北尾吉孝日記

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先日このフェイスブック上である方から、『「貧困の連鎖とデジタルデバイド」という観点で北尾様のご見解を日記で取り扱っていただくことはできないでしょうか?(中略)児童養護施設で生活する子供達とインターネットのかかわりはどうあるべきとお考えでしょうか?』とのメッセージを頂きましたので、本ブログでは当該観点より以下私見を申し上げたいと思います。
例えば、今週火曜日のブログで御紹介した『9歳で突然父を亡くし新聞配達少年から文科大臣に』(海竜社)という下村博文さんの本を見ても、子供の教育の程度と両親の所得との正の相関性が示されていて、貧困家庭に生まれた子供がある意味教育機会の不平等を被っているということは明らかです。
当該書籍においては、『すべての子供たちが質の高い幼児教育を受けられる環境を構築することは、経済的・社会的格差の縮小をもたらし、貧困家庭に育った子供が大人になっても貧困になるといういわゆる「貧困の連鎖」の防止にも効果を持つと考えられる。また、他の学校段階と比べて、最も社会的収益率(私的収益率+公的収益率)が高いとの分析もある。幼児教育の充実が将来のより高い収入や非行・犯罪の抑制などにつながるということである』等の指摘が為されています。
冒頭で挙げた「デジタルデバイド(digital divide:コンピューターやインターネットを使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる、労働条件や収入の格差)」ということに関しても、子供の頃からインターネットに常時接続できる環境に身を置けるか否かが、その人の将来に大きな差を生んで行くことになりましょう。
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグも「すべての人にインターネットを」と主張するように、インターネットはその検索機能を使い非常に広範囲な知能集積に接し得るという意味で正に知の宝庫でありますし、またインターネットを通じて多くの人と繋がり知り合いになって行くといったことも出来るわけで、そういう意味で此のインターネットアクセスというのは非常に大切であると思います。
但し、同時に考えねばならないのは、インターネットから収集した情報は如何様にも適当に使用して良いといったふうに、今一部で是認するような風潮があるコピペというものであり、之に関しては『「STAP問題」について』(14年3月19日)でも指摘したことがあります。
インターネットは使いようによっては、ある意味コピペばかりで思考力を喪失して行くというようなことにもなるわけで、今若い人達の多くが行っているのは例えば、如何に情報を効率的に取得し合理的に繋げるかという、論文の纏め方だけの技術的な世界のです。
『論語』の「為政第二の十五」で「学んで思わざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し…学んでも自分で考えなければ、茫漠とした中に陥ってしまう。空想だけして学ばなければ、誤って不正の道に入ってしまう」と孔子も言うように、やはり情報を取った上で思索を深めて行かねば、本当の意味での知恵が磨かれて行くことはないのです。
此のインターネットアクセスということでは、私が嘗て身を置いたソフトバンクの功績は極めて大きなものがあると思っています。孫さんは、先ず米国で既にポピュラーになっていたパソコンが日本でも浸透する時代が必ず来るであろうことに着眼し、10年に1度買い替える冷蔵庫よりも毎日買うお惣菜のようなソフトの方がマーケットとして必ず大きくなるということを信じて、1981年に日本ソフトバンクという会社を設立しました。
当時はメインフレームが主流を占めていて、その頃から徐々にダウンサイジング化が起こりパソコンの世界が急速に拡大して行くわけですが、その創業時コンピュータソフトの卸業というような業態は日本に無く、業として成り立つか否かすらも判らない時分でした。
そうした中で孫さんは、卸しているソフトを売るべくパソコンユーザをどんどん増やすために今度はどうしても啓蒙が必要だということで、当時アスキーなどもやり出していたパソコン雑誌の出版事業を手掛けようとする等、パソコンに関わるような事業を様々展開するという方向に進んで行きました。
そして、所謂ウィンテル(Wintel)の時代(Windows OSやIntel製CPU等が搭載されたパソコンが市場を席巻し両社が蜜月状態にあった時代)に入って行く中で、米国におけるIT産業と市場環境が日本に比して遥かに進んでいた時、孫さんは此のMicrosoft社のOS(Operating System、基本ソフト)を総力を挙げて日本でも普及させ、後のデジタル世界の「シンカ(深化・進化)」に多大な貢献をして行きました。
あるいは孫さんは、マイクロソフトのライバルで当時同社と肩を並べるソフトウェア企業であったノベルと日本合弁法人を90年に設立し、その4年後にはシスコシステムズ日本法人に投資をし、そして更には通信網のデジタル化が絶対に必要だとして之を推進し、今世に広がるスマホの世界を切り開く上でも色々と繋げてきたわけです。
その後ソフトバンクという会社は幾度か業態を変化させながら、また子会社の充実も図りながら今日あるわけですが、上記したような動きの中で世界中の人がある意味結ばれ、世界中の知識がある意味利用できるようになったということで、こうした普及率の向上を図って行くこともデジタルの世界では大変重要なのだと思います。
貧困の連鎖ということでは先述した下村大臣のにも、「今は高齢者に対して(年間一人当たり)約二三六万円の(財政)支援がある。年金、医療、介護といった社会保障費が多い。これに対して幼稚園児は約三〇万円、小中高校生が約九二万円、大学生が約九四万円で、お年寄りにとっては恵まれた環境であるが、子供や若い人たちは軽視されている状況が(日本では)ある。(中略)わが国の教育への公財政支出は現在、GDP比で三.八%とOECD諸国(平均五.八%)で最低の水準にとどまっている。公財政支出が少ないということは、その分、家計の負担が重いことを意味する」ということが書かれていました。
