北尾吉孝日記

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拙著『森信三に学ぶ人間力』の第一部・第三章、私は「“野にいた哲人”に学ぶ」と題して次のように述べました――森先生の思想は確かに(東洋の道徳と西洋のそれを融合させようとされた)西晋一郎先生(広島高等師範学校)から大きな影響を受けていると思います。しかし、私にはそれ以上に、江戸時代の中江藤樹、石田梅岩、三浦梅園といった人たちの影響を受けているのではないかと感じられます。さらにいえば、最も大きな影響を受けたのは二宮尊徳翁かもしれません。(中略)すなわち『二宮翁夜話』や『報徳記』から「真理は現実の只中にあり」「人生二度なし」という、森先生の人生を貫く二つの大きな確証を得るのです。
己の全人生を世のため人のために捧げた尊徳翁は、600以上の荒廃した村々を復興し、その過程で多額の資産を築くことが出来たにも拘らず、報奨金の全てを農村復興に注ぎ込んだ偉大な人物です。「おそらく古来尊徳翁ほどに微賎な身分から身を起こして、一般の庶民大衆にも近付きやすい大道を示された偉人は、比類がないと言ってもよい」(『修身教授録』)と思います。
森先生は、此の「尊徳翁という巨人は、日本民族の生んだ最大の思想家にして実践者」であるとされ、また「日本は二〇二五年に立ち上るであろう。しかしその再起再生の原動力になるのは、二宮尊徳の教えに基づくほかない」と言明されておられます。例えば渋沢栄一翁などは、曰く「二宮先生の遺法は…わが国家の財政上にこれを応用いたさねばならぬと考える。あくまでも先生の遺されたる以上四ケ条の美徳(至誠、勤労、分度、推譲)の励行を期せんことを希(こいねが)うのであります」とのことです。
此の「四ケ条の美徳」は正に森先生が指摘せられた、その「教え」と言えましょう。例えば一年ほど前当ブログでも御紹介した映画「二宮金次郎」の冒頭、尊徳翁は「分度:自分の置かれた状況や立場を弁え、それに相応しい生活を送ること」が如何に大切なことであるかを説かれます。『中庸』に「君子は其の位(くらい)に素して行い、其の外(ほか)を願わず」とあります。いわゆる「素行自得」という言葉でありますが、どのような環境であってもそれに応じて自らを得るということです。こうした教えと共通する概念です。日本では封建的に認識された部分がありますが、必ずしも身分だけを象徴しているものではありません。現に母子家庭・貧農出身の尊徳翁その人が、帯刀を許されるまでに成ったわけです。
あるいは「一円融合」も挙げられましょう。之は、『世の中には、対立するものなどない。敵も味方も、善も悪も、みな一つの円の中に入れて観ることだ。「一円」となったときに初めて、成果が生み出されると考えよ』といった教えです。恨みや憎しみ等の感情から全て解放され行くということで、結局私がよく言う「相対観からの解脱」とも相通ずるものだと思われます。
それから「積小為大:小を積みて大と為す」「心田開発」等々、その「教え」は未だ未だ挙げられましょう。志同じくした者が精神的にも経済的にもより豊かな生活が送れるようして行くべく、尊徳翁は、「心田」を開拓すること及び荒れた農地を開墾して行くことの二つを生涯の使命としたのだと思います。
上記の如き一つの思想哲学は、ある意味この長きに亘る日本道徳教育の中心であって、我々が子供の頃には殆どの小学校に、柴を担ぎながら中国古典を読んで歩いている尊徳翁の像がありました。しかし近年その撤去が著しく進んでおり、私は「日本人も此の優れた先達の教えを何故教えるのをやめるのかなぁ」と、つくづく残念でなりません。「金次郎さんの像」については嘗て、「今日の森信三(505)506)」として次のようにツイートしたこともあります。
――金次郎さんの姿は、年端もゆかない少年の身でありながら、父を失った貧しい中から起ち上がり、刻苦精励して、後には多くの貧しい人びとを救ったその人生へのスタートを浮き彫りにした像なのであります。すなわち、その超凡なエネルギーが、そもそも如何なるところに基因するかということを象徴している姿であり、それは勤労と勉強という、ともすれば結びつき難いこの二つの働きを、一身の上に切り結ばせつつ動的に統一している、最も具体的な人間像と言ってよいでしょう。二宮尊徳は、それを踏まえつつ、やがて広大な世界観と人生観を築き上げると共に、そこから強靭無比なエネルギーが絶えず噴出して、その生涯を救民済世のために、文字通り東奔西走した、民族の代表的巨人の一人というべきであります。
我国の人民の中で、例えば映画「二宮金次郎」にしろ、その翁の人間力・生き様・高い志を見、感動を覚えない日本人は略(ほぼ)いないと思います。私自身非常に感動を受け涙しながら見たもので、描かれている翁の教えの偉大さに多くが深く感銘を受けることでしょう。当社グループや投資先企業でも研修に用いる当該映画ですが、皆様におかれましても是非その教えに学ぶべく一助とされてみては如何でしょうか。




 

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