北尾吉孝日記

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先月19日、日本経済新聞に「国際特許出願、アジアが初の5割超、中国がけん引」と題された記事がありました。世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization)に拠れば、昨年「2位の中国は9%増の5万3345件と、首位の米国(1%減の5万6142件)に接近(中略)。日本は3%増の4万9702件と前年と同じ3位」であったようで、日本も未だ「存在感を保っている」と書かれていました。
また同紙には1月下旬、「革新的企業、日本から最多の39社 米調査会社」という記事もありました。「保有する特許データを基に知財・特許動向を分析」したクラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics)に拠ると、日本は「8回目となる今年度も、世界最大のイノベーションの先進地域としての地位を継続して獲得(中略)。米国からは33社が、ヨーロッパからは19社が選出」、中国からは3社が選ばれたようです。
上記記事の通り、特許という観点で見れば日本の所謂大企業は「世界的にもなお存在感は大きい」のが実態です。従って、巷間言われる大企業で「新しいビジネスが出てこない」等の議論は、当該観点よりは何故と思われる方もおられるのではないでしょうか。もし本当に出てこないのであれば、それは一つに特許取得に止まって、世のため人のため新しいものを事業化すべく一生懸命チャレンジし続けて行く、といった熱意が組織体としてベンチャーに比して足りていないのかもしれません。
三昧の境地に入って朝から晩まで寝食忘れて徹底的に事業化に向けて頑張るということでなければ、換言すればアントレプレナースピリット(entrepreneur spirit)を無くした状態で、事業を興して行くことは無理だと私は思います。十分に給与等を貰って安住している大企業サラリーマンが、生涯賭けて取り組み、粘り強くやって行くのは難しいでしょう。つまりは技術の類だけの問題でなく、その人の熱意・経験・責任感・天賦の才あるいは人物全てを総合した力の集積における問題だと捉えています。
拙著『強運をつくる干支の知恵』(致知出版社)にも書いたように、私は毎年最初の出社日に干支学を本に、その年がどんな時勢の変化の年になるか、それに対してどんな心構えで一年を過ごすか、会社がどんな方向に進み、どのようなことに気を付けて仕事をして行くべきか、といったことを社員に対し話しています。此のアントレプレナースピリットということでは2005年、下記の通り述べたことを是に御紹介しておきます。

【我々はベンチャー企業から出発したわけですが、今やグループ内に公開企業が七社あります。そして東証一部上場企業もあります。こういう状態になってくると、だんだん官僚主義が蔓延(はびこ)り、意思決定のスピードも遅くなります。さらに我々は潰れない会社にいる人間なのだと思い、様々なことに油断をします。人間として、会社として傲慢になりがちなのです。しかし、私は、このグループはどれだけ成長しようと、ベンチャースピリット、アントレプレナースピリットを持ち続けていかなくてはいけないと思います。
もともと企業生態系という考え方から、小さな企業集団から形成される一つのグループとして、グループ一丸となって一つのベクトルに向かって進みますが、それぞれの企業が意思決定を別にしながら、迅速な経営判断をするようにしています。というのも、変動が激しい社会の中で勝ち残っていけるように、その中で働く者が常にベンチャースピリットを持ち続けながら働くことができるように、それぞれの会社の人的規模を大きくしないようにしてきたのです。皆さんは是非もう一度原点に立ち返り、このベンチャースピリットを持ち続けるということをよく頭の中に叩き込んでもらいたいと思います。】

それからもう一つに所謂「大企業のサラリーマン社長」には、「その特許を如何に使って事業化するか」や「これがマネタイズ出来るビジネスか」そして先見性(、先見の明、目利き力)と事業との関係、といったところを見極める能力が不足しているのかもしれません。嘗てのブログ『世の中の一歩先を行ったらあかん』(15年9月7日)でも指摘したように、事業では確かな先見性を持ち近未来を適切に予測して、その変化に合わせて事業を展開して行くことが重要です。勝機を掴むべく、時間の経過と共に需要が増え売上が伸びて行く事業に時機を得て取り組むということです。
結局どんな商売もタイミングが大事であって、有用な技術やアイディアが有っても、そのタイミングを間違えてしまえば上手く行きません。そればかりか往々にして、失敗してしまうことすらあります。いつ立案し、事業化し、世に投入するか――そのタイミングの見極めこそが、経営者の目に掛かっているのです。それは世のニーズや進歩等々、あらゆる面に気を配った上で行われねばならず、その勘所を持つには日頃より、思考の三原則、即ち①枝葉末節ではなく根本を見る/②中長期的な視点を持つ/③多面的に見る、に立ち、物事を考察する習慣を身に付けることでしょう。
戦略を練るというのは、長期的視野に立って如何なる事業をどのタイミングでどのような形でスタートすべきか或いは廃止すべきか、といったことを考えるのが非常に重要です。しかし大企業のサラリーマン社長では、4~6年程度の任期中に長期戦略を立てることが難しいかと思います。また彼等の多くは、綿々と受け継がれてきた経営を少なくとも自分の任期中、大過なく過ごすことを第一に考えて会社運営に当たるわけです。
他方、創業者という人達を比して考えれば、彼等は自ら事業の種を蒔き全リスクを引き受けて汗をかきます。また様々な経営環境の中で、生き残ってきたわけです。その意味で背負っている重さに随分と違いがあると思います。創業社長の基本にある精神が何かと言うなれば、それはあらゆる苦難を乗り越え企業を創り上げるという不屈のアントレプレナースピリットです。そうした精神を持つ経営者は常に、好不況の波を前にしても動ぜず、時代の変化を見据え長期的な視野に立ち、じっくり腰を据えて事業を展開して行くものです。




 

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