北尾吉孝日記

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結論から申し上げますと、日本は今回のアメリカ発の金融危機とは、ある意味で切り離されているということです。すなわち一部金融機関がサブプライムローンの入った債券を購入して損失を出した程度でしか、会社の存続にかかわるような大きなネガティブな影響は受けなかったということです。

先日もシティバンクの日本代表のアメリカ人と談笑していた時に、私から「あなたが担当している日本のビジネスは、今回の問題とはisolated(隔離されている)だから良いですね」と言ったところ、彼は「全くその通りです」と言っていました。アメリカやヨーロッパの担当役員なら毎日青くなるようなことが起こっていた最中、日本担当役員である彼は「I’m lucky.」と言っていましたが、そのような意味での危機的状況ではないということです。

それにも関わらず、日本の株価は依然としてアメリカの株価が下がれば下がるということを繰り返しています。その直接的な理由は、欧米の投資家が日本株を含めて外国株を処分しているということです。二次的な理由としてはアメリカ経済の停滞や景気の悪化が日本経済に影響を与えるとか、あるいはアメリカだけではなく、ヨーロッパや中国経済の減速など様々な要因が日本の景気に影響するということであります。

しかし金融システムとして見れば、現在の日本は微動だにする必要が無い状況になっています。だから三菱東京UFJ銀行がモルガン・スタンレーにお金を入れるということが起こるのです。また今現在、欧米のインターバンク市場においてドルの流動性が著しく枯渇していますが、これに対しても日本の中央銀行も一生懸命ドルを注入しているという状況です。つまり世界的な金融危機を食い止めるために日本が手を貸しているということですが、その日本の株価、特に金融機関の株価が大きく下がっているというのは全く理屈に合わない話ですがしょうがないですね。

もちろん日本固有の問題として、日本の不動産市況が落ち込んだことはあります。元を正せば、サブプライムローン問題で大損した米国中心とした欧米の金融機関が日本で持っていた不動産を処分するとか、あるいは不動産の証券化商品を購入するファンドの処分をするという中で、日本の不動産市況の悪化をもたらす引き金を引いたということはあります。そのような中で市況が悪化して来たために日本の銀行は突如貸し出しをストップし、銀行から大量の資金を借り入れて不動産を買い、それに利幅を取って外資系ファンドに売却していた会社が思うように不動産を動かせなくなりました。そして、在庫が次々とたまるにも関わらず、はけないという状況が起こり、その上日本の銀行からの借り入れも出来なくなっていますので、不動産会社がこのような急激なスピードで次から次へと破綻するということが起こりました。この先もおそらく決算発表の前後に破綻する不動産会社は出てくると思いますが、その中でまだ10社から15社ぐらいは公開している不動産会社が潰れる可能性も十分あると思っています。

更にそのような会社が潰れればゼネコンの一部が続いて破綻するというように、連鎖破綻する状況も生まれてくると思います。このような会社は要注意ではありますが、そのような不動産に多く関与していない会社、あるいは関与の仕方も銀行からの借り入れでハイレバレッジの不動産投資をしていない会社に関しては、そんなに深刻な状況ではありません。そのような会社も同じセクターということだけで要注意の会社と同様に売られていますが、まだ健全であるという風に見ています。

私は10数年に亘り意図的に超低金利を継続しているという異常な低金利政策について、どちらかと言えばネガティブであります。為替水準は実質実効レートで見れば、プラザ合意の頃と同程度の円安水準に長期間維持されてきました。私はこれまでも、タイミングを見て金利を上げながら、日本経済の回復をプライマリーバランス(基礎的財政収支)など気にせず公共投資を中心とした積極財政で図っていくことが望ましいと考えている、ということを色々なところで申し上げてきました。なぜ私がそのように申し上げたかと言えば、ゼロ金利政策に加えて量的緩和政策まで実施したにも関わらず、設備投資と消費が全く回復して来なかったという事実があるからであります。私はそれに対し、例えば金利を1%上げただけでも、1500兆円の個人金融資産の1%、すなわち15兆円が国民の手に渡り、これがある意味で消費喚起に繋がっていくのではないかということを申し上げてきました。輸出産業にはもちろんマイナスではありますが、私は金利を上げることによって円を強くすることが、実はアメリカのドルを防衛する意味でもプラスに働くのではないかと考えていました。

ところが現状では、ドルの信認が低下する中で円は放って置いても強くなっています。これにより輸出産業は極めて痛手を被ることになりますが、それはある意味で日本がずっと遅れていた産業構造の転換、即ちポスト・インダストリアル・ソサエティ(脱工業化社会)に向けた次の時代の新しい産業構造への転換に、日本が本気になって取り組むことに繋がると思っています。ある意味非常な苦痛を伴いますが、これを機に日本が新しい産業を育成していくことで、もう一度世界に冠たる日本を作り上げていくことが出来るのではないかと思います。

いつまでも20世紀型産業の鉄鋼メーカーが中国に鉄を輸出して高収益を上げていくという状況は、日本の将来にとって良いことだとは思いません。それよりも例えば、バイオテクノロジーという産業分野において、iPS細胞に関する研究開発で世界の先駆的かつ中心的な存在になるよう、官民を挙げて取り組んで行かなくてはならないと思っています。あるいはワールドワイドな問題である温室効果ガスの問題において、省エネルギー、クリーン・エナジー、オルタナティブ・エナジーといった分野における日本の技術を世界に発信していく時期ではないかと考えています。また国内にあっては、ユビキタス市場を飛躍的に発展させ、ITのレベルをさらに引き上げて、日本全体の生産性を更に上げていかなければならないと思っています。

以上、日本がポスト・インダストリアル・ソサエティに向けて新しい産業を起こす時に重要な事柄について言及しましたが、世界経済を襲うこのturmoil(ターモイル)に巻き込まれないためにも、それらを一刻も早く実行に移すべきであると思っています。




 

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