北尾吉孝日記

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米国のQE3(量的緩和第三弾)縮小というのは、当然ながらある面で良くなった米国経済を正常化させようという動きなのですが、結果として起こることは米国の長期金利の上昇であって、それにより再び新興国から米国への資金の還流が起こるということに繋がる可能性があります(※1)。
実際21日にブラジル・レアルが08年12月以来の水準まで下落し、28日にはインドネシア・ルピアが09年4月以来の水準まで下落、インド・ルピーも「一時1ドル=68.85ルピーと2日連続で最安値を更新した」というように(※2)、現実問題としてお金が確実に新興国から出て行っています(通貨騰落率―対ドル/4月末比・・・インド:-19.3%、ブラジル:-14.6%、南アフリカ:-13.0%、トルコ:-12.1%、インドネシア:-11.1%)。
ですから新興諸国からマネーが流出し、そうした国々の通貨安・株安が起こるという状況の中で、あのアジア経済危機(97-98年頃)のようなことが起こらないとも限りません。そうした事態を未然に防ぐ体制を構築すべく通貨スワップ協定を結ぶといったことをしておかないと、またぞろIMFが援助に乗り出さねばならないというようなことにもなりかねません。
一部で「新興国の株安をFRB当局者は問題視していない。当局者は月間850億ドル(約8兆4000億円)の資産購入策の縮小開始時期の検討にあたって注目するのは米経済だけだと述べている」という報道もありますが、単に米国経済が上向いたからQE3を縮小し正常化を図るということではなく、此のQE3縮小がある意味最大のリスクになりかねない新興諸国の金融経済問題に如何に対処して行くかということも、米国が果たさねばならない責任の一つだと思います(※3)。
次に日本の状況を見ますと、昨年11月14日の「野田電撃解散」以後、日本全体の消費者・投資家のマインドに変化を齎した所謂「安倍ノミクス」効果により、日本経済は5月末まで上向いて行き相場的にも約半年掛って1.8倍にもなったのですが(日経平均株価終値:11月14日8664.73円→5月22日15627.26円)、当該効果というのは精精そこまでのことでした(※4)。
事実、日銀が異次元金融緩和策を発表した4月4日を境にして、寧ろ長期金利が上がり始めるというような状況が生じたわけです。15年度に消費者物価上昇率を2%に持って行くという方針で政策運営を行うわけですから、ある意味安倍ノミクスの副作用という形でこのような長期金利の上昇が起こってくるのは当然のことです。
これから後、安倍ノミクスが成功するか否かは、その全てが「第三の矢」の結果如何に掛かっていると言っても過言ではなく、成長政策(規制緩和策と競争政策)というものにおいて、どれだけ大鉈を振るうことが出来るかということに尽きるのだろうと思います(※5)。
消費税増税については、今月14日のブログ『秋相場を左右する日米の重要政策について』でも指摘した通り、予定通り実施に踏み切られれば経済成長に対してマイナスに作用することは明らかで、嘗て橋本龍太郎政権時に経験したように今回もまた日本経済の成長が腰折れするということにもなりかねません(※6)。
上記ブログにて民間調査機関10社による「消費増税の反動が出る14年度の成長率の見通し」にも触れましたが、経済成長率的に見れば実質ベースで0.6%~0.8%程度のマイナス効果があると思われ、やはり之をオフセットすべく少なくとも5兆円規模の補正予算は組まねばならないと思いますし、更に可能であれば所得税や法人税の減税も含めてある程度の減税策を様々講ずるべきだと私は考えています(※7/※8)。
片一方で増税をやりながら片一方で減税するのかということもあるのですが、今さら三党合意で決めた消費税増税を撤回するのも難しく、最早世界に対する日本の公約のような様相を呈していますから、それによる悪影響を出来るだけミニマイズすべくその位のことをやって、よちよち歩きし始めた日本経済の腰折れが起こらないようせねばならないということです(※9)。
何れにしても、米国のQE3縮小の余波は日本にも及んでき、日米長期金利差が拡大して行く限りにおいて基本的に円安基調を辿って行くという形になると思いますが、そういう意味では日本にとっては新興諸国のような状況ではありませんから、輸出が拡大し株高につながるのではないかと見ています。もっとも、エネルギー価格は高騰し、輸入インフレ的な状況になるかもしれません。また国民経済的には円高の方がリビング・スタンダードが上がり、基本的には好ましいことです(※10)。
本日の日経新聞記事「新興国、マネー流出への耐久力に格差 経常収支や外貨準備で」でも「日韓は危機に備え、緊急時に通貨を融通しあう通貨スワップ協定を結んでいるが、韓国は7月に期限が来た契約の延長を要請せず、融通枠は総額100億ドルへ減額された。韓国内では危機への警戒もくすぶる」と述べられていましたが、日本が韓国および東南アジア諸国との間に抱える様々な問題はさておき、やはりアジア全体を如何に安定化させるかということの為に各国と通貨スワップ協定を結ぶ等によって、日本政府としても尽力すべきではないかというふうに思います。
最後に欧州の状況についても言及しておきますと、例えば今月号の『フォーリン・アフェアーズ・リポート』には「欧州市場は再び不安定化へ―― ディセンバーサプライズ?(ロバート・カーン・米外交問題評議会国際経済担当シニア・フェロー)」という記事もありましたが、足元の「ユーロ圏経済は、2013年4-6期のGDPが7期ぶりに前期比プラスとなった他、製造業PMI指数が2年ぶりに50を上回るなど、景気後退に底入れの可能性が出て」きています(※11)。
最近出てくるドイツの各種経済指標を見ていても、6月の鉱工業生産指数が11年7月以来の高い伸びを記録し、8月のZEW景況感指数・IFO景況感指数が共に事前予想を上回り高水準に達したというように経済的には大分回復してきているように思います(※12/※13/※14)。
そういう中で問題を一つ挙げるとすれば、イタリアにおいて「系列メディア企業の脱税事件で禁錮4年(恩赦法により1年に短縮)の最高裁有罪判決を受けたベルルスコーニ元首相(76)の処遇を巡り、(中略)連立崩壊や解散・総選挙」によって生じる政治的混乱の恐れということはあります(※15)。
そうした問題はあるものの欧州は一応の小康状態を保ち続けており、今後も何とか小康状態が続いて行かないものかと願ってはいますが、それと同時に此の小康状態の今こそ、より良きEUを目指した形でユーロという枠組みが抱える根本的矛盾(つまり統一為替レートを使い金融政策は一元化されていながら、メンバー各国間において経済成長率も潜在成長率も大きく異なり、財政状況についても夫々違っているにも拘わらず、財政主権はメンバー国に夫々あるという状況)を、抜本的に改めることを考えるべきではないかと思います(※16)。
昨年10月のブログ『2013年の政治経済展望』でも指摘したように、ユーロが内包する此の根本的矛盾の解決なくして基本的には何も解決し得ないということを私はこれまでも幾度となく指摘し続けてきましたが、これまで実際はその場しのぎの施策に終始してきた結果、小康状態を得たかと思えばまた深刻化し、ギリシャが収束したかと思えば今度はスペイン・イタリアが問題化する、といったことを何度も繰り返してきたわけです。
詰まるところ此の問題というのは、ユーロというコンセプトを続けて行くのか否かという二者択一しかないわけで、如何にドイツが負担に思おうとも続けるということにメリットを見出し、これから後も続けて行くという選択をするのであれば、ユーロ内で財政の一体化に踏み切るといった根本的解決策を目指して行かねばなりません(※16)。
直近では「9月に予定されるドイツの連邦議会選挙(中略)そして、ECBの債権購入プログラム=OMTに関する憲法裁判所の判断」が注目されますが、何れにしても今後も抜本的な取り組みが為されず、中途半端な施策によって何時までも一時凌ぎを繰り返して行くというのでは、何も解決し得ないと思います。(※16/※17)。

