北尾吉孝日記

『偉大なるかな二宮尊徳』

2019年6月19日 16:30

先日、映画「二宮金次郎」を鑑賞したところ大変素晴らしい作品でした。「心田」を開拓すること、及び荒れた農地を開墾して行くことの二つを生涯の使命とした二宮尊徳翁は、一汁一菜程度で決して贅沢はせず、世のため人のために一生を捧げた立派な人物です。
尊徳翁は、終生に亘って荒廃した村々を600以上復興し、その過程で多額の資産を築くことが出来たにも拘らず、報奨金の全てを農村復興に注ぎ込みました。そして他界された時、私有財産は全く残っておらず、遺言として自らの墓石を建てることもさせず、己の全人生を世のため人のために捧げたのです。今回この翁の人間力・生き様・高い志に深く感銘を受けると共に、改めてその偉大さを認識した次第であります。
映画の冒頭、尊徳翁は「分度…ぶんど:自分の置かれた状況や立場を弁え、それに相応しい生活を送ること」が如何に大切なことであるかを説かれました。そして分度により生まれた余力やお金を、自分の将来のためのみならず世のため人のために譲るのです。
例えば、私どもSBIグループは本業を通じ社会に貢献するだけでなく、より直接的な社会貢献活動に取り組むべく19年前、児童福祉施設等への寄付を行うことを決定し全国の施設への寄付活動を実施して参りました。そして14年前「公益財団法人SBI子ども希望財団」の前身となる「財団法人SBI子ども希望財団」を設立しました。また12年前「社会福祉法人慈徳院」(こどもの心のケアハウス嵐山学園)という児童心理治療施設を私の個人的な寄付で埼玉県嵐山町に設立して、児童福祉の向上に焦点を当て尽力をして参りました。我々は創業間もない時期から微力ながら、尊徳翁の教えを実践してきたものと自負しています。
私は、嘗てのブログ『偉大なる人物の偉大なる思想に学ぶ』(15年12月2日)の中で、次のように述べたことがあります――自分の小欲に克ち、社会のためにという大欲に生きる人が偉大な人です。偉業を遂げた人の足跡を訪ねてみれば、決して私利私欲のためには生きていません。世のため人のためという気持ちを常時失わずにいる人が、結局後世に偉大な業績を残しているということです。
人が他の存在によって生かされていることを自覚すれば、おのずと世のため人のため生きようといった使命感が生まれてくるでしょう。そのためにも心を磨き、少しでも社会に貢献できるよう自分を高めて行く生き方になってくると思います。
思い出してみれば、私が子供の頃には殆どの小学校に尊徳翁の銅像がありました。しかし近年その撤去が進んでおり、非常に残念に思っています。内村鑑三著『代表的日本人』では、「日本人としてどのように生きるべきかを伝える」ため伝説に残る5人の内1人に翁が紹介されていますが、日本人は今一度、二宮尊徳という偉大な人物を見つめ直すべきであります。皆様も是非この機会に、映画「二宮金次郎」を御覧になられたらと良いと思います。




 

ここ最近新聞各紙の報道等を見ると、「首相、衆参同日選見送りへ 来週最終決断 消費増税は予定通り」(産経新聞)といった論調が支配的になっています。今国会が今月26日の会期末で以て閉幕し、来月4日公示・21日投開票の日程で参院選が実施されるということです。
そこには、「自民党が極秘に実施した参院選の情勢調査では、勝敗を左右する改選数1の1人区32のうち、厳しいのは数選挙区にとどまった」ようで、与党の側に「底堅い内閣支持率を背景に参院選を単独で戦っても勝利できるとの判断」等があったと報じられています。あるいは、「朝日新聞の5月の全国世論調査(電話)で参院選での比例区の投票先は自民37%、公明党6%に対し、立憲民主党12%、国民民主党3%など各種調査でも与党優勢の数字が出て」もいるようです。
こうした状況下、野党第一党党首の枝野幸男氏は「参院選の争点はパリテ(議員が男女同数)、日米貿易協定交渉密約問題、多様性」(5月31日)とか「麻生さん発言…老後2000万円問題」(6月8日)とかと言われていますが、国民には未だ殆ど伝わっていないよう感じられます。私自身はと言うと、何か争点らしい争点は無いと考えており、大体の勝敗は決していると思っています。
他方、安倍晋三首相としては予てより「夏の参議院選挙で、憲法改正を訴えるべきだという考え」を示されていますから、「改憲論議の是非について国民に信を問うべきだとの意見」も当然持たれていることでしょう。しかし今国会で又もや「議論すらしない」憲法審査会の有様に象徴されるように、改憲のプロセスは時間が掛かるものであり、来たる参院選で之を積極的には争点化しないものと見ています。尤も悲願の憲法改正を今後本気で成就させようとするならば、安倍首相ご自身が「自民党総裁連続4選」関係なしに取組んで行く位でないと中々難しいのではないかと思っています。
また、昨今の風の変化を受け各種メディアでは今年11月や来年1月等々様々な解散説が浮上していますが、例えば今年9月最後の最後に消費増税に対する信を問うということも無きにしも非ずのような気もします。なぜ私がそう感じるかと言えば、直近の各種指標を例示するまでもなく、現下の経済というのは良い状況に向かっているわけでなく、増税には良いタイミングでないと捉えているからです。
もちろん去年よりも悪いタイミングだと見ていますし、3年前の6月「世界経済が不透明感を増している」「内需を腰折れさせかねない」等を理由に消費増税の再延期が決断された時よりも、景況は悪く景気見通しも弱含んでいると見ています。今となっては予定通りの10月10%も再々延期もどちらを選んでも、日本の将来にとって極めて厳しい選択とならないかと危惧しています。何れにせよ安倍首相の最終判断は時の経済情勢に左右されるのだと思いますが、私自身は消費増税の再々延期が日本の進むべき道としてベターであると考えています。




