北尾吉孝日記

この記事をシェアする

先月26日の日経新聞社説は「セブンイレブンに学ぶこと」というものでしたが、嘗て私はある雑誌の取材において、「これまで会ったなかで、高い志をもっていると感じた経営者を挙げてください」と問われ、「ご存命の方では稲盛和夫さんですね。(中略)他には、イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊さん。そのもとでコンビニエンスストア事業を立ち上げられた鈴木敏文さんのお二人もご立派だと思います。米国でセブン‐イレブンの店舗を見て、これは日本でも流行すると見抜き、工夫をこらして日本に定着させたのは鈴木さん。そして、その鈴木さんにコンビニエンスストア事業の一切を任せたのが伊藤さん。このお二人が世界に冠たる日本のコンビニ文化を築いたといっていいでしょう。どれほど生活が便利になったか、計り知れません」と答えたことがあります。
此の伊藤・鈴木両氏に関しては、拙著『不変の経営・成長の経営』(PHP研究所)でも「いち早くPOS(販売時点情報管理システム)導入によって徹底的な在庫管理を行なった」、日本で「科学的な経営を先駆けて実践した経営者」として御紹介したこともありますが、私にとって最も印象深いのは、野村證券時代に担当者と同伴で事業法人部長としてイトーヨーカ堂グループに行くと、「変化への対応と基本の徹底」という1982年以来の経営スローガンが常に掛かっていたということです。
此の言葉の意味というのは、先ず「基本とは何か」「何を基本にすべきか」といったところから始まって、その基本を決めた後は手を替え品を替え何時の時代においても、それを徹底的に貫き通すというスタンスだと私は認識しています。
此のイトーヨーカ堂グループ担当時に私が忘れもしないのが、例えばあのバブルの最中みなが土地を買えば儲かるという時に、茹だる程の余剰資金を抱えながら本社ビルを借りていたということで、これ正に一つの基本の徹底ということだと思います。
そしてまた、オフィスでは蛍光灯全てに紐をぶら下げ、社員は自分のデスクの上だけ電気を点けて他は消すようにしていたとか、あるいはセブン‐イレブンで鈴木さんが継続されてきたのは、毎週全国からコンビニ店主を呼び集め商売のやり方や御客様への対応を教え込むということであって、こうしたスタンスによって基本が貫徹されてきたというわけです。
「変化への対応」ということでは、例えば先々月23日のMarkezine記事「オムニチャネル戦略を打ち出したセブン&アイ、はりめぐらされた顧客接点と“ひとつのID”をめぐる戦い」にもあるように、昨年鈴木さんは「ネットで買い物をする消費者の増加を受け、ネットとリアル店舗の融合、オムニチャネル化を推進することが最優先課題」と宣言され、「通販大手のニッセン、高級衣料を扱うバーニーズ ジャパン、インテリア・雑貨店フランフラン等を運営するバルスなど、計4社の株式取得を発表。(中略)オムニチャネルサービスの構築に5年間で1000億円の投資を行うことを発表」されました。
鈴木さんは予てより此の「オムニチャネル」の必要性を説かれていたわけですが、やはり此のセブンにしてもイオンにしても或いはローソンにしてもそうかもしれませんが、巨大な店舗網を有する所が本格的にオムニチャネル化を推し進めて行くことで、楽天やヤフーといったものにある意味対抗して行くことが出来るのだろうと思います。
鈴木さんは昨年ロイターのインタビューにおいて、『セブンイレブンの進化の秘訣について「世の中が変化すれば、我々も変えていかなければいけない。変化するからチャンスがある」と話』されたようです。
此のセブンをはじめとしたコンビニやスーパー、あるいはドラッグストア等が取り分け「プライベートブランド商品」をどんどん開発しながら、ネット企業との戦いに入って行くということで、そういう意味で私は大変な挑戦になると見ており、ネット小売業からすると極めて恐ろしく感じねばならない競合相手だと思っています。
最後に私が此の両氏に何時も感心していることを更に述べますと、例えば私が野村證券時代にニューヨークで勤務していた時も、伊藤さんは訪米後すぐに様々な小売店の見学に向かわれ、そこで色々なものを見て勉強したこと全てを紙にメモされるといった具合で、常に紙を持ち歩き全部メモ書きして行くという、ある意味恐ろしい程の学びの姿勢を有する人が伊藤雅俊という御方です。
他方の鈴木さんに関しては、「人間の心理を考えた細かなものの見方から仮説を立て、正確なデータによって検証していくことを継続的にやっていく」と言われている通り、仮説を立て検証するという姿勢を何時も徹底されてきた人で、あれ程までにそれを貫く人は今の世では意外と少ないのではないかと思います。




 

(任意/公開)
(任意/非公開)

  • 小
  • 中
  • 大



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.