北尾吉孝日記

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「ふるさとテレビ第12回月例セミナー」で行った先月10日の講演が記事化されたことを先週木曜日にツイートしましたが、その講演では『Ⅱ.今後の日本経済の持続的成長の鍵は「第三の矢」』と題して「1.企業の活力を引き出す法人税改革」、「2.新産業育成のための制度作り」、「3.TPPを機にした農業改革」、「4.オリンピック開催を背景とした観光立国」、「5.ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF:対外資産を主な投資対象とする政府が直接的・間接的に運営するファンド)の創設」という5つを挙げて話しました(※1)。
1年程前にも『「安倍ノミクス」と成長戦略』というブログを書きましたが、今年半ばに見直されるとされる此の「三本目の矢(成長戦略)」を成就させるべく、安倍内閣は今後上記した5つを完遂して行かねばなりません(※2)。
第一に、「企業の活力を引き出す法人税改革」に関しては、「第三の矢」と言われる成長戦略の中でも第一の柱になって行かねばならないものだと認識していますが、之については先月6日のブログ『「安倍ノミクス」と法人税改革』で既に詳述済みですので、御興味のある方はそちらを御覧頂ければと思います。
第二に、「新産業育成のための制度作り」ということでは、添付画像「日本におけるベンチャー投資の現状」を見て頂ければ一目瞭然ですが、日本のベンチャーキャピタル投資額対GDP比は先進国の中で低水準に留まっており、制度改革を通じた新産業育成の活性化が求められます。
そしてそれは、税制・公的資金・国家戦略特区といった面から為されねばならないわけですが、先ず税制を通じた活性化で言うと、例えば経産省は「13年12月成立の産業競争力強化法に基づき、ベンチャー投資促進税制を創設する。企業がベンチャーファンドに出資した場合、出資額の8割の損金算入を認めて法人税を軽減する」という動きを実際に見せています(※3)。
また金融庁においても、先月25日に公表された金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書にある通り、「投資型クラウドファンディングを取り扱う業者について参入要件を緩和。一方で、投資者保護のためのルールを整備」するとか、あるいは「保険子会社ベンチャーキャピタルによる投資を促進するため、追加出資時の出資先企業に係る中小企業要件を撤廃」するといった具合で、こうしたベンチャー企業投資が後押しされる取り組みに対して、私は大いに期待を寄せています。
次に、公的資金を通じた活性化については、当ブログでも『なぜ日本は「新産業クリエーター」になれないのか』(2012年2月8日)や『成長資金活用に関する日韓の相違点』(2012年7月20日)等々で御紹介した韓国のように、所謂「ベンチャー企業」を創成すべく国や地方がベンチャーキャピタルに成長資金を注ぎ込みサポートして行く、というメカニズムを一刻も早く具現化せねばなりません。
韓国では例えば、将来の基幹産業育成支援に関しては「政府予算→知識経済部(日本の経済産業省)→中小企業振興団→運用会社の組成ファンド」というような形で資金が流れるようになっていますし、また科学技術・バイオ産業支援は「政府→科学技術部→運用会社の組成ファンド」或いは映像・文化コンテンツ産業支援は「政府→文化体育観光部→運用会社の組成ファンド」というふうに、ベンチャー企業育成において公的資金が積極活用されています(※4)。
上記ブログでも述べたように、日本においてイノベーションの土壌を醸成し産業を興したいと考えるのであれば、韓国に学び韓国モデルのようにベンチャーキャピタルファンドを積極的に活用して行くというような方策を早急に採るべきで、日本と韓国を比べるとそうした所に対する考え方が月と鼈ほど違っていると私はつくづく感じています。
