲斐を感じるものと思われ、ある意味人生の最高の境地とも言えましょう(※1)。
此の20代、「楽しむ」境地に入るのは難しいとは思いますが、先ず以て仕事を深く「知る」ことが出来れば仕事を「好む」段階になり得るわけで、少なくともそこまでは到達しておきたいものであります。

次に会社にも仕事にも慣れ部下もでき始める30代、此の時期に忘れがちなのが「仕事は一人では出来ない」という鉄則です。
多くの人の力が組み合わさって初めて大事を成し遂げ得るわけで、他人の能力や才能、そしてやる気を引き出すための力を身につけるべき時期だと思います。
日頃から「忙しい」が口癖になっている人は、「何から何まで仕事を抱え込んではいないか、ひょっとしたら部下や後輩も含めた周りの人を信頼して任せることが出来ていないのではないか」と胸に手を当てて考えてみるべきです。
私は30代の頃、上司から「北尾君、これやってくれ」と言われても、「この仕事は僕より彼の方が適任ですよ」とよく押し返していました。
之はやり方を間違うと、「上司の言うことを聞けんのか!」と怒りを買ってしまいますが、本当に適任で時間に余裕がある人を名指しつつ、自分の仕事をきっちりこなしていれば上司も文句は言えません。
たとえ上司からの命令であっても全てを受ける必要はなく、「できる社員ほど、上司の無理難題をやり過ごしている」という経営学の研究もあるわけで、30代になってその位の駆け引きが出来なければ大きな仕事は成し得ないでしょう。
今年4月に『使用・任用・信用』というブログを書きましたが、昔から人の使い方には「使用(単に使うこと)」「任用(任せて用いること)」「信用(信じて任せて用いること)」という3つの種類があります。
任せて用いた以上ぐちゃぐちゃと言うべきではありませんし、信じて任せて用いた以上なおさら細かいことを言うべきではありませんが、立場が上になり部下の数が増えれば増える程、部下が最もやる気を起こしてくれる「信用」を出来るか否かが問われることになるのです。
また此の30代、「人に任せる」と同時に仕事を効率化する手練手管も学ぶべきであり、先ずは「重要か否か」「緊急か否か」というシンプルな二軸で以て、仕事の優先順位を付けるべきだと思います。
それが出来れば人に任せるべき仕事も自ずと決まってきますから、そうすれば時間は必ず生まれますし心が落ち着く時間を作れれば、来し方を振り返って仕事の達成感も味わえるでしょうし、行く末を思いやれば仕事に対する新しいエネルギーと共に秀逸なアイデアが湧いてくるかもしれません。

そして周りの評価が定まる40代、此の年代で仕事の芽が出ていない人は、残念ながらその後も伸びる可能性は低いと言わざるを得ません。
40代になっても周りから評価されないという人は、虚心坦懐に自らの会社人生を振り返って見ることをお勧めします。
上手く出来るかどうかは分かりませんが、儒学の世界で言う「自得(じとく:本当の自分、絶対的な自己を掴む)」や、仏教の世界で言う「見性(けんしょう:心の奥深くに潜む自身の本来の姿を見極める)」を試みるということです(※2)。
「自分のどこが悪かったのか。あの時、どうしていれば別の道があったのか、今とは違う地位に上ることが出来たのか」というふうに考え、もしこれからでも遅くないと思えたならば、自分を変えて一発逆転を狙ってみても良いでしょう。
大切なのは、逆転の見込みがないと明らかになっても「あの苦労は水の泡になるのか・・・」と嘆き落ち込まないことであって、そういう場合でもジタバタせずに例えば「自分は出世競争に勝ち抜き、偉くなって行く器ではないのだ」というふうに、上ばかり見るのをきっぱり止めてみるのも宜しいかと思います。
此の40代、本当に力があるならば周囲は放って置かないでしょうから、取引先から「今の会社で不遇なら、うちの会社にきてくれないか」という声が掛かる年代でもあります。
また、面倒見の良い上司であれば嘗ての部下も含め下からは慕われているはずですから、「これからの自分の仕事は、若い人に仕事のやり方や心構えを教えることだ!」と思い定めてみると、今までとは違った会社生活が開けてくるかもしれません。
『論語』の「顔淵第十二の五」にも「死生命あり、富貴天に在り(生死は運命によって定められ、富貴は天にある)」という言葉がありますが、40歳を過ぎれば偉くなったり、金持ちになったりするのは天の配剤によるものなのだということがよく分かってくると思います。
『三国志』の英雄・諸葛孔明が五丈原で陣没する時、息子の瞻(せん)に宛てた手紙の中に「澹泊明志、寧静致遠(たんぱくめいし、ねいせいちえん:私利私欲に溺れることなく淡泊でなければ志を明らかにできない。落ち着いてゆったりした静かな気持ちでいなければ遠大な境地に到達できない)」という遺言としての有名な対句がありますが、周りが認めてくれないと嘆く前に此の言葉を深く味わってみてはどうでしょうか(※3)。

最後に「成長なんて最早無理」という声がどこかから聞こえてきそうな50代、他方で江戸時代の名高い儒学者・佐藤一斎の「三学戒」にあるように、「少(わか)くして学べば壮にして為すあり。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死して朽ちず(若くして学べば、大人になって、世のため、人のために役立つ人間になる。壮年になって学べば、年をとっても衰えず、いつまでも活き活きとしていられる。老いて学べば、肉体が滅びようとも、その精神は永遠に残る)」ということもあるのかもしれません(※4)。
「死して朽ちず」ということは、たとえ肉体が滅んでも生きることに対して常に前を向き、心中に向学心を携えて日々を過ごす姿が、子々孫々あるいは後進達の心に刻み付けられ、それによって彼ら自身が発奮するということで、後進のためにも人間老いて学び続けるべきだと思います。
年を取った人であっても自主性・主体性、そして様々な生活の中における創造性というものを何時も発揮出来るような人もいますし、少なくとも私自身はそう在りたいという思いだけは常に人一倍強く持ちながら努力に努力を重ねて、馬齢を重ねて行っているつもりです(※4)。
学ぶと言っても堅苦しく考えるのではなく、「自分は如何に生きるべきか」「何のために生を受けたのか」「どうしたら心安らかに暮らせるのか」というふうに、上記40代の項で述べた「自得」の実現に向け日々精進を積んでいけば良いでしょう。
森信三先生が唱えた『人生二度なし』という偉大な真理、此の二度とない人生を悔いなく終わらねばという気持ちは全年代に亘って強調したい真理ですが、死に近づいた50代、此の言葉は一層切実なものとして迫ってくるはずです。
1日は一生の縮図であり、一刹那・一瞬間の積み重ねが1日になり、1日の積み重ねが1カ月になり、それが更に積み重なって1年になり一生になるのであって、有限な時間の無駄遣いは禁物であります。
40代半ば、私はソフトバンク株式会社に移りましたが、それを境に昔から「時間の無駄」と思っていたゴルフをぴたりと止め、空いた時間を読書と執筆に充てています。
そうやって、今までやってきたことをすっぱり止めることも、此の年代になったら考えてみるのも大事なことだと思います。

参考
※1:2010年12月17日北尾吉孝日記『今年の漢字について
※2:2012年7月20日北尾吉孝日記『恒心を保つ
※3:2013年3月28日北尾吉孝日記『移ろぐ心の定め方
※4:2013年4月2日北尾吉孝日記『社会人としてのスタートを切る若者達へ




 

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