北尾吉孝日記

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先月16日、当社取締役執行役員副社長を務めた井土太良君が、57歳の若さで亡くなりました。
死因は脳腫瘍ということでありますが、実際は肺癌が原発で脳と肝臓に転移していたというものです。
7ヶ月前のある日、彼は私に「最近頭が少し痛くなったり、眩暈がするんです」と告げてきましたので、私は「ひょっとしたら、メニエルかもしれないぞ。直ぐに虎の門病院の熊川孝三さんの所に行きなさい。メニエルで日本一だから」と彼に伝え、熊川先生を紹介しました。
そして熊川先生の診断で、「メニエルでなく寧ろ脳腫瘍ではないでしょうか。肺も含め直ぐにMRIを撮ってください」という話になり、MRIを撮った結果として原発性肺癌の転移による脳腫瘍であることが明らかになりました。
「直ぐに入院を」と勧められながら「会社に行って働くんだ」と言って本人は聞かず、そうした状況が続く中で亡くなる数日前まで現に彼は会社に来、代表取締役社長を務めていたSBIマネープラザ株式会社を中心に仕事をしていました。
彼は途中から東京女子医科大学の「がん緩和ケア室」に入っていましたが、そこも一度退院するということで、此の退院自体が極めて珍しいものでありました。
癌の大きさについても殆ど変化なく、また全くと言って良い程痛みを感じることもなく、担当医も「奇跡」と言われる中で、彼は抗癌剤治療を受けてみるということを決断しました。
一回目の抗癌剤は然程強いものではなかったのですが、無事ワンクールを終えた後彼は「少し味がしない」とは言っていたものの、それ以外の副作用は本人に殆ど認識されることなく、これまた病院では非常に不思議がられました。
そして今度は少し強くした二回目の抗癌剤を打った後、造影剤を使って癌の状況を詳しく見、次の三回目の抗癌剤を投与するか否かの判断を下すという流れではあったのですが、結果その造影剤の検査前に彼は亡くなってしまいました。
上記した熊川先生も、「井土さんはヘビースモーカーですから九分九厘、原発性の肺扁平上皮癌だと思います」と言われていましたので、検査の結果早い段階で此の癌の種類が扁平上皮癌であることが分かりました。
「井土、タバコを止めろよ。タバコは百害あって一利なしだからな」と、私は彼に何度も何度も言ってきましたが、彼が唯一つ私の言を聞き入れなかったのが此のタバコを止めるということでした。
今回、井土君本人からも色々話を聞くにつけ、彼の死というのはタバコが如何に体に悪いかを立証するようなケースになったのでは、というふうに今私は思っています。
また、彼が死の直前に二度投与した抗癌剤に関して更に言うと、先ず驚くべきことに結局彼は二度の抗癌剤投与を経た後も、髪が抜けることもなければ痛みもほぼないという状況でした。
毎日のようにALAを高単位で飲み、更にトーダ酵素という栄養補助食品を飲んでいた彼の習慣が功を奏したのか否か不明ですが、不思議なことに抗癌剤の副作用というのが彼には殆どありませんでした。
井土君は当初この抗癌剤治療を受けないとずっと言い続けていたわけですが、特に彼の場合は父君も様々な抗癌剤を使い癌で亡くなったということがありますから、私が推測するにその状況を見ていて抗癌剤嫌いになったのではないか、というふうに思います。
医師の勧めもあり最終的には抗癌剤を打つということを本人が決めたわけですが、抗癌剤というのは正常細胞も痛めることになりますから、当然のこととして体力が非常に落ちてくることにもなります。
慶応義塾大学医学部放射線科講師の近藤誠先生も言われるように、末期癌患者に対する抗癌剤使用の是非に関しては、今後の研究事項の一つとして大変重要だという気がしています。
上記した通り井土君の場合は、取り分け脳に癌が随分転移していたこともあり、ガンマナイフ治療を行っていたのですが、その後どうしても浮腫が出るためそれを抑えるべく、片方でデカドロンというステロイド剤を使っていました。
此のデカドロンを長期間使用すると、満月病と言われるステロイド剤特有の一つの副作用が現われたり、免疫力を落とすことになり、そしてまた同時に抗癌剤によって免疫力を落とすということにもなるわけです。
「結局こうした処置が、死期を早めることになるのかもしれないなぁ」というふうに、今回様々な人の話を聞いて私自身は思いました。
二十数年に及ぶ同志・井土太良君というのは、私が何を考えているかを多くを語らずとも誰よりも理解できた男であり、彼の余りにも早過ぎる死は私を心底落胆させるものでありました。
今でも本当に辛く時々一人涙を流しているような状況で、此の日記も涙を堪えながら書いているという有様です。
しかし経営者として、何時までも悲しみに暮れているわけにも行きません。井土君に負けないぐらい頑張って働かねば、という思いを今新たにしているところです。
私のみならず多くの社内の者が、井土君の仕事ぶりに圧倒され驚愕したと思います。井土君は仕事は全身全霊でやるものだと身を以て示したのです。




 

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