最後に、国家戦略特区を通じた活性化ということで言えば、例えば慶大発のバイオベンチャー「スパイバー」(山形県鶴岡市)が昨年9月、「各種規制緩和や税制優遇によって、クモ糸繊維を軸に鶴岡市をバイオ産業の拠点とする構想を掲げ」、県や市等と共同で国家戦略特区を国に提案したというニュースもありました(※5)。
上記セミナーでは、「規制緩和により世界中のベンチャーが集積する国家戦略特区へ」と題した添付画像を用いて、「バイオベンチャーの集積」を例に説明しましたが、何れにしても今月7日に発足した「国家戦略特別区域諮問会議」を舞台に、今後具体化されてくる特区の内容や地域等について注視して行かねばと思っています(※6)。
今週火曜日の日経新聞記事『経済財政諮問会議の落日 改革の執念は「特区」へ』にも書かれているように、上記会議の初会合で竹中平蔵氏等の民間議員が連名で出した「ペーパー」において、「医療、農業、雇用分野などの岩盤規制を短期間に改革すると宣言した」り、「近く開会する通常国会で国家戦略特区法を改正するよう求めた」りと、此の先の展開に期待が持てそうな気がしています。
第三に、「TPPを機にした農業改革」ということでは、他産業と比して著しく生産性が低い農業を中心とした部分における競争原理導入の考え方、及び「TPPと生産性」ということに関して医療分野では如何に捉えるべきか、といったところを先月19日にブログで詳述しましたので、御興味のある方は是非そちらを御覧ください。
ちなみに、上記セミナーでは「農業活性化のための施策(1)」として「農業の株式会社化による生産性向上」の話を、「農業活性化のための施策(2)」として「加工食品輸出の拡大による活性化」の話をしましたので、夫々の添付画像も参考にして御読み頂ければと思います(※7/※8)。
第四に、「オリンピック開催を背景とした観光立国」に関しては、先ず日本政府観光局(JNTO)により公表された統計から現状を見るに、2013年の訪日観光客数は政府目標の年間1000万人を突破したものの、政府が成長戦略の中で掲げる中長期目標「訪日客数を東京五輪のある20年ごろに年2000万人、30年に3000万人に増やす」というところからは大きく乖離した状況です(※9)。
昨年9月のブログ『2020年東京オリンピック開催決定後の日本~消費増税判断および経済株式展望~』の中で『開催までの経済効果「150兆円」試算 観光業の拡大が牽引 景気リスク懸念の声も』(2013年9月9日MSN産経ニュース)という記事を参考に挙げましたが、当該記事においては「現在、日本の観光業が国内総生産(GDP)に占める比率は約5%にすぎないが、7年間で約10%に倍増し、95兆円の経済効果を生む」という大和証券株式会社の木野内栄治シニアストラテジストの試算が紹介されています。
木野内氏は「北京五輪の集客効果などを参考にすると、日本の観光産業は世界水準並みになる」とも述べているようですが、20年東京五輪開催を機に多くの外国人が日本を知る切っ掛けとなることが期待されるのは勿論、当該祭典に向けてカジノの解禁や観光インフラの再整備も考えられるわけで、此の機を最大限生かすべく政府・地方自治体を中心にオールジャパンで知恵を絞って行かねばなりません(※10)。
観光産業振興のための対策としては、1年前にも『「観光立国」日本を目指す』というブログで御紹介した通り、①観光ビザの取得を容易にする、②出入国者数の大幅増加に備え、入管や税関の体制整備をする、③様々な言語の通訳を養成する、④一定のグローバル・スタンダードに準拠した公的な宿泊施設を整備する、等々が考えられましょう。
また、地方自治体も観光客の地方経済に対するインパクトを十分に認識し、地方の観光資源の開発(例えばスキー施設)や温泉開発、地域の食材を使った料理の工夫等々、地域住民あげて行うべきでしょう(※11)。
一昨年5月のブログ『日本におけるカジノ産業育成の考え方』でも中国を例に下記の通り述べましたが、アジア各国で急増する中間層を取り込むため、今こそ具体策が求められます。

