北尾吉孝日記

『真の永遠は今に在る』

2014年4月25日 15:20
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曹洞宗の開祖・道元禅師は、「志のある人は、人間は必ず死ぬということを知っている。志のない人は、人間が必ず死ぬということを本当の意味で知らない」と言われています(※1)。
之は一言で言えば死生観の問題ということであって、要は人間いつ死ぬか分からない存在であるからこそ、今を・生を大切にするということに繋がって行きます。
此の死生観をもう少し難しい言葉で表現しますと、それは絶対的価値を永遠に残すべく今何を為すべきかということになるわけですが、之に関しては安岡正篤著『日本精神の研究』(致知出版社)に次の通り記されています。

『「如何に生くべきか」は、「如何に死すべきか」と同じ意義になってくる。人は天晴な死を遂げん為に、必然平素に於いて死の覚悟がなければならぬ。何となれば、天晴の死は絶対的価値の体現、即ち永生である。(中略)死を覚悟する時、猥雑な妄念はおのずから影を潜めて、人間の誠が現れる。(中略)死の覚悟なくして、真の生活は無いのである。(中略)我々は死を覚悟するが故に、この生を愛する。(中略)死の覚悟を死に臨んでの自暴自棄と誤ってはならぬ。(中略)換言すれば、「今」に即して「永遠」に参ずるのである。おろかなる者は永遠を解して一分一時の限りなく連なるものと思い、時間を空間的に解釈して居る。(中略)是の如き時間の連続に何の意義も無い。真の永遠は今に在る。永遠は今の内展でなければならぬ。(中略)死の覚悟は永遠の今を愛する心である。永遠の今を愛することは絶対的価値を体現しようとすることである。』

例えば、「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」という辞世として相応しい芭蕉の名句もありますが、いつ死ぬか分からないという中で、「きのうの発句は今日の辞世、きょうの発句は明日の辞世、われ生涯いいすてし句々、一句として辞世ならざるはなし」と大変な覚悟を持ち、今を真剣に生きて行った芭蕉のような人もいました(※2)。
こうした芭蕉の生き方こそ「死の覚悟」をし「真に生き」「永遠の今」に安立した生き方というものであり、だからこそ世に優れた句を生み出すことができ彼の名は永遠に残ったわけですが、此の覚悟というのはある意味「志」と言い換えても良いものだと思います。
1年前のブログの中で、教養人の生活態度の中に表れることの一つとして、世のため人のために何かをしようという志を持つことを挙げましたが、これ即ち此の社会に何らかの意味ある足跡を残して行くということであって、そういう意味では必ずしも有名になったり大事業を残したりといった類に限ったことではありません。
但し、拙著『北尾吉孝の経営道場』(企業家ネットワーク)第一章でも、『「志ある者は、事(こと)竟(つい)になる」「志易ければ足りやすく、足りやすければ進むなし」。理想を目指し到達しようとする心、それが志です』と書きましたが、その志の高さ・厳しさによって、やろうとする心・自らを律する強さも変わってきますから、やはりそうした志を持っていなければ何事も成し得ません。
5年前、我がグループの『入社式訓示』において、私は「礼」及び「主体性の確立」と共に、「大きな志を抱く」ということに関し、次のように話しました。

【最近は志と野心を勘違いしている人がたくさんいます。この二つは全く違うものなのです。志というのは利他的なものです。だから共有され、後世に受け継がれて行きます。一方、野心とは利己的なものですから一代で完結してしまい、受け継ぐ者が出てこないのです。この志というのは「我々人間は他の動植物の犠牲の上に生命を維持している」、「人は他の人や社会との干渉なしには存在し得ない」という二つの自覚により生じます。この二つの事実から、人は他によって生かされていることを自覚しなければなりません。その自覚が、公のために生きるべきだという使命感・志となって、自らの生き方になってくるのです。そのためにも心を磨き、少しでも社会に貢献できるよう自分を高め続けていくことが必要であります。人間である以上、無欲、没我になるのは簡単ではありませんが、我欲に覆われ、私心に襲われて沈没しては駄目だと思うのです。】

司馬遼太郎の『峠』という小説の中に、「志ほど、世に溶けやすく壊れやすく砕けやすいものはない」とありますが、だからこそ一度志を定めたならばそれを生涯貫き通すと決死の覚悟をし、そして永生を遂げるのです(※3)。

参考
※1:2014年4月1日致知出版社のメールマガジン『「偉人たちの一日一言」【人生の大則】 志のある人とない人の違い』
※2:2014年3月27日北尾吉孝日記『身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂
※3:2009年6月29日『北尾吉孝の経営道場』(企業家ネットワーク)




 

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