参考
※1:2013年8月14日北尾吉孝日記『秋相場を左右する日米の重要政策について
※2:2013年8月30日日本経済新聞「新興国、利上げで苦肉の通貨防衛 実体経済下押しも
※3:2013年8月27日SankeiBiz「新興国への影響問題視せず 緩和策縮小めぐりFRB当局者
※4:2013年7月3日北尾吉孝日記『日本の株式・為替市場の展望
※5:2013年5月15日北尾吉孝日記『「安倍ノミクス」と構造政策
※6:2013年7月24日北尾吉孝日記『デフレ脱却と財政再建~消費増税判断は如何に為されるべきか~
※7:2013年8月12日現代ビジネス「増税にYESといわない安倍首相は正しい!消費税増税なら2014年はマイナス成長になる
※8:2013年8月19日ロイター「アングル:消費増税によるショック、家計に9兆円負担の試算
※9:2013年3月11日北尾吉孝日記『日米相場展望
※10:2013年7月11日北尾吉孝日記『バイロン・ウィーンの「日本びっくり5大予想」について
※11:2013年8月三井住友信託銀行株式会社 経済・産業レポート「ドイツ外需好転はユーロ圏にどう波及するか
※12:2013年8月8日ロイター「6月独鉱工業生産指数は約2年ぶりの高い伸び、予想大幅に上回る
※13:2013年8月13日ブルームバーグ「8月の独ZEW景況感指数42.0、予想上回る-ユーロ圏けん引
※14:2013年8月27日ブルームバーグ「ドイツ:8月のIfo景況感、107.5に上昇-4カ月連続の改善
※15:2013年8月24日毎日jp「イタリア:連立、亀裂深まる 経済回復阻む恐れ
※16:2012年10月5日北尾吉孝日記『2013年の政治経済展望
※17:2013年8月フォーリン・アフェアーズ・リポート「欧州市場は再び不安定化へ―― ディセンバーサプライズ?




 

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