北尾吉孝日記


今月9日のブログ『続・新型コロナウイルス雑感』に記した通り、私は当社内で全役職員に告ぐという形で此のコロナウイルスに対する評価、即ち「之はリーマンショックを超える非常に大きな影響を与え得るものだ」という強烈なメッセージを比較的早い時期に出しました。
それは単にウイルスに対する備えとして、マスク・手洗い・うがい・アルコール消毒あるいは多くが集まる所に行かないといったことは勿論、リモートワークや時差出勤等についても会社として効率的な組織を保つ為どういうふうにして行くべきか等々を述べておきました。
オリンピック・パラリンピックが延期または中止となる可能性も大きいし、消費税の増税もあり日本経済のダメージは極めて大きいという、小生のこれからの見通しを述べると共に、経費節減や決算対策等々についても述べました。
その時話しながら私が思い出していたのは、「好況よし、不況さらによし」という松下幸之助さんの言葉です。コロナウイルスで未曾有の不況に世界が突入している今こそ、此の気持ちを持たねばならないのではないかということです。私流に解釈すると、松下さんの言葉には二つの意味があると思います。
一つは、長い間には「悪いときを乗り越えなければならない時期」が必ずあるという当たり前のことです。良い時期・悪い時期と多様な経験をする中で、人は成長します。会社もやはり同じで、悪い時もあれば当然ながら良い時もあるのです。
もう一つは、不況は会社にとって本物に生まれ変わるチャンスだということです。不況期には、ものやサービスは簡単には売れません。そこで会社としては、徹底的に設計段階から製品やサービスの見直しを行います。会社が生き残る為、身体を筋肉質にし、体力をつけて行く絶好の機会となるのです。
更に、不況の時は普通のことをやっていても効果がありませんから、思い切った発想・新しい発想が生まれてくるようにもなります。松下さんは「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」とも仰っています。
困難があると必死になって考え、またその困難の程度が非常に大きいと従来発想からの大転換が求められます。松下さんの言葉「五パーセントより三〇パーセントのコストダウンのほうが容易」というのも、30%のコストダウンといった並大抵では成し遂げられないことをやろうとなれば、ゼロから見直さねばならず抜本的な発想の転換が迫られるからです。そういった機会を与えてくれるのが不況だと思います。全く別の発想でものを考えるようになりますし、それは大胆な変革になってくるのです。
革新的な発想というのは、順風満帆の中では中々生まれてきません。寧ろ環境の悪い時の方が、良い発想が出てきます。松下さんの考えは、そんな体験の中から生まれた味のある言葉だろうと思います。
最後にもう一つだけ、松下さんは「この不景気に困ったな、この不景気にじっとしているより仕方ないな、というような消極的な考えを、もし持たれたとするならば、それは私は反対であります」とも述べておられます。
景況の悪い時期にこそ普段できなかったことをする、換言すれば、できる時期でもあるし、やらねばならぬ時期である、というふうに松下さんは言われています。それが、30%のコストダウンのような大胆な発想に繋がるわけです。
悪い時期に、じっと待っていることは何の役にも立ちません。有事の際は弾が通り過ぎるのを待っているといった日本人的発想では、企業は上手く行くはずがないのです。機を捉え、自らを変えて行く――それが企業をより強くして行くのだと思います。




 

『発想力とは』

2020年3月23日 18:20

早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄さんは以前、「発想力とIQの関係」について次のように述べておられたようです(『致知』2001年12月号)――ニュートンもアインシュタインもあまりIQは高くなかったようですし、学校の成績と発想力は関係がないと考えたほうがいいでしょう。(中略)(ある米国企業の調査結果に依ると、)発想力はIQなどではなく、自分ができると思っているかどうか、という意識のベクトルの差が非常に大きいというのです。
此の「意識のベクトルの差」が発想力に関係するということは、例えば豊臣秀吉が「負けると思えば負け 勝つと思へば勝つものなり」と言っていたり、ナポレオン・ボナパルトが「私はできる、と考えている人が結局は勝つ」とか「能力に限界を加えるものは、他ならぬあなた自身の思い込み」とか言っているのに通ずるところがあるように思えます。
発想が豊かな人は往々にして、『あらゆる事柄において「自分ならどう処すか」と主体的に捉え、選択肢を常に考え続ける人』のように思います。何事でも色々な選択肢を自ら主体的に出して行くような人は、そこに新たなる発想というものも自然と齎される確率が高くなるというわけです。そうした思考法に慣れるためトレーニングを積んで行くことも、大事だと思います。
その上で野口さんの御指摘につき申し上げれば、確かにIQの高低と発想力は余り関係ないのかもしれませんが、IQの高い方で何らかのスペシャリティがあり、そこに精通している方が新たな発想で、御自分の専門外の分野で様々な発信をされておられるようなことも見聞きします。それは、一芸に秀ずれば結果として万芸に秀ずる、ということかもしれません。
人間というのは、一道を極めるべく大変な努力や人知れぬ苦労を重ね行く中で、他の事柄に対しても、それなりの判断力が養われて行くものです。数学者として一芸に秀でていた岡潔先生を例に見ても、関心を持たれていた仏教や教育といった全く違う分野において、晩年様々な論文を書かれ素晴らしいものを残されています。
あるいは、日本人として初めてノーベル賞を受賞された湯川秀樹氏にしても、その評論や文章等を色々見ますと、物理学者でありながら素晴らしいものを残されています。一道に人一倍の苦労をし知恵を絞り切った経験を持つ人物は、やはり他分野でも自然と磨かれ、参考になるアイディアが出てくるのだろうと思います。
何れにせよ、誰もが同じ発言を繰り返していたら、誰も面白いとは思わないでしょう。だからと言って、何でも彼んでも人と違っていたら良いわけではありません。他の人が聞見して面白いと感じるのは、少し違った視点や観点そして「なるほどなぁ~」と思わせる何かが、そこにあってこそです。ベースとなるものを持たぬ人に突然天から面白いアイディアが降ってくる、といったは極めて稀だということです。発想力とは、その人に何らかのスペシャリティがあり、そこで磨かれた何かがあって、その結果として備わるものではないかと思います。




