北尾吉孝日記

この記事をシェアする

二〇一九年五月一日、「平成」から「令和」への改元を迎え、新たな時代の幕が開きました。同年七月八日、私どもSBIグループは創業二〇周年を迎えます。
振り返ればこの二〇年、日本はもとより世界中で様々な出来事があり、社会や経済は劇的に変化しました。そうした中、創業当時わずか社員五五名、資本金五〇〇〇万円に過ぎなかった企業が、社員約六四〇〇名(二〇一九年三月末現在)、時価総額約六〇〇〇億円(直近ピーク時には八〇〇〇億円超)の金融グループに成長しました。
現在は、証券、銀行、保険を網羅する金融サービス事業、ベンチャー投資等のアセットマネジメント事業、そしてテクノロジーを活用した新薬開発などを手掛けるバイオ関連事業を三大事業とし、盤石な事業体制を整えています。二〇一九年三月末時点でSBIグループが保有する顧客基盤は二五二〇万超、グループの累計投資社数は国内外合わせて一五二四社、エグジット率は一六・三%と高いパフォーマンスを誇っています。
なぜ私どもがここまで成長できたのか。そこには様々な要因があり、その時その時における戦略・戦術の取り組みが時流に乗っていたこと、何より創業以来一貫して、お客様のため投資家の皆様のために顧客中心主義を貫いて、より革新的なサービス・ビジネスの創出に努めてきたということです。その根底には私が創業にあたって定めた五つの「経営理念」を愚直に堅持し、弛まず実践してきたからであると考えています。
五つの経営理念の中で一番目に掲げたのは「正しい倫理的価値観を持つ」ということです。これは、私が二一年間に亘って勤めた野村證券を辞める間際に発覚した損失補填問題などがきっかけになっています。当時の田淵義久社長は非常に素晴らしい経営者であったにも拘わらず、残念ながらバブルが膨らむ過程で第一線の営業担当者や管理職の倫理観が著しく欠如する状態になっていたと言わざるを得ません。
その教訓と反省に立ち、私はSBIグループのスタートに当たり、先ず「正しい倫理的価値観を持つ」ということを掲げたのです。正しい倫理的価値観が求められるのは金融業界に限りません。この二〇年を振り返ってみても、それを蔑ろにしたため弱体化したり破綻の淵に追い込まれたりした企業は枚挙に暇がないことは皆様もご存知の通りでしょう。お金を扱う金融業にとっては、とりわけ正しい倫理的価値観は事業の大前提です。
また五つの経営理念の一つにどうしても加えておかなければならないと思ったのが、「社会的責任を全うする」ということでした。「社会なくして企業なく、企業なくして社会なし」――すなわち、企業とは社会にあって初めて存在できるものであり、社会から離れては存在できないものと私は考えています。だから経営トップは常に「公益」を念頭に置き、私企業としての「私益」と利害を調整しなければなりません。
ですから私は「日本の最重要な資源は人材である」という認識に基づき、深刻な問題を抱える虐待を受けた子どもたちの支援など児童福祉の向上に焦点を当て、SBI子ども希望財団や社会福祉法人「慈徳院」(児童心理治療施設「こどもの心のケアハウス嵐山学園」)を通じて、児童福祉の向上に一〇年以上取り組んでまいりました。また人物を育てるという思いでSBI大学院大学も設立しました。こうした企業としての社会的責任を果たすことで企業の「徳」を磨き、それを様々なステークホルダーからの信頼に繋げ、「強くて尊敬される企業」を目指して取り組んできたのです。
私は今年六八歳ですが幸いにも健康であり、判断力、直観力はむしろ若い頃より勝っていると感じるほどです。しかし、気力、知力、体力に自信を持てなくなる時がいずれ来るでしょう。そのときは潔く身を引くつもりですが、一方でSBIグループは永続企業(ゴーイングコンサーン)として発展していかなければなりません。また、事業は真の徳業でなければなりません。そして、時流に乗って長期に亘り顧客に便益を与え続け、同時に企業として様々なステークホルダーとの調和を為さねばなりません。一時代でも世の中が大きく変化する中で、会社をいかに進化させ続け、何百年もの間永続させることができるのかということをグループ創業当初から真剣に考えていました。
私が出した答えは、「自己否定」・「自己変革」・「自己進化」のプロセスを続けるしかないということです。それが経営理念の一つにも掲げている「セルフエボリューションの継続」ということです。例えば私が創業以来欠かさないことは、四半期ごとの決算説明において必ず新しいビジネスコンセプト(“Something New”)を盛り込むことです。厳しいハードルですが、だからこそ日々、新たな発想を求め、事業の革新に取り組み、さらなる飛躍に繋げていこうとしているのです。この姿勢を多くの社員と共有することで、これからもSBIグループは成長し続けることができると信じています。
本書では、SBIグループの二〇年に亘る挑戦と進化の軌跡を振り返るとともに、その根底に流れている事業構築の基本観や経営トップとしての私の考えをまとめました。人に「人徳」があるように企業にも「社徳」があると私は考えています。「社徳」を高めることを目指して発展を遂げてきたSBIグループの歩みは様々なステークホルダーの皆様との歩みでもあります。この場をお借りしてSBIグループ創業二〇年を共に歩んでくださった皆様に深謝致したいと思います。そして、これからの時代に企業はいかにあるべきか、本書が経営に関心を持たれているすべての人にとって有益な一書となれば幸甚であります。




 

(任意/公開)
(任意/非公開)



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.