北尾吉孝日記

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私は昨年4月『将来起こり得る世界のビックイベント』というブログの中で、国際「政治学者イアン・ブレマー氏が率いるコンサルティング会社のユーラシア・グループ」が公表した「2015年世界の10大リスク」の次の3点、「(5)イスラム国の拡大リスク」「(8)中東におけるイスラム教スンニ派とシーア派の対立の深化とサウジアラビアとイランの緊張リスク」「(10)トルコ・エルドアン大統領の強権的な政治手法がもたらすリスク」を引用して御紹介しました。
そしてそれに続けて、短期的・中期的・長期的に此のイスラム国の行方が如何なるリパーカッションを世界に起こして行くのか非常に不安に駆られる部分があると述べたわけですが、上記(8)については年初より急にクローズアップされてきています。いま当該地域で見られる動きとは5年前、北アフリカのチュニジアで発生した反政府デモに端を発し中東・北アフリカ諸国に拡大した「アラブの春」の如きところにまで影響を及ぼしてくるリスクがあります。先月のブログでも指摘した通り、アラブ諸国は原油価格下落による財政悪化の埋め合わせに保有株をなし崩し的に売却する動きをみせてもいるわけで、やはり王族支配そのものにつき様々な意味で注視して行かねばならないものと思います。
また4日に公表された「2016年世界の10大リスク」でも「サウジ情勢」が第5位とされていましたが、その他ユーラシア・グループは今年「最大のリスクとして、第2次世界大戦のあと国際情勢の基調となってきたアメリカとヨーロッパの同盟関係が弱体化し、シリアやウクライナなどの紛争を解決する能力が失われていることを挙げ(中略)、これに続くリスクとして、難民問題やテロに直面するEU=ヨーロッパ連合が設立の精神に反し閉鎖的になるおそれがあることや、中国が世界経済で重要な存在となりながら各国との関係がなお不安定であること、さらに、過激派組織IS=イスラミックステートによるテロの脅威の拡散などを挙げていま」した。
私は色々なメディアで発信される当該グループのプレジデント、イアン・ブレマーの見解に関し比較的評価している一人であり、いつも傾聴に値するコメントだと思って見ています。今回の10のポリティカルリスクの類全ても確かに、御尤もな話だと思っています。私自身、彼に個人的に御会いし彼に意見を様々伺うことも結構あります。彼はメディアで「国際政治学者」と言われることが多いですが、一つの社のトップですから余り学者といった感じもしない人物だという印象があります。
第一位のリスク「同盟の空洞化」で言えば、ブレマーが「米国の単独主義と欧州の弱まりで(従来の)同盟関係が損なわれる」と指摘されるように、欧州は欧州で常にぐらぐらしている一方で米国自らが「世界の警察」としての役割をある意味放棄しつつあるという状況下、同盟関係が揺らぐところまで行かずとも以前程には緊密なものではなくなってきているのも事実でしょう。
第二位のリスク「ヨーロッパの閉鎖性」で言うと、やはり「シェンゲン協定…欧州諸国間において人の移動の自由を保障する協定」の維持・運営がある意味難しくなる局面も出てきましょう。何故なら既にフランスで大規模なテロがあったこともあり、今後もそうしたテロの可能性があることからEU各国はかなり神経質になっています。特に、現在EUで大問題になっているシリアを中心とした難民の中に、ISのメンバーが紛れ込んでくるリスクもあるからです。
欧州の場合とりわけ昔から根強く見られるのは、こうした問題が起こってくると必ず右翼系の連中が騒ぎ出して選挙に出て勝利を収め、彼ら自身がある程度のポリティカルパワーも握って行くということです。それが局限状態に達したのがユダヤ人を徹底的に排斥した「ナチズム」でありますが、「ハイル、ヒトラー」(ヒトラー万歳)と叫び「ネオナチ」と称される人々が未だいるのも現実です。ドイツはじめ欧州各国でも今、シリア難民を受け入れたりもしています。しかし、あの第二次大戦時に対ユダヤ人という形で動いていたものが、もしこれからISによるテロが起こった時に今度は対イスラミックでも段々と過激化してくるリスクはあります。
第三位のリスク「中国の存在感」で述べるならば、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で影響力を増す」云々というよりも、圧倒的な規模の人口及び経済力を持つに至っている中国は今後もAIIBの正否に拘らず、何事にも大きなインパクトを世界に対し与えて行くことでしょう。但し、問題点としてより重要視すべきは、中国のポリティカルスタビリティーが如何なるものかということです。即ち、チャーチル英国元首相が言われたように「成長は全ての矛盾を覆い隠す」ことになっているのが実相です。先月も中国概況をテーマにしたブログに書いた通り、中国の実質GDP成長率は15年7~9月期に前年同期比6.9%増と09年1~3月期(6.2%)以来の低水準を記録しましたが、ここから10~15年の先を見通したらば段階的に下落して行くと予想されます。
5年位ずつのタームで見ても、10年後には5%台になり15年後には4%台になるといった中で、現在中国が抱える様々な問題が顕在化してくるリスクが生じてき、どう政治的安定性が損なわれて行くかが非常に大事なポイントになります。それでなくても中国という国は、50以上の民族を抱える多民族国家でチベット等の少数民族が宗教上の理由もあり強力な反政府的勢力として出現する要素もあるわけで、今日まで続いてきた共産党の一党独裁体制が崩れた(そう簡単には崩れないでしょうが)としても何ら不思議ではありません。ここ1~2年というタームで見れば、直ぐにそうした事柄が起こるとは思いませんが、もう少しロングタームで見てみれば、中国の経済成長が減速してくるとはある意味今後の世界情勢を左右し得る最大のリスクになるのかもしれません。
最後に私が本年最大のリスクと考える米国の大統領選挙の行方、即ち「トランプ・リスク」につき簡単に触れておきます。あるエコノミストに拠れば、「ともに40歳代のクルーズ氏かルビオ氏のどちらかが最終的に共和党の指名争いで勝つだろうという見方が専門家の間では根強い」とのことですが、独走状態続くドナルド・トランプが勝たないとも限りません。直近の共和党内の支持率で言うと、約40%のトランプに対し第二位のテッド・クルーズは15%程度に過ぎません。「イスラム教徒の米入国禁止案」等々、唐突で突拍子もない持論を展開するトランプが次の米国大統領になるとすれば、何がどう変わるかが全くの未知数でそれが最大のリスクになるでしょう。




 

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