 

二〇一九年五月一日、「平成」から「令和」への改元を迎え、新たな時代の幕が開きました。同年七月八日、私どもSBIグループは創業二〇周年を迎えます。
振り返ればこの二〇年、日本はもとより世界中で様々な出来事があり、社会や経済は劇的に変化しました。そうした中、創業当時わずか社員五五名、資本金五〇〇〇万円に過ぎなかった企業が、社員約六四〇〇名(二〇一九年三月末現在)、時価総額約六〇〇〇億円(直近ピーク時には八〇〇〇億円超)の金融グループに成長しました。
現在は、証券、銀行、保険を網羅する金融サービス事業、ベンチャー投資等のアセットマネジメント事業、そしてテクノロジーを活用した新薬開発などを手掛けるバイオ関連事業を三大事業とし、盤石な事業体制を整えています。二〇一九年三月末時点でSBIグループが保有する顧客基盤は二五二〇万超、グループの累計投資社数は国内外合わせて一五二四社、エグジット率は一六・三%と高いパフォーマンスを誇っています。
なぜ私どもがここまで成長できたのか。そこには様々な要因があり、その時その時における戦略・戦術の取り組みが時流に乗っていたこと、何より創業以来一貫して、お客様のため投資家の皆様のために顧客中心主義を貫いて、より革新的なサービス・ビジネスの創出に努めてきたということです。その根底には私が創業にあたって定めた五つの「経営理念」を愚直に堅持し、弛まず実践してきたからであると考えています。
五つの経営理念の中で一番目に掲げたのは「正しい倫理的価値観を持つ」ということです。これは、私が二一年間に亘って勤めた野村證券を辞める間際に発覚した損失補填問題などがきっかけになっています。当時の田淵義久社長は非常に素晴らしい経営者であったにも拘わらず、残念ながらバブルが膨らむ過程で第一線の営業担当者や管理職の倫理観が著しく欠如する状態になっていたと言わざるを得ません。
その教訓と反省に立ち、私はSBIグループのスタートに当たり、先ず「正しい倫理的価値観を持つ」ということを掲げたのです。正しい倫理的価値観が求められるのは金融業界に限りません。この二〇年を振り返ってみても、それを蔑ろにしたため弱体化したり破綻の淵に追い込まれたりした企業は枚挙に暇がないことは皆様もご存知の通りでしょう。お金を扱う金融業にとっては、とりわけ正しい倫理的価値観は事業の大前提です。
また五つの経営理念の一つにどうしても加えておかなければならないと思ったのが、「社会的責任を全うする」ということでした。「社会なくして企業なく、企業なくして社会なし」――すなわち、企業とは社会にあって初めて存在できるものであり、社会から離れては存在できないものと私は考えています。だから経営トップは常に「公益」を念頭に置き、私企業としての「私益」と利害を調整しなければなりません。
ですから私は「日本の最重要な資源は人材である」という認識に基づき、深刻な問題を抱える虐待を受けた子どもたちの支援など児童福祉の向上に焦点を当て、SBI子ども希望財団や社会福祉法人「慈徳院」(児童心理治療施設「こどもの心のケアハウス嵐山学園」)を通じて、児童福祉の向上に一〇年以上取り組んでまいりました。また人物を育てるという思いでSBI大学院大学も設立しました。こうした企業としての社会的責任を果たすことで企業の「徳」を磨き、それを様々なステークホルダーからの信頼に繋げ、「強くて尊敬される企業」を目指して取り組んできたのです。
私は今年六八歳ですが幸いにも健康であり、判断力、直観力はむしろ若い頃より勝っていると感じるほどです。しかし、気力、知力、体力に自信を持てなくなる時がいずれ来るでしょう。そのときは潔く身を引くつもりですが、一方でSBIグループは永続企業(ゴーイングコンサーン)として発展していかなければなりません。また、事業は真の徳業でなければなりません。そして、時流に乗って長期に亘り顧客に便益を与え続け、同時に企業として様々なステークホルダーとの調和を為さねばなりません。一時代でも世の中が大きく変化する中で、会社をいかに進化させ続け、何百年もの間永続させることができるのかということをグループ創業当初から真剣に考えていました。
私が出した答えは、「自己否定」・「自己変革」・「自己進化」のプロセスを続けるしかないということです。それが経営理念の一つにも掲げている「セルフエボリューションの継続」ということです。例えば私が創業以来欠かさないことは、四半期ごとの決算説明において必ず新しいビジネスコンセプト(“Something New”)を盛り込むことです。厳しいハードルですが、だからこそ日々、新たな発想を求め、事業の革新に取り組み、さらなる飛躍に繋げていこうとしているのです。この姿勢を多くの社員と共有することで、これからもSBIグループは成長し続けることができると信じています。
本書では、SBIグループの二〇年に亘る挑戦と進化の軌跡を振り返るとともに、その根底に流れている事業構築の基本観や経営トップとしての私の考えをまとめました。人に「人徳」があるように企業にも「社徳」があると私は考えています。「社徳」を高めることを目指して発展を遂げてきたSBIグループの歩みは様々なステークホルダーの皆様との歩みでもあります。この場をお借りしてSBIグループ創業二〇年を共に歩んでくださった皆様に深謝致したいと思います。そして、これからの時代に企業はいかにあるべきか、本書が経営に関心を持たれているすべての人にとって有益な一書となれば幸甚であります。




 


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