 

先日、米国人の友達と電話していたところ、コロナウイルスの話になりました。先方は、「日本で患者数が少ないのは検査していないからだ」と言っていました。確かに検査をしたら患者数は、もっと増えるだろうと思います。しかし、ある意味検査していないところが良い面もあるような気もします。即ち、「指定感染症」のままで検査数を大幅に増やすと患者数が余りにも増え医療現場の崩壊は必ず起こることであって、入院の必要のない軽症者が8割以上と圧倒的であり、そうした患者の入院でキャパがオーバーし、重症患者が十分な治療を受けられないということになり易いからです。
唯、その時私は彼に次のように言いました――貴方の国はインフルエンザでも1万人以上の死者が出ている、と聞いている。日本は今年、物凄くインフルエンザになる人が少ない。小生のかかりつけ医は、「今年は商売あがったりです。インフルエンザだとかで病院に来る人がいません」と言っていた。我国は世界に冠たる国民皆保険制度の下、インフルエンザのワクチンが結構打たれていることも、その理由の一つかもしれない。だが最大の理由は、今回のコロナウイルスのため街でも会社でも、殆どの人がマスクをし何度も手を洗った上にアルコール消毒もやるといった、ある面で日本人特有かもしれない徹底した清潔意識が国民全体に浸透している、ということが言えるのではないか。
人類の健康増進に寄与したものを3つ挙げよと問われれば、私は「石鹸」「抗生物質」「ステロイド」と答えます。やはり清潔さを保つことが、非常に初歩的な話でありますが最も大事なのです。私自身10年以上海外に住み世界100カ国位を旅してきましたが、日本人ほど身綺麗な民族は存在しないような気がします。殆どの人がシャワーだけでなく、毎日のように風呂に入るわけです。江戸時代でも銭湯というのは、大変ポピュラーでありました。昔から日本人は身を清潔にするというところに優れていた。一つの民族性とも思える位の潔癖性がある部分を有していたのです。
日本でインフルエンザの流行が例年に比して殆どなかったということは、同じようにコロナウイルスの方も余り拡散していないと思われます。人口割にすると現在の人数など微々たるものです。日本人の民族性とも言える長年培われた身綺麗にするという習慣が、今回大いに寄与しているのではないかと思っています。
私は嘗て、拙著『日本人の底力』(PHP研究所)で「まえがき」にこう記しました――今回の大震災で世界中の人たちが混乱の中で示される日本人の忍耐と寛容の精神、助け合いと同胞意識の強さ、任務のために勇気を振り絞り決死の覚悟で原発に放水する消防庁や自衛隊の人たちの姿等々に心を打たれています。日本人はこの崇高(けだかく尊いこと)な精神を脈々と受け継いでいるのです。
東日本大震災から9年が過ぎて、今回このコロナウイルス騒動でもある意味また新たな日本人特有の民族性を世界に示すことが出来るのではないか、と思っています。即ち、国が決めた事柄を国民全体できちっと守ろうとする忍耐の精神と自制心の強さ、そして国・組織・家族・自分自身を守ろうとする非常に強い精神の類が、世界に示されることでしょう。
上記のことと日本食の良さが相俟って、日本人の平均寿命は先進諸国の中でも圧倒的に長いという現実があります。中国の最近のレポートに拠れば、死亡率は高血圧を患っている人が高いようです。日本では循環器系疾患に係る持病を持った高齢者の割合が相対的に少ないということが、「なぜ日本は他国に比べ極端に死亡者が少ないのか?」に対する答えの一つになりましょう。
さて、今回の騒動の中で良いレガシーになりそうなことも生まれてきました。それはリモートワークの浸透です。また、満員電車・通勤ラッシュ等々のこれまでの長きに亘る習慣がなくなり、時差出勤といったものが定着したら良いと思っています。更に私どものビジネスからすれば、インターネットで様々な金融商品・サービスを提供するというようなこと、あるいはeコマースで物を売買するといったことが、益々盛んになるのではないかと見ています。之は、ある意味キャッシュレス化にも浸透して行き、ネット決済する時代に急速に移るトリガーになって行くように思います。




 
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