年寄りと比較して公的財政支援が低い子供はある意味社会的な弱者であり、彼らを守って行くのは親以外に存在しないとも言い得る一方で、その親がデジタルの世界に十分精通していなければ、子供を当該世界に導くということがやはり遅れて行きます。
下村大臣は「貧困家庭の場合、貧困が貧困を生み、親から子へと世代を超えて負の連鎖が続くという問題(中略)を何とかしなければと思って政治家になった」とも言われていますが、そういう意味では親がある程度の教育を受けていることが子供間の格差を減じる上でも極めて重要でありましょう。
これまで私は社会貢献事業の一環として、2010年3月に公益財団法人に移行したSBI子ども希望財団、及び私の個人的な寄付で設立した社会福祉法人慈徳院(こどもの心のケアハウス嵐山学園)という情短施設(情緒障害児短期治療施設)の運営に尽力してきました。
それは理不尽な虐待を受けた子供達を何とかしたいとの思いを抱いているからであり、そしてまた、それは子供がある意味社会で最も恵まれていない社会的弱者であるとの考えからでありますが、私自身最近強く思うのはSBI子ども希望財団の様々な活動を通じ、子供達が自立した後生きて行く上での何らかの武器を持たせる必要があるということです。
言うまでもなくその武器の一つが、インターネットに常時アクセス出来る環境を整備して子供達がその世界に馴染むようすると共に、そこから彼らが知識を吸収したり人との繋がりを増やして行く等々をして行くということであります。
今回フェイスブックメッセージを私に送られた方も、「インターネットにアクセスできたところで自分で物事を考えない依存症になってしまっては元も子もありませんが、インターネットによって国を超えて個人と個人、企業、国家と簡単に結びつくことができ機会が広がるということを知ってもらうことは子供達に希望を与えることではないかと思っています」と書かれていましたが、私も此の御意見に全く同感です。
そしてもう一つの武器として大事な要素だと考えているのが、子供達に語学とりわけ英語を身に付けさせるということで、之はSBI子ども希望財団の理事長を御願いしている田淵義久さんが考案され理事会として了承されたものであります。
より具体的には先月13日のプレスリリース「SBI子ども希望財団『SBI英会話教育支援プログラム 2014』実施に関するご報告」にもある通り、「児童養護施設の子どもたちに英会話学習機会の提供を通して、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図り、自信と自己探求意欲を高めることで、自立を支援することを目標とし、さらには、子どもたちがより良い生活を夢見る勇気を持つことを期待」すべく、希望する児童養護施設に対して『公文式「英語」の会費(小・中学生対象)』及び『英会話教材「スピードラーニング・ジュニア」前半6巻(中・高校生対象)』を提供したというものです。
実際その反響は大変なもので後に履修した児童は、「こういうことをしてくれて本当に有難う御座いました」と沢山の礼状を書いて送ってくれましたが、子供のことですから必ずしもそれが永続化するか否かは分からない部分も勿論あります。
しかしながら今回、少なくともそういうものに取り組み挑戦してみたい子供達がいるということが分かったわけで、その子供達にとって折角のこうしたチャンスを如何に彼らの人生を切り開いて行く上での大きな武器に育てて行くか、SBI子ども希望財団は「子どもたちの入所施設の改善・充実はもちろんのこと」今後なお一層こうした活動に力を入れる必要があるとの認識を強くしました。
また、今回「SBI英会話教育支援プログラム 2014」を『履修した児童を対象に特定非営利活動法人みらいの森が実施する「イングリッシュキャンプ」5泊6日へ招待』するということで、ただ単に机に向かって「英語」を学んだり英会話教材の音声を聞いたりというだけでなく、子供達の未来をアウトドアで育むという取り組みも行っています。
そうしたキャンピングといったイベントを通じ、外国人と英語で触れ合い外国人の話を初めて聞く中で子供達の目が初めて海外に向けられ、彼らが興味関心を持つということそしてそういう気持ちを育てて行くということを続けて行ければと思う次第であります。
以上、「貧困の連鎖とデジタルデバイド」という観点を中心に長々と述べてきましたが、私として我々企業家の一つの社会貢献というのは、未来ある子供達のために色々な機会を創り出して行くということだと考えます。
本ブログのテーマを依頼された方は、SIMロック解除義務やMVNO普及促進という昨今の動きを挙げた上で、「一般の人が使わなくなったスマホを児童養護施設に寄付してもらい、MVNO業者の社会貢献活動の一環として通信料を寄付してもらえれば児童養護施設の子供達にもインターネットにアクセスできる環境をつくれるのではないか」と言われていますが、勿論それも一つの在り方だと思います。
貧困であるが故に機会の不平等に陥って自身の可能性を追求できない子供や、自らが貧困の中で育ったがために十分な教育機会を喪失し結果子供を正しく導き得ない親自体が、ある意味で貧困の連鎖と言えるのかもしれませんし、貧困の連鎖に繋がるものだと言えるのではないでしょうか。
「一燈照隅、万燈照国」という考え方がありますが、私は私で現況が少しでも改善すればと、上記した形等での取り組みを通じ細やかな火を灯しています。多くの企業家には「自分の会社が伸びた」とか「自分が金持ちになった」とかだけでなく、「如何にして此の社会の現状を良くするか」といったところに自身の興味関心を向けて頂きたい。そして彼ら一人一人が出来る限りの何らかの社会貢献をして行けば、此の世の中は少しずつ良くなるのではと思うのです。




 

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