北尾吉孝日記

『暗黙知とイノベーション』

2013年10月31日 15:23
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ハーバード・ビジネス・スクール教授の竹内弘高という人は、『イノベーションは人を介するものであり、組織を構成する人にとって大事な要素となるのは「暗黙知」です。この暗黙知こそ、日本人の得意とする知です。暗黙知と形式知を展開することによって新しい知が生まれ、それによってイノベーションへとつながっていきます』と述べています(※1)。
このように、イノベーションに関わる暗黙知ということはよく言われるわけですが、その内容とは一体何なのかと考えてみるに、私などの捉え方としては、結局それは嘗て『直観力を高める』や『直観力と古典』等で詳述した直観ということに極めて近いものではないかという気がします。
勿論、様々な経験や知識に基づいて物事を考えて行くわけで、その直観というのもそういうものをベースにして働くということにもなりますし、更にはある意味最も高度な人間らしい知恵ということでは、やはり知識の知のみならず『情意を含んだ知というもの』が非常に大事になります。
仮にそういうものであるとすれば、暗黙知においても当然そうした情意を含んだ知がなければならないということですが、一概に暗黙知と言ってとりたてて、之がイノベーションの誘発要因であるというふうには、余り考えなくて良いのではないかと私は思います。
此の暗黙知というのは、「自然科学・人文科学・社会科学の広汎な分野において多大な世界的功績を残したマイケル・ポラニー(中略)という天才科学者が提唱した概念」のようですが、之がイノベーションの源泉の一つだと謳ったところで、その定義は百人百様です(※2)。
例えば、暗黙知とは『言葉や数字、データで表せ、他人への伝達や共有が可能な「形式知」の対局にある、極めて個人的で表現しにくい、「主観に基づく洞察、直観、勘」に加え、「個人の行動、経験、理想、価値観、情念にも深く根ざしている」という“知識”である』という形で定義する人もいますが、之では何もかも全てを包含し広くなり過ぎていて、結局何も特定できずに殆ど意味を為さなくなっているように思います(※3)。
イノベーションにプラスになるという暗黙知の定義が上記したものであるならば、それを磨くにはありとあらゆることをやらねばなりませんが、では具体的に一体どのようにしてそれを磨くことが出来るのか、そしてまた、それそのもの及びその構成要素において何れが磨けていて何れが磨けていないのかは如何にして判別できるのか、といった具合に兎にも角にもよく分かりません。
このように、分からない概念を分からない言葉で分からない説明をして人に何かを訴えたところで、訴えられた方も何も分からずに終わってしまうわけで、私としてはどちらかと言うと表現の在り方として望ましいものだとは思いません。
私見を述べるならば、イノベーションを起こす上で暗黙知ということに囚われるのでなく、自分は天から如何なる能力が与えられ、如何なる「天役(此の地上におけるミッション)」を授かったのかということを己の力で探す中で、イノベーションというのも起こってくるものだと思っていますし、そしてその中で様々な経験や知識に基づいて、夫々が持つ個性というものから色々な知恵も出てくるのだと思います(※4)。
1年半前のブログ『自己を得る』も参考にして頂ければと思いますが、例えば拙著『北尾吉孝の経営道場』(企業家ネットワーク)でも御紹介した通り、佐藤一斎なども『言志録』の中で「人は須らく、自ら省察すべし。天、何の故に我が身を生み出し、我をして果たして何の用に供せしむる。我れ既に天物なれば、必ず天役あり。天役供せずんば、天の咎(とがめ)必ず至らん。省察して此に到れば則ち我が身の苟生すべからざるを知る」と言っています(※5)。
つまり、天から与えられた自分の役目を一生懸命追求している中で急にパッと閃いてくるとか、あるいは「あれとあれとを組み合わせれば、こうなるんじゃないか」というふうになってくるというわけです。その人の経験と知識と天賦の才に基づき自ら修養をして行く中で、ある意味悟りというのは開けて行くということであって、之を以て暗黙知と言うのであれば、そういうことなのかもしれません。

参考
※1:2013年6月24日日経ビジネスオンライン『日本企業の得意技「暗黙知」を生かせイノベーションを加速する人材とダイバーシティへの対応
※2:2009年3月4日東京経済大学学術機関リポジトリ「暗黙知を理解する
※3:2013年6月11日日経ビジネスオンライン メール『【NBO IT革新】「暗黙知」が思い浮かばずモヤモヤ(6/11)』
※4:2012年12月11日北尾吉孝日記『志と覚悟~人生の時間を如何に使って行くべきか~
※5:株式会社致知出版 月刊『致知』バックナンバー『2013年3月号 特集「生き方」




 

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