【外貨獲得のために観光立国日本を目指すということであれば、カジノは大きく寄与すると思われ、特にこれから中国人観光客を取り込んで行こうとする場合には必須条件の一つとなりましょう。
と言いますのも、中国政府が本土からマカオへの渡航規制を掛ける程中国人というのは昔から無類のギャンブル好きですが、中国の中間層は2020年までに「9億2,000万人、富裕層(世帯年間可処分所得が3万5,000ドル以上の所得層)が、1億8,000万人になる見込みで(中略)日本の総人口より多くなる」とも言われており、その中間層を取り込むことなしに日本が観光立国として発展して行くことは難しいと思うからです。
それ故中国人に結構人気がある北海道でのカジノ産業の発展がウィンタースポーツとのコンビネーションにより、当該地域が現在抱える過疎地の問題等々を解決する一つの方策となるのではないかというように以前ブログで私は述べたわけです。】

第五に、「ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の創設」ということでは(参考:Sovereign Wealth Fund Rankings)、当ブログでも過去何度も取り上げてきましたが、之を考える前提として「財務省が14日発表した昨年11月の国際収支速報によると、モノやサービスなど海外との取引状況を示す経常収支は5928億円の赤字と、比較可能な1985年以来、単月で最大の赤字になった。(中略)経常赤字の計上は2カ月連続。2013年1~11月までの経常黒字は累計で3兆9千億円強と、過去最少だった12年(4兆8千億円強)をさらに下回る公算が大きい。主因は輸出から輸入を差し引いた貿易収支の巨額赤字の定着だ。特に円安が加速し始めた昨年2月以降、原油など燃料の輸入代金がかさみ、輸入額の伸び率が10カ月連続で輸出を上回っている」という、日本の現況を押さえておく必要があります(※12)。
そういう中で予てより幾度となく指摘し続けているように、日本は所得収支を如何に増やして行くかということを真剣に考えねばならないわけですが、その方策の一つとしてSWF創設があるというのは、一昨年10月のブログ『「貿易赤字過去最大」を受けて』等で述べてきた通りです。
これまで日本が溜め込んできた巨額の外貨準備高を使って投資をして行き、そしてそういう結果として金利や配当あるいはキャピタルゲインを得て行くというのも、所得収支の黒字幅を拡大する上でプラスになることの一つだと考えます(※13)。
SWF創設に当たって、相手先の選別とファンド運用開始後のモニタリングが重要になることは言うまでもありませんが、仮に運用する者がいないというのであれば、韓国のように米国人をCIOに雇って運用体制を整えれば良いだけのことで、ある程度のお金を支払えば出来ないことはないと思います(※14)。
また、4年前の夏に書いたブログ『韓国出張とSWF創設について』の中で、私は「Abu Dhabi Investment Authorityという中東アブダビのSWFについても、私が訪問した時にはアラブ人の他に必ず英国人か米国人が一緒に出てくるという状況で、実質的には彼らが専門家として運用の切り盛りをするという体制を敷いているわけです。そのようなことが、なぜ韓国やアブダビに出来て日本に出来ないのか、私は疑問に思います。日本にも運用のプロは沢山いますし、少なくともアラブ諸国と比べればより良い状況にあることは間違いないわけです」と述べましたが、上記した改革同様これまた他国を見習って一刻も早く創設すべきだと思う次第です。
以上、『日本経済の持続的成長に向けて~「第三の矢」:キーとなる5つのポイント~』と題して長々と述べてきましたが、昨年見られたようにこれから此の三本目の矢が折れて行くというような状況にでもなれば、異次元緩和の後遺症ばかりが出てき、近い将来日本経済は大変な副作用に悩まされることになりましょう(※15)。
要は「第三の矢」として言葉が踊るというのでは最早なく、具体的にそれが如何なる規模の内需の誘発を狙っているのか、どれ程の消費・賃金の増加に繋がると期待しているのか、あるいは革新的なベンチャー企業の創成にどう繋がるのかが明示されねばなりません(※16)。
安倍首相におかれても抽象論を超えて、是非とも年頭の所感に続く形で直ぐに具体的な方法論と実行プロセスを公表し、内閣あげての革新的な行動に結び付けて頂きたいと切に願っております(※16)。

参考
※1:2013年12月9日yoshitaka_kitao – Twitter
※2:2014年1月14日Yomiuri Online「日本経済再生 効果的な成長戦略に練り直せ
※3:2014年1月10日ニッキン「2014年の制度改正・規制改革、金融関連の注目ポイント」
※4:2010年5月10日北尾吉孝日記『日銀による新産業育成の取り組みについて
※5:2013年12月25日河北新報「クモ糸繊維の量産へ事業展開加速 鶴岡のベンチャー企業
※6:2014年1月14日マイナビニュース『「特定秘密保護法」より重要な「国家戦略特別区域法」の内容
※7:2011年3月16日北尾吉孝日記『日本と中国
※8:2012年7月27日北尾吉孝日記『「長寿企業大国にっぽん」のこれまでとこれから
※9:2013年12月20日日本経済新聞「訪日外国人客、初めて年1000万人突破 円安で割安感13年20%増
※10:2013年9月9日MSN産経ニュース『開催までの経済効果「150兆円」試算 観光業の拡大が牽引 景気リスク懸念の声も
※11:2013年2月4日北尾吉孝日記『「観光立国」日本を目指す
※12:2014年1月15日日本経済新聞「海外で稼ぐ力、空洞化で衰え鮮明 11月経常赤字最大
※13:2012年10月25日北尾吉孝日記『「貿易赤字過去最大」を受けて
※14:2010年8月19日北尾吉孝日記『韓国出張とSWF創設について
※15:2014年1月9日北尾吉孝日記『日経平均株価予想~2013年を振返り、2014年を見通す~
※16:2014年1月8日北尾吉孝日記『安倍首相の年頭所感に思う




 

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